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【Special Report】シティラボ東京メンバーと行く真鶴・小田原の旅 ①真鶴編

2024年4月13日~14日、シティラボパブリックパートナーである真鶴町と、お隣の小田原市へ視察に行っ てきました。 シティラボスタッフの他、サステナブルシティサミットに登壇頂いた方、プロジェクト企画でお世話に なっている方など、延べ6名での視察合宿となりました! まずは真鶴町の記録から、視察を通して、真鶴の町の特徴や、まちづくりにおける独自の取り組みにつ いて紹介します。

▼真鶴の生活風景を守る”美の基準”

真鶴町は、神奈川県の⻄の端に位置する人口7,000人の町。
JR東海道線に乗れば、乗り換えなしで東京駅から1時間半でたどり着くことができます。鶴が翼を広げているような形をしていることから、真鶴という地名が平安時代についたそうです。起伏が激しい地形が特徴で、真鶴特有の”脊戶道(せとみち)”と言われる細い道がいくつも交差しています 。
 
 
脊戶道(せとみち)の風景
自然や資源が豊かな町であり、特に石材業が盛んです。 小松山で採れる小松石は最高級の墓石としても有名ですが、真鶴町では石垣にも多く使われています。 この小松石は酸化によって色の変化が生まれるので、同じ石でもさまざまな色味が生まれ、 町の景観を彩っています また、海が生活の近くにあり、漁業も盛んです。 特に真鶴は干物が有名で、その他にも、柑橘類など実のなる木も多く、 ふと足を止めて見入ってしまう様な、美しい自然が点在していました。
3種類の小松石、それぞれ色合いや積み上げ方が違います
そんな真鶴町には「美の基準」という、この町独自のデザインコードが存在しています。
美の基準とは、『真鶴まちづくり条例(通称”美の条例”)』を構成する3本柱のひとつであり、 町の良いところ=町の美しいもの、と定義をして、69のキーワードでまとめたものです。
このガイドブックには、強制的な効力はありません。 あくまで参加型によって実現される、まちの生活風景を守るためのガイドラインとしてまちの人たちに 活用されています。説明の中には数字の基準が存在せず、全て言葉により構成されているので、多様な 価値観を受容できる”余白”があります。
町の至る所で実のなる木を見つけることができました
美の基準があることにより、町の人たちは暮らしの風景をとても大切にしています。
例えば「ピンクの壁に塗り替えたい!」という住⺠がいた場合、 「ピンクは真鶴に合わないので、やめましょう」ではなく、「真鶴に合うピンクはどんなピンク?」 といった具合に、町にとっての”美しさ”をみんなで深ぼって考えていきます。 思考の過程で、真鶴らしさの共通認識が生まれてくるのでしょう。
 
また真鶴町の特徴である脊戶道は、道幅が狭く、自然とすれ違う人との距離が近くなります。そうすると、自然に挨拶を交わしたり、笑顔になったり、会釈をしたりと、 コミュニケーションが生まれてくるのだそうです。真鶴らしい景色のひとつですね。
公に開かれている用水路
町を歩いていると、用水路が誰でも使えるように開かれていました。 この用水路は個人宅の敷地内ではあるものの、真鶴では水が重宝されるため、町の人みんなで使おうと 所有者が解放してくれているそうです。 他にも、空き地になっている私有地を、もったいないので畑としてみんなで使おう! という話になり、 最近シェア農園に生まれ変わった場所もあるのだとか。こういった風景は、美の基準による参加型の姿勢によって、 住⺠の中に「共通の思い」が芽生えている証拠なのかもしれません。

▼小さな一歩を踏み出せる町の魅力

元々真鶴町には本屋さんを求める住⺠の意見が多かったそうです。そんな時「ないならつくりましょう!」と移住した住⺠の方がチャレンジしてつくられた本屋さんが 「道草書店」さんです。 ご夫婦で営まれるこちらの本屋さんでは、「本の販売」「本棚のレンタル」「こども図書館」「カフェ 」の4つの事業に取り組まれており、町の人たちが入り込みやすい仕掛けがいくつも用意されていまし た。
「こども図書館」にある本は、湯河原で25年続いた私設図書館「こみち文庫」から受け継いだそうです 。 現在のこども図書館では、読み聞かせイベントの企画や本の販売を行っていますが、ゆくゆくは図書館 のような形での運営も検討されているとのことでした。
「本棚のレンタル」は、町の人が小さな本屋として棚のひとつをレンタルし、自分のお気に入りの本を 販売しています。
本屋の中にある「カフェ」では、町の人たちが本を読んでゆっくりとくつろいだり 情報交換ができる交流の場所としても活用されている様でした。
その他にも、本屋と美容室が一緒になっている「本と美容室」というお店もあります。
その日いらっしゃっていた常連さんは、毎回横浜市から髪を切りに来訪するそうで、 「この空間が好きで定期的に足を運んでいます」とお話してくれました。
真鶴町にはこのような小さなお店がいくつも存在しており、 そのお店があることで、別の地域からもまちを訪れるきっかけとなっている様でした。
住⺠同士が自分のできる範囲で、やりたいことにチャレンジし、 応援し合える仕組みが生まれていました。

▼愛おしい風景を広める、町の案内所 ~真鶴出版社~

今回、上記に記載している、真鶴町の特徴や面白いスポットをご案内してくださったのは、 「真鶴出版社」のメンバーの方々です。 真鶴出版社は真鶴の情報を発信しながら、宿泊施設も完備している「泊まれる出版社」を営んでいます 。
ここに宿泊したゲストには、「まち歩き」に連れて行っていただけるサービスをお願いすることができ ます。1時間ほど真鶴の町を案内していただけます。 案内人の出版社メンバーは、訪れた人の背景やキャラクター、趣味趣向に合わせて、 案内するコースをアレンジしているとのこと。 その時にしか出逢えない場所や人と、その瞬間にしか体験できない時間を味わうことができます。 宿は最大5名まで宿泊可能です。 魅力的な本がずらっと並ぶ店内は、宿泊者のラウンジも兼ねており、夜通し本棚を探索し、 お気に入りの1冊を見つけてゆっくり読書を堪能することもできます。 (ちなみに私は夜中の1時までお酒を飲みながら読書を楽しんでしまいました…) もちろん、真鶴出版に用意されている本は購入することも可能。 ここでしか手に入れることのできない、お気に入りの1冊をぜひ見つけてみてください。
 
朝ご飯は、真鶴町「[パン屋秋日和]さんのパンと「water mark」さんのコーヒー豆が用意されており、 手作りの温かいスープまでついてきます。
町とのつながりが感じられる、真鶴町ならではの朝ご飯を楽しむことができますよ。

▼まとめ

今回の真鶴でのまち歩き・宿泊を通して、 住⺠の人たち自身が暮らしを楽しむ術を学び、大切にしたい生活風景を積極的に守っている様子を伺うことができました。 真鶴出版の様に、町の案内所があることで町に訪れるきっかけが生まれ、訪れた人の満足感を高め、案 内を受けた人が外へと発信をしてくれる。
そんな連鎖が生まれていました。
その連鎖が、町に住む人たちのシビックプライドを高め、 町の魅力が育まれているのだろうと思います。
また真鶴町にはUターンやIターンの移住者も多く、多様な価値観を持った人が住んでいます。
定住者と移住者が交わることによって、町の受容力が高まり、 新しい住⺠が増え続ける理由となっているのかもしれません。 ぜひ皆様も真鶴町のまち歩きに参加して、この町の魅力を堪能してみてください!!
文&写真:今井 里紗
 
 
<参考文献>
・『真鶴町まちづくり条例 美の基準 Design Code』(1992年/真鶴町)
・『真鶴町案内読本 真鶴手帖』(2022年/真鶴町)
・『まちを歩いて、紙を編む』(2023年/真鶴出版)