【Special Report】「用途地域見直しを考える」で考えてみる
(注)下記のシンポジウムを視聴した個人的な整理です。登壇者の発言も引用していますが、筆者の整理や解釈、考えが入っているものです。シンポジウム自体の主旨・全体像については原典「東京における用途地域見直しについての論点集」」をご覧下さい。
名 称:用途地域見直しを考える
実施日:2022年12月8日 19:00〜21:30 オンライン
主 催:用途地域研究会
URL:https://peatix.com/event/3402028/
1.「用途地域」とは?
▼そもそも何なの?
「用途地域」とは、都市計画法で定める「地域地区」の中の13種類の地域で、建築基準法とリンクして、建物の用途や形態・ボリュームが決まります。
施主やデベロッパーのように直接建物を建てる人、ひいては建物に投資する人、その建物(活動)と隣り合って暮らす住民にとって、大きな影響を与える。いわば、最も身近な「都市計画」の一つです。
用途地域の種類(https://www.mlit.go.jp/common/000234474.pdf)
▼都市計画やまちづくりとの関係は?
では、建物を建てることよりスケールや範囲が大きい「都市計画」や「まちづくり」にとって、用途地域はどんな影響を与えるのでしょう?
「都市計画」では大きく、都市計画区域及びマスタープラン、都市計画の内容(土地利用、都市施設、市街地開発事業ほか)」、都市計画決定手続、都市計画基礎調査などを定めています(※)。
「用途地域」が定められている「地域地区」は「土地利用」内の一項目となります。また、用途地域には更に、特別用途地区、高度地区、都市再生特別地区、風致地区…など、その他の地域地区を重ねることもできます。
https://www.mlit.go.jp/common/000234476.pdf
「まちづくり」は主に1960〜70年代頃から広がりだした言葉です。行政(お上)が定めて降ってくるもの、また、空間や施設を対象とした「都市計画」に対し、ハードだけではなく景観や商業、福祉、子育てなどソフト面も含む生活環境全般の改善であること、また、それを市民参加や合意形成をベースとしたボトムアップで実現していく志向性があります。近年は企業の役割も重要です。
まちづくり条例の実態と理論-都市計画法制の補完から自治の手だてへ-、内海麻利、第一法規、2010(https://www.daiichihoki.co.jp/store/upload/pdf/024992_pub.pdf)
いわば、「用途地域∈地域地区∈都市計画∈まちづくり」という関係で、用途地域はまちづくりのホンの一部とも言えるのですが、冒頭にも書いたように、建物を建てる際の一番身近な都市計画であり、生活やビジネスに大きな影響を与えるものです。また、他の地域地区や都市施設(道路や公園など)、その他色々な制度と組み合わせて総合的な都市計画やまちづくりを進めていく上でのベースと言えるかと想います。
※:ここでは「都市計画運用指針」の見出しを参考としました。また、本来の都市計画は法律より広い概念で(あるべきだと思っていま)すが、ここでは便宜上、都市計画=都市計画法に定める範囲と狭く解釈します。なお、都市計画法も縦覧や公聴会など住民意見反映に関しては定めてはいますので、「まちづくりを受け止める器としての都市計画」という側面もゼロではありません。
▼なんで用途地域の一括変更?
都市計画運用指針では「都市は固定的でなく、社会経済状況の変化の中で変化するものである以上、目指すべき都市像を実現するために、不断の変更も含めて新たな都市計画が決定されていくという動的な性格を有していなければ、その機能が十分に果たされるものではない」とあります。
平たく言えば、「現実」(実際の開発動向への適合や将来像と実態のズレ)と「将来像」(都市マスタープラン、立地適正化計画などの上位計画)の間をつなぐツールとしての見直しが必要ということですね。
もちろん、都市計画は私権の制限を伴うため長期的な視点も求められますが、都市も生き物。ましてや今の日本は人口減少や定常経済など、将来像自体から見直す必要がある状況です。
その一環として、今回のシンポジウムのテーマでもある「東京都の用途地域等の一括変更」が行われることになるのですが、実は今までも見直しは定期的に行われてきました。ただし、平成16年以降は部分的な変更だったようで、今回の見直しは実に18年ぶりということになります。
1968年(昭和43年) (新)都市計画法の制定(用途地域当初4種類、昭和45年8種類に)
1973年(昭和48年) 用途地域の指定(8種類)
1981年(昭和56年) 用途地域等の見直し(第1回目)
1989年(平成元年) 用途地域等の見直し(第2回目)※8年後
1992年(平成4年) 用途地域の細分化(12種類)
1996年(平成8年) 用途地域等の見直し(第3回目)※7年後
2004年(平成16年) 用途地域等の見直し(第4回目)※8年後
2018年(平成30年) 田園住居地域の新設(用途地域13種類)
2022年(令和4年)頃 用途地域等の見直し(第5回目)※16年後
参考:『都市計画のあらまし』東京都都市整備局
また、ベースとなる用途地域を見直すことは、行政にとってもかなりハードルが高いようで、今までの見直しでも、従前の用途を維持する傾向が主だったようです。今回の見直しはどうなるのでしょうか?(幾つか見ると「今回の変更内容は、地形地物及び土地利用の変化等による軽微なものであり、現在の土地利用や周辺市街地の環境に大きな影響を及ぼすものではありません」というノリが多いようにも思えますが…)
▼東京都独自の特徴は?
本来、都市計画制度は地方公共団体の自治事務なので、各区市町村が主体的に行うという考え方が基本です。ただし、東京都の場合、世界でも有数のメガシティで広域的な調整も必要ということから、さらに23区は一体の都市計画区域であるということから、用途地域をはじめ幾つかの都市計画は「区部のみ都決定」となっています。
ここらへん、地方分権や自治の世界では熱い話題のようです。私ごときに語る資格はないのですが、用途地域は都が決定、そこに重なる他の地域地区は区が決定(知事協議はある)…というのは、やはり色々な摩擦も出そうですね…。
https://www.toshiseibi.metro.tokyo.lg.jp/keikaku/seido_1.htm
2.シンポジウム「用途地域見直しを考える」について
▼東京における用途地域見直しについての論点集
そのような状況の中、東京都による用途地域一括変更を契機に、土地利用規制について問題意識を持つ有志(「用途地域研究会」9名の学識者)が集まり、「東京における用途地域見直しについての論点集」をまとめ、12月5日にシンポジウムを行ないました。各区市町村での土地利用規制の個別化、多様化などをふまえ、一律的なあるべき論ではなく、論点を明らかにすることを目的とするものです。
▼12の論点
以下の論点を見ていただければわかるように、見直しの意義や上位計画であるマスタープランとの関係など根幹に関わるもの(論点1〜3)、高度地区や特別用途地区、地区計画や都市施設など、用途地域と密接に関係する都市計画に関わるもの(論点4〜7、8)、実際に都市に起きている現象や問題に関わるもの(論点8〜9)、体制や人材に関わるもの(論点11〜12)と、幅広い分野に渡っています。
論点1 用途地域見直しの意義
論点2 都市計画マスタープランとの関係
論点3 見直しにあたっての用途地域の評価
論点4 高度地区・特別用途地区の活用
論点5 用途地域見直し時の地区計画との関係
論点6 都市施設(都市計画道路)との関係
論点7 都市施設(都市計画公園緑地)との関係
論点8 大規模土地利用転換との関係
論点9 防災、流域治水などの広域課題との関係
論点10 田園住居地域の限界と可能性
論点11 都と区市間の調整・協議
論点12 用途地域の運用を支える人材
▼ディスカッション
12の論点(詳細化すればもっと沢山の項目)、両論併記であることに加え、当日はアカデミックや行政・コンサルタントの実務者180名以上が参加し、寄せられるコメントも高度…ということで、残念ながら私の筆力ではお伝えしきれません。
ただし、冒頭の論点1だけでも、一口に「用途地域」と言っても、それが地区スケールと都市圏スケールの双方にまたがる問題であること(論点1−1)。また、見直しに当たっても「意思型」と「定義型」といった方法論があること、。そして現状の見直しはまだ「用途維持派」が根強いらしいこと。今まで、基本的には用途の分化を目指してきた用途地域だが、今後は積極的な「複合」の視点も求められることなど、思考をリフレーミングする機会となりました。
用途地域見直しの二つの視点
・地区スケール:土地利用や都市形態を現状趨勢と新たな要求を踏まえてより良い方向に制御していく観点
・都市圏スケール:成長・縮退の空間的パターンを用途の配置と容積の配分を通じて制御していく観点
用途地域見直しの方法
・「意思型」:特定の土地について積極的な活用や保全の意思を持って変えていく
・「定義型」:客観的な定義によって土地利用の実態や都市基盤の実態が診断され、その結果に沿って変えていく
3.これからの用途地域(に求められると考えた)
多様な議論を伺いながら、私が気になったコメント、そこから、現状の制度では難しくても実現していくと良いなと感じたことを、2点だけ記します。
▼サステナブルなまちづくりとの連携
従来の都市計画は人口の増加や経済の成長に応じて拡大する都市をどう適正に配置、コントロールするかが大きなテーマでしたが、今後の都市計画は絶対量としては縮小する人口に合わせつつ、持続可能な都市の姿を描かなければいけません。
一口に持続可能と言っても、地球温暖化、防災・減災、生物多様性など多様な切り口がありますし、ネガティブな影響を緩和することはもちろん、どうにもコントロールできない場合は影響を最小限に抑える適応策も必要になるでしょう。
従来の用途地域は建物の用途や形態を定めるだけでしたが、シンポジウムでは、例えば「土地被覆」について定めて微気候や雨水浸透を改良する可能性はないか(端的に言えば「アスファルトひっぺがす地域」)といったアイデアも挙げられました。用途地域に重ねて使える「特別用途地区」では条例で内容を定めることができるようですし、土地被覆や建物の断熱性能、再エネ率などが定められたりしたら面白そうですね。
また、計画策定の段階で流域治水や下水行政と連携することで水害対策を組み込めないかなどといった意見も挙げられました。こちらの方は首長のリーダーシップで策定の体制を工夫することで可能性は高そうです。低地を抱える自治体では用途地域に限らず様々な施策を持ち寄り、総合調整する場は大事ですね。
▼人口減少下での快適な郊外/田園居住との連携
日本全体の人口が減少していくといっても、残念ながら拡張した都市が自然に縮小していく訳ではありません。そのために日本でも都市再生特別措置法で「立地適正化計画」を定めていますが、コンパクトシティは一朝一夕にできるものではありません。
郊外部では建物の密度が減ることで、むしろ地域の価値が上がるという視点が必要ではないかという問題提起が参加者からも出ました。単純に地価が上がるということだけでなく、ゆとりを持った生活環境、環境的な貢献など、あえて低密度にすることの多様な価値をどう図るかという難問はありますが、そのような発想の転換は大事ですね。
用途地域でも、2018年には農業の利便の増進を図りつつ、これと調和した低層住宅に係る良好な住居の環境を保護する「田園住居地域」が2018年に創設さています(※)。この活用も期待されるところですが、令和3年度国土交通省都市計画現況調査によると、残念ながらまだ適用地域は「0.0ha」…。
生産緑地のように地権者の意向によらず、エリアとして農地を保全する仕組みとしては画期的なのですが、単独では地権者にメリットが薄いという問題があり、何らかのインセンティブと組み合せる必要があるようです。東京都「農の風景育成地区」(農地買取制度との連携による農業公園化)といった制度も紹介されました。
ちょっと「飛んで」しまうアイデアかもしれませんが、中心市街地と郊外、都心部と郊外都市といった離れたエリア間での容積率移転(通称「容積飛ばし」)と組合せると、まちなかでは高密度、郊外田園部ではダウンゾーニングを行うようなダイナミックなしくみができるかもしれませんね。
ちなみに、日本では拡大した市街地が低密度化して空地や空家が増えてくる現象を「スポンジ化」と言っています。海外で「Sponge City」と言うと生態系を利用した雨水貯留や温暖化への対応になります。前者は都市をSponge City化していく可能性、後者はスポンジ化する郊外を価値ある田園化していく可能性といったところでしょうか。
※:建物は概ね第一種/第二種低層住居専用地域に応じた規制ですが、農業用施設の用途・規模の緩和、農地の課税への減免など一方、農地の開発行為等については市町村の許可制を導入、300㎡以上の開発行為等は原則不許可などの制限がある
4.まとめ(所感)
- 用途地域は、都市計画ひいてはまちづくりにおいて、建物を建てる住民や企業、建物周辺の環境に直接影響を与える「身近な都市計画」
- 人口減少や持続可能性など、都市を考える変曲点であるいま、都市計画の基礎的な要素である用途地域の適切な見直しは必要
- 都市のサステナビリティやレジリエンス、都市と田園の組み合わせなど、新しい用途地域(+各制度)の可能性も考えられる
- 実現に向け、専門家レベルでは計画技術の承継や開発とそれを支える行政職委員やコンサルタント等の交流が必要(もっと広くアイデアを出せる可能性)
私自身は用途地域の策定そのものに関する業務を行った経験はなかったのですが、今までの業務の前提ともなっている用途地域を再整理、現況をアップデートする貴重な機会となりました。
一方、私たちが運営するシティラボ東京では多様なプレイヤーが関わる場ということもあり、ビジネスへの影響や可能性など、「都市計画」には業界外だが都市の持続可能性に大きく関わるプレイヤーとのコミュニケーションをどう行っていくか、新しい宿題をもらった感じです。今までにない用途地域/地域地区の可能性も広がる…かもしれませんね。