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【Special Report】宇都宮ビジネスツアー〜LRT沿線からはじまるゼロカーボンシティ〜

2024年7月26日、シティラボ東京のパブリックパートナーである宇都宮市との共催で、宇都宮市東京オフィスの皆さまのご案内によるラボメンバー限定ツアーを実施、一般社団法人GBPラボラトリーズ、日本GXグループ株式会社、認定NPO日本都市計画家協会など、ラボメンバー計15名が参加しました。

▼宇都宮市ってどんなところ?

宇都宮は東京から北に約100km、栃木県の中央に位置する人口約50万人の中核市です。古くは二荒山神社の門前町として、江戸時代には城下町として、日光道中の要衝として栄えてきました。近年は餃子、ジャズ、カクテルなどが有名でしょうか。

実は産業都市としての歴史とポテンシャルも相当のもので、戦後の工業団地やテクノポリス地域指定、東北新幹線や北関東自動車道といったインフラの整備を背景に、付加価値額(企業の生産活動)、年間商品販売額(卸売・小売)、農業産出額、製造品出荷額(工場出荷)のいずれもが、中核市の5位以内に入るというバランスのよい産業構造となっています。

そんな宇都宮市は、2021年に「スーパースマートシティ」を掲げ、2022年に「脱炭素先行地域」に選定、2023年には全国初の前線新設となるLRT「宇都宮ライトライン」が開通…など、まちづくりの世界ではホットな話題に事欠かないまちでもあります。そんな宇都宮をしっかり体験しよう…というのが本日のツアーです!

▼東口を大きく変えたLRT「宇都宮ライトライン」

何はさておき、ホットな話題であるLRT(Light Rail Transit:次世代型路面電車)の起点である駅東口へ。宇都宮のまちは、駅の西側に1〜2km離れた辺りが中心市街地で、東口駅前は正直に言ってイメージが薄かったのですが、LRTと並行して駅東口整備事業が行われ、コンベンション施設「ライトキューブ宇都宮」や複合商業施設「ウツノミヤテラス」が整備されました。

ライトキューブ宇都宮は2,000名が入る大ホールを備えており、医療系をはじめとしたイベントが多数開催されているとのことです。駅前広場に向かって広がる大階段も市民の新たな憩いの場ともなっており、壁面には地元の名産材である大谷石もふんだんに使われています。

さて、いよいよLRT「宇都宮ライトライン」に乗車。「雷都」とも呼ばれる宇都宮の地域特性をイメージした車両デザインは黄色と黒色でシャープな印象です。通常は床下に格納される電気設備を屋根上に上げて低床式とするなどバリアフリー性も高くなっています。

改札はなく交通系ICカードをタッチするセルフ乗降方式なので乗り降りもスムーズです。そして大事なことは、ライトラインは市内で発電された再生可能エネルギー(清掃工場のバイオマス発電)で「エネルギーの地産地消」を行っているということです。車両というハードだけでなく、運行やエネルギーのシステムも「次世代」の大事な構成要素ですね。

なお、今回は数駅先にある車両基地にお伺いし、運営会社である宇都宮ライトレール株式会社のご担当から、LRT車両の中でガイダンスを受けたり、運転手席に座らせてもらったりという贅沢な時間も過ごせました!

▼LRTは自動車型のまちなみをどう変える?

宇都宮の都市計画は、環状道路や放射状道路がしっかりと整備されていますが、その反面、車依存型のライフスタイルになり、さらに日常的な渋滞にもつながってしまっていたそうです。
東口から3〜4km先には、内陸型では国内最大規模となる清原工業団地、芳賀町にまたがる芳賀・高根沢工業団地があります。渋滞で自動車で1時間かかることもありましたがLRTでは30分程度に短縮され、想定以上に公共交通への転換が進んでいるとのことでした。

また、ライトレールの沿線には、従来は自動車でアクセスしていた店舗も多く建っていますが、これらの施設にLRTでもアクセスできるようになると、宇都宮市民の生活スタイルを大きく変えそうな予感がします。東口では既存のサッカースタジアムや野球場に加えてスケートボードやBMXなどのアーバンスポーツが楽しめる公園やバスケットアリーナなどの開業も予定されており、新たなスポーツエリアとして人も惹き付けそうです。

2018年にライトラインの整備が始まってまだ6年、まちもこれから変わっていくのでしょう。個人的には、これを機にロードサイド型の市街地も緑あふれるウォーカブルな街並みに変わっていくことを期待したいところです。

▼宇都宮のまち〜スーパースマートシティを構成するものは?

ひとわたり視察を終えた後、東京オフィスの馬場所長より宇都宮市の取り組みを全体的にご説明いただきました。やはり、現場を見てから説明を受けると理解も深まります。

市が掲げる「スーパースマートシティ」とは、「NCC(ネットワーク型コンパクトシティ)」を土台に「地域共生社会」、「地域経済循環社会」、「脱炭素社会」を進めていくものです。また、その際に「人」づくりや「デジタル」技術を活用していくものです。

まちづくりの基盤となるのが「NCC」で、中心部や各地域の拠点(既存コミュニティ、産業団地、観光地など)による多極型の都市構造をつくり、拠点集約型の土地利用や拠点間を結ぶ交通ネットワークなどにより、コンパクトで活力のある都市をつくっていくものです。市内を東西に貫くライトラインはその代表ですが、それだけでなく、バス路線の再編やデマンド交通配車システム、シェアモビリティ(当ラボパートナーのLUUPさん!)といった総合的な交通体系を整えています。かつ、日本初の地域連携ICカード「totra」を導入し、ライトライン→バスや、バス→バスの乗り換えもお得になるといった運賃体系も実現しています。

また、「脱炭素社会」については、2030年度までにカーボンニュートラルを目指して様々な施策が進行中です。ライトラインの沿線では、環境省の「脱炭素先行地域」として、公共施設や大学キャンパス、民間施設や住宅などを脱炭素化していく予定となっています。ライトラインの沿線にあるゆいの杜小学校の「ゼロカーボンスクール」化は、その取組の1つです。また、それ以外にも、清原工業団地における「工場間一体省エネルギー事業」といった各施設での取り組み、市内バスのEV化(〜2030年目標)といった個別の取り組みが進むと共に、エネルギーマネジメントシステム構築による最適化を図っています。

ライトラインの整備効果は、脱炭素だけでなく、歩数の増加による医療費抑制、中心市街地の消費の増加、人口や地価の上昇、市街地や工場への建設投資など、経済的にも発揮されているとのことです。スーパースマートシティはこれら多様な要素の相乗効果の上にできていくのでしょう。

なお、ライトラインは西口側にも延伸を検討中です。地元でも切望されており、2030年代前半の開業を目指して進行中。西口駅前や中心市街地でも複数の再開発が検討されているとのことで、東西を公共交通が繋ぎながらまちづくりが進んでいく期待が高まります。

7月の終わりということもあり灼熱のツアーでしたが(打ち上げのビールが美味しかった!)、シティラボ東京としても初の試みであったビジネスツアーは新鮮で、現地を実際に体感すること、また、多様な人と一緒に見ることによる新たな気づきなど…貴重な経験になりました。やはり現場は大切ですね。ここから新しい動きが生まれることを期待!宇都宮市東京オフィスの皆さま、ありがとうございました!

コラム:まちが動く、行政マンにいきづく「企画調整」能力

ここで紹介してきた宇都宮市の取組み、あまりにも連携が素晴らしく、お話を聞けば聞くほど軸となる会議体やキーマンの存在が気になってきました。ところが、明確な会議体があるわけでも、外部のコンサルタントに委託したわけでもなく、その時々の市の職員を中心に進めてきたとのこと。ご存知の通り行政職員は異動も多く、30年にも及ぶライトラインの計画や総合的な脱炭素まちづくりの調整などはどのように進められて来たのでしょうか。

一つは企画部門の存在が上げられます。環境部門(脱炭素)、建設部門(LRT等)、都市計画部門(開発)など各所から上がってくる政策について、トレンドを取り入れながら取りまとめる役回りです。NCCが基本構想に位置づけられた2008年、“脱炭素”というキーワードは世の中で広まっていませんでしたが、2015年には国連サミットで2030アジェンダ(SDGs)が、COP21でパリ協定が採択されるなど脱炭素に向けた動きが活発になります。宇都宮市でもNCCをベースに、スマートシティモデル事業やSDGs未来都市、脱炭素先行地域など脱炭素まちづくりとの融合を進めてきました。この機を逃さなかったのが企画部門というわけですね。

もう一つは、今回のツアーをコーディネートいただいた東京オフィス所長馬場さんの存在でしょうか。後からお伺いしたところ、2000年の入所以降、財務系や企画系の部署にて長年勤められたとのこと。この30年の大きな変化を肌で感じて来たからこそ、総合的なツアーの企画・説明ができるのだと合点がいきました。もちろん、関わってこられた全ての皆さんの努力の結晶ですが、全貌を熟知しながらプロジェクトの成果を世に広められる行政マンの存在は非常に貴重ですね。