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【Event Report】 建築家・西田司氏対談~ポスト・コロナを探る~第9回 データを駆使した植物工場で効率的な栽培。都市での農や暮らしにゆとり≒スローを生む

2021年8月31日(水)、シティラボ東京アンバサダーの建築家・西田司氏とシティラボ東京がともに企画した連続対談「~ポスト・コロナを探る~ “スロー”シティにフォーカスせよ!」の第9回を開催。今回はゲストに株式会社プランテックスの代表取締役、山田耕資氏を 迎え、開発を進める人工光型植物工場と、都市での食料(植物)生産の可能性について対談しました。参加者は40名超、デベロッパー、まちづくり関係者など、農や暮らしなどを含めた都市の未来像を探る方々が集ったようです。 山田氏が植物工場に着眼したのは偶然の出会いだったとのこと。2013年に植物工場を見て、食料生産を変える将来性を感じ、また、自らが得意とするものづくり技術によって更なる発展が期待できると直感し開発に着手しました。
写真/プランテックス
山田氏によれば、日本は植物工場について、技術、普及、双方において世界をリードしているといいます。一般的な装置を開放型とすると、プランテックスで取り組んでいるのは密閉型。空間を限定して環境制御を精密に行うもので、世界初の開発です。単位面積当たりの収穫重量は一般的な植物工場と比べて約5倍。とはいえ、目標は単に生産性を高めるのではなく、あくまで植物工場にしかできない植物生産産業の創出です。すでに一部のスーパーマーケットではプランテックスの植物工場産の野菜の販売を開始、高品質の商品として注目を集めています。現在、首都圏での販売を視野に、大型の植物工場建設を計画中です。 日本においても今後食料不足となる恐れはゼロではなく、今の技術の延長では増産への対応が難しいといった見方もあります。植物工場の重要性はそこにある、と山田氏。一方、単に野菜の安定生産ではない、今までにない“体験”をつくることが産業の魅力につながると考えています。緻密な環境制御を生かし、例えば、医療・美容・健康に寄与するような野菜の生産も検討中だとか。 今後、プランテックスではさらに活動を広げるべく、さまざまな取り組みを予定。植物工場では栽培条件の組み合わせを「レシピ」と呼び、そのレシピをダウンロードし工場で量産できるようにしたり、イチゴなど新しい品種の栽培にもチャレンジしたいといいます。
都市での展開については、植物工場が都市内や近郊にできた場合、生産と消費が近づくメリットも考え得るそうです。たとえば、フードマイレージの削減により、搬送コストやロスを下げながら販売する野菜の鮮度を高められる。従来のように都市と農村を相対峙させるのではなく、植物工場という選択肢を持つことで、都市近郊でも食料生産を賄うような展開が可能なのではないか、と山田氏はいいます。まちの中、マンションの一室での生産の可能性もありますが、それは少々先のこと。植物工場のメリットである無農薬や安定生産などを前提にすれば、虫が入らない空間構造、衛生管理などが必須、しかも一定の広さが必要になるからです。 山田氏は最後に植物工場についてこのようにまとめました。「植物工場の本質は、栽培に関する様々なデータを活用して価値ある『レシピ』を作るというデータビジネスであり、いわば実社会とデータを融合させる取り組み。ビッグデータの活用により付加価値を高めることはできますが、生産がキーになるため、IT技術だけでは実現できない。日本ならではの緻密なものづくり技術が重要です」。一方で西田氏は、「日本由来の新しい技術として価値を持てますね。それが都市生活に入り込む未来にぜひ期待したい」とコメントしました。 コロナ禍が続き、植物工場への注目度の高まりを感じているという山田氏。家での食生活、食の時間の大切さが重要視されたからではないか、と推測します。生活にゆとり≒スローが生まれたからこそ、より食あるいは農といった人間の暮らしの本質的な部分が注目されるようになり、その傾向はコロナ後も加速していくのかもしれません。(取材・文/介川亜紀) 次回、最終となる第10回は、“PLATEAU”立ち上げに尽力された国土交通省都市局の内山氏をお迎えして、”PLATEAU”とは何か、活用の現状、活用を通じて目指す未来などについてお話いただきます。お見逃しなく!
【山田耕資 プロフィール】
株式会社プランテックス代表取締役。2007年に東京大学大学院卒業後、ものづくりの生産工程改革で有名な㈱インクスに勤務。同社の民事再生申請時には、再生計画案を作成。2010年以降、日米計6社のベンチャーの創業に参加。2013年末に、人工光型植物工場と出会う。世界の食と農に革新をもたらす技術だと確信し、創業を決意。エンジニアリングの分野で卓越した実績・スキルを持つ4人のメンバーと共に、新しい産業を興すことを目指して2014年6月に㈱プランテックスを創業。
<関連情報>
参考:株式会社プランテックス
  <過去記事・建築家西田氏対談後半>
・第6回  LUUP 岡井大輝氏
・第7回  建築家 竹内昌義氏
・第8回 SLOW LABEL 金井ケイスケ氏