• HOME
  • ブログ
  • Magazine
  • 【Interview1】オープン・イノベーションには 「人」が集まる「場」が必要

【Interview1】オープン・イノベーションには 「人」が集まる「場」が必要

東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻教授/一般社団法人アーバニスト代表
小泉 秀樹  Hideki Koizumi

オープン・イノベーション・プラットフォーム、「シティラボ東京」が、2018 年 12 月 6 日に本格オープンします。イノベーションを実現するために、なぜオープンな交流の場が求められるのか、また、活動を促進するためにどのような支援が必要なのか、運営を担う一般社団法人アーバニスト代表であり、東京大学都市工学専攻で教鞭を取る小泉秀樹教授にお伺いしました。

写真/髙山透、構成・文/介川亜紀

社会的・経済的転換点にある現在、そのカギをにぎるのは都市

―― シティラボ東京の活動の方向性をお聞かせください。

小泉秀樹氏(以下、敬称略):日本また世界という文脈の中で、私たちは社会的にも経済的にも転換点にいると思います。そのような中で都市の役割は重みを増し、経済や環境に与える影響は地球規模になりつつあります。また、国連では 2050 年までに約 70%の人が都市に暮らすようになると予測しています。つまり、マジョリティは都市になるということ。そうした今まで人類が経験したことがない時代に入るに当たり、都市について考えることは一層重要になります。

具体的な社会的変化として少子・高齢化があります。特に、日本ではそのような社会に移り変わり、財政や福祉政策などにおいて課題を抱えています。また先進国の多くでは移民を受け入れているのでわかりにくいのですが、ヨーロッパでもアメリカでも非ヒスパニック系白人だけで見るとやはり少子・高齢化が起きていると言われていますから、同様の課題があると言えるでしょう。

もうひとつの変化としては、ICT(Information and Communication Technology;情報通信技術)やIoT(Internet of Things;モノのインターネット)、AI(artificial intelligence;人工知能)など、先端的な技術の普及があります。これが社会を急激なスピードで変えつつあるんですね。インターネットの基本技術は 1960 年代後半に開発され、80 年代から大学や研究者が使用していたものの、本格的に社会実装されたのは 90 年代です。そこからせいぜい 20 数年の間に私たちの生活や社会的な制度、政治的な意思決定、経済メカニズムなど、様々な面に強い影響をもたらしてきました。
日本政府も、科学技術政策の基本指針としてソサエティー5.0(Society 5.0)を提唱しています。

これらの変化がこれまで経験したことのない状況を生み出しており、目指すべき具体的な都市や町、地域もしくは社会の理想像が見えにくくなっているのです。ヨーロッパやアメリカも日本と同様の課題を抱えているわけですから、お手本にするものもありません。明確な目標に向けて淡々と歩みを進めればいいという時代は終焉を迎えました。

だからこそ、新しい都市や地域、そこでのコミュニティや社会のあり方の探求が求められています。都市計画やまちづくりの専門家の意見も大事ですが、それだけでは今の都市の課題や目指す都市像を明らかにし、未来を開拓することにはなかなかつながりません。経済や金融、先端技術のIOT、AI、高齢化対策などの他領域との接点も非常に重要です。そして、答えはすぐに出てくるのではなく、異なる立場の人たちとディスカッションを重ね見えてくるものだと思います。

社会では、そのようにイノベーティブに新しい都市のあり方を考えていくための、ある種の場づくりも求められるようになりました。「シティラボ東京」は、まさに新しい都市のあり方、そこでの生活スタイル、サービスの提供の仕方などを見出す装置として期待されるのではないでしょうか。

―― 領域を超えたイノベーションの場は、これまで実現しにくかったように思います。

小泉:従来、住民は住んでいる地域を自らの視点でよりよくしたい、自治体は限られた財源で多様な政策を実現したい、大手デベロッパーであれば再開発を手掛けて収益を得たいなど、さまざまな目的や姿勢で都市に関わってきました。そして昨今、一層多くの領域の人たちが都市に関心を持ち始めた。それは、都市を未来の社会を実現する舞台としてとらえ始めました。

すでに都市には地球上の人類の半数以上が居住しており、そこで何か起これば相当なインパクトが生じます。そのため、都市やまちづくりというキーワードに関心が薄かった人や企業も目を向け始めたのだと思います。家電メーカーから先端技術を有する会社まで幅広い領域、スタートアップから大手までさまざまな規模の企業が見られます。都市が人々の暮らす舞台であれば、生活に関わる広い領域の人や企業が関心を持つのは自然な成り行きでしょう。

近年、自治体や住民がデベロッパーとも協力しつつ、新しいプレイヤーの方々も巻き込みながら、都市に関わる新たなイノベーションを起こす動きも見られます。シティラボ東京からも、そういう多主体の連携による取り組みが生まれれば素晴らしい。直接的な連携に至らなくても、多主体間で情報交換するような場になり、間接的に連携し新たなプロジェクトやそれを支えるような考え方、理論などが生まれるといい。これは単なる異業種交流とは大きく異なります。

―― 連携してイノベーションを目指す際に、何が大切でしょうか。

小泉:多様な人たちの参画です。年齢も幅があったほうがいい。50 代の私と 20 代が見ている未来は明らかに違います。例えば環境について、彼らの真剣さは 50 代にはるかに勝る。地球温暖化などの環境問題が深刻になるであろう 2030 年、2050 年は、彼らにとってリアルな未来なんですよ。ところが、今の 50、60 代の人は 2040 年にはなくなっているかも知れず、当事者意識がない人もいます。

若い人たちは未来のある時点に目標を設定し、そこから振り返って現在すべきことを考えるバックキャスト的なアプローチになるでしょう。だからこそ革新的なものになる。社会を変革する強い力を、若い世代の人たちは持っていると思います。

―― 一方で、どのような企業が連携に求められますか?

小泉:開発の実績も資金力もあるオーセンティックな大手企業も重要ですが、これまでイノベーションは大手企業からは生まれにくかった。より求められるのは、フットワークが軽く新しい事業を迅速に始められるようなスタートアップ企業の人たちです。もしくは、大手企業に所属していても自由な発想を持ち、イノベーションに関心がある類ですね。未来は、リスクを恐れずにトライし、またそれを必死に探求している人たちが集まり、共創することでやっと見えてくるのではないでしょうか。

―― 大手企業がスタートアップ企業を資金、自社のリソースなどで支援するケースも増えてきていますね

小泉:アクセラレータープログラムなどですね。大手企業は連携の結果できたものを本格的なビジネスに展開する可能性もあります。スタートアップ企業は、取り組む事業内容によっては、連携先として大手企業のほか自治体なども検討したほうがいいでしょう。

イノベーションを促す仕掛け、ラーニング、シェアリング、マッチング

―― シティラボ東京では、集う人たちのイノベーションを支援するためにプログラムを用意しました。現在、ラーニング(Learning)、シェアリング(Sharing)、マッチング(Matching)の3 つのフェーズを設けています。

小泉:オープン・イノベーションは必ずしも簡単には進みません。そこでシティラボ東京ではイノベーションを促すプログラムを用意しています。そこで集う人たちはこれらを足掛かりにするといいのではないでしょうか。

ラーニング・プログラムは技術やまちづくりの先端事例、トレンドを知識として得る場になります。シェアリング・プログラムでは、シティラボ東京というリアルな場で集い、研究会やワークショップ、ネットワーキングイベントを通じて、情報や知識を共有します。シティラボ東京で行われるプログラムの卒業生が、次はプログラムの企画に携わるというのもシェアリングのひとつです。

―― ここで生まれた新しいプロジェクトが実際に動き出す。それは何年後とお考えですか?

プロジェクトによると思いますが、セミナーから始まり、例えば自主的な研究会に発展し、大手企業が参画し資金や経営資源を投入して事業化していく、といった流れはひとつイメージしています。そのような事業創出シナリオから、それに応じたプログラムも検討中です。

大手企業は気軽に新規プロジェクトに取り組むのは難しく、他のマッチング事例を見ると、多くは各企業が持っている一部のリソースを組み合わせてサービス開発につなげています。シティラボ東京は、それよりも一段高いところを目指したい。今までにない新しいサービスを開発するほか、真に必要とされている社会課題を解決する、持続可能な都市につながる新しいプロジェクトを立ち上げることなどをイメージしています。そうすると、既にある技術やサービスを少々応用すれば実現するようなものではなく、根本的に新しい発想で取り組まなくてはいけないケースが多いと思いますね。

どのようにイノベーションを生み出すのか、シティラボ東京がどういった役割を担っていくのか、といったことは、トライアルを繰り返しより明確になっていくと思います。

―― シティラボ東京が牽引役を担うのではなく、場に集った人々が自然発生的にコミュニティをつくるイメージでしょうか?

小泉:互いに無理がないのは大切ですが、コミュニティが自然発生的に誕生することは実際には難しい。コミュニティが生まれやすい環境、場づくりがシティラボ東京の役割だと思います。

真のオープン・イノベーションは、新しい課題やこれまでにない価値観を取り込みながら 0 を 1にするような作業です。成果に結びつく可能性は未知数であり、大手企業がはじめから資金を提供して取り組むのは難しい。また、成果を自社のものにすることを優先すると、“オープン”にコミュニティに加わりイノベーションを生み出すことができない。つまり、先端的であればあるほどオープン・イノベーションは困難です。協働してイノベーションに取り組むには、大手企業がそのようなことを認識したうえで乗り越える必要があります。

イノベーションには、オープンなコミュニケーションによってお互いにメリットがある主体同士が結びつくことも大事ですね。
他方で、複数の企業がイノベーションに関わると途端に展開が難しくなります。これまでの経験上、まず他セクター間の組み合わせではうまくいくのですが・・・。

まずは、コミュニティでのシェアリングが最も重要なステップになるでしょう。新しい都市のありようをみんなで構想しセクターを超えてシェアリングする、これが、ラボのひとつ目の目標と言えるかもしれません。

―― シティラボ東京を運営するに当たり、小泉さんが代表となり一般社団法人アーバニストを立ち上げました。アーバニスト、と名付けた理由をお聞かせください。

小泉:“アーバニスト”という言葉はもともと、ラテン系の国では都市計画家という意味でしたが、昨今になって都市に住み生活して、都市を楽しむ人、またそうした立場から都市の形成に関わる人という意味でも使われるようになりました。都市に関する専門家のプランナーでも、建築家でも土木技術者でもないけれど、住民や市民、都市におけるサービスの提供者として様々な形で関わっている人たちです。団体名のアーバニストは後者の意味合いに近いですね。

都市を担う主体はすでに多様化しています。これまで都市の物理的な環境や、市街地の形成、デザインに関わってきたのは、アーバンプランナーやアーバンデザイナーと呼ばれる人たちでした。日本ではまだ知名度が低いものの、海外ではそれなりに確立され尊敬される職能です。でも、残念ながら彼らだけではうまく都市がつくれなくなってきたという背景があるんですよ。もう少々広い範囲で多様な人たちと都市を新たに構想したり、実現していくことが大事になる。そう考えたとき、これからの都市を形づくる多様な人たちを表す言葉として、”アーバニスト”という言葉はしっくりきます。

―― これからの都市に関わる多様な企業、職能の方々がすべてアーバニストなのですね。

小泉:そうです。僕たちのように都市計画に関わる人間はプランナーという言葉をよく使いますが、自分たちが主導権を握りつくりあげると言った意味を含む“プランナー”かどうかと問われると、それはやっぱり違う、と考える人たちも多いですね。ただし、自分も多くの多様な方々と一緒に都市、地域をつくっている主体のひとつだと認識しているから、むしろアーバニストという立場で仲間として一緒に都市をつくっていきたい。デベロッパーや、情報関連企業の方、IOTやAIを使って都市のマネジメントを真剣に考えているような大手の電機関連企業の方々も、もちろん住民もすべてアーバニストです。

これから未来に向かって持続可能な都市を目指すとき、そこにある課題を解決して都市を形づくりたいと思っている、いろいろな立場の人たちや技術を持つ人たちの協働が重要です。そういった多様な人たちが集って団体を立ち上げ、“アーバニスト”と名付けました。僕たちのこれからの活動の方向性を体現していると思います。

小泉秀樹
1964 年東京生まれ。東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻教授、一般社団法人アーバニスト代表。東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻にて都市計画研究に従事、現在に至る。専門はまちづくり、コミュニティのデザインとマネジメント。研究成果をふまえつつ多くの市民団体、自治体とまちづくり、コミュニティデザイン、マネジメントの実践に取り組む。東日本大震災以降は、岩手県釜石市、同・大槌町、同・陸前高田市にて復興まちづくりに参画。
都市計画提案制度やまちづくり交付金の創設に社会資本整備審議会委員として関わる。著書に「コミュニティ、デザイン学」(編著、東京大学出版会)、「都市地域の持続可能性アセスメント」(編著、学芸出版社)、「スマート・グロース」(編著、学芸出版社)、「コミュニティ事典」(編著、春風社)、「 まちづくり百科事典」(編著、丸善)ほか。

関連記事一覧