都市へのモチベーションをつむぐ 〜都市の問診 × アーバニスト〜鹿島出版会特別コラボイベント
2022年5月20日、都市に関する3冊の本の著者によるクロストークイベントが開催されました。シティラボ東京主催イベントとしては久々に登壇者・参加者もオフラインで集い、かつオンライン配信も行うハイブリッド形式での開催。合計で約90名の方にご参加いただきました。
本イベントでは、2022年4月に発行された『都市の問診』の饗庭伸さん、2021年11月発行『アーバニスト』の中島直人さん、2018年6月発行『マーケットでまちを変える』の鈴木美央さんに登壇していただき、都市と向き合う専門性とは何か、また、これからの都市をつくる人とはどんな人なのか?会場からの質問も交えて語り合いました。
書籍の紹介
◆『都市の問診』 〜いろいろな人やモノが渦巻く都市の様子を知り、空間を使ってその調子を整える
まず、出版間もない『都市の問診』について饗庭さんからその主旨について解説がされました。饗庭さんは参加型デザインの研究、また現場での実践を重ねてきましたが、その中で書き溜めてきた文章を再構築する中で本書が生まれてきたとのことです。
もともとは医者の言葉である「問診」ですが、これは都市計画にも通じる考えです。実際の都市計画を行う前に丁寧なコミュニケーションを行うことの重要性が、タイトルに込められています。
特に、人口が減少していく日本の都市では、成長期のような「強い」モチベーションではなく、「弱い」モチベーションをさばいていくことが大切と述べます。
◆『アーバニスト』 〜魅力ある都市の創生者たち
次に、半年前に出版された『アーバニスト』について中島さんよりの解説です。本書ではアーバニストが生まれてきた歴史、各分野で活動しながら都市に能動的に関わっている人の実態を通し、およそ120年前にできた「都市計画」という言葉を、一部の専門家のものから社会全体に広がっていくという思いがあるとのことです。
アーバニズムという言葉には、都市計画と都市生活の両方の意味があり、都市に対してビジョンを持ちながら、仕事や生活としても都市を楽しんでいる実践者をアーバニストと捉え、再定義することで、都市計画が、法制度や技術、学術の世界から文化にまで開いていくという期待が背景にあります。
◆『マーケットでまちを変える』 〜地域資源を活かした豊かなくらしのつくり方
『マーケットでまちを変える』の著者である鈴木さんは、マーケットの研究から始まり、自分が住むまちでマーケットを実際に開催し、現在は各地での開催も支援しているという、アーバニストを地でいっている人です。ただし、マーケットをつくることは目的ではなく、地域の魅力を発見して人が集う場を生む、シビックプライドが育まれていくといった、くらしをつくるツールとして捉えています。
鈴木さんは登壇者お二人の本を読み、「地域の魅力」が「楽しい」という感覚に置き換えられるのではないかと感じたとのことです。「楽しい」は、個人的であいまいな感覚にも思えますが、実は、自分ごとのスケールや経済圏で活動する、更に地域にお金が残るという実は強い活動につながるそうです。あるマーケットの調査では、地域外出資のショッピングセンターに比べて地域経済付加価値が6倍にもなるという分析も紹介いただきました。
クロストーク
都市に対する専門家としての関わり方、様々な分野に都市を開いていく運動、実際にマーケットの主催や運営支援を行う実践者…、共通する感覚を持ちながら専門領域が異なる登壇者の間で、お互いに「聞いてみたいこと」を回していく形でクロストークが行われました。
◆「アーバニスト」「マーケット」という言葉の影響
最初に、饗庭さんより中島さん、鈴木さんへの質問。日本では今までに馴染みのない「アーバニスト」という概念、ショッピングセンターや市場経済の方でも使われる「マーケット」という言葉をあえて打ち出すことにより、社会との付き合い方はどう変わったのでしょうか?
欧米では、例えば建築家だが都市に関わる人や都市のブログを書く人などがアーバニストと名乗っていた。日本でこのような活動をしているのだが、自分たちをどう言って良いのかわからなかったという人から「腑に落ちた」という反響があった。ビジネスで地域に積極的に関わっていく人との接点にもなったように思える。この言葉により、活動を自分ごとにできて、立場が異なってもコミュニケーションが取れるようになる可能性があるのではないか。[中島さん]
ありふれた名前で本質を伝えづらいことが悩みごとなのだが、「マーケット」は大きな可能性を秘めていると思う。今まで関係ないと思っていた人が関係をつくるきっかけとなる。来場者、出店者、運営者など、誰でも関われるのでフラットにつながっていく。[鈴木さん]
「アーバニスト」は個々の具体的な活動を社会の中に位置づけ、都市に関わる多様な立場の人を結びつける器としての役割、「マーケット」は個人の興味関心を受け止めて都市の中で人々をつなぎとめていく器と言えるのではないでしょうか。
◆都市へのモチベーションをつむぐ
では、個々の具体的な活動や個人の興味関心は、どのように都市へのモチベーションにつながっていくのでしょうか?モチベーションにも様々な段階がありそうです。中島さん、鈴木さんから饗庭さんに質問が渡り、キャッチボールが始まりました。
都市の人口が増えていた時代は、大きく格好いい都市をつくろうという、いわば「太陽」のような意志が支配しているが、人口減少下では太陽が沈んでいるのが現在の状況。ただし、光自体はなくなっている訳ではなく、今度は弱い意識である「夜空」が見えてくる。例えば「楽しい」という感覚に根ざした趣味で都市に係わる、お堂をいつも誰かが自発的に掃除しているといった小さいモチベーションがパッチワーク状に都市に現れてくる。都市の専門家がなるべく多くのモチベーションを読み取れるようになると良い。[饗庭]
「アーバニスト」を書いた背景には、饗庭さんが書いていたような都市を巡る力の変化があったと気づいた。都市へのモチベーションは開発だけではなく、「都市の層」にも色々なモチベーションがある。太陽の輝きではなく、成熟した輝きを放っている都市もあるだろう。小さなモチベーションをどう繋いでいくかということでは共通する考え方。[中島]
都市への小さなモチベーションは、みんな持っているのだが、自分の生活も大事なので、マーケットの出店者を探す時はなど、お金や生活リスクがないということを最初に伝える。ゆるくやっていくと、だんだんレベルアップしてリスクも取るようになっていく。[鈴木]
人口減少社会の中、従来型の大きなモチベーションだけではなく小さなモチベーションも読み取り、多様なモチベーションを都市という媒介を使って繋げていく。また、個々人の段階に応じてそのモチベーションを無理なく育てていく。「都市へのモチベーションをつむぐ」というテーマに対して、専門家の役割(都市の問診)や間口を広げる概念(アーバニスト)、その具体的なツール(マーケット)から一連のストーリーが見えて来たように思えます。
トークセッションでは、さらに、既存の商店街とマーケットから出店した商業者との関係や定着性、アーバニストやマーケットという言葉が社会に与える影響、交換と贈与といった経済関係の変化、ビジネスや生業とアーバニストの関係、これらを実現していく計画や設計に関する各登壇者のスタンスなど、視聴者からの質問も含めて色々な話題が繰り広げられました。
都市へのモチベーションを紡いでいく先には、さらに多様な話題がありそうです。現地で参加されていた皆さんも、セッション後には様々な交流をされていました。本イベントもモチベーションがつむがれる新しい場となれば幸いです。
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