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【Special Report】大阪府能勢町への旅〜参加型プロジェクトを通して身につけるコミュニティデザインのマインドセット~

2024年12月13日から翌14日にかけて、大阪府能勢町においてコミュニティデザインの先駆者であるstudio-Lが進める、古民家の「コミュニティデザイン・ラーニングセンター」への改修に参加しました!

コミュニティデザイン・ラーニングセンター改修に参加!

2024年11月から大阪府能勢町で始まった、古民家を「コミュニティデザイン・ラーニングセンター」に改修するプロジェクト。 このプロジェクトはコミュニティデザインの先駆者であるstudio-Lが手掛けており、改修施工は、全国各地で「みんなでつくろう DIT(Do It Together)」を掲げて参加型施工で工事を行っているTEAMクラプトンが担っています。 そんなプロジェクトにシティラボ東京のスタッフ(三井・西)が実際に参加し、studio-LやTEAMクラプトン、工事参加者の方々とコミュニケーションを取りながら、プロジェクトに散りばめられたコミュニティデザインや参加型施工の仕掛けを探ってきました!

▼能勢町ってどんなところ?

能勢町は大阪府の最北端にあり、大阪の玄関口である新大阪駅から北に約30kmの距離に位置しています。 大阪市の中心部から能勢町の中心部へのアクセスは、車で約1時間、公共交通では約1時間~2時間を要します。 ※最寄り駅(能勢電鉄妙見線 山下駅など)から路線バスが運行されていますが、本数が限られておりバスの乗り継ぎにより所要時間が大きく変わります

能勢町には山あいに複数の集落があり、集落を中心に豊富な自然と気候風土を生かした棚田の米づくりや畜産などが行われています。

どこか懐かしくゆったりとした時間を感じられる「日本の原風景」という言葉がとてもしっくりくる場所でした。

能勢町の風景(TEAMクラプトン 能勢ベース周辺)

プロジェクト参加(DAY1)

▼現場到着、さっそく昼食

スタッフは早朝の新幹線に乗って改修プロジェクトの現地に向かいました。 能勢町の環境を堪能しながら現地に到着した頃にはすでにお昼どきで、まずは昼食のまかないづくりのお手伝いからプロジェクトに参加しました。
TEAMクラプトンのインターンとしてプロジェクト参加していた大学生のぶんちゃんと昼食のまかない準備
初日の昼食はスンドゥブチゲ みんなで食べるとごはんがおいしい

▼大阪ラスキン・モリスセンターを見学

昼食後、今回のプロジェクトで改修しているコミュニティデザイン・ラーニングセンターに隣接する「大阪ラスキン・モリスセンター」について、studio-L 吉田さんにご説明いただきました。 このラスキン・モリスセンターは、19世紀のイギリスで活躍した社会思想家ジョン・ラスキンと、その思想に影響を受け、アーツ・アンド・クラフツ運動を展開したウィリアム・モリスらに関する貴重な資料を所蔵する資料館です。 ジョン・ラスキンは、イギリスの産業革命期に活躍した人物で、アートや建築の批評家としての前半生、社会改良家としての後半生がそれぞれ後世に大きな影響を与えており、前半生の活動はウィリアム・モリスなどに影響を与え、アーツ・アンド・クラフツ運動を生み出し、後のバウハウスやモダンデザインにつながりました。 また、後半生の活動はセツルメンツ運動、ナショナルトラスト運動につながり、全後半生のどちらも、現在のコミュニティデザインの源流となっているとのことでした。

ジョン・ラスキンやウィリアム・モリスの貴重な書籍が多く所蔵されている
ラスキンやモリスの思想、コミュニティデザインの源流とstudio-Lのつながりなど、熱い説明をいただいた吉田さん
大阪ラスキン・モリスセンターは、2006年に露木 紀夫 氏の私設資料館として設立されました。 多くの貴重な資料が収蔵されており、そのほとんどが露木 氏が個人的に収集したもの(!)。 露木 氏が80歳をむかえるにあたり、ラスキンの思想から大きな影響を受けているstudio-Lに相談があり、貴重な資料を共的資産として後世に残すために、露木氏を代表とした一般財団法人を設立し、このセンターを運営していくことにしたそうです。
大阪ラスキン・モリスセンター(https://osakarmc.org/

▼いよいよコミュニティデザインラーニングセンターの工事に参加!

「コミュニティデザイン・ラーニングセンター」は、studio-Lがこれまで手掛けてきた全国各地での「コミュニティデザイン」を学ぶための施設として整備を進めています。 コミュニティデザイン・ラーニングセンターに改修される古民家は、ラスキン・モリスセンターに隣接しており、コミュニティデザインを源流から学ぶための立地といえます。 施工を担うTEAMクラプトンは2022年から能勢町に拠点を構えており、彼らが行っている参加型施工がコミュニティデザインと相性が良いことや、もともとTEAMクラプトンの代表である山口さんがインターンとしてstudio-Lに参加していた時期もあるなど、様々な縁がつながり今回の施工を担うことになったそうです。 改修工事の現場に入ると、白石さんをはじめとしたTEAMクラプトンの面々が、それぞれの参加者が「安全にできそうなこと」を的確に見極め、作業を分担して工事を進めます。 シティラボ東京の参加スタッフ(三井・西)は、それぞれ工事現場での経験もあり、西は窓枠に使う木材の研磨から窓枠製作、三井は傾斜天井(元古民家の軒部分)の断熱材張り込み作業を担いました。
木材にランダムサンダーをかけるラボスタッフ(西)
もみ殻断熱材のパックを作るラボスタッフ(三井)
白石さんと作業内容を確認するラボスタッフ(西)
現場で打合せをするTEAMクラプトンの面々
通常、グラスウールなどの既製品の断熱材を使用したり、ウレタン吹付け工法等により断熱性を確保しますが、今回は「もみ殻」を断熱材に使用しています。
美しい棚田が広がる米どころの能勢町のストーリーを大切に捉え、現場のそばの「ライスセンター」という精米施設から処分予定のもみ殻をいただいて防虫処理をしてアップサイクル利用しているとのこと。
もみ殻は通常の断熱材と比べて水分に触れるとカビが発生しやすい特徴があるため、冬の結露がもみ殻に当たらないよう、内壁ともみ殻断熱材の間に防水シートを敷き、もみ殻断熱材と外壁の間には逆に透湿シートを敷くことで、室内(多湿)から屋外(乾燥)への水分の移動を防ぎ、もみ殻断熱材層に溜まってしまう水分も屋外に逃がす構造にしているとのこと。 「能勢町」で「コミュニティデザイン・ラーニングセンター」をつくること、そのストーリーを大切にするために施工方法を工夫している点に、studio-LとTEAMクラプトンの建築への大きな愛を感じました。

▼作業終了!

初日は日暮れまで作業を行って作業終了! その後夕食に現場の外でバーベキューをいただき、お開きとなりました。 初日の作業に参加して感じたのは、初めての現場で初対面のスタッフでもTEAMクラプトンの面々から積極的にコミュニケーションをとってもらえるので、一人で手持ち無沙汰になったり、現場でやることがない、食事中に話し相手がいない、というような状況がほとんどなかったこと。 このことには、全国各地で参加型施工を行っている施工集団のホスピタリティの高さや、施工を通じて現場のファンを増やしていく、ひいては出来上がる施設に関係するコミュニティを大きくしていくための仕掛けを感じました。 また、夕食後は、山口さんのご厚意で現場近くにある山口さんのご自宅に泊まらせていただきました!(山口さん、改めてありがとうございました!)
バーベキューの準備 火に癒される
食事後に図面を見ながら打合せをするTEAMクラプトン(右から山口さん、白石さん、フランスからインターンで参加している クロチルドさん)

プロジェクト参加(DAY2)

▼能勢ベース見学

二日目は、前日の慣れない作業の影響で若干の筋肉痛を感じながら起床。 まずは、山口さんの自宅のそばにあるTEAMクラプトンの工房「能勢ベース」を見学しました。 TEAMクラプトンは、2011年にstudio-Lで働いていた山角みどりさんとインターンとして参加した山口さん、白石さんが出会い、2014年からは神戸元町でのバー改修やシェアハウスづくり、2018年には京都で「シェアハウスTABLE」づくりなどのプロジェクトを経て、2021年に株式会社TEAMクラプトンを設立。 2022年には能勢町に拠点を移し、工房や木材置き場、様々な資機材などを備えた「能勢ベース」をオープンしました。
TEAMクラプトンの掲げる「みんなでつくろう」とこれまでの歩み 一枚一枚の写真に詰まった熱い思いを感じる
最初のプロジェクト開始から10周年を迎えたTEAMクラプトン
能勢ベースの展示スペース
全国に現場を持つ中で製材所も巡り、貴重な材や古材なども収集し、能勢ベースに集めて施工に活かしている

▼2日目の改修工事参加

1日目に続き、ラボスタッフも意気込んで現場に向かい工事参加! この日は学生の参加者も多く、TEAMクラプトンメンバーを合わせて17名の大所帯! ラボスタッフの2名のうち1名(三井)は急遽昼食のまかない番を任され、17名分のランチづくり。 もう1名(西)は昨日に引き続き窓の木枠づくり(前日より少し手際が良くなった?)。 午前中の作業を終えて昼食を摂り、午後も新幹線の時間ギリギリまで作業にあたったのち、スタッフは東京への帰路についたのでした。
京都建築大学校の学生さんが大勢参加
TEAMクラプトンの指導のもと、学生さんも工事参加
人数が多いと現場も活気にあふれる
まかない番(ラボスタッフ 三井)が作ったカレーを昼食に食べようとするが「あれ?2食足りない」の瞬間(どうにかなりました)

まとめ

楽しそうに作業するTEAMクラプトンのメンバー
今回、studio-L 吉田さんから、コミュニティデザインの源流にあるラスキンやモリスの生み出した思想は、産業革命期以前からアートや建築に携わる職人たちが「仕事」をどのように捉えるか、資本主義化していく社会のなかで、仕事の悦びをどのように確保していけるのか、といった視点から広がり、人と仕事、人とまち、人と人とがつながる仕組みをどのようにデザインすると豊かな社会が実現するのか、という潮流のなかで様々なプロジェクトに関わってこられていることを知ることができました。 ラボスタッフの帰り道の雑談でお互いとても印象に残っている言葉は、「現場仕事、楽しかった」「ものを作る原点が体験できてうれしかった」「人間に戻った」といったもの。
現場で建物を作る作業は、人が仕事と関わる原点に近いと感じ、現場で工夫しながら作り上げていくことに参加できた喜びが大きかったです。
そしてその現場を取り仕切るTEAMクラプトンは、参加者へのさりげないホスピタリティを振りまくことにとても長けており、色々な人が抵抗なく現場に参加する仕掛けの一つになっているように感じました。
たとえば、工事現場は昼食以外に10時や15時に休憩時間があり、TEAMクラプトンのメンバーは、休憩時間に先回りして温かいお茶や紅茶を淹れてお菓子と一緒に参加者に配ります。
作業中も参加者が手持ち無沙汰にならないよう、積極的にコミュニケーションをとってもらえます。
こういった、大げさではなく受け入れやすい、ちょうどいいホスピタリティが現場に散りばめられており、参加者は現場に入る抵抗をなくし、いつの間にかものを作る原理的な楽しさに取り込まれているように感じました。
また、そういったホスピタリティを感じるにつれ、参加者に「楽しんでほしい」という思いをTEAMクラプトンの面々が強く持っているように感じた一方、なによりTEAMクラプトンのメンバーたちがそれぞれ楽しそうに現場を動き回っており、それを見ている参加者も楽しくなっていく。最終的に、達成感や喜びをお土産に現場を離れても、すでに施設自体のファンになっているため、距離感は様々ですがコミュニティの一員となっていく。 今回の「参加型」のプロジェクトには、そんなコミュニティデザインに通じる仕掛けや手法が散りばめられているように感じました。 この記事で全て言語化できているとは思えませんが、筆者自身、参加から3週間ほど経過したところで「楽しかった、また行きたい」と思うに至っています。 今回プロジェクトに参加して、工事をきっかけにしたコミュニティづくりに触れられたことは、とても価値ある経験でした。能勢町という大阪の北端で進むとても魅力的で中毒性のある参加型プロジェクト。施工は2025年3月頃までを予定しているそうですが、改めて機会を見つけて、今度はもっと大勢の仲間を連れて参加できたらいいな、と考えています。 さいごに、studio-L吉田さん、TEAMクラプトンの皆さん、2日間大変お世話になりましたこと、改めて感謝申し上げます。素晴らしい施設の完成を願っております!   文責:三井直義
CLTスタッフとstudio-L吉田さん、TEAMクラプトンメンバーと記念写真
【参考】 〈studio-L webページ〉CDラーニングセンター改修参加者 募集! https://studio-l.org/news/1218/   〈改修参加者の募集〉コミュニティデザイン・ラーニングセンター http://cdlc.osakarmc.org/