【Report】今こそグリーンビジネスをつくる、はじめる、そだてる〜 『GREEN BUSINESS』出版記念トーク
1.味の素グループにおける環境を中心としたサステナビリティの取り組み
最初に、味の素株式会社サステナビリティ推進部環境グループ長の豊崎宏氏より味の素グループの取り組みを紹介いただきました。同グループは世界一のアミノ酸メーカーであり、馴染みの深い「味の素」以外に、食品、サプリメントほか多様な事業をグローバルに展開しています。
現在はASV(Ajinomoto Group Shared Value)というコンセプトのもと、食と健康の観点から、事業を通した社会課題の解決による社会貢献と経済価値の創出に取り組んでおり、2030年のアウトカムとして「環境負荷を50%削減」、「10億人の健康寿命を延伸」を掲げています。取組みの範囲も、気候変動対応、プラスチック廃棄物削減、フードロス低減、また、生物多様性や人権問題など多岐にわたります。
CO2削減では、自社事業活動や購買に関わるCO2を2030年までに半減させると共に、バリューチェーン全体でのCO2を24%削減させる目標を掲げており、特に、CO2排出全体の約6割を占める原料を中心に検討を進めています。
食品メーカーとして特徴な取り組みとしては、サトウキビの絞り汁(糖蜜)から「味の素」をとった後に残る栄養豊富な液を有機肥料として畑に戻すバイオサイクルが挙げられます。化学肥料の削減がCO2削減にもつながります。
また、アミノ酸の窒素源となるアンモニアについても、従来の製法は化石燃料を使用し、輸送にもエネルギーとコストが必要でしたが、再生可能エネルギーが使用できて輸送も不要になるグリーンアンモニアの工業化に取り組んでいます。CO2排出量が1/8になるとのことです。
食品包装のプラスチックに関しても、植物由来の紙包材への転換、マテリアルリサイクルしやすいモノマテリアルへの転換などを進めていますが、この課題は自社単独では収まらないため、プラスチック製品の循環を目指す官民連携プラットフォームCLOMA(Clean Ocean Material Alliance)に参画し、回収・分別を含むバリューチェーン全体での対応を目指しています。
フードロスの削減に関しては、製品開発や販売での工夫はもちろんですが、家庭で余った食材を活用するサルベージクッキングや食材使い切りコンテストなど、消費者の意識や行動変容を促す取り組みも、食品メーカーとしてのユニークな取り組みと言えるでしょう。
同グループにおいても、社会貢献と経済価値の創出をトレードオンにするかという課題に対応するには、バックキャスティングやバリューチェーン全体での価値創出など、従来とは全く異なる考え方への転換が必要となり、社内やパートナーと共にエコシステムを構築し、強靭かつ持続可能なフードシステムの構築を展望しているとのことです。
2.鹿児島県大崎町サーキュラービレッジへの挑戦
続いて、鹿児島県大崎町SDDs推進協議会の事務局である合作株式会社 取締役の鈴木高祥氏より、地域での取り組みを紹介いただきました。大崎町は、人口約13,000人と小規模ですが、「混ぜればごみ、分ければ資源」をキーワードに27品目の分別、約83%のリサイクル率(12年連続日本No.1)を達成。近年は企業との連携も行いながら「サーキュラーヴィレッジ」への展開に取り組んでいます。
大崎町では、平成10年からごみの分別を始めました。その背景は、町内に焼却施設がない中、埋立処分場があと20年で飽和してしまうという問題でした。焼却施設をつくることは将来世代に建設費・維持費のツケを残すことになります。処分場を増設するにも周辺住民への負担を強いることになります。同町では分別・リサイクルを徹底して処分場を延命化する道を選びました。
取り組みを始めた平成10年以降の20年で一般ごみの約85%削減に成功。処分場もあと50年は延命が可能となりました。この「大崎システム」では、集落ごとに衛生自治会が分別のアドバイスを行いながら、資源ごみを洗浄・分別するため、買取価格も高くなります。生ゴミや剪定くず等の有機物はリサイクルセンターで堆肥化して安価に販売することで町内での循環が生まれます。最終的に処分場に行くのは紙おむつなどについても、現在その削減に取り組んでいます.
このような取り組みの発展として、2021年4月に大崎町SDGs推進協議会が誕生しました。同協議会は、地域企業と町役場の複合体であり、企業版ふるさと納税を活用している民間企業、研究者・研究機関、町役場や大崎町民との調整を担いながら、町のヴィジョンの明確化やプロセスの構築を行っています。
同協議会が進めるOSAKINI PROJECTは、大崎町を舞台に、研究者や企業などと社会実験や新しい取り組みを進めるもので、研究・開発、人材育成、情報発信の3つが軸となります。20年に渡り分別を進めてきた蓄積が、住民の理解やスムーズな実験の下地となっています。
企業との協働では、単に企業のためではなく、大崎町でやりたいことが世界につながるという共感をベースにしており、製品をつくる企業と一緒に循環の仕組みを構築していく、焼却施設がない・転換期に来ている他の自治体への横展開を図っていくものです。そのツールとして企業版ふるさと納税を活用しています。
同協議会ができたことで、これら企業等の交通整理に加え、有償ボランティアのツアーガイドの育成、鹿児島相互信用金庫との協働によるグリーンビジネスプログラムといった展開も図られていくようです。
3.トリガートーク
対談に移る前に、著者であり、環境省や大学教員として、環境と共生できる経済づくりやまちづくりをずっと主張してきた小林光氏より問題提起を行いました。
今までの人類の歴史は、いわば、環境の恵みをただで使って儲けにしてきたと言えますが、それを続けていくと「緑の山」が食べられない「お札の山」に変わってしまいます。持続可能性のポイントは「緑の山」を潰さないということです。生産資源に対してリターンしないと生産自体が立ち行かなくなります。
環境にお金をかけることで経費が増える、経費を価格転嫁するので販売が減る、マクロ経済も小さくなるという思い込みが根強くありますが、経済はそもそも物やサービスの交換の仕組みで、そこにお金が介在しているだけなので、環境の値段が高くなっても、交換の比率が変わるだけです。さらに、環境に手をいれることで、使われていない資源や新しい商品が出て経済も発展します。環境は日本の経済が成長する大きなチャンスになりますし、世界的にも再エネの投資は現在より上昇していくと予測されています。グリーンビジネスは確実な成長が見込まれます。
一方、その推進においては、科学性が問われたり、値段が高くなったり、環境価値が実感しづらいなど難しい点もあります。そこをどう突破できるか、お金だけでない価値を関係者の間でどう取引していくか、本日の対談でもそれがテーマになります。
4.対談 今こそグリーンビジネスをつくる、はじめる、そだてる
冒頭、モデレーターの吉高まり氏より、本日は綺麗ごとではなく、本当に持続可能なものとしてのグリーンビジネスを伝えたいという思いと共に、対談が始まりました。
▼推進の苦労
対談の話題は多岐に渡りましたが、やはり、ライブならではの話題として、実際の推進に当たっての苦労について、率直な体験を伺いました。大崎町でも当初は住民の理解を得るのに年間450回の説明会を開くなど大変な苦労があったとのことです。また、協議会発足後には企業も多数参画していますが、企業のロジックと行政としてのロジック、住民の納得など、調整の中核として丁寧な進め方を心がけているとのことです。
味の素でも、まずはビジネスの考え方を大きく変えるため、社内での理解を得ることが最初のハードルになりました。連続的に、個別に意見をやりとりしながら地道な取り組みを繰り返してきたとのことです。次の段階では、関連する企業や自治体、最終的には一般生活者である顧客の理解や連携が課題となってきます。
▼トレードオンをめざして
では、このような苦労を行ってビジネスをグリーンにした結果、どのような成果が上がったのでしょうか?色々な取り組みを進めている味の素でも環境と事業のトレードオンについての具体的な答えはまだ模索中ですが、ビジネスモデルが変わっていけばいつかきちんと儲けられるようになるという信念のもと推進しているとのことです。また、将来的に炭素税の導入が行われた場合に数百億円レベルの負担になるという試算も行っています。発想の起点をどこに置くかで成果の考え方も変わってきます。
大崎町では、リサイクルの取組みにより、廃棄物処理費用が削減された、資源ごみが高く買い取られた、雇用が創出された、企業版ふるさと納税の収入が得られたといった具体的なメリットも考えられます。協議会では、研究者との協働でこれらの取り組みの効果を検証すると共に、教育や技術展開といった民間ビジネスへ展開していくことも検討しているとのことです。
環境価値を伝えていくためには。環境に取り組む方が儲かるというポジティブ面、炭素税が導入されると支出が増えるというネガティブ面、両方の側面を考えていく必要がありそうです。
▼推進の核となる「人」と「輪」
ビジネスと環境の接点はどこにでもあるため、どんなビジネスでも環境を改善して収益に貢献すればグリーンビジネスになるポテンシャルを持っています。投資家も含めて気候変動に取り組むことは当たり前という機運も醸成されてきました。しかし、従来と考え方や方法論を大きく変えるグリーンビジネスでは、バリューチェーン全体で多様な関係者と共に、協働で多面的な価値をつくっていく必要があります。そのための共感や合意形成は苦労を伴いますが、ビジネス自体をサステナブルにしていくためにも、環境をサステナブルにしていく必要があります。
その実現に向けては、本日の対談で語られたような地道な努力、環境価値の見える化、積極的な発信、価値を共有できるストーリーなど様々なものが必要ですが、やはり最終的には熱量のある人が、グリーンにビジネスをつくりだし、輪として育てていくようです。本日は、教育や金融、政策といった分野からグリーンビジネスを提唱している著者のお二人と、企業や地域としてグリーンビジネスを推進しているお二人による熱いセッションとなり、レポートに掲載した以外にも話題は多岐にわたりました。このような人を増やしていくことが、いま求められることではないでしょうか?シティラボ東京でも著者のお二人と「グリーンビジネス研修」を開催予定です。詳細はまたウェブサイト等にてお知らせしますのでご期待下さい!