【Event Report】建築家・西田司氏対談 ~ポスト・コロナを探る~第3回 経営の変化を反映し、建築群-都市-の姿はゆっくりと移り変わる
コロナ禍を機に一層注目が集まるEC(電子取引)は高効率だと捉えられているものの、すでにレッドオーシャンです。一方、ECと実店舗の売り方が変わらず体験価値がなければ、人の購買行動はECに流れます。しかし今回の自粛を経て誰もが気づいたように、やはり人にはリアルな場に出かけたいという欲求があります。総合して考えれば、あえて出かけたくなる体験価値のある実店舗しか、これからは生き残れないだろうと山崎氏はいいます。
コロナ禍に突入した時期は、ちょうど複合施設の立川グリーンスプリングス(東京都立川市)に最大級の店舗を開店するタイミングでもありました。駅から遠く一般的には不利ともいえる立地であるものの、建築家O+hによる魅力的な空間デザインのほか、密を気にせずに済むゆったりとしたレイアウトが功を奏したことなどから、開店当初の月は全店舗の中で最高の売り上げを記録しました。これも「非効率」の価値観を認識するひとつの出来事だったとのこと。
また、山崎氏は店舗としての「建築」は人の印象に残るインパクトやメッセージ性はあるものの、その効率性は数字などで評価できるものではない、と考えています。2020年8月に開店したマザーハウスの銀座店は建築家の藤森照信氏に設計を依頼。この前を1日に何万人もの人が通り建物が目に触れると考えれば、伝わる情報量は計り知れません。オンラインでは偶発的に情報に触れることはないでしょう。オンラインが普及した時代だからこそ、リアルな世界でのヒトの琴線に触れるような投資には意義が生まれます。また、建築はそこに関わった人たちの考えを纏っていて、訪れる人に言外にイメージを伝えるプレゼンテーション手段でもあります。それがリアルの最大の価値であり、商業と建築がもっと「共犯関係」になればよいのではないか、と山崎氏はいいます。
最後に山崎氏は、「(経営の場であり都市を構成する要素としての)建築の姿は人の思いがつくり上げ、また変えて行くもの。変化はゆっくりとではありますが、(私たちが)望む形になっていくはず。今後もそれぞれの問題意識に従って各々の場所で頑張っていけばいいのではないでしょうか」と語りました。
また、西田氏は話中にあった山崎氏の「商品づくりでは10人全員が欲しいというものよりも、10人中1人が絶対欲しいものが売れる。そこには見えない100人の共感がある」という発言に触れつつ、「その(1人が絶対欲しい)ように建築も都市もつくれるか、という投げかけでもありますね。建築・都市のつくり手には、それを実現するための幅広い知識と創造性が求められます。効率性を超えた持続可能な経営の受け皿となるべく、建築・都市の使い手とつくり手たちの持続的な連携、対話が大切でしょう」とまとめました。
【開催概要】
■ゲスト:山崎大祐(株式会社マザーハウス 代表取締役副社長) https://www.mother-house.jp/
■ナビゲーター:西田司(建築家、東京理科大学准教授)、介川亜紀(シティラボ東京)
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■日時:2020年7月29日(水) 20:00〜21:30
■会場:オンライン
■主催:シティラボ東京
[タイムライン]
19:55〜開場
20:00〜開会・イベント趣旨説明、シティラボ東京の紹介
20:10〜対談
21:00〜質疑応答<15分>
21:15〜まとめ
21:30 終了