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【Special Report】 SDGsと地域官民パートナーシップのつくり方  −シリーズ・SDGs日本モデル宣言を読み解くvol.1−

2015年にSDGsが国連で採択されてから4年が経過し、SDGsを通じた持続可能な社会づくりは日本でも徐々に広がりつつあります。そして2019年1月には、SDGs実現に向けた動きを加速するため、「SDGs全国フォーラム2019」が開催され、その中で地方自治体がイニシアチブをとってSDGsを推進するとした宣言、「SDGs日本モデル宣言」が採択されました。 そこでシティラボ東京では「シリーズ・SDGs日本モデル宣言を読み解く」と題したディスカッションを企画。2019年8月20日に開催した第1回では、政府、行政、民間それぞれの立場からゲストを招いて、当ラボのコミュニティー・マネージャー、三谷繭子の進行のもと、「官民連携」をキーワードに、様々な角度からSDGsの取り組みについて語り合いました。 写真/石川 聖 構成・文/渡辺圭彦

官民連携によるパートナーシップがカギ

政府、地方自治体、市民がSDGsを軸に認識を共有する

「SDGsはいま非常に大きな節目を迎えています」。イベントの冒頭でこのように説くのは、本プログラムのレギュラーコメンテーターを務める、シティラボ東京メンターの川廷昌弘氏(博報堂DYホールディングス)。ゲストのトークに先立って今回のテーマについて次のように説明しました。
「2019年は、国連が4年に一度、SDGsの総括を行う年にあたります。毎年7月頃に実施されているハイレベル政治フォーラム(HLPF)に加え、今年は9月24日と25日に首脳級によるフォローアップ、SDGsサミットが行われます。日本からは安倍総理が出席し、政府も非常に強く旗振りをしているところです」(川廷氏)
日本では、内閣府による地方自治体へのSDGs推進の取り組みが積極的におこなわれていることを指摘。2019年1月には自治体を対象にした「SDGs全国フォーラム2019」が横浜市で開催され、「SDGs日本モデル宣言」が採択されました。「SDGs日本モデル宣言」は、人口減少・超高齢化など日本の地域社会が直面する課題を、これからの日本ならでのモデルとして解決していくための指針です。
「7月のHLPFでも、SDGsを地方に浸透させていくこと、いわば”SDGsのローカライゼーション”が議論の大きなポイントになっていました。その議論の中で特に言われていたのが、官民がもっと寄り添ってパートナーシップを発揮して具体的な事例を出していくべき、ということでした」(川廷氏)。
HLPFでは、神奈川県の黒岩祐治知事が出席し、「SDGs日本モデル宣言」について報告しています。「地方自治体がイニシアチブをとって政府が推進しているSDGsを主体的に民間と一緒になって取り組むことを宣言した内容でした。場内からは大きな拍手が上がり、高い評価を受けました。この官民連携を推奨するの取り組みは世界でも先進的なものであり、非常にいいやり方ではないかと実感しました」(川廷氏)
こうした流れの中で、今回は、自治体を支援する内閣府地方創生推進事務局参事官の遠藤健太郎氏、神奈川県政策局SDGs推進担当部長の太田裕子氏、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏をゲストとして招き、官民連携の状況と今後について話し合いました。

自治体へのSDGs浸透を促進

持続可能な地域循環形成にむけ地域の企業、金融を取り込みたい

内閣府参事官の遠藤氏は、国の立場として近年の地方自治体へのSDGs推進バックアップの働きかけについて語りました。政府が掲げる「拡大版SDGsアクションプラン2019」のポイントは3点。「SDGsと連動するSociety5.0の推進」「SDGsを原動力とした地方創生、強靱かつ環境に優しい魅力的なまちづくり」「SDGsの担い手として次世代・女性のエンパワーメント」があり、2番目の「地方創生におけるSDGs」の取り組みとしては、「SDGs未来都市の選定」「官民連携プラットフォームを通じた民間参画の促進」「金融を通じた自律的好循環の形成」などのテーマが進められています。
「内閣府としては10年程前から、日本各地の地方都市の重要性に着目して、社会の課題を解決するためには、都市単位で取り組むことが必要だと考え活動を進めてきました」(遠藤氏)
内閣府では2014年に「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定。全国的な人口減少の傾向の中で地域をどのように発展させるかということに取り組んでいます。その中にSDGsを自治体単位で推進していくことが基本方針として盛り込まれています。「SDGsの定める17のゴールを達成するには自治体単位で取り組むことが重要。課題が地域によって異なるからです」(遠藤氏)。
そこで2018年からは1つめの柱である「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」の選定を開始。経済、社会、環境という3つの側面に統合的に対応して新しい価値を生み出そうとしています。「3つの側面のバランスをとることが大事です。17のゴールは、何かに特化すれば別のゴールがトレードオフになってしまう可能性があるからです。個々の政策だけを見るのではなく、地域がどれだけ将来にわたって発展していけるのかという目標を見据えることが大切です」(遠藤氏)。「SDGs未来都市」で選定された自治体は、昨年度は29、今年度は31あり、合わせて60の自治体でSDGsの取り組みが始まっています。 内閣府の2つめの柱として遠藤さんが挙げたテーマは官民連携。2018年8月には「地方創生官民連携プラットフォーム」が設立され、地域の課題に向き合う民間の企業・団体と自治体とのマッチングを進めています。「昨年は400、直近では900もの参加団体数があります。民間のソリューションをうまく取り込みたいと思っています」(遠藤氏)。 3つめの柱は金融。「いま金融機関は投資先や融資先を検討する際、環境や社会への貢献度についても判断基準に含めるようになってきています。地域の課題を解決するような事業、SDGsに貢献できるような事業に結びつけたい。そのためにも地方自治体には優先すべき課題を発信してほしいし、またソリューションを提供できる地域の事業者を“見える化”したい。そうすることで課題と解決法が明らかになるし、地域の金融機関も投資や融資の形で参加しやすくなるはず。地域の持続的なビジネスモデルにもなりうると思います」(遠藤氏)。

地域の事業者、企業との連携を通して地域ならではの課題に対応

SDGsを共通言語に取り組みを発展させる

こうした国からのバックアップを受けた自治体の中でもリーダー的な役割を果たしているのが神奈川県です。神奈川県政策局SDGs推進担当部長を務める太田裕子氏は、神奈川県がSDGsに取り組むようになった経緯やその内容について説明。
「現在の黒岩知事が掲げる“いのち輝くマグネット神奈川”という、県の基本理念や政策計画があります。これを実現するためにもSDGsに取り組むことによって複雑・多様化する社会的課題に対応しよう、というのが契機となりました」(太田氏)。
神奈川県は、「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」の両方に選定されている唯一の自治体です。モデル事業「SDGs社会的インパクト評価実証プロジェクト」は、経済、社会、環境の各面に統合的に取り組んでSDGsの社会的インパクトの評価システムを構築し、実証事業を行うというもの。
「社会・経済では“ME-BYO”(黒岩知事が提唱する新しいヘルスケアの考え方)を軸に、また環境では自然再生エネルギーの導入など、こうしたことを総合的に取り組んで、県下の市町村への成果の共有、展開を図っていきたい」(太田氏)。
SDGsの目標・ターゲットに沿った取り組みについて、その活動の結果ではなく、結果から生じた社会的な変化・高価を定量的・定性的に把握し、価判断を加える。その評価結果により、資金提供者をはじめとする市場から投融資を呼び込むことを目的としたプロジェクトです。
「SDGsと評価を組み合わせることでSDGsインパクトの”見える化”を図り、事業の改善、組織価値の向上を進めて資金循環を促進し、事業の持続性や後押しを目指しています」(太田氏)。そのために、神奈川県では「SDGs社会的インパクト評価実践ガイド」を策定。今夏には実践ガイドの研修も実施して、地域の企業におけるSDGs事業を促進するための人材育成にも乗り出しています。
神奈川県におけるSDGsの主要テーマとして掲げられているのは、「かながわプラごみゼロ宣言」「パートナーシップ戦略」の2点。前者は、昨年、県内の浜辺に打ち上げられたクジラの体内にプラスチックごみが見つかったのをきっかけに、2030年までにリサイクルされないプラスチックごみをゼロにしよう、というもの。これに対応したソリューションを持つ地域の事業者、企業との連携を通して、課題を解決しようとしているのが後者の取り組みです。
「そのためのソリューションを持つ企業を対象としたSDGsパートナーシップ登録制度も開始しました。昨年度は49企業の登録があり、今年も100社近くの応募がありました」(太田さん)。
また、2019年1月にはSDGs全国フォーラムを横浜市で開催。「当初は全国の自治体関係者450人の予定でしたが、約1800人もの申し込みがあり驚きました。最終的には約1200人の方に出席いただき、官民連携の必要性などをお伝えできました」(太田氏)。このフォーラムでは「SDGs日本モデル宣言」も採択。賛同する自治体数は、2019年7月現在で47都道府県147自治体まで広がっています。
こうした連携の広がりについて、太田氏は「SDGsは究極のコミュニケーションツール。SDGsという共通言語を使って社会がよりよくなるようにみんなで取り組んでいきたい」と語りかけました。
神奈川県政策局SDGs推進担当部長の太田裕子氏

「エシカル消費」は身近なSDGs

誰もがSDGsを実践できる

市民と自治体をつなぐ立場として登壇したのは、一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏。「エシカル」とは「倫理的な」という意味を持つ言葉で、2010年ごろに「エシカル消費」という概念としてイギリスから伝わってきました。
「エシカル消費」とは、人や社会、地球環境、地域に配慮した考え方や行動を意味します。末吉氏はテレビ番組の海外レポートの仕事を通して、各国の状況を目の当たりにし、ショックを受けたといいます。「特に印象的だったのは、アフリカのキリマンジャロに登頂したときでした。頂上の氷河が地球温暖化によって消滅の危機に立たされていました。地元の人々にとっては貴重な水資源であり、氷河の存在は彼らの生活の存亡に直結するのです。この世界はひと握りの人々の利益や権力のために自然や弱い立場の人々が犠牲になっています。心が痛みました」(末吉氏)。
一般社団法人エシカル協会代表理事の末吉里花氏
そんな末吉氏は、エシカル消費やフェアトレードの考え方に出合います。「暮らしの中で海外に出向かなくても、意識的な消費の仕方を選ぶことで世界が抱えている課題を解決できるかもしれない」。このように考えエシカル消費についての活動に携わり、2015年にエシカル協会を立ち上げました。
「エシカル消費の普及・啓発とともに、企業に向けてもエシカルな、持続可能なものづくりやサービスを提供してくださいと働きかけています」(末吉氏)
そのような活動をしている末吉氏にとって、SDGsは身近なものとしてとらえられるのだといいます。「エシカル消費を実践するだけで、SDGsの12番目のゴール、“つくる責任 つかう責任”の達成に寄与できるんです」。現在、世界では、利益が優先されるあまりに、自然破壊を引き起こしたり、児童労働や貧困層の搾取につながるものづくりが存在しています。こうした事実を理解し、消費活動で私たちがどのような選択をするか。消費者にとってひとつの責任である、と末吉氏は説きます。エシカル消費の考え方は少しずつ浸透してきており、日本でも教科書に掲載され、子どもたちがエシカル消費を学校で学ぶ時代になっています。
そうした日本の将来の参考にするため、末吉氏はSDGs先進国スウェーデンのマルメ市を視察。もともとマルメ市は工業都市として栄え、環境に負荷をかけることをしていた都市ですが、フェアトレードを推進する立場に方向転換し、2009年には2025年までに持続可能なまちづくりのリーダーとなることを宣言。町中至る所で自然再生エネルギーが活用され、フェアトレードが実践され、SDGsの取り組みが徹底されていたそうです。
「そこでマルメ市の人には“日本には思いやりの精神と技術力がある。もっとこれ以上のことができる”と激励されました」(末吉氏)。

政府、行政、市民がSDGsでつながる

お互いの認識を深めて関係性を構築

イベントの最後には、各氏がそろってのクロストークが展開されました。各氏のトークを受けて、最初に感想を述べたのは川廷氏。「政府は自治体に向けて制度や仕組みを提供して支援している。自治体は民間の企業や団体と連携を深めている。単なる利益誘導などではなく、地域の課題と企業の成長が同時に達成できれば、結果的にSDGsを通して社会をよりよくしていくことができるのでは」。そのための手段として、政府、自治体がどういう考え方でSDGsを進めていこうとしているのか、お互いに認識することが重要だと指摘。また、市民については「末吉さんのようにものづくりの現場や消費の実態を知ることが大切。生活や消費の担い手である市民の存在が政府や自治体に影響を与えることで、よい政策を引き出せるのでは」と提言しました。
実際の自治体のSDGsへの反応から、遠藤さんは関心の高まりを感じています。「自治体単位でも地域の企業とパートナーシップを築くケースが増えています。地域の中でSDGsをきっかけに官民連携が進んでいますね。あらゆる世代、立場の人たちがSDGsをテーマに議論を始めています。今まで以上に、コミュニケーションを進めるための重要な役割をSDGsが果たしていくのではないかと感じています」(遠藤氏)。 では、実際に自治体はどのような状況なのか。太田氏は「正直、県内の市町村でも温度差はあります」と明かします。「県下で33ある市町村それぞれ熱量に差はあるものの、方向性は同じ。地域の課題の解決と成長のために、SDGsを座標軸として一緒にやろうよと呼びかけを続けているところです。またSDGsに関わる非財務情報をきちっと評価する仕組みをつくることで地域の経済を活性化させ、新しい地域の仕組みを生み出したい」(太田氏)。
この発言を聞き遠藤氏は「神奈川県の取り組みは頼もしいですね」と笑顔に。「国が目標にしているのは2020年度末。全国約180ある自治体のうち、3割ほどがSDGsに取り組んでくれるといいですね。官民連携プラットフォームには300以上もの自治体が参加していて機運の盛り上がりを感じます。これからもいろいろな形でサポートしていきたい」(遠藤氏)。 市民の立場については末吉氏が発言。「直接、市民が行政と連携するのはハードルが高いので、私たちのような団体がHUBとなり、自治体とのつながりをつくりたいと思っています。多くの人の心には“何かしたい”という気持ちがあるはず。うまく引き出して活躍できる場をつくれたらいい」(末吉氏)。 政府、自治体、市民がSDGsを通じてつながり始めている現在。それぞれの役割をもっと知ること、そして実践につなげていくことが求められます。「その行動指針となるのが、SDGs日本モデル宣言だと思います」(川廷氏)。 シティラボ東京では、本回を皮切りに、SDGs日本モデル宣言の意図するパートナーシップのあり方と都市単位でのSDG s推進について今後も掘り下げていきます。次回開催は10/8(火)、テーマは「いま、Z世代・ミレニアル世代がSDGsに取り組む理由―SDG sとまちづくりー」です。詳細と申し込みはこちらから。
⇒ http://ptix.at/S5AYET
vol.1に来場していたZ世代よりさらに若い中学生たち。SDGsと真摯に向き合っている

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