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2019.08.08 Thu
【Special Report】シティラボサロン02 “多様化するコミュニティは都市になにを求めているのか”
都市化の進行によって地縁・血縁型のコミュニティが減少する一方、ネットを通じた多彩なコミュニティが生まれるなど、私たちを取り巻く“コミュニティ”の在り方は刻一刻と変化しています。では、持続可能かつイノベーティブな社会を構築していくためには、今後どんなコミュニティが必要となり、その受け皿となる都市はどのような機能やマインドを実装すべきなのでしょうか。
2019年8月8日に開催された、シティラボ東京オリジナルイベントには、都市とコミュニティの関係性をさまざまな視点から見つめる3名の有識者が登壇。40名を超える参加者を交えながら、多彩な議論が行われました。
都市やコミュニティの価値を測る新たな“モノサシ”とは?
地域SNSを利用し、コミュニティの活性度を可視化
「都市におけるコミュニティの価値を測る」をテーマに行われた第一部のトークセッション。その冒頭に登壇したのが、地域SNSサービスを展開するスタートアップ企業、PIAZZA株式会社代表取締役の矢野晃平さんでした。行政や鉄道会社などと連携しながら、SNSアプリ「PIAZZA」を通じた地域住民のコミュニケーション促進を目指す同氏は、「今、街づくりは変革期にある」と前置きしたうえで、現在のまちづくりのトレンドを分析します。
「これまでの都市は、建物や立地などのハード面にバリューがありました。ただ、人口が減少する中で新築の着工数は減り、ハードの価値も相対的に下がっています。一方、ネットの普及によって人々は物理的な束縛から開放され、さらに自由になってゆく。今後は、ハード面だけでなく、コミュニティなどのソフト面が価値を持つようになると考えています」と矢野氏。ただし、“コミュニティ”という概念はときに曖昧で、とらえどころのないもの。新たなビジネスやマーケットの成長につなげるためにも、コミュニティの価値を表す指標や評価軸を定めることが必要だと続けます。
「評価軸をつくるために僕たちにできることは、地域SNSのデータを使って、コミュニティの活性度を可視化すること。具体的には、アプリのユーザー同士の接点やコミュニケーション量、アクティビティなどを独自の計算式で積算していくことで、それぞれのまちのコミュニティの活性度を“CV(コミュニティバリュー)”という指標で数値化しています」と矢野氏。
現在、地域SNSアプリの「PIAZZA」は、東京都港区や中央区、江東区、千葉県流山・柏の葉、八千代など多くのエリアで運用されており、特に中央区の30〜40代世帯ではおよそ3割の人々が利用。SNS上では地域のイベント情報の共有や不用品のやりとりなど、さまざまなコミュニケーションが行われており、それらのコミュニケーションなどを基に算出された CVを参照することで、地域間のコミュニティ活性度や成長率などを比較することが可能になるといいます。
「アプリはリアルなつながりをつくるための入り口なので、アプリだけでコミュニティのすべてを測ることはできません。ただ、CVという指標を用いることで、KPIの管理も可能になり、PDCAサイクルを回すこともできる。それがコミュニティの活性度を数値化することのメリットです。今後は、このような指標を活用することで、コミュニティを大事にするまちづくりが広まって行ってほしいですね」。
その後、地域ごとのCVの比較やアプリを通じて生まれたコミュニケーションの具体的な事例なども紹介。会場からの質疑応答を交えながら、矢野氏のトークセッションは幕を閉じました。
新たな”モノサシ”は都市生活者の行動が軸に
第一部の後半に登壇したのが、LIFULL HOME’S総研で所長を務める島原万丈氏。同氏は、急速に均質化していく日本の各都市の現状や、その背景にある一見“合理的”で“効率的”な都市開発フォーマットの存在や功罪に触れながら、同総研が2015年に調査研究レポート「Sensuous City[官能都市]」を発表した理由について話します。
「Sensuous=官能というのは、五感のことです。つまり、『この町、なんか良いよね』という感覚で、都市の魅力を測る。それがこのレポートで私たちが試みたことです。まちごとの個性が失われてゆく今、都市の魅力を測る“モノサシ”を変えないことには、継続的に面白い都市はできないのではないか。そんな思いが当レポートの出発点でした」と島原氏。
これまで日本で発表されてきた「◯◯な都市ランキング」などの調査レポートは、病院や学校、ショッピングモールといった施設の充実度や立地、住居の広さといったハード面=モノや公的な統計データを基準に算出されたものが大多数。一方、島原氏が発表したレポートでは、都市に暮らす人々の行動=コトに注目。独自の視点から主要都市の魅力度ランキングを作成しています。
「『Sensuous City[官能都市]』では、都市に住むあらゆる年代・性別・属性の人が経験するであろう“動詞”を評価軸にしています。では、誰もが経験する動詞とは何か。その一つが“関係性”に関するものです。都市生活者は少なくとも不特定多数の他者との関係性の中に生きています。その関係性をいかにポジティブに享受できるのか。その点を一つの評価軸に定めたのです」と島原氏。
関係性の評価カテゴリは、「共同体に属している」、「匿名性がある」、「ロマンスがある」、「機会がある」の4分野に区分され、それぞれ4項目計16項目が並んでいます。また、もうひとつの評価軸の柱となった“身体性”カテゴリは「食文化があること」、「まちを感じられること」、「自然を感じること」、「歩けること」という4分野に分けられ、こちらもそれぞれ4項目計16項目。全国134都市に住む20歳〜64歳までの男女1万8300人を対象にインターネット調査を実施し、これらの項目について、自身が暮らす都市における経験の有無を調査しています。
「動詞で評価するということは、つまり『あなたはこの街で〇〇しましたか』と聞くということです。主語は常に“私”なので、本人が記憶違いをしていない限りブレのない答えを得ることができます」と島原氏。
また、「風景の美しさ」のように工学的には測れないものを評価できることもポイント。たとえば当レポートには「街の風景をゆっくり眺めた」という項目がありますが、このスコアが高ければ、そのまちの景観がどのようなものであれ主観的に風景の良さを評価する人が多いことがわかります。このように、主語を徹底的に“私”にすることで、従来の調査では評価されにくかった都市の魅力が可視化されてゆく。それこそが、新しい“モノサシ”を用いる利点に違いありません。
島原氏はこのような話に触れながら、ランキング結果やまちごとの個性を具体的に紹介。不動産デベロッパー勤務の方やコミュニティマネージャーなど、都市計画やコミュニティ形成に関わる参加者の多くが、熱心にメモを取っている姿が印象的でした。
多様なコミュニティを内包する都市には、全体の寛容性と個々の自主性が大切
人数ではなく、アクティビティの多様性を指標にする
第2部は、都市計画コンサルティングに携わる、有限会社ハートビートプランの園田聡氏によるトリガートークからスタート。2019年6月15日に「プレイスメイキング:アクティビティ・ファーストの都市デザイン」(学芸出版社刊)を上梓した園田氏は、自身が手掛けた愛知県豊田市の都市計画プロジェクトを紹介。愛知県豊田市中心部の10箇所の公共空間を活用し、ライブ会場や期間限定のカフェ・バー、スケートボードパークなどをオープンした事例を紹介しながら、まちの公共空間を多様で自由な“居場所”へと変える“プレイスメイキング”の手法について話します。
なかでも印象的だったのが「人の数ではなく、アクティビティの多様性を評価する」という考え方でした。そもそも園田氏が手掛けた同プロジェクトは、豊田市の住民を対象としたため、利用者数が市の人口を大幅に越えて増加することはありません。しかし、今回のプロジェクトでは、公共空間で都市生活者がどのようなアクティビティを行っているのかを調査。「待ち合わせをする人」、「会話をする人」、「ダンスをする人」、「スケートをする人」、「本を読む人」など、多岐に及ぶ項目で定点観測したところ、アクティビティの多様性が増加し、スケートボードや音楽、お酒といったテーマ型のコミュニティが複数生み出されていたことがわかったといいます。
「公共空間にアクティビティが生まれるということは、まちに自らの“居場所”を見つける人が増えているということ。そして“居場所”があると感じた人は、まちに対して愛着を持つことができます。また、今回のスケートボードパークなどは、地元の人々の取り組みや地縁コミュニティの協力があって実現できたもの。自らのまちを自分たちの意思や行動で変えていける。そんな手応えや希望を持てるまちであることも、今後豊田市の魅力になっていくはずです」と園田氏は話します。
都市とコミュニティをめぐるクロストーク
トリガートークに続いて行われたのは、今回の登壇者3名によるクロストーク。シティラボ東京のコミュニティ・ディレクター、平井の問いかけによって、「都市におけるコミュニティの在り方」について議論しました。
矢野氏が「今日のお二人のお話から感じたのは、やはり多様性が必要だということ。現在のまちづくりは単一化された都市計画が多く、『ファミリーには過ごしやすいけれど、単身者には地域との接点がない』などの課題があります。マイノリティがマイノリティでなくなる寛容性というか、どんな人々にとってもよりどころとなる居場所があることが大切だと感じました」と口火を切ると、島原氏は「ターゲットを絞ってまちづくりをしてしまうと、住民の価値観が単一化されてあらゆる物事が『正しい/正しくない』になってしまう。本来は、100人いれば100人の正義があってそれが前提になるはずなのに、それができていない。正しさよりも『楽しさや快適さ』を優先したほうがいいと考えています」と続けます。
さらに園田氏は「多様性・寛容性という点でいえば、テーマ型コミュニティが強いと思います。一方で、みんなが自由に楽しいことをするためには一定の秩序も保たれなければいけない。たとえば豊田市のスケートボードパークの場合、地元のリーダーが『俺が責任を持つ』といってコミットしてくれたから成立しています。小さい単位でそのようなコミュニティをつくっていくことが大切かもしれません」と話します。
この話について「『Sensuous City[官能都市]』で上位にランクインする都市の特徴のひとつが、個人経営の店が多いこと。スケートボードパークのリーダーや飲み屋の店主のように、ルールの一線を超えた人に対してピシっと言える人が必要だと思います。自分たちの正義を共有できる単位が、ひとつひとつのコミュニティになっていくと、まちはもっと面白くなっていくのではないでしょうか」と島原氏。
さらにクロストークは白熱し、会場からは「地域で孤立する人を、どうやってまちに連れ出すか」、「シニア世代に地域SNSアプリなどを利用してもらうためには」など、さまざまな質問も。3名の登壇者はそれぞれの問いに対して、真摯に言葉を紡いでゆきました。そしてスタートからおよそ2時間30分。それぞれに新たな“モノサシ”を使って都市とコミュニティの在り方を再定義する3名の登壇者と、都市やコミュニティに興味・関心を持つ40名以上の参加者たち。共通のテーマを持って集まった人々の熱気と興奮を感じながら、今回のイベントは幕を閉じました。
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