【Event Report】防災 ハレとケ 全員主体の行動変容
2025年4月23日、シティラボ東京にて「防災ハレとケ ~全員主体の行動変容~」と題したトークイベントを開催しました。
本イベントでは、近年頻発する気候変動由来の豪雨・異常気象や、将来高い確率で発生が予測される巨大地震への備えを念頭に、「防災」を日常生活やまちづくりの中に自然に組み込むにはどうすべきか、議論しました。当日は合計53名の方が集い、大変盛況でした!
1 イントロダクション(「防災」の現在地)
はじめに災害に備える「防災」が現在どういった状況なのか、シティラボスタッフより共有いたしました。
現在、気候変動によって激甚化する災害として、異常気象やこれまでになかった規模の山火事などが日本各地で起きています。
また、気象だけでなく、南海トラフ地震の発生確率はこれまでの「70~80%」から「80%程度」に引き上げられ、新たに発表された被害想定では、新たに災害関連死が調査され、冬の夕方に発災した場合には最悪2.6万人~5.2万人が震災の影響で死亡する可能性があるとされています。
そのような状況のなか、災害への備えがどれだけ進んでいるか、内閣府が作成する「防災白書」を紐解くと、災害に対して「準備なし」と回答する人の割合は、阪神大震災以降、断続的に震災が発生するなか、徐々に減っていることが分かります。
一方、「準備なし」の回答割合が上昇するタイミングもあり、社会全体をゆるがすような経済的なショックと時期が重なることも多く、「防災」と「経済」は、個人家計レベルから考えても、切っても切り離せない関係があるのではないか、という投げかけをしました。
2 登壇者トーク
▼トーク① ~防災"も"まちづくりの視点から~
最初の登壇者である加藤 孝明さん(東京大学生産技術研究所/社会科学研究所 教授)は、工学的・数理的な防災シミュレーション研究のみならず「防災”も”まちづくり」という理念を提唱し、地域の防災力向上を軸とした実践的なまちづくりモデルに取り組む専門家です。
加藤さんの提唱する「防災”も”まちづくり」は、防災を軸に据えつつも、防災“だけ”でなく、包括的な地域づくりを進める考え方であり、ハード・ソフト両面から地域の力を引き出すアプローチです。研究室では実際に全国各地の特色ある地域と協働し、新しい地域モデルの創出にチャレンジしています。
まちづくりに取り組むにあたり、現場(地域社会)と机上(研究)の往復による知見の蓄積が革新的な解決策を生むものの、双方向、特に現場から机上へのフィードバックが機能不全に陥ることが多いとのことで、加藤さんが最近知ってよく使っているという「OKY(お前 こっちに来て やってみろ)」というキーワードを共有いただきました。
机上での評論や研究だけでなく、実地の地域プロジェクトに飛び込むと、机上のアカデミアに対してOKY!と叫びたくなることが多々あるそうです。笑
現場と机上を行き来して地域の多様なステークホルダーと連携することで、机上の理論だけでは見えない「現場の宝物」を発見できるといいます。
また、加藤先生は、東日本大震災以降、「公助万能論」のような、自然災害への備えは行政が確保しなければならないといった雰囲気があることが気になるとおっしゃいます。
具体例として、東京都内での救急車の台数に触れ、発災後に救急車で搬送できるのは12時間で約2000人程度と試算される一方、首都直下地震では約9万人が負傷する想定があります。
こういった事実から、災害対応には、公助だけでなく、自助・共助・公助の最大化、持てるリソースの最大化が重要になってきています。
地域と連携した防災”も”まちづくりの実例として、静岡県伊豆市土肥地区で昨年完成した全国初の「防災×観光」複合施設をご紹介いただきました。この地域は高齢化と人口減少が進む海沿いの町で、震災による大津波への備えを考えていくときに、そもそも30年後には人的被害ゼロ(=住民がいなくなる可能性)になってしまうことが危惧されました。そこで、同地区では、津波避難タワーに地域の持続可能性を高めるための日常的なにぎわい機能を持たせた「テラッセオレンジトイ」が2024年7月に完成しました。高さ約19mの避難タワーは3階以上に1200人を収容でき、防災倉庫を備える一方、平常時は1階に地元産品の直売所やカフェ、3階にレストランを営業し、美しい夕日が望める観光拠点として機能しています。観光にも防災にも、地域のサステナビリティにもポジティブな影響を与える、防災インフラを日常の地域価値向上に結びつける事例です。
加藤さんの発表を通じて、「日常(ケ)の延長線上に防災を位置づける」という視点や、行政だけでなく地域コミュニティ自らが主体となって防災力を高める必要性が示唆されました。
▼トーク② ~日常に防災を取り込むスタートアップの挑戦~
次に登壇した泉勇作さん(株式会社KOKUA代表取締役)は、防災分野のスタートアップ経営者という立場から「日常生活への防災のインストール」について事例紹介を行いました。
泉さんは幼少期に阪神淡路大震災(1995年)で被災し、大学入学直前には東日本大震災(2011年)を経験したこともあり、強い防災意識を持って学生時代から災害ボランティアに継続的に取り組んできました。社会人になってからも有給休暇で全国の災害現場に駆けつけた経験を持ち、そうしたボランティア活動を通じて知り合った仲間と6年越しに起業したというユニークな経歴をお持ちです。
社名の「KOKUA(コクア)」はハワイ語で「助け合い」を意味し、「一人の力ではなく協力し合うことで防災課題を解決したい」という創業理念が込められています。泉さんの問題意識は、防災の必要性は誰もが頭では分かっているのに、実際には多くの人が何の備えもしていない現状に向けられています。
実際、内閣府の調査でも災害への無備蓄層(何も準備していない人)の割合は年々減少傾向にあるものの依然存在しています。泉さんはまさに「防災に触れる機会がない」=「”0”の層」をいかに”1”にできるか、またそこからさらに防災を進めることが重要だと語り、KOKUAで開発した二つのサービスによるアプローチを紹介しました。
一つ目は、防災カタログギフト「LIFEGIFT(ライフギフト)」です。これは非常用グッズや美味しく長期保存できる食品など厳選した防災アイテムのみを集めたカタログギフトサービスで、誕生日や結婚祝いなど様々なシーンで「大切な人の無事を願うギフト」として贈ることができる商品です。「ギフトを受け取って箱を開け、商品を選ぶ」という一連の体験自体にデザイン上の工夫を凝らしている点も特徴です。
泉さんは「LIFEGIFTの防災グッズを手に取った人が『もしかしたら防災って大事かも』と思うきっかけになれば良い」と語ります。贈り物というポジティブな行動に防災のテーマをのせたギフトは、もらった人が防災に初めて触れる体験を提供しています。実際にLIFEGIFTには「まずは非常食を備蓄してみる」「懐中電灯や簡易トイレを用意してみる」といった“防災の第一歩”へ導く効果があり、企業の記念品や自治体の啓発イベント等にも採用され始めているとのことです。泉さんは、このサービスによって”0”から”1”に導く「なんとなくでも防災を始める人」を増やしたいと強調します。
二つ目は、パーソナル防災診断ウェブサービス「#pasobo(パソボ)」です。特徴的なのは、ユーザーの位置情報と連動して地域の災害リスクも考慮される点で、住所を入力すると、自宅近辺の指定避難所が表示され、南海トラフ巨大地震などでその地点が震度6強以上に見舞われる確率も示されます。さらに、ユーザーの家族構成などの回答内容に応じた防災グッズの提案や不足物リストが表示され、そのままECサイトでの購入も可能です。泉さんは「防災のことを調べるのは時間がかかるし大変。#pasoboで手軽に自分専用の防災計画を手に入れてほしい」と語り、このサービスは、防災を”1”から”10”や”20”に展開するための仕組みだと位置づけています。
泉さんの発表からは、「楽しさ」や「便利さ」といった日常生活の延長線上に防災を組み込む発想や、テクノロジーを活用したパーソナライズ支援によって一人ひとりの行動変容を誘発するアプローチが示されました。
▼トーク③ ~行動変容を促すナッジの可能性~
3人目の登壇者、村嶋 美穂さん(立教大学経営学部 准教授)は、企業の社会的活動と企業価値の関係などを定量分析する経営学者の視点から、「防災における行動変容」と「ナッジ」の概念について考察を提供しました。村嶋さんはまず、日頃から防災意識を維持することの難しさに言及。自分の住む地域で長く大災害が起きていないと「どこか他人事」のように感じてしまう人も少なくありません。また一度大きな災害を経験しても、時間の経過とともに緊張感が薄れていく傾向も指摘されています。そうした「防災の風化」を防ぐ手立てとして注目される「ナッジ」(Nudge)。ナッジとは行動経済学の概念で、人々に強制や義務を課すことなく、環境のデザインによって無意識のうちに望ましい行動を促す手法を指します。
村嶋さんは今回のイベントタイトルにも含まれる「全員主体の行動変容」という言葉について、「理想を言えば私たち一人ひとりが主体的に行動を変えていくのが望ましいけれど、実際にいざ災害(ハレ)の場面で意識的に常に望ましい行動をとるのは難しい」と言います。その上で「ナッジとはいわば“環境主体の行動変容”と言えるのではないか」と述べ、人間の意思や自覚に頼るだけでなく、周囲の環境側から働きかけて人々の行動を変えていくアプローチだと説明しました。
例えば、防災について自発的に学ぶ人を増やすのは簡単ではないが、防災情報が自然と目に入る仕組みを生活空間に組み込んだり、あるいは災害時に思わず体が動くような誘導サインやプロダクトデザインを施したりすることで、結果的に命を守る行動が取れるように誘導できるかもしれない。村嶋さん自身、コロナ禍の前後で消費者の社会志向型商品の購買行動がどう変わったかといった価値観変容と行動変容の分析を行っており、その知見から「人の行動を変えるには、意識を変えるだけでなく具体的な行動を後押しする仕掛けが必要」であると述べました。特に防災のように「なかなか優先順位が上がりにくい重要課題」では、楽しさ・利便性・習慣化といったキーワードがカギになるとし、行政や企業がナッジの考え方を取り入れて防災行動をデザインする余地は大いにあると示唆されました。村嶋さんの発表は理論的な観点からイベントテーマを捉え直し、「全員が主体的に動く理想と現実とのギャップをどう埋めるか」という問いをいただきました。
3 クロストーク
▼防災「も」
三人の発表を受けて、後半はクロストークが行われました。
加藤さんからは「行政(公助)だけで社会全体のリスクに対応しきれるわけではなく、地域コミュニティや個人の自助・共助力を平時から醸成することが必要だ」と言い、自身が各地で感じた現場のリアルを交えて説明されました。
泉さんも、企業やスタートアップが果たせる役割として、行政では行き届かない個人へのきめ細かなアプローチや、新しいサービスによる行動喚起について官民連携の重要性に言及されました。
村嶋さんは、「防災は本来誰もが当事者だが、現実には当事者意識を持てない人も多い。だからこそ環境側から働きかける仕組みで全員を巻き込むことが有効ではないか」と先のナッジの議論に触れつつ、例えば泉さんのLIFEGIFTのように「結婚祝いの定番が防災グッズになる」くらい社会に浸透することで新しい習慣になります。
「新しい習慣を作り、それが文化として定着するレベルまで昇華できれば理想」と加藤さんもおっしゃいました。
また、「今日集まった参加者の皆さんは少なからず共感しているはず。その共感をそれぞれの立場で周囲に広げていけば、防災を当たり前にする力になるだろう」とも語られ、イベント参加者の一人ひとりが自分事としてアクションを起こすことへの期待が示されました。
また、加藤さんから、秋田県の「なまはげ」の文化は、実は防災にもなっているという事例も紹介していただきました。なまはげは、事前に地域の若い男性が個々のお宅に事前にヒアリングし、日常の子どもたちのいたずらや失敗を集めておき、いざなまはげに仮装して「悪い子はえねがー」とお宅に入った際には、その家の子どもの日ごろの悪事を発しながら驚かすそうで、子どもたちからすれば他人が知らないはずのことを知っているなまはげにより畏怖を感じ、日常生活の戒めになる効果があるとのこと。
これは、災害時に活躍が期待される地域の若者が地域の個々宅の内情を知る機会にもなり、地域で防災を高める仕組みにもなっている事例です。
「なまはげってすごいなと思う。子どもすごい怖がる。なぜ怖いかっていうと、見た目が怖いだけじゃない。家族しか知らない秘密をなまはげが知っている」
▼防災を文化に
続いて泉さんは、防災ギフトを文化にしていきたい、というビジョンがあるものの、発信(啓発)だけでは限界があり、ナッジ、という方法論に光明を感じているとおっしゃいます。KOKUAのLIFE GIFTは、企業のブランディングやCSR予算に対しての販路を見出しているなかで、村嶋さんに文化ナッジ的視点でヒントを伺いました。
村嶋さんは、やはり防災だけでなく、もともとあるものに防災を組み込んでいくことで、展開しやすいのではないか、たとえば、学生だと、推し活、カフェ活といった文化・流行に掛け合わせるとお答えになり、泉さんも推し活との掛け合わせは進めたいとおっしゃいます。
泉さん「推し活と防災は是非進めたいと思っています。例えば推しがプリントされた防災ポーチは、日常で持ち歩く抵抗感がないうえ、辛いときに元気がもらえるグッズになる。」
▼防災のブランディング
ここで、加藤さんから、昔は「防災」ってかっこよかった、という発言で、防災のイメージ・ブランディングといった領域にトークが及びます。
加藤さんは、江戸期の火消のアイドル的存在感や昭和の消防団の出初式のかっこよさと比べて、現在の消防団は魅力が足りないのでは、とおっしゃいます。
泉さんは、LIFE GIFTの設計にデザイン性を組み込んでいるので、消防団募集の広告とか、デザインの改善はありそうだとおっしゃいます。
また、加藤さんに行政が防災カタログギフトを全戸配布する事業があるなか、その事業の定量的評価指標があるのか、問いました。
加藤さんは、KPIはいくつかあり、目安は作れている一方で、測りきれないものとして、例えば行政から配られたものとLIFE GIFTでは、貰った側の気持ちがまるで違う、人の心に響くような取組みが大切かもしれないと言い、村嶋さんも共感・物語・ストーリーが大切で、貰った側もLIFE GIFTのギフトは大切にしたい意識も乗るので、「意識」がとても大切だと思うと仰いました。
村嶋さん「共感・物語・ストーリーが大切。LIFE GIFTも「あなたの無事が一番大切」という気持ちを乗せて送られるギフトなので、貰った側は、大切にしたい意識も乗る。この「意識」がとても大切」
▼クロージング
クロストークのクロージングに向けて、改めて今回のイベントのまとめとして、これからの防災と課題についてお話しいただきました。
はじめに加藤さんには、改めてなまはげや消防団的な、存続が危ぶまれる地域の自助・共助的な取組みと今後の取組みの考え方について伺いました。
加藤さん「なまはげは担える人が減り、もうすぐ潰えてしまうと思います。また、現在の都市に持ち込んで成り立つ文化ではない。一方で、同じ効果を持つような新しい何かが必要で、答えはないけれど、発明の余地はあると思う。新しい習慣を作っていく、文化になって確実に残って定着させる。例えば、結婚式のギフトといえば、防災に決まっている、というところまで持っていけるか。そういったことに共感してくれる人をどれだけ広げられるか。「当たり前にしていく」ことをどうやって展開していくか。いろんなレイヤーで重ねていくと非常に大きな力になる。従来の固定化された防災のイメージを進化させていく必要があります。」
泉さんには、これからのKOKUAの事業展開とチャレンジしていきたいことについて伺いました。
泉さん「防災を広めていくことを考えると、例えば金銭的メリットや資産価値向上など、機能的な価値を向上させれば広まると思うけれど、それは限界があります。一方で、防災に情緒的な価値を付ける方法もあるのではないかと考えており、例えば災害ボランティアは限られた人だけになっている現状に対して、COOL JAPANの文脈で、エンターテイメント業界とコラボすることで、ボランティアかっこいい、みたいな価値変容を与えるような導きもあるかと思っている。防災の起爆剤、起点になっていきたいです。企業として売り上げは求めていくが、社会に対して新しい防災のあり方を提唱していきたい。そしてそのモデルを作れたら、世界に出ていきたい。災害大国日本のイメージをポジティブに捉えれば、世界に通用するスタートアップになれると思っています!」
村嶋さんには、村嶋さんには、消費者行動の視点から、今後の防災に関しての知見をお話しいただきました。
村嶋さん「防災もそうだが、内発的なものが大事。外発では動かないので、自分で気づく、やってみたいと思うことが大事だと思っている。データを分析する研究をしているが、人の気持ちの変化、行動経済学に移行してきているところもある。人々の心の変化が最終的なアウトプットにどうつながっていくか、考えていきたいです」
最後に、加藤さんにまとめのご発言をいただきました。
加藤さん「まとめるつもりないけど。笑 内発的、大事。やりたい、と思えるようなものが何か、考えていた。儲かる、自慢できる、楽しい?そういう要素は不可欠だと思う。今の防災を取り巻くものの中で、常識だと思っているが非常識がたくさん紛れ込んでいる。冷静に対策を整理していく必要がある。例えば帰宅困難の状況になったときに、帰宅困難者として避難する。その帰宅困難者を世話する人も帰宅困難者。不思議な状況。そういうものがたくさんあるので、探しながら本来どうあるべきか考え続ける必要がある。21世紀のなまはげを発明していきたい。」
4 まとめ
今回のイベントでいただいたトークの内容を整理すると、3つの論点が提示されたと思います。
▼防災の取組みが多様化していくことの重要性
今回のイベントの下地を整理すると、これまで社会全体で培ってきた「防災」には、自助・共助・公助といった主体のレイヤーがあります。
うち、自助・共助の防災が進んできた背景には、近年断続的に発生している震災の影響や行政などの啓発があります。
一方で、色々な事情で防災に取組めていない人や地域などがあるときに、その対象へのアプローチは、これまでの手法では不十分なのではないか、という問いがあったように思います。
今回は、その問いに対して、KOKUAのようにビジネスアプローチで防災を広める事業を展開している事例に触れながら、これまでの啓発では届かなかった対象に、防災に取組むきっかけや気づきを与えることの重要性が共有されました。
そして、そのアプローチは多様であればあるほどリーチする対象が増えることが想定されることもあり、社会全体で推奨されるべきものであると感じました。
また、加藤さんのトークで触れていただきましたが、防災が公助に依りすぎていることも大きな課題であると考えられ、その実態に関してもKOKUAのようなアプローチが増えることは解消策の一つであると考えられます。
▼自助・共助レイヤーでの防災力向上のための啓発⇔ナッジの方法論
「ナッジ」は、「人の行動を自然に促す、ちょっとした工夫」と表現されることが多く、「北風と太陽」の話に出てくる、太陽の様なもの、またはその仕掛けや事象全体のことを指す言葉です。
行動経済学においてナッジ理論を提唱した経済学者リチャード・セイラー氏は、2017年にノーベル経済学賞を受賞し、大きな話題を呼びました。
今回のトークイベントでは、これまでの方法論としてメディアなどの発災現場の状況発信による気づきや行政などの啓発によって進んできた防災のミッシングピースの一つとして、「ナッジ」が提示されました。
自助・共助の面で防災を広めるナッジな仕掛けには、金銭的なインセンティブだけでなく、人のポジティブな感情を生み出すような制度設計を丁寧に行うことで、ビジネスのサステナビリティはもちろん、社会全体のサステナビリティに貢献する可能性も感じました。
また、これまでの方法論が北風的であるとすれば、KOKUAのLIFE GIFTは、仕組み自体が太陽的だともいえますが、今回は、LIFE GIFTをはじめとした防災への取組みをさらに広めるための「ナッジ」がどのようなものか、という具体的な話しもあり、希望にあふれる未来が垣間見えました。
ただし、「ナッジ」は「人の行動を自然に促す、ちょっとした工夫」で、人の行動や行動した結果を変容させることを目指した方法であり、予期しない変容を生み出さないように慎重に設計する必要があることも付け加えたいと思います。
▼文化にすることと防災ビジネスの未来
防災を広めるための方法として、「生活に組み込む」ことは、能動的に防災に取組まない主体に対して効果的で、誰もが生活をしているだけで防災が進むことは理想的な状態だと言えます。
また、それが文化になるまで社会に浸透するためには、継続したりや広めることに対しての長期戦略も必要です。
今回、クロストークの最後の泉さんのお話しから、KOKUAは現在のサービスに留まらず、グローバルに社会貢献をしていくビジョンを感じ、とてもワクワクしています!
また、これまで文化として共助レイヤーの防災「も」担っていたなまはげは、担い手不足によって持続が危ぶまれている状況です。
これからの地域の共助レイヤーでなまはげ的な発明を考えたときに、文化として存続してきたなまはげは、地縁のコミュニティに関わる人の負担に依ってきたところも多いのではないかと考えられ、現代の地域のあり方と合わせて検討する必要があるように感じました。
さらに言えば、地縁のコミュニティが薄れている現代においては、共助レイヤー単独で取組みを考えることの難易度が非常に高く、自助・共助・公助の複数レイヤー間のやりとりも含めて、それぞれの主体のコストとメリットが最適化されたナッジな制度設計が必要なのではないかと感じています。
今回のトークイベントを通じて、災害に備える、という行動をどのように社会に実装していくか、考える大変貴重な機会となりました。
ご参加いただいた皆さまに改めて感謝申し上げるとともに、ご登壇いただきました加藤さん、泉さん、村嶋さん、関係者の皆様、改めましてありがとうございました!
文責:三井直義
▼会場展示
当日会場にて、学生団体で運営する防災ポータルサイト「防災me」と早稲田大学でナッジ理論を研究する宮川亮さんに展示していただきました。
また、登壇された泉さんが代表を務める株式会社KOKUAにより、同社LIFE GIFTの選べる防災ギフトの展示していただきました。