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【Event Report】公共空間から都市は変えられるか? ~ニューヨークと日本の実践から~

2023年12月21日、学芸出版社とシティラボ東京の共催イベント「公共空間から都市は変えられるか? ~ニューヨークと日本の実践から~」を行いました。本イベントは、書籍『ニューヨークのパブリックスペース・ムーブメント』の刊行を記念したもので、著者の中島直人さんと関谷進吾さんが登壇、ゲストにニューヨークの建築事務所ラグアルダ・ロウ・アーキテクツの重松健さん、ハートビートプランの泉英明さん、ニューヨーク市公園局の島田智里さんをお迎えして開催しました。現地・オンライン合計で約130名が参加し、このテーマに対する関心の高さが伺えました。

■ニューヨークのパブリックスペース・ムーブメント|中島直人さん

冒頭に、編著者の中島さんより、世界を先導してきたニューヨークの公共空間の取り組みの全貌と書籍に込めた想いを語ってもらいました。

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実は「パブリックスペース・ムーブメント」という言葉は、”Sharing The City : Leaning from the New York City Public Space Movement 1990-2015”というレポートが原典になります。この言葉には「公共空間(市民コモンズ」)は階級や人種などによって分断された都市を再結合し、都市を共有するものに変えていく」という意味合いが込められており、公共空間は以下のような特徴を持つとされています。

①計画原則としての「共有」(専有ではなく共有されるもの)
②インフラとしての定義と計画(街路や橋梁と同じくインフラ)
③近隣を創造し、つなげる(多様な交流をもたらすプラットフォーム)

私たちの書籍では、まちなかの公園・広場、ウォーターフロント、街路の広場化といった多様な公共空間の創出事例、また、ゾーニングボーナスやデザインガイドライン、人材と組織などムーブメントを支える仕組みまで包括的に解説しています。

ニューヨークでは、マイケル・ブルームバーグ市政の2002年〜2013年にかけ、公共空間に対するマインドセットが変わる「パラダイム・シフト」が起きました。ただし、その布石は以前からあり、この時代に一気に萌芽したという感じでしょうか。また、もう一つの大事なことは、このようなムーブメントがニューヨークの「全域」で展開されているということです。

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中島さんからは「公共領域(パブリック・レルム)」という概念も紹介されました。これは、個別の公共空間を越えた空間、公共空間を支える主体の多元性のかけ合わさった領域と言えるようです。それが、公共空間から都市を変えられる可能性を示唆しており、その背後にある仕組みや組織づくり、持続的な取り組みなども合わせ、本書籍の「ムーブメント」という言葉に込められた想いのようにうかがえました。

■パブリックとプライベートの融合が付加価値になる時代|重松健さん

続いて、実際にニューヨーク在住の重松さんより、現地で日々体感している公共空間の変化や日本との違いを紹介いただきました。

常日頃から、街の魅力とはその公共空間にあるという意識を持つ重松さん、日々の業務でも、パブリックとプライベートが融合して付加価値を持つということを重視しており、実際のデザイン事例も紹介しながら、ニューヨークの現状をお話いただきました。

最近のニューヨークは「ストリート革命」と言われるくらいに、道路の位置付けがどんどん変わっているとのことです。そのキーパーソンが、ブルームバーグ市政の交通局長であったジャネット・サディク=カーン氏であり、実際に強力なリーダーシップを感じたそうです。

ニューヨークの道路が公共空間へと変化させるプロセスとして日本と同様社会実験が行われていますが、日本より長期間で実験を実施することによって、その状況が日常化されたライフスタイルを体験させることに重きが置かれているようです。そのことによって、変化を恐れる一時的な反発から、その状況を受け入れて理解した上での判断を得たり、もう少し正確に常設化した時のデータを収集したりすることに成功しているようです。なお、ニューヨークの判断指標はデータに基づいてわかりやすく説明されており、それは公共空間に限らず、街路樹データベースやコロナ禍における行動制限などにも反映されているとのことです。

それ以外にも、水辺の災害への強靭性を高めると同時に魅力の高い公共空間化を進め、周辺都市の価値を上げる事例(ハンターズポイントサウス等)も紹介されました。また、日本での水路ネットワークの活用、容積率のボーナスだけに頼らない公共空間創出のビジネスフレームといった課題提起など、話題は多岐に及びましたが、最後の結論として、ニューヨークの公共空間政策の特徴は、「やってみなはれ」の精神に支えられたスピード感ということでした。

■パブリックスペースムーブメント|泉英明さん

今度は日本国内、パブリックスペースをみんなで変えて街に面白いインパクトを与える活動に取り組んでいる泉さんより、大阪での取り組み事例を紹介いただきました。

「北浜テラス」は、地域やNPOが将来像を発意して、仮設の川床(堤防上の店舗)設置の社会実験を行いながらニーズを確認し、河川区域の占用を受け常設化した事例です。公共投資は一切入っていませんが、10年に渡る民間の小さな投資の集積でもこれだけ地域のイメージを変えられるという事例です。

また、水辺の公共空間活用に大阪全体で取り組んだものが「水都大阪パートナーズ」です。泉さんたちはプロデューサーとして、市民活動や投資主体など多様な活動主体に対する中間支援を行って来ました。また、アートや食、夜間景観なども活用して水辺空間を可視化、活用に向けた投資を促してきました。

つい最近、2023年11月23日に先行オープンした「なんば広場」は、南海電鉄なんば駅前のタクシープールと道路を全面的に歩行者空間化したものです。2008年に地元商店街が発案、2011年に地元27団体が協議会をつくり、ビジョンを作成。2015年に大阪市も合流し、2016年と2021年に社会実験の検証を行いプランを確定させ、実現にこぎつけました。現在は主要関係者が将来の法人設立を見据えて、運営主体として実践を始めています。

泉さんも昨年にニューヨークに赴き、タイムズスクエアアライアンス、DTPS、ニューヨーク市交通局にヒアリングを行っています。エリア内の企業に貢献を義務付け、エリアカルチャーの醸成から交通再編の提言までを行うBID、公共空間へのアイディアを実現させるため、資金集めや多様な専門家のコーディネートを行うデザイントラストの仕組み、公共空間だからこその貧富や民族の差によらない公平性の理念や実践などが印象的だったようです。

面白いことに、タイムズスクエアとなんば広場の歩行空間化のプロセスを比べると、民間発意から社会実験、行政キーパーソンの出現、プラン作成、行政計画への位置付け・工事、地域の運営主体の設立といった一連の官民連携プロセスが非常に似ており、15〜20年というプロジェクト期間もほぼ同じとのことです。

■ディスカッション

3者のトークをふまえながら、著者の関谷さん、ニューヨークで公共政策に携わる島田さんも交え、ディスカッションに入りました。以下のようなポイントが挙げられそうです。

▼空間の特性と活用

ニューヨークの公共空間はストリートレベルが基本(ハイラインは例外的とのこと)、空間自体は完璧ではなくシンプル・ベーシックなものですが、利用の柔軟性が大きく時代やニーズの変化に対応しています。一方、東京では立体的な公共空間も多く存在します。どちらが良いということではなく、各々の特性をしっかり把握することが大事です。

▼市民のマインドセット

ニューヨークの社会実験では、ヨガやウォータースライダーなど相当大胆な活用が行われています。皆が公共空間を自分のものと感じるオーナーシップと、使いこなしのセンスは連動しているように思えます。また、その背後には、情報発信をはじめニューヨーク市の積極的なリーダーシップがありますが、行政が公共空間の使い方を決める管理の発想ではなく、市民が公共空間を使うことを促すことを主眼にしているように感じます。

▼プロセスの循環

行政による情報共有が市民の活動を誘発し、官民のコラボレーションとして公共空間の活用が実現する、さらに、パートナーシップによる運営へと発展していく、それがまた新しいオーナーシップを育む…。公共領域(パブリック・レルム)とは、空間的な一体性に加え、活動・時間・組織の連続性も同時に意識する必要がありそうです。費用の捻出や仕事の創出など、このような循環を支えるBIDの仕組みも表裏一体の関係にあるように思えます。

■エンディング

最後に、本イベントのテーマ「公共空間から都市は変えられるか?」という問いに対して、各登壇者からの想いを一言ずついただきました。

  • 公共空間は街の財産です。地元の人も観光客もが楽しめる、経済効果があるなど、街の活性化に様々な角度から貢献しています。時代に応じてその使い方も変わっていきますが、その中でも共有の財産として「公正さ」がブレないことが大事だと思います。そのために、公共空間の意義やあり方も常に見直しをしていくことが重要です。|島田
  • 極端に言えば、都市の魅力は公共空間にしかないと思います。都市の公共空間でリアルに起きることは、たぶんVRには置き換えられない。そのアクティビティをどれだけ人々のQOLを高める付加価値に変えられるかが都市の魅力になっていきます。みんな(ダイバーシティな人々)が参加できる場であるということも公共空間ならではの特長です。公共空間、最高です。|重松
  • 公共空間から都市が変わると信じているし、実際に変わります。公共空間は「出会い」の場であり、各個人がまちの一員になる様々な関わりが生まれます。内の人には暮らしの一部でありまちとの接点、外の人にはまちのイメージ、そして内外の人が出会う場となる、それが都市の魅力そのものだと思います。|泉
  • アメリカでは、ブルームバーグ市政以降、コロナ禍での在宅勤務の高まりの動きも相まって、住宅エリアにおける小スケールな商店街規模のBIDが増えました。そのような動きをフォローしながら、今後の日本の進化を応援していきたいと思っています。|関谷
  • ニューヨークのプロフェッショナルに話を聞くと、公共空間が都市を変えるという「信念」を強く感じます。ジェイン・ジェイコブスやウィリアム・H・ホワイトなど思想の積み重ね、公共空間は都市が民主的であるために必要なものという考えが基底にあります。また、新たに整備された公共空間自体が更なる分断を生み出すことがあるといった問題も抱えながら(※)、公正さに向けたムーブメントを続けて解決しようという流れがあります。日本でも格差や阻害という社会的な課題はあり、公共空間を求めている人が本当は多いように思えます。それが、ニューヨークの事例から日本が学べることではないでしょうか。20〜30代には公共空間に取り組んで魅力的な実践を行っている人も多く、10年後のパブリックスペースに期待しています。|中島

※パブリックスペース・ムーブメントによって公共空間が洗練され、安全、清潔、快適になった一方で、過剰な商業化や管理運営という名のもとでの排除、元々のインフォーマルなパブリックスペースの喪失などによって分断が進んでいるという批判もある。