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【Special Report】スマートシティにこそフィジカルな体験を求めよ! ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一×建築家 西田司

「六本木アートナイト」や「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩」など、数々のアートイベントに携わるライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一氏と、建築家の西田司氏が共同で企画した「シビックテック×ライフスタイル 〜体感できるスマートシティの未来〜」[Jsurpまちづくりカレッジ2019プログラム]。第3回の2019年11月28日は、西田氏が司会進行、齋藤氏が講師となり、「都市で遊ぶ」をテーマにしたセミナーを行った。前半は齋藤氏がプロジェクトに関わる中で、日本におけるスマートシティ化や建築、デザインの課題について感じていることを語った。後半では、デベロッパー、都市計画家、デザイナー、大学生などの参加者との対話形式で、さまざまな疑問や展望について語り合った。

写真/石川望(表記外) 構成・文/吉川明子

スマートシティのベネフィットを問い直す

都市政策として「スマートシティ」が掲げられるようになってから、かなりの年月が経つものの、実際のところスマートシティ化を実感することはそう多くはない。齋藤氏はまず自身の経験を通じて、日頃感じることを率直に語り始めた。

齋藤氏は東京理科大学工学部建築学科を経て、コロンビア大学建築学科(MSAAD)に進学。建築デザインを学び、2000年からニューヨークで活動を開始した。その翌年の2001年9月11日にアメリカ同時多発テロが発生。

 「この時、僕は建築への失意を感じました。何よりも失望したのが、ある著名建築家が、崩壊した世界貿易センター(WTC)の設計プロポーザルを行うと発表したときのことです。あんなに多くの方々が亡くなったわずか1週間後にこんなことを始める建築家は何を考えているんだろうと思い、僕は当時働いていた建築事務所を辞め、広告代理店に転職しました。そのような紆余曲折を経て、僕が今また都市開発や建築分野に戻ってきたのはなぜか。そういった話を今日はしていきたいと思います」

齋藤氏は現在、日本でスマートシティ化もままならない状態でスーパーシティ構想が語られている現状に疑問を感じていると言う。まずはスマートシティ化からではあるものの、関係各所の調整やユーティリティの最適化などにもたついているくらいであれば、スマートシティに通じるイベントなどを実際に行い、そこでデータを取ったり、問題点を浮き彫りにするほうが近道だと考えて自ら実践してきた。

 「僕はプレイアブルという言葉が好き。プレイには遊ぶ、舞台に立つ、演技をする、などと様々な意味があります。そういうものを街の中に求めていたい。まずはイベントをやってみるのも同様の思いです。そして、そこで取得したデータを基に物事を進めていったほうが、街への実装力が圧倒的に違うし早い。どこもかしこもデザイン・シンキングって言っているけれど、シンキングしている暇はなくてもう待ったなし、アクションをしていかないと。どんどんアクションに移して、失敗したらまた次へ。これをどんどんやるのが僕のスタンスです」

立ち止まって考えている暇がないくらいに、世界の流れが加速化しているにも関わらず、関係各所のしがらみなどで遅々として実装が進まないのは、どの業界や立場でもよくある話だろう。同じように進展が見えづらいスマートシティ化の問題点の一つとして、齋藤氏は「ベネフィットがわからない」ことを挙げた。

 「行政もデベロッパーもみんな、『スマートシティをつくろう』とは言います。でもつくって何をしたいのか、ベネフィットが何なのかが誰もわかっていない。導入すること自体がひとつの目的になっているからです。安全・安心のためなのか? 経済的な意味合いなのか? 何でもかんでも“テック”や“AI”をつければ流行りのように見えるけれど、そんな時代もそろそろ終わりになるはずでしょう」

実験的イベントを通じて、スマートシティを探る

さまざまなプロジェクトに関わる中、便利さや最適化を追求するスマート化が求められる対極として、“フィジカル”な部分が求められていることも指摘する。スマートシティ化は目的ではなく、実はあくまで道具の一つにすぎない。予測不能な体験をすることによって、面白さを感じ、刺激を受けるところがまちである、と齋藤氏は言う。

その一例として、2013年に港区芝公園の増上寺で開催された、KDDIによるユーザー参加型イベント「FULL CONTROL TOKYO」を挙げた。増上寺をカラフルなプロジェクションマッピングで彩り、背後にある東京タワーのライトも連動して色を変えるというもの。KDDIが提供するスマホ向け体感アプリと連携させ、スマートフォンを操作すると東京タワーの色が変わるインタラクティブな仕掛けに会場は大いに盛り上がった。齋藤氏曰く、システム的にはさほど難しくはない仕掛けだったものの、それでも現場でしか味わえない力強い一体感を感じたという。

「よく未来のあるべき姿として、スマホが小さなアクリル1枚になっていて、そこに映し出された、遠くにいる子どものホログラムと会話を交わす、みたいな映像がつくられていますけど、あれって悲しいと思いません? 僕はあんな未来が来てほしくはない。人がわいわいと集まり、現実味のある世の中を実現していきたいし、人の感覚を忘れたまちづくりになってはいけないと思います」

齋藤氏があるハイテク企業とのワークショップで、スマート化はどうあるべきかをアイデア出しした時のこと。初めは表層的なイメージに基づいた案が多かったが、会話を重ねて参加者のお互いの人となりがわかるようになるにつれ、「自然がほしい」「過剰な情報はいらない」「安心できるまちがいい」といった意見が増えていったという。

「どんなにスマート化されたまちがつくられたとしても、そもそもまちは楽しくないと発展しない。人がいなければ、他の人も集まって来ない。人が集まらなければ経済もマーケットもない。人が一か所に集まることで、都市はメディア化するのです。都市のメディア化についてはここでもっと話したいことがたくさんあるのに、全然時間がない(笑)」

 

 

まちの進化には地道な検証と思想が必要

一方、今までにないイベントを仕掛ける時に必ず直面するのが関係各所への許可取りや根回しだ。2018年10月に新宿御苑で行われた「GYOEN NIGHT ART WALK 新宿御苑 夜歩」でもそうだったと振り返る。結果、実行したことを通してさまざまな問題点を浮き彫りにした。ただ、そこで終わりにせず、それを弾みにさらなる変化を促進させてみせた。

 「新宿御苑の夜間活用の可能性は以前から指摘されていました。新宿のど真ん中に59.3ヘクタールという広大な場所があるのに、夜は使われていないんです。これを有効活用するためにイベントを企画しました。とはいえ、敷地内には電源も街灯もないから、できることはたかが知れています。結局、光の中を歩くというシンプルなイベントになりました。ところがほどなく、17時に閉園してイベント開始まで1.5時間しかないことが発覚。これではあまりにも準備に割ける時間が短すぎます。管轄する環境庁やいろんな部署に掛け合いましたが、状況は変えられず。そのため、当日はスタッフを何百人も待機させ、電源車や照明、テントなども用意しておいて一気に設営して間に合わせました」

(プレスリリースより流用)

2日目はスポーツ用品メーカー、ナイキのイベントを開催した。Tシャツを4,000人に無料配布すると発表したところ、色々ありましたが、新宿御苑の夜間活用への布石になったと思います。

まずは閉園時間の延長が決まりまして、今は19時までやっています。今後さらに延長される予定です。また、オリンピック期間中、新国立競技場の最寄り駅となるJR千駄ヶ谷駅は間違いなくパンクします。そこで、新宿御苑を夜間開放すれば、新国立競技場を出た人たちを苑内を通じて新宿まで流すことができます。しかし、それを実現するにも苑内に電源や街灯がなければどうしようもありません。あのイベントでそれを証明できたからこそ電気工事が行われる運びとなり、2019年度中に終わる予定です。こうしてイベントの実行をきっかけに、課題解決を推し進めることができたのです」

他にもさまざまな事例を挙げて、未来のあるべき姿をどう具現化していくか、ヒントに満ちた話を展開した齋藤氏。

「僕たちは建築、都市計画、世の中の事象・文化、興味・関心などを俯瞰して見るべきだし、行動して変えていくことが絶対に必要だと考えています。また、今まではマーケティングの時代でしたが、もう一度哲学、思想の時代に戻ると思っています。未来に対してちゃんと思想を持たなきゃいけない。僕は比較的レールに乗らないところを生業としている人間ですが、この会場にいるさまざまな立場の人がまちづくりや未来のあり方について『ここがおかしい』と感じるところをたくさん出していくことができれば、それを一つの提言としてまとめていくことができるのではないでしょうか」

キーワードは“右脳派” “コンダクター”

後半では、齋藤氏のプレゼンテーションを受けて、参加者が自身の立場から感じることなどを自由に発言する場となった。

◇参加者1「僕はオフィスビルのマネージメントに携わっています。齋藤さんのお話で、まずはエンターテインメントとしてイベントをやってみるということに大変共感できました。先日、役員も出席するような開発物件の会議でお硬い話ばかりが続いた後、僕ら担当者レベルが中心となって自由に議論する場を持ちました。『今後はドローンタクシーが出てきて、専用ヘリポートができるかもしれない』『その頃には車は完全自動運転になっていて……』などと、テック系を中心に、役員も含めてみんなが大いに盛り上がりました。右脳が刺激されたのか、夢がどんどん膨らんで皆が面白がって……。その時、まちを考えるにあたって、いかに右脳や心をつかむかが課題だと感じたのです」

◆斎藤氏「エンタメに限らず、右脳的な発想は重要ですよね。経営者や企業の上層部の人たちと接していると、意外にも比較的右脳で考えている人が少なくありません。ところが中間層になると安心・安全から入ってブレーキを踏みがち。もちろん経営的にはブレーキを踏む中間層は大事ではあるのですが、責任を持てないから(これまでにない発想のイベントなどを)やらない、パスするというのはどうなのかと思いますよね」

◇参加者2「僕は企業のブランディングの仕事をしています。テクノロジーの進化、UIやUXを追求することによって、感情の起伏がどんどん平坦になっているんじゃないかという気がしています。例えば、高校生の時に憧れのブランドのものを買った記憶はあっても、amazonや楽天のインターネットサイトで買った初めてのものほとんど覚えていない。僕には“なんでも便利になった分、記憶や体験の価値が下がる”という仮説があります。だから、スマートシティのようなまちが実現した時、便利で使い勝手がいいにも関わらず、人々にとってあまり面白くないまちができるのではないかと推測しています。スマートシティを否定するつもりはないのですが、どうすれば感情の起伏を起こし、楽しい体験をつくれるのか。例えば、80年代の渋谷でセゾングループを展開した堤清二さんのような、思想を持った文化的なまちをつくれる人が今は日本にいるのでしょうか」

◆齋藤氏「堤さんは右脳の人でしたよね。おっしゃるとおり完全にスマート化したら、つるっつるすぎて何も残らず、文化の“ぶ”の字も言えなくなるんじゃないか、というのはありますよね」

◇参加者3「ネット上では、何かに偶然出合うことが少なくなっているように感じています。もちろん明らかに不快なものに接したくはないのですが、不快ではない程度に新しい分野の情報に出合おうとするなら、まちの中は、今まで知らなかった刺激に出合える場として活用されるべきではないでしょうか」

◆齋藤氏「スマートシティならではのデジタルのコミュニケーションツールやテクノロジー、利便性を全部否定するわけではないけど、まちのアナログ感やアノニマス感、セレンディピティ(予期せぬ幸運)は大切にすべき、というのが皆さんの共通認識としてあるようですね。

僕は、誰も体験したことがないことをやるのがひとつの使命だと思っています。一時期“ユニークベニュー(意外性のある場所でイベントなどを開催すること)”が流行りましたが、イベントなどは所詮今まで使われていないところでやらないと新しい体験はつくれません。そう考えると、まちはユニークベニューだらけだし、それがセレンディピティ的なものになる。

でも、はじめにそういう提案をするとだいたい『は?』と言われます。ロジカルに話しても実現しない場合が多い。そういう経験を何度も繰り返していくうちに、僕は建築家こそがまちの“コンダクター”(指揮者)になりうるんじゃないかとに気づきました。ここで言う建築家とは、もちろん建築しか知らない人ではなく、哲学や思想を語ることができ、新しい領域を切り拓いていける人のことであり、今の時代、まさにこういった人たちが必要なのです。

思想を持った建築家であれば、法律も、マーケティングも、資金計画もわかる。つまり、建築家はすでにいくつもまちづくりに関するスキルを持っているのです。建築家というものは、うわべのデザインだけでなく、仕組みのデザインも両方できてこそだと思うし、思想を生み、法律を改正するくらいの強さも持っているはず。そういう人がいないと新しいまちはつくれないのではないでしょうか」

西田氏は、セミナーの最後を下記のようなコメントで締めくくった。

「今日の話をお聞きして、ぜひ齋藤さんに建築家と名乗っていただき、もっと深くまちづくりに携わってほしいと思いました。

前半の最後にも語られていた未来にむけた哲学・思想は、今まさに求められていること。それは同じことを繰り返しているだけでは都市も成長しないし、暮らしも豊かにならないという一人一人の実感によっていると思います。決して打算とか効率とか、何より正解とかが無い時代だからこその、唯一の前進手法が、自分たちの思想的共感を軸にまずやってみるという実験意識ではないでしょうか。

テクノロジーは、この実験を検証したり、サポートしたりしてくれるパートナーであって、決してテクノロジーがあるから上手くいくということではありません。先が見えない時代だからこそ、一人一人の小さな実感から都市にアプローチしていきたいと強く思います」

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