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【Special Report】シティラボサロン01 “SDGsでソーシャルインパクトを生み出すためにメディアはどうする?”

2019年3月28日、シティラボ東京のオリジナルイベント、「シティラボサロン」を開催しました。記念すべき第一回のテーマは、“SDGs でソーシャルインパクトを生み出すためにメディアはどうする?” 。様々なメディアで活躍している方々をお招きして、SDGsの実現に向けてメディアができることについて語り合うトークイベントです。 構成・文/ウィルソン麻菜 コーディネーターはシティラボ東京のメンターであり、環境ビジネス・ESG投資の専門家、吉高まりさん、ファシリテーターはドリームデザイン代表取締役の石川淳哉さん。ゲストスピーカーとして、環境ジャーナリストの竹田有里さん、朝日新聞SDGs担当専門記者の北郷美由紀さん、講談社FRaU編集長の関龍彦さん、TBSラジオ編成局編成部長の門田庄司さんが登壇しました。

真実を伝えることが行動につながると信じて

まず第一部では、フジテレビで放送された「環境クライシス」を上映しました。インドやモンゴル、インドネシアで起こっている気候変動と、その影響を受ける現地の人々に密着したドキュメンタリーです。
美しい映像で気候変動の脅威を伝えている(写真/特記以外はウィルソン麻菜)
現在、地球温暖化による海面上昇や、森林伐採に起因するゲリラ豪雨などの気候変動が世界中で起きています。同番組では、洪水によって住居を追われる人々、森で暮らすことが困難になった先住民族など、過酷な環境に生活を奪われながらも力強く生きる環境難民に焦点を当てています。
「環境クライシス」には現地で生きる子どもたちが多く登場する
上映後には番組を制作した環境ジャーナリストの竹田有里さんに、コーディネーターの吉高まりさんが撮影エピソードを伺いました。「番組を通じて、節水などお説教のような呼びかけはしたくなかった」という竹田さんは、今ある現状をそのまま、リアルに伝えることを強く意識して制作に当たったといいます。
吉高さんと竹田さんは映像に出てくる世界の国々の現状について話した
東日本大震災を機に気象災害を取材していくうちに、もっと多くの人に現状を伝えたいという思いから環境ジャーナリストとなった竹田さん。参加者に配られた世界初の木製のストローは、西日本豪雨の土砂崩れの原因となった山林の間伐問題に取り組むために、竹田さんが発案したものです。
「マスコミの一員として働くうちに、批判するばかりではなく何か提案したいという思いがストローへとつながりました。『あの番組があったから』と言ってもらえるような、行動につながる報道をしていきたいと思います」。

様々なメディアの立場から見るSDGs

続いて第二部では、新聞、雑誌、ラジオという多様なメディアの関係者が登壇し、それぞれの立場でのSDGsへの取り組みを話しました。  
接着剤としてのSDGsを説明する北郷さん
「SDGsは接着剤だ」と話すのは、朝日新聞SDGs担当専門記者の北郷美由紀さん。朝日新聞社は、メディア業界の中でもいち早くSDGsに着目し、北海道下川町の循環型森林経営やESG投資の広がり、大量生産・大量廃棄の問題などを紹介してきました。シンポジウムの開催や「大学 SDGsアクション・アワード」というコンテストなど、イベントを通じた啓発活動にも積極的に取り組んでいます。 その理由として、SDGsは新しいジャーナリズムの可能性を秘めている点を挙げました。環境、経済、社会にわたる様々な課題が根っこのところで絡み合っていることに注目し、統合的な解決を目指すSDGsは、それぞれの専門家や関心のある人々をつなげる土台である、といいます。「これからのジャーナリズムは、報道するだけではなく読者や企業と一緒に解決策を考えていくことが重要です。人々をつなぐ接着剤としての役割を持つSDGsは、今後メディアが力を入れて取り組むべきものだと考えています」
30年以上女性誌に携わってきたFRaU編集長の関龍彦さん
続いて講談社FRaU編集長の関龍彦さんは、国内女性誌として初めて、1冊全てでSDGsを特集した2019年1月号について紹介しました。関さんは東日本大震災への義援金のお礼として「ありがとう、台湾」という特集を組んだ経験から、女性誌ならではのジャーナリズムを模索してきたといいます。15%という日本のSDGs認知度の低さを知り、特に低い30、40代の女性の認知向上に対する取り組みとして、FRaUでのSDGs特集を決断しました。 関さんによれば、SDGsにすでに取り組んでいる、または取り組みたい企業は多いそうです。そういった一社一社と議論を重ね、前例のなかった1冊まるごとの特集を完成させました。 100ページ近くある雑誌のテーマは「遠くから近くへ」。スウェーデンを始めとした世界のSDGs先進国の取り組みとともに、日本の事例も紹介しています。また女性誌という特性を生かし、衣服や食品の選択が社会貢献につながるというメッセージも発信しています。
同雑誌は大きな反響を呼び、3月には重版が決定。関さんは「今回限りで終わらせず、今後もFRaU×SDGsプロジェクトとしての活動を続けていきたい」と締めくくりました。
関さんの思いを綴った、総扉と呼ばれるベージ
最後はTBSラジオ編成局編成部長の門田庄司さんが、ラジオならではの取り組みを紹介しました。「ラジオには人を動かす力がある」という門田さん。一方通行に思えるラジオ放送も、実はパーソナリティとリスナーの信頼関係が強いといいます。
TBSラジオを聴いたことがある参加者の確認をする門田さん
TBSラジオがSDGsに取り組み始めたのは、TBSのみんな電気への出資がきっかけだったといいます。「ラジオも電力がなければ放送はできない」という思いから、AM放送の送信所で使用する電力を、太陽光、風力、水力などといった再生可能燃料に切り替えました。 そして「クリーンパワーキャンペーン」として一週間、パーソナリティがSDGsを自分事として考える特集を組み、リスナーへも行動を呼びかけました。キャンペーン後も毎週土曜日に「クリーンサタデー」という環境問題への気づきを与える番組を放送しています。
2019年1月から土曜日を「クリーンサタデー」とした
「言うだけではなくて行動を起こすTBSラジオでありたいと思っています。将来的にはSDGsの17項目すべてに取り組むことが目標です」
各メディアの強みやSDGsに対する取り組みが異なり、登壇者同士も興味深くそれぞれの話に聞き入っていました。
 

メディアはどうあるべきなのか     

第二部の後半はトークセッション。ファシリテーターはドリームデザインの石川淳哉さんです。
登壇者へ、メディアの在り方を問うファシリテーターの石川さん
2008年のスマートフォンの誕生から、テレビや新聞が絶対であった時代からメディアのありようは大きく変化しています。増え続ける情報を発信する立場として「このような社会で、メディアはどうあるべきなのか」という質問に対して、登壇者それぞれが発言し、会場にいる人たちと考えを共有しました。 「真実を伝え、視聴者が自分で考える機会をつくる」という環境ジャーナリストの竹田さんの意見に、朝日新聞の北郷さんは「多様化するメディアがそれぞれの強みを発揮しながら、連携していく必要がある」と加えました。
SDGsは各メディアの壁を超えて取り組むものだと北郷さんは語る
またTBSラジオの門田さんは、「視聴者に行動を起こしてもらうためにはメディア自身の行動が重要です。会社全体や社員一人ひとりが行動し本気度を示すことで、聴取者や企業も動いてくれる」といいます。 イソップ寓話「北風と太陽」の例を挙げ、「北風のようなSDGsの課題ばかりではなく、太陽のように明るい未来を見せることが行動につながる」と発言したのは、FRaU編集長の関さん。1冊で世界観を表現できる雑誌では、SDGsが達成されたときの未来像を提示しているといいます。そして、同時に具体的な提案を示すことが人々の行動につながると考えています。

未来のために「変革」を起こしていく

トークセッションでは匿名コメント集計アプリ「sli.do」を導入し、参加者から多くの質問や意見を集めました。あまりの熱量にセッション内では収まらず、その後、シティラボ東京のFacebookページで引き続き討論することに。「sli.do」で集まった数々の質問の中からファシリテーターの石川さんが登壇者の方々に投げ掛けたのは、「会社でSDGsに取り組む際、SDGsにネガティブな層をどのように説得したか」。
「sli.do」に並ぶ、たくさんの鋭い質問に驚く登壇者たち
「反対するというより、無関心な層はいます。しかし今は小学生が社会課題について学ぶ時代。今後、彼らが社会の中心になるときに当たり前となるSDGsを理解していないと、社会の一員として期待されなくなるのでは」と朝日新聞の北郷さんは指摘しました。 環境ジャーナリストの竹田さんは番組を制作する上で、高いスポンサー料に見合う価値を問われることがあったといいます。FRau編集長の関さんも「SDGsって意識高い系でしょう」と決めつけ、SDGsはお金持ちのセレブが取り入れるもの、格好つけている、などの先入観を持つ人を説得する難しさを感じていました。
「完成した雑誌を見てもらうことで、そのような意識は明らかに変わったと思います。小さい実績を積み重ねて、層を広げていくことが大切なのかもしれません」。
TBSラジオの門田さんは、SDGsの持つテーマの大きさが「自分事として捉えにくい」ことに触れました。だからこそ自分たちが行動し、共に行動することや、視聴者ができることを問いかける重要性を感じている、と語りました。「TBSだけでは大きなことはできませんが、皆さんと一緒なら何か大きなことにつながるような気がしています」。
SDGsに取り組む多くの人とつながれるこの場はパワースポットだと言う門田さん
最後に北郷さんは、2015年に国連サミットで採択されたSDGsに関する文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」のタイトルにつけられた「Transform(変革)」に触れました。
「変革はすぐに起こることではありません。でも今、ここにいるみなさんは、遠い世界や未来のこと、地球のことを考えてこの場に参加してくれました。一人ひとりが一歩を踏み出すことが、変革につながっていくと思います」

新たな行動のきっかけに

トークセッションの後は、登壇者も含めたざっくばらんな交流会。
熱のこもった会話とともに、「REBIRTH PROJECT」の鹿肉や猪肉を使った料理や、オーガニックのクラフト生ビール「ヨイツギ」、自然素材由来のヴィーガンジェラートを堪能しました。
土に還るサスティナブルな紙皿に料理を取っていく
参加者が興味津々だったのが、昆虫アイス「BUG’S ICE」。食糧危機の解決策として注目される昆虫食が環境問題を考えるきっかけになれば、という思いからスフィードの松山喬洋さんが考案したジェラートです。
こおろぎパウダーが練り込まれたココナッツミルクベースのアイスに、ミツバチの花粉団子、アリの成虫がトッピングされている
持続可能な未来のために考えられた食事をしながら、登壇者、参加者がSDGsに対するそれぞれの思いを共有。SDGsという接着剤が多くの方々をつなぎ、ここから新たなプロジェクトが始まるかもしれません。
登壇者も参加者もSDGsという共通のテーマで話に花を咲かせていた
シティラボ東京では今後も、SDGsを始めとした持続可能な都市・社会をキーワードに、多くの方々と出会える場として、シティラボサロンを開催します。 皆さまのご参加をお待ちしています。

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