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【Event Report】東京駅前八重洲・日本橋・京橋から始まるウォーカブルなまちづくり〜さくら通り、中央通りにおける取組事例

2023年2月20日、シティラボ東京で「東京駅前八重洲・日本橋・京橋から始まるウォーカブルなまちづくり〜さくら通り、中央通りにおける取組事例」が開催されました。

本イベントは、世界的なまちづくりの潮流ともなっている「ウォーカブル」を東京駅前という国内でも特殊な場所でどう進められるのか、その先にどんな魅力を持つまちができるのか、当エリアで行われた社会実験をふまえながら考えていくものです。

当日は、元国土交通省都市局でウォーカブル施策を推進してきた青木由行さん、Park(ing) Dayを推進したソトノバの石田祐也さんと慶應義塾大学教授の小林博人さん、学生の須山さんと横田さん、ベンチ設置実証実験を行ったNPO法人はな街道の中島憲一さんと明治大学教授の佐々木宏幸さん、学生の庄野さんと賑やかな顔ぶれとなりました。総合司会とトークセッションのモデレーターはシティラボ東京の三谷繭子が務めました。

参加者も、山本中央区長や連合町会長といった地域住民を代表する方から一般参加された企業や専門家の方まで幅広く、オンライン・オフライン合わせて120名以上が参加しました。

※「東京駅前八重洲・日本橋・京橋」ってどんなところ?

東京駅前は、まぎれもなく日本の中枢ですが、駅西側が大名屋敷や軍用地を経てビジネス街に変貌をとげたのに対し、東側は江戸時代以来の町人地として、食やものづくり、芸術など文化の色を引き継ぎながらビジネス街としても成長してきました。都心でありながら「東京ローカル」とでも言うべき雰囲気も残っています。 そのような中、2023年2月には中央区の今後10年間を見据えた施策や取り組みを示す「中央区基本計画2023」が示されました。東京駅前の歩行者ネットワークとして中央通りの歩行者天国の延伸なども示されています。官民が共にウォーカブルなまちづくりを志向しているタイミングでもあるのです。

■ウォーカブルなまちづくり〜行政から見た視点、個人的な視点

最初に、青木さんより、「ウォーカブル」が国の施策として登場してきた背景、さらに、個人としてもそのあり方を考えてきた視点から、まちづくりとの関係を紐解いてもらいました。

▼ウォーカブル施策のスタート〜「WEDO」なまちづくり

2019年、国土交通省によって設置された「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」が、行政が「ウォーカブル」という言葉を使うきっかけになったと語る青木さん。実は、この懇談会の目的自体はコンパクトシティ施策の誤解の是正や都市再生施策のバージョンアップだったのですが、双方がたどり着いた結論が奇しくも「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の再生だったとのことです。

そのイメージは、「WEDO」(Walkable:あるきたくなる、Eye Level:まちに開かれた1階、Diversity:多様な人の多様な用途、使い方、Open:開かれた空間が心地よい) という言葉で表現されています。

▼「人間」の普遍的な特性を考慮する

「歩いて暮らせる」だけでなく「歩きたくなる」まちをつくっていくためには、人間が長年の進化の中で身につけた普遍的な特性を考慮する必要がある、と青木さんは続けます。

例えば、人の体に着目すると時速5km程度でゆっくり歩き、前方と左右を見る人の視線は自ずと1階部分に向きます。また、人の心理として、景色の変化がない中で歩くのは苦痛ですらあります。また、人間が集団生活で身につけた特性として、人が居るところを好む、あるいは隅や端を好む特性もある…等々。

▼「WEDO」なまちづくりのポイント

そのような中、ウォーカブルなまちづくりを進めていくためには、都市の中心への交通圧力を減らす、自動車用の大スケール空間に人間向けの小スケール空間を埋め込むなど、人と車、まちと車の付き合い方を変えていくこと、また、人の目に留まる1階の空間での滞在や経験を豊かにすることなどが大事です。その様な場所には多様な人々との交流が生まれ、ダイバーシティと寛容性に溢れたまちの魅力が生まれてくるでしょう。特に、ベンチと芝生は人を集め、つなげるインフラとして確実に効果があるようです。ウォーカブルのポイントがわかりやすく浸透したところで、具体の事例発表に進みます。

■事例発表:さくら通り「Park(ing) Day2022日本橋」

最初に、ソトノバの石田さんよりPark(ing) Dayについて簡単な紹介がありました。これは、コインパーキングにコインを入れて公園化するアートインスタレーションとして、2005年にサンフランシスコで始まったもので、2022年には146都市で開催されるなど世界中に飛び火しています。

ソトノバでも、まちに関わる人が共同して「場」をつくるプレイスメイキングの観点から着目、2017年からPark(ing) Dayのプロデュースを行っており、現在までに国内15都市で開催しています。地域のまちづくりビジョン(ex.広島県竹原駅前)やまちづくり組織であるエリアプラットフォーム(ex.三重県四日市)へとつながっていく事例もあるとのことです。

続いて、慶應義塾大学教授の小林さん、学生の須山さん、横田さんより日本橋でのPark(ing) Dayについて報告を行いました。

今回の取り組みは、地域団体である日本橋六之部連合町会青年部日八会と慶應義塾大学小林博人研究会がソトノバのプログラムに応募する形で進められました。5月の始動から、中央警察署・中央区協議、構想・計画、設営、撤収などのプロセスを経て実施に至っています。

9月に行われたPark(ing) Dayではたくさんの人が楽しみましたが、それだけでなく、道路(車道)がまちづくりで利用できる空間でもあるということが、地域の人々や警察、行政にも理解が進んだことが成果だと思うという感想も得られました。

実は、10月に行われた「秋のお江戸まつり」でもPark(ing) Dayが再び行われています。この時は、範囲を拡大したり工法を改良したりといったバージョンアップがされています。また、研究会では、すぐ近くの養珠院通りでも3年に渡り活動を行ってきました。本イベントの直前にも於満稲荷神社の初午祭が開催され、車両を通行止めにして道路面にシートを貼るなど、周りのお店の賑わいが溢れてくる演出を行ってきた様子が報告されました。

■事例発表:中央通り「ベンチ設置検証実験」

最初に、地域団体であるNPO法人はな街道専務理事の中島さんから、検証実験に至る経緯の説明がありました。はな街道は京橋から日本橋まで約2kmに渡る中央通りの花壇を管理運営しています。その発端は約20年前に国土交通省と行った社会実験で、以来、地元企業の寄付や沿道店舗のボランティアも募りながら活動を継続しています。将来は京橋から本町まで、はな街道全域を目指しての実験を目指しているとのことです。

中央通りで四季折々の花が楽しめる一方、区内に増えてきたベビーカーの家族連れや大荷物を持ったインバウンドが休める空間がないという問題意識が、本実験の引き金となったとのこと。

実験自体は、「中央通りの回遊性を高め、賑わいを創出する」ことを目的に、東京スクエアガーデンから髙島屋にかけた中央通り沿いで歩道上にベンチを設置するものでシンプルに思えますが、実は歩道上にベンチを設置する試みは珍しく、都内の国道では初めてだそうです。

本実験では、共同研究として明治大学佐々木研究室が調査で参加しており、学生の庄野さんより調査結果が報告されました。

道路側に6基のベンチを設置したほか、民地内にあるベンチも3箇所を比較調査の対象としましたが、1基あたりの利用傾向としては、囲われ感がある民地内の方が169名/基と多く座られました。ただし、道路側でも123名/基の利用実態があり、バス停がある髙島屋前では道路側にも関わらず最多の人が座りました。

また、調査の対象者は20〜60代と大人が多く、休日はグループ利用が増える、日が当たる時間帯は座られにくい、自転車の駐輪にも配慮されることが重要など、地域の傾向も見えてきました。

本実験の目的「中央通りの回遊性を高め、賑わいを創出する」ことに立ち返ると、ベンチ設置は十分な効果が期待できる結果となったようです。今後、ベンチの設置がどのようにまちづくりつながっていくのか、関係者からも新たなテーマへの意欲が伺えました。

■新たなまちづくりに向けたクロストーク

後半は、青木さん、石田さん、小林さん、佐々木さんによるディスカッションから始まりましたが、最後の質疑応答でも地域の方、山本区長からも積極的な発言をいただき、まさに「クロストーク」な場になりました。以下、トークから得られた幾つかのポイントを抜粋します。

▼歩きたくなる/Fun To Walk

「ウォーカブル」を直訳すると「歩ける」となりますが、単に物理的に歩ける空間だけでは、人は歩きません。青木さんの講演でも「歩きたくなる」重要性が述べられていますし、佐々木さんからは、それは英語で「Fun To Walk」という感覚であろうというコメントもありました。

▼道路はまちづくりの資源

車空間を人のための空間に変えていくことで、様々なまちづくりの可能性が広がります。佐々木さんからも、道路は都市における一番重要な公共空間であるという認識が大事とのコメントがありました。

山本区長からは、八重洲通りの道路空間再編で本実験の成果を活かす可能性を示唆いただくと共に、幅員が狭い区道では休日の歩行者通行止めで人の空間をつくるアイデアも挙げられました。青木さんからは道路空間を廃道して広場化する事例の紹介などもあり、様々な可能性がありそうです。

小林研究会の発表でも、土地を持つ人だけでなく、行政や外部の人もふくめて比較的対等に参加できるのが公共空間から仕掛けるまちづくりのよさというコメントがありました。

▼デザインの重要性

今回の登壇者の皆さんが口にしていたのが「設え」という言葉です。辞書の上では「備え付ける、飾り付ける」という意味ですが、「季節や人生の節目に感謝や祈願、もてなしの心を込めて部屋を設えること(日本人が知っておきたい和のしきたり、山本三千子)」という言葉もあり、デザインに込められた想いを感じる言葉でした。

ウォーカブルを実現していくためには、道路空間はもとより沿道の民地空間、特に1階の建物などが一体となって、歩きたくなる「雰囲気」をつくっていくことが大事です。また、江戸のまちでは通りを挟んだ両側が一つの町(両側町)で、中央通りのような広い通りでも両側に同じベンチを置くことで一体感を感じさせるきっかけになりますし、養珠院通りでは路面に貼ったシートが両側の店舗からの賑わいを誘導していました。想いの込もった丁寧なデザインは、人の心をも変えていく可能性を持ちます。

■東京駅前八重洲・日本橋・京橋らしいまちづくりへ

ウォーカブルなまちづくりは、単に物理的な歩きやすさに留まりません。それは、様々な人を受け入れる寛容性をまちに植え付けていくことであり、集まってくる多様な人の交流がまちの魅力としてまた人を惹きつける循環を、都市の空間も活動も一体でつくっていくためのアプローチと言えそうです。

その時に、江戸の町人文化の中心であったこのエリアが持つ歴史性、東京ローカルとも言えるコミュニティは大きなパワーになりそうです。さらに、複数の再開発事業も進んでいますが、これを都市の空間やインフラ改良の契機と捉え、丁寧な話し合いを重ねる中で、新たな人の居場所をつくっていくことが大事です。これらの社会実験がトリガーとなって、新しいまちのビジョンやネットワークに発展していく可能性を感じさせました。