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【Field Report】Nature Positive Forum 九州 #1 KARATSU

2025年3月27~28日、佐賀県唐津市で「Nature Positive Forum 九州 #1 KARATSU」が開催されました。実はシティラボ東京にもご縁のある人々が多数登壇…ということで参加してきました!
本イベントの背景として、唐津市では2024年度より「地域循環共生圏」に向けた検討を本格化したことがあります。ちょうど担当部署である環境課カーボンニュートラル推進係の発足から約1年というタイミング、当日は唐津市長による「ネイチャーポジティブ宣言」も公表されました。   とはいえ、タイトルにもあるように唐津市に限るものではなく、九州、ひいては日本・世界への展開も視野に入れているようです。参加者も地元だけではなく日本各地から集まり、1日目のフィールドワークは60名ほど、2日目のセッションは150名超もの賑わいとなりました。   ここでは、1日目のフィールドワーク、2日目の基調講演とシティラボ東京パートナー登壇セッションを抜粋して報告します(全体像は本イベントメディアパートナーのハーチさん(※1)より別途レポートがあると思います!)。

▼唐津の海に触れるフィールドワーク 〜 海づくりは、食づくり

初日は、唐津市鎮西町で海士漁業を行っている袈裟丸彰蔵さんより、現場でのレクチャーとワークショップです。袈裟丸さんは、海藻が枯れて磯が白く見えてくる「磯焼け」が全国的な話題になる以前の2000年頃から藻場の保全活動を行っており、2021年12月には藻場造成の主体となる袈裟丸マリン合同会社も立ち上げました。 「減らす(食害生物を間引く)」、「増やす(藻場礁を増やす)」、「拡げる(漁業者に広める)」、活動を積み重ねてきた袈裟丸さん。近年は学校で子どもたちに教える「伝える、育てる」へと活動も広がっています。多い時は年間200回も海に入り、今までに手掛けた面積はなんと11ヘクタールに及び、Jブルークレジット認証も取得。現在は30by30に申請中とのことです。   とはいえ、海産物の収穫のように直接お金になる訳でもないので周囲からの理解もなかなか得られかった中、孤軍奮闘していた袈裟丸さんですが、収穫を支える環境整備の大切さに気づいた仲間も徐々に増えてきているとのこと。 自然を相手にする活動は全てが思うように行くわけではなく試行錯誤の連続とのことですが、手を止めることなく自然との対話を続けていく姿は、どこか里山づくりにも似た「育てる」観点を感じました(ちなみに「袈裟丸ウニ」、にっぽんの宝物JAPANグランドグランプリ受賞です)。
本日は鹿児島県指宿で藻場の再生を行っている川畑友和さんも来ていただき山川町漁協での取り組みを紹介。こちらは食害対策ネットで保護区をつくり、アマモマットによる再生サイクルに取り組んでいます。Jブルークレジットにもいち早く取り組んでおり、その収益は活動に関する移動でオフセットしたとのことです(海のゆりかご山川ブルーカーボンプロジェクトのウェブサイトもちょうどリニューアル!)

▼基調講演 〜 生物多様性をはかる2つのアプローチ

2日目は、市長による「唐津市ネイチャーポジティブ宣言」から8つのセッションが続きましたが、最初の基調講演では、東北大学大学院生命科学研究科教授の近藤倫生さん、株式会社バイオーム代表取締役CEOの藤木庄五郎さんから、各々お話をいただきました。

【環境DNAで人間活動と自然の関わりを可視化する】

近藤さんからは、自然資本が持つ価値を科学的に解説いただきました。自然資本は多機能で地域内外も含む多様な人が関わるマルチホルダー性を持っています。   では、その地域の自然資本のあり方は誰が決めていくのか?近藤さんは、その自然資本がなくなって一番困る人(唐津の海は唐津の人が決めるべき)と説きます。科学者でありながら(だからこそ)「科学だけでは解決できない大切な問題」に対して地域の価値観や取り組みを重視する謙虚さを感じました。   そのような近藤さんは科学者としては、「環境DNA」という技術を用いて、地域の自然と人々をつなぐ活動・研究に取り組んでいます。環境DNAの観測網「ANEMONE」は、日本全国の観測拠点のデータが見られるオープンデータです。みなさんもぜひ覗いてみてください。
基調講演 〜 環境DNAで人間活動と自然の関わりを可視化する

【生物多様性保全の国際動向とビジネスの最前線】

藤木さんからは、経済やビジネスの動向をふまえたネイチャーポジティブの様相と取り組みについての講演をいただきました。3月1日の「しましまラウンジ」(※2)でも登壇いただいた藤木さんですが、今回は自社事業だけでなく世界的なビジネスの動向や地域との連携にわたって幅広いお話を伺うことができました。   研究者としてスタートしながらも、ビジネスという道に転身した藤木さん。その背景には、(今までは)環境を壊すと儲かる⇔人は儲かることをしたいという悪い循環があり、それを変えたいという想いがあったとのことです。   2022年のCOP15で締結された「昆明・モントリオール生物多様性枠組(30by30ほか)」、2023年のTNFDによる情報開示枠組みの最終提言など、ビジネスを取り巻く環境でも生物多様性の重要性は急速に増しており、世界経済フォーラムでは、ネイチャーポジティブ事業は2030年には10兆円/年の企業規模になると予想しています。逆に言えば、適応していない事業が「座礁資産」となるリスクとも…。なによりも、生物多様性の喪失はもとに戻せない「不可逆的な変化」であることを忘れないようにしないと…ですね。   藤木さんが創業したバイオームでは、アプリ「Biome」を活用した市民科学的アプローチで生物種データ収集の仕組みを構築しており、なんと1日当たり1万件の生物データがアップデートされているそうです。これらのデータを活用することにより、生物種の分布が推定され開発時の計画立案やリスク判断、対策などもスムースになります。バイオームの資産によると、ネイチャーポジティブによるビジネス機会は400近いマーケット領域に及ぶとのことです。冒頭に述べられた悪循環が正の循環に変わっていくことが期待されます。   一方、生物多様性は一般に数値化(デジタル化)が難しいとされている領域であり、例えば木材なども個別の生産者ではなく「●●産」といった地域性(ブランド)で評価されることも多いようです。ビジネスにおいても、単なるグローバル基準にとどまらず、「地域」の価値と紐づけることが大事であり、そこが難しさでもあり、地域にとっての希望にもなりそうだと感じました。
基調講演 〜 生物多様性保全の国際動向とビジネスの最前線(写真:事務局提供)

▼トークセッション 〜 企業活動で地域と自然資本の未来を拓く

トークセッションでは、中間支援組織、民間企業、大学・教育機関の3つのセッションが開催されました。それぞれ興味深いのですが、シティラボ東京にご縁が深い民間企業セッションを簡単にご紹介します。

【イントロダクション】

最初は、日本生命保険相互会社の岩本昌弘さんより、同社のサステナビリティ経営について紹介されました。保険会社であると同時に保険金を運用する事業会社でもある同社では、環境・社会・ガバナンス(ESG)を考慮した責任投融資を推進しています。   大企業であり取組分野は多岐にわたりますが、インパクトや脱炭素に向けたテーマ投融資、自然ベースのクレジット活用、サーキュラーエコノミーへの対応などの取り組みを中心にお話いただだきました。一方、「レス・バッド」は数字にしやすいがポジティブな取り組みをどう測り、見せていくかという課題もあるようです。   二番目は、自然電力株式会社(※1・※3)の武山真紀さんです。その社名の通り、「青い地球を未来につなぐ」をコンセプトに再生可能エネルギー100%の世界を目指している同社ですが、再エネだけでなく、中期経営計画には「再エネ技術とネイチャーポジティブなインフラの融合」を宣言しています。   合志農業活力プロジェクト太陽光発電所では、合志市が保有していた遊休地を活用すると共に、売電益の一部を地域の基金として、農業インフラのメンテナンスや6次産業化を支援。また、南伊勢自然電力太陽光発電所では売電益の一部を南伊勢町に寄付し、自然環境の保全活動や漁場環境機能の整備に活かしているとのことで、エネルギーと地域の環境保全の循環が生まれています。   最後は、アイフォレスト株式会社(※3)の丸山さんです。「人と森のつながりを、再構成する」をビジョンに掲げる同社は、現在、「ボランタリークレジット」という手段を通して、林業の新しい収入源と共に、教育・交通・文化などといった地域社会への還元、クレジット購入者と地域のコミュニケーション促進など、多面的なつながりを創出しようとしているところです。   国土の7割が森林である日本ですが、林業従業者は4万人程度で減少傾向です。これは、単に「材木産業」が衰退することではなく、生物多様性保全・水源かん養・CO2吸収など森林の持つ多面的機能が喪失していくことを意味します。ちなみに、仮に唐津市の森林の10%をクレジットとして評価すると年間で約2億円の収益可能性に相当し、これは市の林業関係予算を超える規模とのことです。
トークセッション 〜 企業活動で地域と自然資本の未来を拓く

【企業活動と地域・自然資本を結ぶ「色」がついたクレジットの可能性】

企業活動において(もちろん、自社で削減努力をした上での話ですが)、カーボンクレジットの話は大きな話題になるところでしょう。特に、日本ではこれからの段階とも言えるボランタリークレジットを中心にトークが始まりました。   ボランタリークレジットは設計の自由度が高く、企業の自主的なカーボンオフセットには活用できますが、RE100やCDPといった国際イニシアチブには使えないという特性もある中で、どういう意義を持てるのでしょうか?   丸山さんからは、既にボランタリークレジットが普及している海外の投資家をターゲットにするというアプローチが挙げられました。そのためにもクレジットのエビデンスは高品質を担保する必要があり、アカデミアとの連携もふまえて準備中とのことです。武山さんからは、単なる金銭とCO2の相殺ではなく、企業が現場に行って対話する機会をつくり理解者を増やしていくアプローチが挙げられました。グローバルとローカル(人)というある意味で対照的なアプローチが興味深いところです。   一方、機関投資家としての岩本さんからは、「生物多様性」というキーワードが経営で必須になると、森林や海洋を対象としたボランタリークレジットが日本企業にも着目を浴びる可能性が示唆されました。「地域社会の活性化」も企業にとっては着目する要因になりそうです。実態の取り引きはまだ少数ですが問い合わせは多いようです。   日本のボランタリークレジットはまだ緒に就いたばかりですが、関係の方に伺うと、現状の日本はまだ圧倒的にクレジットのバラエティが欠けているとのことです。逆に言えば、CO2削減に加えて生物多様性や地域といった「色」がついたクレジットは、ネイチャーポジティブに向けた新たなツールとして大きなポテンシャルを持っていると言えるでしょう(これ以外にも発想が広がる貴重なアイデアがたくさん挙がったので、これから考えていきたいと思います!)。   生物多様性においても、テクノロジーを活用した効用の可視化は着実に進んでいますし、日本の機関投資家は社会課題解決に向けた対話を重視する特性があるという話も出ました。当面は、客観的なエビデンスと、現場との丁寧なコミュニケーションの両面を試行していくことが求められそうです。
クロージングセッション 〜 各セッション登壇者が揃い踏み!
※1:シティラボ東京パートナー ※2:しましまラウンジ:本日司会の小田切さん・大森さんとシティラボ東京の合同チームで開催した「S-GATEWAY」のサイドイベント ※3:City Lab Venturesメンバー