Close
  1. Home
  2. Article
  3. Article詳細

【Event Report】 建築家・西田司氏対談~ポスト・コロナを探る~第8回 あそびの感覚がダイバーシティを育み、都市の余白がその受け皿に

2021年7月28日(水)、シティラボ東京アンバサダーの建築家・西田司氏とシティラボ東京がともに企画した連続対談「~ポスト・コロナを探る~ “スロー”シティにフォーカスせよ!」の第8回を開催。今回はゲストにNPO法人SLOW LABEL でソーシャルサーカスに取り組む金井ケイスケ氏をお招きし、都市に住む多様な人たちのコミュニティ形成や都市の姿について語り合いました。参加者は約40名、メディアやデベロッパー、まちづくり関係者など、ダイバーシティを配慮したこれからの都市の姿についてヒントを得たい方々が集った模様です。 そもそもソーシャルサーカスは、世界各地でマイノリティが抱える貧困・難民・虐待などの社会課題を解決することを目的に海外で生まれたそうです。金井氏が所属するSLOW LABELでは、障がいの有無にかかわらず、参加者がアーティストと共にイベントを作り上げながらさまざまな発見をする場を企画してきました。同団体のコンセプトには、「生産性を重視しがちな社会に“スロー”な感性をとりもどしじぶんたちのあり方を問いつづけ、変化をおそれずに多様性と調和のとれた社会をめざします」という言葉があります。 金井氏は大道芸に興味があったことから、フランス国立サーカス大学(CNAC)に留学。同大学では、大道芸以外にもダンサーや建築家、都市計画家などの専門家を招いて様々なワークショップを行い、テクニックだけにこだわらない新しい表現を模索していました。 フランスの田舎にある少々のんびりした雰囲気のこの大学では、広場で講師と学生たちが同じテーブルを囲み、食事するような機会が多々あったそうです。また、共同生活では世界各国から集まった学生同士が身体表現で意思疎通を図っていたといいます。たとえ言葉が通じない中でも同じ時間を共有する人同士でコミュニティをどう楽しむか、それこそがサーカスの本質であり、コミュニケーションそのものを目的とする感覚「あそび」に大事な意味があるのではないか、と考えるようになったそうです。
10年ほどのフランスでの活動を経て日本に帰国したのち、2014年に開催されたヨコハマ・パラトリエンナーレへの参加をきっかけに、SLOW LABELと共に活動を開始。 障がい者とともにサーカスの技をベースにしたパフォーミングアーツのプロジェクトやワークショップを行い、それを「ソーシャルサーカス」として発展させてきました。 会話がままならなくとも、ジャグリングなどの道具に興味を示したり、見よう見まねで身体を動かしたりといった反応から、互いの気持ちを伝えあえるとのこと。そのように、人と人の間にものや空間、アクティビティを挟むことで、新たなコミュニケーションが生まれることがあるそうです。ノンバーバルコミュニケーションは障がいの有無、言葉の壁も越えられると金井氏は実感しています。 ロンドン・パラリンピックの空中芸のエアリアルコーチを招いたワークショップでは、障がい者が補助具をつけ逆さまにぶら下がるなど様々な技に挑戦しました。社会貢献を目的としたソーシャルサーカスでは、あえてちょっと危険なことに挑戦することで障がい者自身のやる気や自己肯定力の向上、新しい思考を生み出します。また、その挑戦を安全に支える中で健常者のスタッフも刺激を受け、色々なことを教わるといった相乗効果もあるそうです。 都市を振り返ってみると、子供はスケートボードで階段や手すりを滑るなど、ちょっとした冒険やコミュニケーションを通じて、都市の中にサーカスを感じているのかもしれません。西田氏からは、ミゲル・シカール著「プレイマターズ 遊びの哲学」の中に、これまでの公園や遊技場から「ポケモンGO」などを機に都市全体が遊び場になってきたというくだりの紹介がありました。遊びが都市に戻っていくと身体やもの、空間を通した色々な対話も起こりそうです。
金井氏は「都市の中でサーカス≒あそびを体験し、その感覚が世間に普及することでよりフラットな社会になるのではないか」と話します。
最後に西田氏はこのようにコメントしました。「都市全体をあそび場として捉えることは、ダイバーシティの受け皿への道であり、ひとつの“スロー”シティ像かもしれません。同時に、これからは都市の余白=あそびを上手に使う“あそび人”が必要なのではないか。色々な軋轢を調整しながら都市の余白に意味があることを教えてくれる人ですね。サーカスや障がい者スポーツなどを通して見ると、今までの都市の機能にはなかった必要な要素が浮かび上がってきます」(取材・文/折田千秋)
  【金井ケイスケ プロフィール】
1999年に文化庁海外派遣研修員として、日本人で初めてフランス国立大サーカス大学(CNAC)へ留学。卒業後はヨーロッパ、アフリカ、中東で多くの公演・ワークショップを行う。2009年帰国ののち、札幌芸術の森、越後妻有アートトリエンナーレ、横浜Bankart他に出演。現在はNPO法人 SLOW LABELにてソーシャルサーカスに取り組む。
  <関連情報>
SLOW LABEL 
<過去記事・建築家西田氏対談後半>
・第6回  LUUP 岡井大輝氏
・第7回  建築家 竹内昌義氏