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【Field Report】CLTスタッフが行く広島県福山市の旅 ~地場企業による地域拠点整備とコミュニティづくり~

2025年5月3日、シティラボ東京の法人会員である株式会社Groove Designsの代表取締役 三谷繭子さん、取締役 東宏一さんにご案内いただき、広島県福山市を訪れました。三谷さんは地元企業である大和建設株式会社の専務取締役も努めています。地域に密着した企業とまちのキープレイヤーたちが仕掛ける取組み、拠点整備などについて伺いました!

▼駅前にお城がそびえ立つユニークなまち福山

福山市は、広島県の南東端に位置する人口約45万人の中核市です。新幹線も停まる福山駅を中心に、南には瀬戸内海、北には中国山地という立地で、交通網にも自然にも恵まれています。福山駅北口を出て目の前には福山城がそびえ立っていることが特徴で、なんと駅は城域の三の丸あたりにあります。駅前広場の下には今も城の遺構が眠っているのだとか。

▼緑あふれる唯一無二のとおり町・本通商店街

福山駅から徒歩7分ほどのところにある本通商店街は、江戸時代より「とおり町」という呼び名で親しまれている商店街です。アーケード改修前は空き家率が3割を超え、店主の平均年齢も70歳越えだった商店街。アーケードの老朽化が進んだ商店街を再生すべく、福山本通商店街振興組合(以下、商店街振興組合)の皆さんが立ち上がり、アーケードを掛けなおすのか・車が通れるようにするのか・どのような舗装にするのかなど、丁寧に議論を重ねた結果、2016年に「とおり町ストリートガーデン」としてアーケード改修事業が行われ、グッドデザイン金賞を受賞しました。 建築家である前田圭介さんの設計、大和建設の施工のもと、アーケードの代わりとなるワイヤーが掛け渡された、緑あふれる商店街は、単一的な街路樹ではなく、ガーデンを意識した植栽の混植により、ランドスケープデザインが施されているのが特徴です。植栽の管理は商店街の皆さんが各々に取組まれており、施工から8年経った今も青々と美しい緑を放っています。 2024年度には、地域で育んできた緑を楽しみながら、継続的に手入れしていくためのハンドブック『みどりのお手入れハンドブック』を商店街振興組合で制作しました。新しく商店街に移ってきた人たちも地域で育てる緑の考え方を伝えていくためのツールとして活用していく予定だそうです。Groove Designsが企画編集を行っています。
みどりのお手入れハンドブック
三谷さんに案内頂きながらとおり町を歩いて出会ったのは、商店街再整備時に責任者を務められた、洋品店を営む児玉さん。石畳やワイヤーによるアーケードの整備にはたくさんの工夫が必要だったそうですが、商店街関係者や設計者の協力のもと今の形を実現することができ、「江戸時代から続く通りであることを彷彿とさせる商店街に再整備したかった」と嬉しそうに語ってくださいました。
とおり町で児玉さんと談話

▼キッチン付きシェアスペースimanoma

駅側から本通商店街に入って2件目に位置する「Imanoma(以下、イマノマ)」は地元の建設会社である大和建設が営むコミュニティスペースです。とおり町ストリートガーデンとしてハードは美しく整備されたものの、人の流れは依然少ない状況にありました。「福山本通り商店街は昔から物販がメイン。若い世代は特に物を買いに訪れることが少ない傾向にあるため、物を買いに訪れるだけではない、目的となる場所が必要だ」と考えイマノマを構想したそうです。一年目は自前でのカフェ運営や様々なイベント実施、二年目からは日替わり店舗のシェアキッチンや定期的なマルシェなどを運営し、もうすぐ2周年を迎えます。   定常プロジェクトとしては「LFCコンポスト」を活用した、コンポストコミュニティを立ち上げています。市内に住み・働く皆さんがこのコミュニティに入り、生ごみを再生しながら、自宅で堆肥を使い、余った堆肥は商店街の植栽に与えるというサイクルを目指しています。「商店主だけでなく、まちへのさまざまな関わり方をつくることで若い世代がさらに関わってくれることが重要」と三谷さん。
イマノマの様子
市街地ツアー前にイマノマにて三谷さんレクチャー

▼Park-PFI事業を導入した福山市中央公園

福山駅から徒歩10分ほどにある中央公園は、Park-PFI(公募施設管理制度)を導入し福山電業株式会社(以下、福山電業)を中心としたコンソーシアムがカフェを設置、管理運営しています。 コンソーシアムの代表企業である福山電業は主事業である電気設備事業とは別途2021年にまちづくり事業を開始、中央公園のPark-PFIや、後に紹介する「iti SETOUCHI」の運営に取り組んでいます。中央公園には、「Enleeガーデンレストラン」が2021年にオープンし、その収益の一部が中央公園の管理費に充てられています。カフェ機能の他、ガーデンウェディングや音楽ライブを始めとした様々なイベントを実施しており、駅から少し離れた距離でありながら人々が足を運ぶきっかけづくりを担っているようです。中央公園には意匠が美しい図書館「まなびの館ローズコム」も併設されており、穏やかな空気が漂っていました。
福山市中央公園
Enleeガーデンレストランでテイクアウト

▼旧そごう建物にオープンしたiti SETOUCHI

中央公園に続いて福山電業が手掛けるiti SETOUCHIも視察。2020年に福山そごうが閉館した後、商業施設を入れるなどの期間もありましたが運営が成り立たず、一階部分のみの運営事業者を公募することに。指定管理での運営ではなく、市が施設を賃貸する形で民間事業者が整備・運営を担うスキームで、空間の半分はパブリックスペースにするという厳しい公募要件に手を挙げたのが福山電業でした。広い空間には小規模な店舗スペースが点在し、間を埋めるようにリビングのような飲食・滞在空間がデザインされています。福山の地場産業である鉄鋼業・繊維業で使われていた機材をリメイクした椅子やテーブルが設置され、日常的に文化を感じながら滞在できる場となっていました。   以前は福山市役所に勤めていらっしゃったiti Setouchiの支配人の谷口博輝さんにもご挨拶。行政側から制度を活用し場の整備まで取組み、民間に転職して運営に携わるというマインドにとても感動すると共に、なんと翌週には出張ついでにシティラボ東京にもお立ち寄りいただけることになりご縁を感じる出会いとなりました。
iti SETOUCHI
iti SETOUCHIでできること

▼7つのほこみち指定道路・1つの国家戦略特区と駅前広場の再整備

福山の中心市街地には、なんと14もの商店街があります。このうち4つの商店街(通りで言えば7つ)が道路空間における街の活性化推進を目的とした歩行者利便増進道路(通称ほこみち / 以下、ほこみち)に指定されており、冒頭に紹介した本通商店街もその一つです。ほこみちに指定されることにより、道路空間への椅子・テーブル等の設置ができるようになり、商店街等での滞在時間増加や賑わい創出を推進しやすくなります。イマノマから中央公園、そして福山駅までぐるっと回遊する中で、ほこみちを活用した活気ある商店街を見る事ができました。   福山駅南口の駅前大通沿いでは、アイネスフクヤマの運営を行う福山駅前開発株式会社が国家戦略特別区域法(以下、国家戦略特区)により歩道での滞在空間常設化を実現させています。2011年に再開発事業により商業・住居を主用途としたビル:アイネスフクヤマ(以下、アイネス)が竣工し、公開空地として歩道上空地が整備され広い歩道ができましたが、人通りが少なく賑わいが乏しいことが課題でした。そこでアイネスを中心とした駅周辺商業事業者が2017年から歩道空間における賑わい創出のための社会実験を行いました。後にアイネス前は国家戦略特区に指定、国家戦略特区メニューの一つである「道路占用の許可」を得る事ができました。 ※国として特区の道路占用特例はほこみちに移行する方針、国家戦略特区の指定期間が終了した際にはほこみちに移行する可能性もあり。   福山駅南口エリアでは、歩行者専用広場を整備する構想が進められています。福山市では2018年に福山駅前再生ビジョンを策定、駅周辺を居心地が良く歩きたくなる空間(ウォーカブルな空間)へと転換していくことを示しました。これに伴い、バスロータリーの在り方や歩行者専用広場の整備などについて議論が重ねられており、2022年と2024年に南口駅前交通広場の一部を歩行者空間化する社会実験も行われました。   以上のように、福山の中心市街地ではあらゆる手法でウォーカブルなまちづくりが推進されていることが分かります。今後の変化もウォッチしていきたいですね。
福山市中心市街地商店街マップ
福山駅周辺デザイン計画 2025 各エリアの関連事業(全体図)

▼地元に根ざした企業の活躍と様々なアプローチによるまちづくりへの関わり

今回ご案内頂きながら、福山における様々なまちづくりプロジェクトと、その節々に大和建設、Groove Designs、福山電業など地元に根差した企業の関わりがあることを知ることができました。 シティラボ東京を運営する(一社)アーバニストでは、「ある専門性を持った都市生活者」をアーバニストと定義していますが、まさにアーバニストである三谷さん、東さん、谷口さんの姿を見聞きすることができたように思います。生活者でありまちの仕掛け人として活躍する皆さんのこれからが益々楽しみになった今回の福山ツアー、大満足の締めくくりとなりました。三谷さん、東さん、有難うございました!
とおり町でパシャリ。
文:マネージャー 右田 写真:コミュニケーター今井、他