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【Event Report】建築家・西田司氏対談 ~ポスト・コロナを探る~第7回   エネルギーを使わない暮らし  2050年の建築とまちの姿とは?

2021年6月21日(月)、シティラボ東京アンバサダーの建築家・西田司氏とシティラボ東京がともに企画した連続対談「~ポスト・コロナを探る~ “スロー”シティにフォーカスせよ!」の第7回を開催。今回はゲストに建築家であり、東北芸術工科大学教授の竹内昌義氏をお招きし、エネルギーを使わない暮らしを目指すことで見えてくる2050年の建築とまちの姿について語り合いました。 竹内氏が環境問題を考えるきっかけになったのは、所属する建築設計事務所、みかんぐみが2005年愛・地球博(名古屋市)でトヨタグループパビリオンを設計したこと。リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)の「3R」を用いた循環型社会が万博のテーマとして提唱されていたことから、パビリオンに採用した構造材をリユースするなどして環境問題に向き合ったそうです。また、東北芸工大で教鞭を取るにあたり、この地域でできることは何かと思案した結果、リノベーションやエコと結びつきに至ったといいます。
2010年には環境省の補助金を得て「山形エコハウス」を建設しました。高断熱のこの住宅は、東日本大震災で2日間の停電に見舞われた際、3月の山形でも日差しのみで室内気温平均18℃を保ちました。このことからより積極的に環境問題を考え、情報を発信していくようになったそうです。
現在、日本におけるエネルギー消費量は民生部門(家庭+ 業務)が全体の1/3を占めていますが、残念ながら関連のある建築業界はあまり関心を寄せていません。設計・施工をする上での要件と考えている人が少ないのではないかと竹内氏は考察します。 日本は国全体で2050年までにカーボンニュートラル、つまり脱炭素社会の実現を目指すと公言していますが、建築が長いスパンで存在することを考慮すると目標達成のためには本来、2030年までに新たな建築物はすべてカーボンニュートラルとしてつくるようにする必要があります。その上で、建築業界において現状の認識と早急な取り組みが必要不可欠です。環境省、経済産業省、国土交通省などが連携し、省エネ基準適合義務化を2020年に実施する予定でしたがその施策は見送りになりました。竹内氏は「この義務化を早急に実施し、さらに断熱性能に関する外皮性能グレードであるHEAT20 のG2の義務化も2025年までには実行すべき」と考えています。 もともと日本の建築は断熱という考えが無かったため、ZEHを目指す上で断熱性能の向上よりも太陽光発電などのエネルギー導入に重きをおきました。しかし、カーボンニュートラルにおいて、まず効果が高いのは断熱です。室内の寒暖差が原因のヒートショックでの死亡者数は年間19,000人と少なくありません。住宅を高断熱・高気密にすることによりエネルギー消費量を抑えるだけでなく、健康に寄与するような快適な生活もかなえられるのです。「新築だけではなく既築の脱炭素化も重要であり、改修の際に高断熱の窓に変更することが肝要です」と竹内氏は述べます。ニューヨークのエンパイア・ステートビルでは、既存の窓を断熱性の高い3層ガラスに変えたことで、わずか3年で投資回収できました。太陽光発電などを併用すれば、改修後に、全体のエネルギー使用量はさらに減らすことができます。 建設費用が高いと思われがちなカーボンニュートラルですが、必ずしもそうではありません。「私が最初に手掛けた山形エコハウスは坪120万円掛かりましたが、その経験をもとに、建具を既製品にするなど改善を図り岩手県紫波町のエコハウスは坪65万円まで下げることができました」と話します。また、消費エネルギーを抑えられれば、家庭での使用電力は太陽光発電のみで補えるはずで、ランニングコストもおさえられ、建設費用の割り増し分は相殺されてしまうでしょう。電力会社に頼らないオフグリッドな生活も今後は実現していくと考えています。
山形エコハウスの外観(写真/竹内昌義)
竹内氏は、断熱改修ワークショップ開催を通じ参加者の意識改革を図っています。数字にこだわるのではなく、参加者の実際の体験や体感を大事にしていくことで、よりエネルギーを使わない暮らしへの理解が深まるといいます。
最後に竹内氏は、「まずは2030年に温室効果ガス2013年比46%削減するという目標に向けて国全体が大きく舵を切り、これまでの10〜20年間よりも急速な変化が起こるでしょう。その波に是非乗ってください」とコメント。西田氏は「地球はもちろん今後の建築を考えることで、そこで使われるエネルギーにも思考が届くでしょう。さらに、カーボンニュートラルを自分の暮らしにどのように取り入れていくか、というマインドを持つと、より良い2050年に向かうのではないでしょうか」と語りました。
カーボンゼロを2050年に目指す道程で、建物の省エネルギー化を図ることは必須。高断熱・高気密など建築に工夫をこらすとともに、太陽光や風を室内に取り入れるなど自然の力を利用しながら、快適な住環境、都市環境をつくりあげていくことになります。結果、都市は自然の“スロー”な流れを感じながら、誰もが健康で穏やかに過ごせる場所へと変貌していくのでしょう。(取材・文/折田千秋) 【プロフィール】 竹内昌義(たけうちまさよし) 建築家、東北芸術工科大学教授
1962年、神奈川県生まれ。東京工業大学大学院修了。1991年に竹内昌義アトリエを設立した後、1995年に設計事務所「みかんぐみ」を共同設立。2001年からから東北芸術工科大学(山形県山形市)の建築・環境デザイン学科准教授となる。2008年から同教授。山形エコハウス(山形県が事業主体、環境省の21世紀環境共生型モデル住宅整備事業として選定)をきっかけに、環境・エネルギーに配慮した住宅を設計、紫波町オガールタウンの監修などを手がける。エコタウン、エコハウスなどのコンサル、設計を手掛ける株式会社エネルギーまちづくり社代表取締役でもある。『図解 エコハウス』『原発と建築家』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。参考:https://enemachi.com/
☆お知らせ☆
西田氏対談第8回は「ダイバーシティ」をテーマに、障がいなどの有無にかかわらず多様な人々が楽しく暮らし、働く都市の姿について語り合います。ゲストはダイバーシティ&インクルージョンの仕組みづくりに取り組むSLOW LABELのパフォーミングディレクター、金井ケイスケ氏。次回もお見逃しなく!