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まちづくり×サステナビリティ×α|電動マイクロモビリティで全国の“ラストワンマイル”を補う「Luup」

近年、都市部を中心にシェアサイクルを利用する人が増えている。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、通勤・通学などで公共交通機関を避ける動きがさらなる追い風になっているようだ。全国都市部で電動アシスト自転車での展開が広がる中、2020年5月25日に新たなサービスが誕生した。渋谷を中心とした6区(渋谷区、目黒区、世田谷区、港区、新宿区、品川区)で、街中の短距離移動に最適化された小型電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」の利用が増加している。シェアサイクルの後発組と思いきや、実はまちの価値の向上を念頭においた、高齢化対策、地方の人口減少を見据えた短距離移動インフラ創造の布石の一つだという。同サービスを提供する株式会社Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏に話を聞いた。   写真/石川望 構成・文/吉川明子

渋谷の“隙間”に、高密度に配置。周辺の不動産価値向上を目指す

新型コロナウイルスの感染が拡大するにつれ、株式会社Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏のもとには「満員電車に乗りたくないが通勤しなくてはいけないから、早く電動キックボードのシェアサービスを使いたい」「LUUPの電動キックボードを購入したい」といった問い合わせが次々と届くようになったという。
2018年設立のLuupは、電動キックボードをはじめとする電動マイクロモビリティを用いた交通インフラを創出する会社だ。同社が考える電動マイクロモビリティの条件とは、「小型」「一人乗り」「電動」。欧州の主要都市では電動キックボードのシェアサービスが便利な移動手段として浸透し、市場が急拡大している。一方、日本では現行法上、電動キックボードは原付自転車として扱われるため、公道で誰もが気軽に乗ることはできない。同社では、設立当初から独自に電動キックボードを開発しているが、5月25日から開始したサービス「LUUP」では、自社開発の小型電動アシスト自転車を用いている。
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「シェアサービス自体はもっと後に開始予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って3月頃から問い合わせが急増し、開始を前倒ししました。渋谷を中心に50ポート程から始め、11月現在、約200ポートと4倍に増えています。ユーザー数は非公開ですが、サービス開始から2日間で2,000人超に登録いただきました。今や機体1台あたり数千人がシェアしている状況で、正直なところ台数が足りていないのが現状です」。
LUUPのポートは飲食店や小売店といった店舗やオフィスビル、マンションなどに数多く、自動販売機1台分のスペースがあれば設置可能。地面に駐輪スペースを示すテープを貼り、目印の看板を立てるのみという手軽さだ。自転車の貸し出し、返却は専用アプリを通して管理している。
専用アプリの画面。地図に車体のある場所が示される(資料/Luup)
「大手資本のいわゆる先行シェアサイクル事業者の場所を奪おうとしているわけではありません。既に周辺にそれらのポートがあっても、『ここにもあったらいいのに』という隙間に設置しています。LUUPのサービスはシェアサイクルでユーザーからの利用料で利益をあげることよりも、街中に高密度に配置して、その関連の不動産の価値を向上させることを目的としています。最初の形がシェアサイクルだったために、先行組と比較されがちですが、ゴールは異なった方向を向いていると考えています。
街中のいたるところにポートがあって、本来であれば5分、10分歩かなくてはいけないところをさっと電動マイクロモビリティで移動できれば便利で負担も減りますよね。さらに、ポートが設置されることによって入居者の利便性が向上すれば、そのマンションやオフィスビルの付加価値も高まるはずです。私たちの事業はまち全体で採算を合わせるような設計になっています」。
  渋谷エリアを中心にサービスを開始したのには理由があるという。大小のビルが乱立する渋谷という超過密エリアで高密度にポートを設置できれば、他のどんな地域でも高密度の展開ができるはずだからだ。
「渋谷はよくニュースなどでスクランブル交差点の映像が流れるように、全国的にも印象的な場所だというのが第一の理由です。また、先に説明したようにコンビニに駐車場がないような、超過密エリアで実施することにも意味がありました。土地に余裕のある場所で超高密度に展開したとしても、『土地が余っているからできるのでしょう?』と言われてしまう可能性があったからです。また、渋谷には住民のほかオフィスワーカー、観光客、インバウンドなどさまざまな人たちが集まっているのも特徴の一つです。多様な目的を持った人たちがいて、それぞれが街中をちょっと移動する上でLUUPに利便性を感じてくれている。渋谷を中心としたエリアでのサービス開始後、その価値を実証することができ、他の地域の人たちや関係者の方々へも説明しやすくなってきました」。
現在、「LUUP」で使っている小型電動アシスト自転車は、限られたスペースにも駐輪できるよう小型化を図っているだけでなく、一般的な自転車に見えないようなデザインを採用したのが特徴だ。
「この先、電動モビリティはどんどん進化していきます。現行のものも、『これがキックボードになっていくんだろうな』と連想しやすいデザインを意識しています。近い将来、新しい電動キックボードや他の電動マイクロモビリティが完成し、現行の小型電動アシスト自転車よりも利便性や安全性が高いような結果が出れば、専用アプリでの管理やポートはそのままに、機体だけを差し替えるだけで、最新の短距離移動インフラになるのです」。

「ラストワンマイル」を補う手段として開発

岡井氏は、日本は鉄道網が高度に発達しており、大勢の人を主要な場所まで運ぶのには優れているが、駅からその先の交通手段が脆弱であることを指摘する。都市部の場合、駅前には何でも揃っているが、多くの住宅街は駅から徒歩20分、バスで10分などと、離れた場所に位置している。一方、地方では車がないとスーパーや病院に行くことができず、高齢化に伴って車の運転が困難になると、たちまち生活が立ち行かなくなるという現実がある。また、地方のローカル線やバス路線は人口減少によって採算が取れずに次々と廃線になり、その代替として行政がコミュニティバスを計画しようにも、人件費や運行費用がかさむという問題に直面する。たとえ運行できたとしても、本数はさほど多くないため、自分が行きたい時に自由に動くことはできない。
「鉄道網が大きな血管だとすれば、LUUPは駅から先の毛細血管のようなもの。先人たちが電車網を発達させ、インフラを整備した現在の日本だからこそ、『駅からその先』の移動手段、すなわち『ラストワンマイル』の移動をどうするかが今後の日本に必要な課題です。
現状、日本では駅から先のラストワンマイルはタクシーということになるかもしれませんが、タクシーの場合、1人を運ぶのに車と運転手1人が必要になります。この先、3人に1人が高齢者となった世界でこれが実現可能な方法と言えるかはわかりません。だからこそ、ラストワンマイルに高齢者でも一人で安全に乗れるマイクロモビリティが必要なんです。今、高齢者の方が使っている電動カートはスピードが遅いうえ、時々事故が発生しているなど必ずしも安全性が確保されているわけではありません。ラストワンマイルに適したマイクロモビリティがまだ存在していないからこそ、LUUPは将来に向けて高齢者や身体に不安がある方でも利用可能なモビリティの自社開発に取り組んでいます」。

東京・大丸有エリアで電動キックボードの実証実験開始

また、同社は大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会のスマートシティ推進委員会と協力し、10月27日から大手町、丸の内、有楽町(大丸有)地区を中心とした、電動キックボード公道走行による実証実験に参加している。これは、大丸有地区内に電動キックボードの専用モビリティポートを設置し、免許携帯・ヘルメット着用のもと、特例制度によって車道と普通自動車専用通行帯が走行できるというものである。この実験により、「より迅速・快適なラストワンマイルの移動のサポート」「新型コロナウイルス感染拡大対策として『三つの密』を回避するのに有効な電動キックボードの公道走行についての安全性や社会受容性の検証」「移動利便性」「エリア内外の回遊性向上」の検証などを行う。
「僕らにとっては安全性と利便性の観点から、日本で本当に電動キックボードが必要かどうかを国民の方々に問う場だと思っています。海外ではいきなり電動キックボードを街中に設置することで、圧倒的なスピード感での普及が実現しましたが、日本で同じようにはいきません。LUUPでは、まずは小型電動アシスト自転車のシェアリングの普及を目指し、次は電動キックボードの実証実験と一つずつ慎重に進めています。
たとえ法律的に電動キックボードが利用可能だったとしても、やはり『LUUP』というサービスは小型電動アシスト自転車から始めていたと思います。なぜなら、まちのみなさんが利便性をどれだけ享受できるか、そして、電動キックボードが本当に安全か、という2つの検証課題の議論が混在してしまい、正しく判断できない可能性があるからです。まずは利便性の高さを証明し、どのような機体がふさわしいかは、そのあとでユーザーに尋ねればいいと考えています。大丸有エリアでの実証実験では、キックボードの利便性や使い勝手の良し悪しなど、幅広い感想を聞いてみたいですね」。
最新の電動キックボード。最高時速は20㎞/h、2時間の充電で40㎞超の走行が可能(写真/Luup)
同社は一方で、2019年に地方自治体との連携協定を結び、電動マイクロモビリティによる地方都市での住民の移動効率の向上、駅から遠い不動産や店舗の価値向上、観光客の利便性向上にも積極的に取り組んでいる。同協定を結んでいるのは静岡県浜松市、奈良県奈良市、愛知県四日市市、東京都多摩市、埼玉県横瀬町、愛知県岡崎市の6自治体だ。
「地方では目的地がそこまで多くないため、むしろ地域による自立的な運営を重視しています。機体はITで遠隔管理し、充電などを地元の方々で行えることが重要だと考えています。また、電動マイクロモビリティの場合、その地域の人口、訪問者数などに合わせて臨機応変に対応できることも強みです。例えば『この2週間は祭りがあり、多くの人の利用が見込まれる』ような状況であれば、その期間だけ他の場所から機体を持ってきて台数を増やせばいいですし、反対に、特定地域の人口減などにも柔軟に対応できます」。
数年後のLuupの電動マイクロモビリティのイメージ。高齢者や足腰の不安定な方がアプリで開錠すると最高速度が抑えられる(写真/Luup)
今後、同社は全国のさまざまな場所でこのシステムと機体を用いた「ラストワンマイル」のインフラ整備に注力し、中長期的に利益を確保できるようになることを目指す。大規模展開が実現すれば、機体のコストを抑えることもできる。また、全国各地で駅からその先の移動に電動モビリティが一般化すれば、CO2の削減にも寄与できる。
「電動も発電するため、電動マイクロモビリティの普及=CO2削減とは必ずしも言い切れませんが、ヨーロッパで電動キックボードの規制緩和が迅速に進んだのは、CO2削減というサステナブルな面があったからだと思います」。
  日本では、人口の1/3が高齢者という超高齢社会が目前に迫っており、地方の人口減少も加速度的に進行している。そんな中、同社は年齢を問わず誰もが利用でき安全性の高い電動マイクロモビリティを開発し、「駅からその先」にある交通インフラの創出とまちの価値の向上、そしてCO2削減のために走り続けている。岡井氏が語る、まだ見ぬ、全く新しい電動モビリティを組み込んだ交通インフラの実現が待ち遠しい。
取材日:2020年10月30日   【岡井大輝 プロフィール】
1993年、東京都生まれ。2017年、東京大学農学部を卒業。戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。
  <関連情報>
Luup
  <CLT記事>
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