レポート
【Event report】まちづくりDXフロントライン 〜デジタルで高めるまちと人のエンゲージメント~
実際にまちづくりDXツール「my groove」を運営する株式会社Groove Designsの三谷繭子さん、「torinome」を運営する株式会社ホロラボの加茂 春菜さんが登壇、東京都立大学教授の饗庭 伸さんにファシリテーションをいただきながら、まちづくりの現場で悩みを抱えている参加者の意見もふまえながらディスカッションを行いました。シティラボ東京会場とオンライン含め40名超の方にご参加いただきました。
1. イントロダクション-まちづくりDXの現在地-
他方、「人」に関するデータは、センシング可能な「行動データ」(交通量、歩行量、POS、滞留など)と人の気持ちや感覚を収集した「意思データ」(アンケート、ワークショップなど)に分けられます。
「行動データ」は昨今の技術向上により近年増えてきており、ECサイトでおすすめ商品が表示されるなどビジネス面でも加速されつつあります。ただし、「意思データ」の取り方についてはまだ改善の余地があるのではないでしょうか。これを欠いてまちづくりを進めると「冷たいまち」になる危険性もあります。
2. my groove:地域エンゲージメントの新しい形
住民がまちづくりに参加する心理的なハードルを下げる効果があり、パブリックコメントなどの行政手続きのみならず、より広く、より多くの住民が関わる住民参加を実現しており、栃木県小山市や北海道札幌市などで取組み実績があります。主な機能として、オンラインでの情報発信やコミュニティ形成のサポートが挙げられ、特にこれまで参加が少なかった若い世代や忙しい世代が手軽に参加できる仕組みになっています。
小山市と札幌市の事例 :若者を中心にまちづくりへの参加ハードルを下げる取り組み
小山市の駅周辺エリアのまちづくりプランの策定プロジェクトの支援に「my groove」を活用した際は、素案段階での意見募集はもちろん、プロセス可視化、プロジェクトマップを用いた時系列の共有などを行い、約700件のコメントやリアクションを集めることができたとのこと。(パブリックコメントなどの行政手続きだけでは達成しえない件数!)
システム活用の効果として、参加者は、自分の意見を発信しつつ、普段交流のない他の人の意見も見られるので、システム上で意見交換することができました。また、小山市から転出した人から意見を得られたこと、既存の手続きでは関わることが少ない20~40代の若年層の割合が増加したことも挙げられました。
また、札幌市のウォーカブルシティ推進モデル地区における未来ビジョン策定での活用事例では、まちのキーパーソンのインタビュー記事をシステム上で公開することで、交流のなかったコミュニティ同士で交流ができて様々な活動が生まれるなど、長期スパンでの住民のエンゲージメントが深まるきっかけになりました。また、オンライン参加者の約8割が20~40代であり、やはり若年層が多く参加するといった効果がありました。
3. torinome:3D都市モデルとXRで進化する市民参加型まちづくり
この「torinome」は、3つのシステムで構成され、①ブラウザ上でPLATEAUの都市モデル、写真や動画、GIS等の情報を得ることができる3D地球儀アプリ、②登録したデータを現実世界にシームレスにAR表示できるアプリ、③机上でリアルタイムに空間を共有し空間プランニングするアプリがあります。これらは住民がより具体的な形で都市の未来をイメージし、計画に参加できるようにするものです。
*XR:VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)など現実世界とデジタル世界を融合させる全ての技術の総称
八王子市と広島市の事例:空間や情報を分かりやすく共有し、議論を深める取り組み
八王子市の下水処理場・清掃工場跡地の開発計画を考える市民ワークショップでは、「torinome」を活用して住民がビジュアルイメージをリアルタイムに可視化しながら議論することで、より具体的に空間イメージを共有することができました。対象となる空間を複数の異なるスケールで議論することで、まちを俯瞰的な視点と、アイレベルの視点両方で議論することができました。また、若年層や働き世代など幅広い層が参加しました。
広島市の居心地よく歩きやすいストリート空間のあり方を検証するワークショップでは、実際に人や車が行き交う風景の中に、ストリートファニチャーや什器等のアイデアをAR表示することで、具体的な空間イメージを他者と共有しています。道路空間について、「思ったより広い」という意見があった一方で、「思ったより狭い」という意見もあり、空間に対する意識の違いを共有することができました。
4. クロストーク・まとめ
DXによるまちづくり業務の変化
加茂さんは、ワークショップでは参加者人数に制限があることを課題として挙げ、「torinome」による可視化の力だけでは多くの参加者に多くの機会を用意することはできないので、「my groove」のような取り組みと合わせて広く伝えていくことが重要だと述べました。
三谷さんは、プロセスをわかりやすく整理して伝えていくところはまだまだ専門家の手が必要だが、AIによる情報の集約や分類は今後の活用が考えられる。さらに、市民参加はそれなりに手間がかかるので、体系化されてガイドができるなど、市民参加の専門家でなくても支援ができるようになると良いと述べました。
饗庭さんより、デジタル化に伴って、今までよりはるかに多くの市民の声が聞こえるようになるので、格段に情報が増えるので、仕事は楽にならないこと、AIなどに手伝ってもらって、ある程度その仕事を楽にすることはできるが、省力化を目的にしないように注意することがあること、また、それらの膨大な情報の海をナビゲーションするときに専門家は必要であることなど、DXを活用する上での留意点を整理いただきました。
まちの個性につながるDXツールとの向き合い方
三谷さんは、色々な手法を組み合わせていかなければ、これまでのまちづくりの延長線から抜け出すことができない。今後のまちづくりでは別分野と積極的にコラボしていくことが必要で、それが流行りで終わらないよう、インパクトを残し、インフラになっていく社会にしたいと述べました。
加茂さんは、新しいことは大変だが、まちづくりでは、まちへの思いや人とのつながりなど数字化できない部分が大事で、そこはXRだけでは解決できず、コミュニティの継続やリアルでのコミュニケーションが重要である。また、AIについては、導入の方法を間違えると没個性なまちになる可能性があることを指摘し、まちの個性にもつながる「意志データ」を集めることが重要であると述べました。
饗庭さんよりは、まず一度使ってみる。現在は便利なツールが様々にあるので、試行錯誤して組み合わせながら、そのまち独自にカスタマイズされたツールがたくさんできてくるのが正しい姿なのではないかと、まちづくりの現段階におけるDXツールの立ち位置と可能性を整理いただきました。
「ビジネス的にも社会づくりとしても、参加のデザインを入れようという意思決定プロセス自体がまだ少ない。一般化、浸透のフェーズに向け、何をしてく必要があるか。」、「情報プラットフォームが建設的な意見を発言しやすい環境として整うことで、市民とのコミュニケーションも進化するのだろう」など、まちづくりの現場ゆえの悩みと期待が寄せられました。
文:西