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【Event Report】新しい豊かさのためのコモンズと地域拠点

2021128日(水)、シェアビレッジ株式会社 代表取締役の丑田俊輔さん(以下、丑田さん)、一般社団法人トリナス共同創業者の土肥潤也さん(以下,土肥さん)をゲストとしてお迎えし、「新しい豊かさのためのコモンズと地域拠点」を開催しました。当イベントには全国から約30名がオンライン参加しました。

これまでの人口や経済の拡大・成長を前提としたものとは異なる豊かさを求める動きが活発になる中で、その手段の一つとしてコモンズ(共有資源)を考えるものです。持続可能な豊かさのために、「コモンズ」や「地域拠点」をテーマとして、お二人の活動紹介の後に、クロストークで「コモンズ運営でお金をどう考えるか」、「コモンズへの巻き込み方」などついて議論が行われました。

■様々なコモンズの運営とコミュニティの関係性をサポートするプラットフォーム ~丑田さん

丑田さんは、秋田県五城目町で様々なコモンズとしての取り組みや、コモンズ運営を支援するデジタルプラットフォームについて話します。 渓流釣りを例に挙げ、川や源流である森もコモンズであると言います。所有自体は行政であったとしても釣りが好きな人であれば落ちているゴミを拾うという行動が生まれます。そして、この感覚がコモンズのキーワードになるのではないかと話します。
他にも、築130年の解体が検討されていた茅葺きの古民家を村に見立て、コミュニティでシェアするという共同体や、遊休不動産を地域でDIYしながらコモンズとしての遊び場として開放した「ただのあそび場」など様々なコモンズの紹介がありました。
コロナ後には、一つのコミュニティを拡大していくのではなく、小さなコミュニティを誰もがつくることのできる環境づくりへと舵をきり、コモンズの運営をなめらかにするようなツール「Share Village」の紹介もありました。

■民間で取り組む図書館と様々な展開~土肥さん

土肥さんは、静岡県焼津市で取り組む「みんなの図書館さんかく」について話します。

みんなの図書館さんかくは、月2,000円を払って本棚を借り、58人のオーナーがいる民間の図書館です。学生の居場所づくりを行ったのが商店街との関わりのきっかけで、民間としても取り組んでいきたいという思いから、空き店舗を改修、商店街の力も借りて、DIYも行いながら「さんかく」を開業しました。

一箱本棚のオーナーは動物愛護の活動、けん玉と本、交換日記、性教育…様々な自己表現や発信する棚として活用し、お店番の「権利」を得ることができます。このお店番の権利は、運営がいなくても持続的に開館できる仕組みとしても機能し、1人だけが無理しない仕組みとなっています。

今では一箱本棚の仕組みは全国で24館に展開していて、「さんかく」も3000人が来館するプラットフォームとなったことで、焼津まちなか社食(4回目で340食近い売上)、商店街に人工芝を敷いたみんなのアソビバプロジェクト、古民家を改修したカフェが近くにできるなど幅広い展開を見せていると話します。  

右:丑田さん、中央:土肥さん、右:西(シティラボ東京)
丑田さん、土肥さんからの話題提供の後、参加者からの質問を交えながらクロストークを行いました。
参加者の方から多くの質問をいただきましたが、その中の2つをご紹介します。

■Q&A、クロストーク

コモンズを運営するお金はどのように考える?

丑田さん:ビジネスが成功するかという視点を最優先にするとコモンズの温度感と乖離してしまうが、ちゃんとお金と向き合うことは大事。無理せずお金が巡る、参加したくなる気持ちをくすぐられる。

土肥さん:お金は結構課題となる。成功しているコミュニティスペースは、どこかでお金と向き合わなければいけなくなる。スポンサーの企業や大地主は余っているものを使うので悪くはないが、波及はしない。広がっていく時の工夫はあるか。

丑田さん:前提として、不動産コストが極限まで下がっている田舎町という点は汎用性がありそう。「ただの遊び場」では固定費が極めて低い遊休不動産を活用している。遊びを通じて人がつながり、場を飛び出して商店街に歩く人やお店が増えていく広がりや、人件費をかけなくても見守りあうことで持続していく仕組みをつくることを意図して、この場単体でのマネタイズは意識していない。

一方で、古民家では、年貢という町内会費や宿泊費で、管理する側の人件費も含めて捻出し、利益は茅葺屋根の修繕に投下したりと、コモンズの維持管理にもお金を還流させつつ、経済が回るようにしていた。取り組みによって色々とバランスを試している。

土肥さん:空き物件が出た際に、シェアハウス、コワーキング、ゲストハウスなど色々とあるかと思う。手間をかけないで運営することは展開の上で重要。

丑田さん:お金を稼ぐまちづくりはそれはそれで重要。地域で事業をつくってちゃんと稼ぐことを目指すのもいいし、コミュニティで経済を巡らせたり、お金以外の経済圏と向き合うのもあり。自分がどの経済圏に居たいかを認識しながら進むことが大事。

様々な人をどう巻き込んでいくのか

土肥さん:民間なので、地域の人全員を対象というのはないが、地域で既に活動しているので、使ってくれる人をイメージしてその人たちを巻き込んでいくという感覚。

丑田さん:地域で大勢を巻き込みすぎると合意形成だけに時間をとられる。例えば、8500人の町民全員ではなく、まず30世帯の集落の人(最小限の単位)には丁寧にコミュニケーションしていくなど。ステークホルダーを最小限にして土台をつくり、徐々に共感の輪を広げていく。民間ベースで自律的に動いている場合は、公平性を考えすぎなくてもよい。公民連携など公共的要素が入ってくる場合は、また異なるルールでふるまう必要もある。ケースバイケース。

土肥さん:関わってほしい気持ちが強すぎると、提供する側と提供される側という構図ができ、来た人が受動的になる傾向はある。「関わりたくなる」視点が大事か。

丑田さん:特定の人が全ての人を連れてくるなど、一人のパワーに依存しすぎると一神教的コミュニティに近づきやすい。コモンズを一緒に育むという観点からは、一人ひとりが参加している感や、異質なものが同居して、たまに混ざる状態が生まれると面白くなる。

■まとめ

最後に土肥さん、丑田さんからそれぞれ、「コモンズは共同で管理するので、如何にして色々な人がオーナーシップをもってかかわれる場所、街にしていけるかが重要。」「仮説思考を置いて体感するところにヒントがあるのではないか。」という言葉でこの会を締めくくりました。 事業としての民間的立ち位置と地域のピースとしてのコモンズ的な公共のバランス感覚がとても印象的で、「オーナーシップ(当事者意識)」「あそび」「関わりたくなる場をつくる」「拡大志向を手放す」などキーワードがたくさん出てきて、学びの多い対談となりました。自分たちの関わるまちについては、外部に頼るだけではなく、主体的に豊かさを向上させるためにコモンズの選択肢を手段の一つとして考えることができると思いました。

【イベント概要】

・日時:2021128日(水) 19:3021:00
・ゲストスピーカー:丑田 俊輔(シェアビレッジ株式会社 代表取締役)、土肥 潤也(一般社団法人トリナス共同創業)
・モデレーター:西 昭太朗(シティラボ東京)
・主催:シティラボ東京(一般社団法人アーバニスト)

【タイムライン】

19:30~19:40 イントロダクション
19:40~20:00 丑田さんプレゼンテーション
20:00~20:20 土肥さんプレゼンテーション
20:20~20:55 クロストーク・Q&A
20:55~21:00 クロージング

【登壇者プロフィール】

丑田俊輔(シェアビレッジ株式会社 代表取締役)
千代田区の公共施設をまちづくり拠点として再生する「ちよだプラットフォームスクウェア」、日本IBMの戦略コンサルティングチームを経て、2010年にハバタクを創業。新しい学びのクリエイティブ集団として、国内外を舞台に様々な教育事業を展開。2014年より秋田県五城目町を拠点に、田舎発起業家を育む「ドチャベン」、古⺠家を舞台に地域をつなぐ「シェアビレッジ」、遊休施設を遊び場化する「ただのあそび場」、住⺠参加型の小学校建設「越える学校」支援等を推進。2021年、共創型コミュニティプラットフォーム「Share Village」を公開。ハバタク株式会社代表取締役 / プラットフォームサービス株式会社代表取締役
  土肥潤也(一般社団法人トリナス共同創業)
コミュニティファシリテーター。1995年、静岡県焼津市生まれ。静岡県立大学経営情報学部卒、早稲田大学社会科学研究科修士課程 都市・コミュニティデザイン論修了、修士(社会科学)。2015年に、NPO法人わかもののまちを設立。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。焼津駅前通り商店街をフィールドに「みんなの図書館さんかく」「みんなのアソビバプロジェクト」に取り組む。内閣府「若者円卓会議」委員、元内閣府「子供・若者育成支援推進のための有識者会議」構成員。