【Field Report】食農イベント直前!!香川県三豊市視察レポート~地域資源の再発見とプレーヤーが光るまちづくり~
2025年5月1日、ラボスタッフ右田と今井で香川県三豊市仁尾町を訪問しました。今回の訪問は、6月2日開催の食農イベント「まちアグリネクスト!」に向けて実施したもので、イベントに登壇いただく瀬戸内ReFarming株式会社の横山裕一さんに活動拠点をご案内頂き、農業の担い手不足や耕作放棄地といった課題と向き合うユニークな取り組み、農業とまちとの関係性についての理解を深めてきました。仁尾町で活躍する地域のプレイヤー、まち独自の取り組みなどもたくさん伺うことができ、学びの多い視察となりました。このレポートでは、横山さんの活動を覗き見しつつ、三豊市仁尾町のまちの全体像を紹介していきたいと思います!
※6/2開催のまちアグリネクスト!についてはこちらをご覧くださいhttps://machiagrinext0602.peatix.com/
▼香川県三豊市(仁尾町)ってどんなところ?
今回訪れた仁尾町は香川県の西側に位置する面積15.49平方キロメートル、人口約5000人の町で、今もなお瓦屋根の家々が連なりどこか懐かしい町並みが残る地域です。近年では、SNSなどを通じて“映える”観光地として全国的に知られるようになった父母ヶ浜が注目を集めており、同地を訪れる観光客数は、過去6年間でおよそ100倍にまで増加。そんな三豊市では2024年時点で70以上の新規プロジェクトが生まれ、挑戦できる土壌をどんどん広げており、観光の先を見据えた取組みを応援するまちとなっています。
▼瀬戸内ReFarmingが仕掛ける「ベーシックインフラ」という仕組みから生まれた半農半ローカルというライフスタイル
横山さんは瀬戸内ReFarmingを通じて、仁尾町の耕作放棄地を再生しながら、若者や移住者が農業に携われる仕組みを取り入れたシェアハウスを運営しています。ReFarmingでは「半農半ローカル」という新しいライフスタイルを提唱しています。横山さん曰く、「現在広まりつつある半農半XのXは、リモート勤務が可能な仕事が都心にある、または、Xとなり得るスキルをベースとした仕事をすでに獲得していることが前提になってしまい、移住までに仕事を見つけるハードルが高い」のだとか。現在はXの部分を、”地域が用意しておく”ことを大切にしているため、Xをローカルと置き換え、半農半ローカルな暮らしを移住者たちと一緒に取り組んでいます。
私たちは、空き家などを“リフォーム”して再生し暮らします。同じく農地も、再生=リファームして新たな暮らし方を創造できるのではないか、という発想からこの事業がスタートしたそうです。横山さんは、シェアハウスの運営において、農業で収入を得ることを主目的とせず、週に3回農作業の研修を行うと、家賃や水道光熱費が無料になる「ベーシックインフラ」の仕組みをつくりました。(専業農家として働くことも可能)この取り組みにより、農業に関わる人材を増やしつつ、若者にとってもお金をかけずに地域で暮らすことができるきっかけとなっており、地域における関係人口の創出にもつながっています。
▼様々な暮らしが「育つ」移住者の拠点 瀬戸内SEED
横山さんが運営する古民家シェアハウス「瀬戸内SEED」を案内して頂きました。ここはベーシックインフラ構想を体現した拠点のひとつです。前述したようにこの拠点に住む住人は、週3回農作業を行うことで、家賃や光熱費を支払わずに暮らすことができます。
住人の1人に話を聞くと、ここに住む人たちが移住してくる理由は本当に様々で、各々が習得してきたスキルを活かしてこのまちで働き口を見つけているといいます。インフラの提供と、働き口の提供、そしてシェアハウスにはまちのことをよく知る先輩住人がいることで、”住む”ことへのハードルを下げ、自身の新たなライフスタイルや、やってみたいことへの挑戦に力を入れることができているそうです。
そのほかのシェアハウスは、瀬戸内ROOTS、瀬戸内ワークスレジデンスGATEと合わせて3拠点あり、現在仁尾町には9名の若者がこの仕組みを活用して滞在しています。シェアハウスに住んだ人数は事業開始から1年間で35名、うち5人が三豊への移住を決定しています。
ReFarmingは仁尾町移住者の関係性づくりの窓口として、移住して早々に半農半ローカルで生計を立てられるように、仕事の斡旋機能を現在拡充しています。
瀬戸内SEED
瀬戸内SEEDに暮らす、シェアハウスのメンバー
横山さんの事業を始めるに至った経緯や、事業開始後の試行錯誤とアップデートなどさらに詳細な内容は、ぜひイベントの中でもお伺いしていきたいと思っています!!イベント後のレポートも公開いたしますので、お楽しみに。
▼まちづくりを牽引する、様々な拠点の活動家
①地域のハブである、まちの玄関口「喜田建材」
まちの重要な拠点として横山さんに案内していただいたのが、「喜田建材(きたけんざい)」です。不動産業や木材加工業を営む老舗企業でありながら、現在では自社商品を活用して空き家をリノベーションし、”泊まれるショールーム”として機能する複数のゲストハウスの運営を行っています。また、ゲストハウスのチェックイン機能はすべて喜田建材の本社に集約されており、本社事務所がまちの案内所のような役割も果たしています。
さらに喜田建材は、地域で事業を始めたい活動家への物件提案も行っており、その際には事業の内容が三豊市の空気に合うかどうか“地域と調和できるか”などを重視しているとのこと。横山さん曰く、「不動産部門の島田さんが不動産業者として入口になることで、まちのコミュニティとの相性を見定めることが出来ており、まち全体の一貫性が保たれている」のだそうです。
また、香川県ならではの出汁文化を活かした「讃岐らぁ麺 伊吹いりこセンター」などの飲食事業にも参画しており、喜田建材は現在まちに多様な活気をもたらす重要な存在となっています。
当日ご案内をしてくださった詫間さん
店内には材木や地域商品を扱うセレクトショップも併設されている
②山と海をつなぐ拠点「カフェ・ド・フロ」
仁尾町は江戸時代後期から製塩事業で栄えたまちだったそうです。時代の変化と共に塩業は衰退してきましたが、新たな塩作りを始めたのが「カフェ・ド・フロ」のオーナーである浪越さんです。浪越さんはカフェと宿泊施設を運営しながら製塩事業も行っています。
ここで作られている塩は、満月や新月のタイミングで汲み上げた海水を使って薪火でじっくりと時間をかけて製塩しています。海水を汲み上げるタイミングによって、塩の味、ミネラルバランスが異なり、火力によって粒度も大きく変化させることが出来るのだとか。また、山から流れる水の大切さを伝えるため、仁尾の運河の清掃活動も実施し、単なる清掃ではなく、「遊び」や「学び」として参加できるような工夫も計画中のようです。
大地の再生などの取組みにも参加をしたり、間伐材の活用や塩づくり、料理への応用を通じて、自然と共に生きるメッセージを「美味しさ」という共通言語で伝えているのが、この場所の魅力です。
「河川には農業の排水もつながっているため、オーナーの浪越さんの話を聞いて改めて責任を持って仁尾町の農業に関わっていきたい」と横山さん。
そのようにして地域の人たち同士が意思をつなぎながら、町全体の再生と今後のよい将来について、まちのあり方を考えていることが非常によくわかる一場面でした。
カフェ・ド・フロは地域の交流の場としても機能しており、定期的に様々なテーマを設定した交流会兼食事会の開催も行っているそうです。カフェの奥にある一棟貸しの宿泊スペース「ku;bel(クーベル)」では薪火を活用し、自家製の塩約10種類を使って浪越氏による手作りの食事も提供されています。研修で訪れる際などにおすすめの宿です!!
製塩を行うための釜、訪れた日も薪のいい香りがしました
カフェ・ド・フロ オーナーの浪越さん
③まちで輝くプレイヤーを育てる「瀬戸内暮らしの大学」
仁尾町のキーポイントとなる様々な施設からも程よい場所に建てられた「瀬戸内暮らしの大学」は、元々河田タクシーの事業所跡をリノベーションしており地域内外の22企業・個人の共同で運営されています。地域内外問わず参加が可能な学びと共創の場として機能しています。農業、カフェ、福祉、ファイナンスなど、地域に根ざした実践型の授業が行われ、地域のプレイヤーの方々も講師として関わっています。印象的なのは学校の内装です。まるで舞台女優の楽屋の様なしつらえの部屋があったり、ダンスなどの練習ができるスタジオの様な部屋があったり、様々な場面で気持ちよく、そして楽しく利用できる工夫が各所に散りばめられていました。
瀬戸内暮らしの大学キャンパス
横山さんは、「地域をよく知り、外との関係性も構築できる“外交的ローカル”な人がまちにとっては非常に重要だ」と地元のスーパーを営む今川宗一郎さんから学んだと話していました。地域のことを深く理解し、自らが媒介者となって他地域との接続点となる存在は、今後の地域づくりにおいて欠かせない存在なのかもしれません。この”外交的ローカル”という言葉も、暮らしの大学の生徒は詳しく授業で学ぶことができます。
このお話しの詳細はこちら▶︎https://kurashinodaigaku.jp/class/local-gaikokan2025/
また、事業を進める上では投資/経営/店舗それぞれ分散して責任を持つことが重要であることも大学で学んだそうです。ひとりで全てを抱えるのではなく、分担する、そして信頼関係のもとで支え合う仕組みこそが、持続可能な仁尾町のローカルビジネスの鍵を握っています。暮らしの大学では、こういった地域独自の資源を深く理解できる様な人材育成に力を入れており、そこから新たに繋がりを育む場面が持続的に生まれ続けていました。
④地域が立ち上げた“地元の社交場”の再生「ニュー新橋」
夜が更けると明かりが灯り、地域の人たちが集う「ニュー新橋」。この場所はかつて中華屋さんだったそうです。前店舗の閉業後、地元では夜遅くまで営業している飲食店が少なく、2軒目に行きたくても隣町まで足を伸ばさないといけないという悩みがありました。そのような背景の中で、地元住⺠からは「2軒目飲みに場所がほしいよね」という声が多く寄せられていたといいます。こうした自分達のほしいものは自分達でつくろうと、8人の地元⺠と移住者1名が出資し、地域の人が気軽に立ち寄り、交流できる夜の拠点としてカラオケパブニュー新橋が出来上がりました。
この場の特徴的な部分は、「リアルファンディング」というアナログな手法で場を作ったことです。ボトル1本1万円を電話や口コミで販売し、改装費や初期運営費を調達しました。まちの人たちが直接的に手を差し伸べるこの形式には、地元に根ざした住⺠同士のつながりの強さが表れています。現在では、地元⺠たちが気軽に集まれる場となっています。住⺠同士が声を掛け合い、繋ぎ続けているこの場所では夜な夜な地域プレイヤーが事業の相談をしていたり、地元住⺠の方々がカラオケをしている日もあったり、様々な顔を持つ大切な集いの場として機能しています。
⑤地域住民の手によって守られてきた、新たな観光スポット
父母ヶ浜では1994年から、地元有志による「ちちぶの会」が毎月第一日曜日に清掃活動を行っています。地形の関係で瀬戸内海のごみが流れ着きやすく、かつては多くの漂着ごみが海岸に溜まっていました。過去には工場誘致に伴う埋め立て計画も検討されましたが、美しい海岸を守ろうとする住民の活動もあり、計画は中止に。その“ささやかな抵抗”として始まった清掃活動は、今も地域に根づき、環境保全の取り組みとして継続されています。
そんな父母ヶ浜は、数年前からSNSで「日本のウユニ塩湖」として“バズった”ことで観光客が急増。ただし訪れた観光客がまちに滞在せず移動してしまう課題がありました。その課題に対し、これまで紹介してきた様々な活動家の取り組みの影響で、地域滞在の理由となる拠点が増え、今では住民の拠り所と、観光客が楽しく過ごせる場所、2つの側面を持ち合わせる場所へと変化を遂げています。
またこの浜は「Park-PFI制度」にて、地場企業である「ウルトラ今川」「瀬戸内うどんカンパニー」と、ランドスケープやパークマネジメントを主事業とする「東邦レオ」の三者連携で賑わい創出と地域活性化を推進しており、竹のベンチやコンテナショップを設置。地元の人々が気軽に商いを始められる場づくりも進められていました。訪れた当日、浜辺にはベンチを囲んで談笑する若者や、ベンチで休憩する住民の姿と、コンテナに入っているお店に足を運ぶ観光客の姿が混在した景色をみることができました。
地域のプレーヤーの関わりによって観光客に向けた一過性の体験だけでなく、この町全体の魅力や文化、多様な資源と出会ってもらうための関わり代が、丁寧にデザインされていることを感じることができました。
竹でつくられたベンチに腰掛ける地元住民の方
浜に集まり、色々な相談や談笑をする地域プレーヤーの皆さん
▼古田秘馬さんの思想と仕掛け
仁尾町の地域プロデューサーである古田秘馬氏からもお話しをうかがうことができました。古田さんは、仁尾町の魅力に引き寄せられた移住者の1人です。仁尾町の特徴は「共助のデザイン」を地域再生の根幹に据えていることだそう。「“グローバル”と対比されるのは“ローカル”ではなく“コミュニティ”であり、信頼に基づくコミュニティ形成が地方再生には不可欠」と、古田さんは語っていました。
「高付加価値」よりも、「他不可価値(たふかかち)」を創出できるかどうか。つまり、お金以上に価値のある体験を提供できる場を、地域につくれるかどうかが今、問われているのだとか。
また、地域で起きる収益がどこに再配分されていくのか、そのプロセスや透明性を高めることも、持続的な共創の条件であると考えているそうです。
▼まとめ
仁尾町では“人と場所が共に育ちあう仕組み”が丁寧に築かれていました。
今回の訪問を通して、仁尾町では単なる地域再生を超えて、文化や人の営みなどのソフト面を丁寧につなぎ直す取り組みが広がっていることを実感しました。それぞれのプレイヤーが自分の役割を深く理解し、協働によって持続可能なまちのあり方を模索している姿は、これからの地域社会や都市においても学びがある様に思います。
視察の最後、横山さんから伺ったキーワードは「No Farmer No Local」。
「地域に人材を呼び込み、住処をつくること」がReFarmingの役割だと考えているそうです。
土づくりと同じように、街づくりにも“人が根づくための土壌”が必要、人が住み着いてくれることで街は育っていく。だからこそ、「No Farmer, No Local」を掲げ、地域のインフラを人の力で将来はまちを支えていきたいのだそうです。
改めて6月2日に開催される、食農イベント「まちアグリネクスト!」では、横山さんご本人から、農業という視点からの将来のまちのあり方、まちと農の関係性について語って頂きたいと思っていますので、記事を読んでいただいた方はぜひイベントに足を運んでいただけると嬉しいです!!
最後に、今回仁尾町をご案内頂いた横山さん、そして各スポットで拠点のお話しをしてくださった仁尾町のプレーヤーの皆さん、本当にありがとうございました。この視察での学びをシティラボ東京のこれからの活動にも活かしていきたいと思います。
最後に、父母ヶ浜らしい1枚を撮影して頂きました〜!!!
文、写真:コミュニケーター今井