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【Event Report】東京のワクワクする未来を考える 建築家 重松健×作家 乙武洋匡

2020年11月10日(火)、ニューヨーク在住でラグアルダ・ ロウ・アーキテクツ共同代表の重松健氏をコーディネーターに、作家の乙武洋匡氏をゲストとしてお迎えし、「東京のワクワクする未来を考える」対談が行われました。当イベントには全国から約45名がオンライン参加しました。 本イベントは、コロナ禍で世界が同じ問題に直面し、ネガティブになっている今こそ、それをポジティブに変換して「ワクワクする未来」を考えようという連続イベントの第3回目です(第1回目のレポートはこちら)。今回は乙武氏の持つダイバーシティ・教育の視点と参加者の質問を踏まえてクロストークを行いました。

■東京のワクワクする未来の提案 

まず重松氏より、「人々の体験」「建物のあいだ」といったキーワードから、都市的な視点で人の活動を建築物やオープンスペースに落とし込んでいく設計プロジェクトの紹介しました。また、東京の未来ビジョンとして、首都高速都心環状線をただの公園ではなくパーソナルモビリティの実験場など、複合的な機能を持ったTOKYO G LINEとする提案、都心の水上を活かして水上交通網をつくり、日常の風景を変えるTOKYO B LINEの提案を説明しました。
左:乙武氏、中央:重松氏、右:矢野(シティラボ東京)

■インクルーシブとダイバーシティは両立するのか

車椅子ユーザーである乙武氏は日常の体験・経験からインクルーシブとダイバーシティについて話しました。「東京の中でインクルーシブでない場所はどこなのか?」という質問に対し、「ある都心再開発では、バリアフリーデザインが充実していて、障害者にとってはインクルーシブだが、高齢者や子どもが自由に遊びまわることは難しく、ある世代にとってはインクルーシブではないと感じた」、「新宿のゴールデン街は車椅子ユーザーにとってバリアフリーデザインの観点では絶望的だが、海外の観光客にとってはとても魅力的な場として映っている」と自身の経験も踏まえて話す乙武氏。
「 安全性を重視することで多様性にも歯止めがかかってしまうのでしょうか?」という質問に対し、重松氏は「安全・平等、全てを解決しようとすると多様性が失われてしまう」と言います。場所や地域だけで多様性を考えるのではなく、「学生がおばあちゃんの原宿と呼ばれる巣鴨に遊びにきたとしても、楽しい体験ができる」など、都市を活用する人の包容力やシチュエーションも含めて多様性を考えると良いのではないかと話します。
また、たとえ多様な人にとってインクルーシブなデザインであったとしても、法律によってスムーズな導入が難しい状況が生じているといった問題もあります。例えば、視覚に障害のある人のための点字ブロックは、車椅子ユーザーにとっては障害にもなります。点字ブロックを素材の異なる床に置き換えることで、両者にとってインクルーシブな空間とした事例もありますが、法律により実現できないこともあると言います。法律ができた当時に比べて、世の中は大きく変化しており、現在のより多様な人々の体験をもとにした生のデータを集めることによって法律も柔軟に変えていくべきだと考えています。

■ダイバーシティなまちを作っていくためには

次に「理想な都市の状態はどういうものですか?どんなまちが好きですか?」という質問に、乙武氏は『想像力を持った街』と答えます。数ヶ月滞在したロンドンとニューヨーク、東京を比較した上で、車椅子ユーザーにとって東京はハード面では配慮している都市だが、最も移動しづらい都市だと言います。なぜなら、海外ではエレベーターがなかったとしても車椅子ユーザーを手助けしてくれる人がいますが、東京にはそういった人が少ない。また、他人に迷惑をかけたくないと考える傾向がある日本人にとって、迷惑をかけてしまう都市を避けるのだそうです。そして、あらゆるマイナス要素を排除した都市は実現困難であり、その中で、どのように課題を解決していけるか考える余裕があるまちが好きです。インドでは、「どうせ迷惑をかけるのだから、あなたも助けられる人になりなさい」という教育が根付いていると乙武氏は言います。人に迷惑をかけても良いのだと思えることが、逆に人を助けやすくなる、ダイバーシティなまちを作ることにつながるのかもしれません。
また重松氏は「NYに住んでいる実感として、自由な環境でいろいろな人と触れ合えることが多様性の許容につながっていると思う」と言います。様々なシチュエーションを想像できること、それに対応できることが豊かなまちを作っていくために重要となりそうです。

■ダイバーシティを許容する教育とは?

さらに討論は、ダイバーシティを許容する想像力のある都市、そのために必要な想像力のある「人」を育てるための教育について展開します。
想像力を養う教育とは「普段の風景を想像する時に、様々な状況を思い浮かべることができることではないか」と乙武氏。そのためにいろんな世代の人と関わることが必要と言い、実際に自身でも、「まちの保育園 / まちの子ども園」という場の運営に携わっています。重松氏の考える「人々の体験」を意識したソフトを起点としたハード設計も、普段の風景として様々な世代の人が関わる場を作るという点でダイバーシティを許容することにつながりそうです。
目を閉じた時に想像できる風景を、多様な人にとって豊かなものにしていくことが、ワクワクする未来をつくっていくことに繋がるのではないでしょうか。本シリーズは、重松健氏、饗庭伸氏をデュアルコーディネーターとして、多様なゲストと東京の未来像について議論を続けていきます。次回となる第4回は、饗庭伸氏が『人新世の哲学』や『「人間以後」の哲学』の著者である篠原雅武氏をゲストに招き対談します。 第1回レポート(重松健氏×齋藤精一氏)
第2回レポート(饗庭伸氏×藤村龍至氏)