【Field Report】豊橋市 ビジネスツアー 農業王国豊橋へ!〜食・農のキープレイヤーと語り合う未来の農〜
2025年7月24日、シティラボ東京(以下、CLT)のパブリックパートナー(以下、PP)である豊橋市さんと連携し、ビジネスツアー「農業王国豊橋へ!〜食・農のキープレイヤーと語り合う未来の農〜」を実施しました!今回は、6月2日に開催した食農イベント「まちアグリネクスト!」でご登壇頂いた豊橋市役所の桑原さんのご案内のもと、トークの中でも紹介されていた豊橋市内の取組み等をCLTメンバーと、まちアグリネクスト!参加者で訪問することを目的に企画しました。
豊橋市は、「日本一アグリテックフレンドリーなまちづくり」を掲げ、地域の農業とテクノロジーの融合による持続可能な未来の実現に挑戦しています。今回の現地訪問では、同市が直面する農業の課題や未来に向けた挑戦、先進的なまちづくりの実態について、地域で活躍するプレイヤーの方々からお話を伺いながら理解を深める時間となりました!
※6月2日に開催した「まちアグリネクスト!」の開催後レポートはこちら
▼ 豊橋市ってどんなところ?
豊橋市は愛知県の東南部、三河地方に位置する、人口約37万人、面積262平方キロメートルの都市です。農業・工業・商業のバランスが取れた地域で、特に農業においては温暖な気候と豊川用水という水資源もあることから、多品目の農産物の生産が行われています。近年では次世代型の農業にも積極的に取り組んでおり、市内では、スタートアップや地元企業、行政が連携する形で、農業分野の課題解決や新技術の実装を目指した実証実験やイベントが展開されています。東京・名古屋といった都市圏からのアクセスも良く、都市近郊型の農業地としてのポテンシャルを持ちながら、地域資源を活かした持続可能なまちづくりの実践に取り組んでいます。
▼ スマート農業を推進する未来にむけためぐりとまとの挑戦
初めに訪れたのは、豊橋市でスマート農業に取り組むトマト農家「めぐりとまと」さんです。代表の伊藤さんは、2017年に3軒の農家と共に法人を設立し、翌年にはトマトのブランド化を実施。現在は約9,000平米のハウスで、味の濃い中玉トマトの「あずき」や、収穫後も味が落ちにくい新品種「潤(うるおい)」などを栽培しています。
めぐりとまとでは、ココヤシの繊維を利用した自然由来の「ココピート」を培地とした養液栽培を導入。衛生的かつ場所を選ばないこの方式は、豊橋市でも普及が進んでいます。伊藤さんは土壌栽培の経験も長く、地域の担い手不足や、気候変動における収穫量の不安定化などの課題が深刻化する中「何か次の手を打たないと」と思い、養液栽培へ踏み切ったと話していました。
養液栽培により土を使わなくなったため、レールによる運搬や消毒/灌漑の自動化などが可能になり、かつて3〜4時間かかっていた作業が1時間半に短縮され効率化されています。女性一人でも作業が完結できるとのことです。
また、農業支援ICT「アグリボード」を導入し、作業ごとの進捗や時間を可視化。評価や目標管理にも役立てられ、タイからの実習生も含め、スタッフ間での運用が順調に進んでいます。外国人実習生や人材マッチングアプリ「タイミー」を活用した短期アルバイトの受け入れにも取り組んでいます。
さらに、DENSOのスマート農業システム「プロファーム」によって、ハウス内の温湿度やCO₂濃度・日光は、データに基づいて自動制御が可能になり、地域特有の気候にも柔軟に対応できる体制が整っています。近年は高温期の着果率低下(花は咲くが実はならない)が課題となっており、定植時期の調整など、技術導入後の新たな対応も求められています。こうした変化に対しても柔軟に改善を図りながら安定的な収穫を目指しているそうです。
システム導入により栽培条件が数値で管理できるようになったことで、農家間での共通言語が生まれたのは、農業者間でも大きな変化だったそうです。情報共有も円滑になり、JAの部会など従来の交流機会が減る中、アグリテックが農家同士の連携の一助にもなっている様子を感じることができました。
伊藤さんは、市役所の紹介や独自のネットワークを通じてスタートアップ企業とも積極的に連携し、新技術の導入実証に積極的に取り組んでいます。スマート農業の可能性は大きい一方、導入には高コストや即効性への課題もあり、長期的な視点で先行投資的に活用しているという点において、伊藤さんの事業への柔軟さと将来に向けた覚悟を感じました。
新たな機械の導入や積極的なIT活用を通じて効率化と省力化を進めつつ、農業の未来と持続的な地域との関係性づくりにも向き合う伊藤さんの事業からは沢山の学びがありました。短期的な利益だけでなく、未来を見据えた持続可能性を重視した取り組みは農業界においても今後ますます重要になってくるだろうと感じます。
▼循環型農業を軸に地域の未来を育む 渥美フーズの挑戦
オアシスファームは、地元でスーパーマーケットやレストランを運営する株式会社渥美フーズが展開する循環型農場です。代表の渡会さんは、日々の営業活動で発生する大量の生ごみや食品残渣に対して問題意識を抱き、3年前より自社の食品廃棄物を活用した堆肥づくりを始めると共に、現在は「渥美半島全体のオーガニックファーム化」を目指して活動を展開しています。
同社からは1日あたり約400kgの生ごみや食品残渣が排出されており、これまでは焼却処理を外部委託していたところ、その全てを堆肥造りに転換したことで、年間を通じて処理コストの大幅な削減を実現しています。現在も渡会氏自ら、毎日堆肥小屋へと廃棄物を運搬しています。
堆肥事業の初年度には堆肥舎で大量の虫が発生するという課題に直面。SNSなどを通じてアドバイスを募った結果、「鶏を飼うとよい」という声を受け、養鶏を開始しました。130羽から始まった養鶏は、現在では1,300羽を超え、鶏が産む卵を「めぐるたまご」と名づけて販売。今ではオアシスファームの重要な収益源となっています。
飼育方法にはアニマルウェルフェアの観点から平飼い(ケージフリー)を採用し、卵のパッケージには再利用を促す仕組みを導入。鶏糞は堆肥にも活用され、果樹園の土づくりに活用されています。さらに、採卵用として利用されず通常は殺処分されるオスのひよこも引き取り、果樹園で放牧し除草や害虫駆除に貢献してもらった後、自社ブランド「めぐる放牧鶏」として販売をしています。
オアシスファームは、「内部循環」と「自然共生」を理念に掲げています。地域資源を活かした持続可能な仕組みを構築し、自社の利益のみを追求するのではなく、「働き手・売り手・買い手・世間・自然」の“五方よし”を意識した長期的視点で事業モデルを設計しています。
また、渥美半島にある傾斜地「南地区」の荒廃農地を整備し、草食中心で育つ短角牛の飼育も開始。南地区は太平洋に面した傾斜地で山間部であるためか水捌けも悪く、野菜を育てるには苦労していた土地だったのだとか。2つの牧場で合計7頭を放牧し、将来的な精肉販売も視野に入れています。牧場の整備には、地域の有志団体「小松原みどりの会」の専門家の協力を得ており、高齢者雇用の創出にも貢献しています。
こうした一連の取り組みを、現在は渡会氏自ら主導者として行っています。農地の整備や堆肥造り、動物たちの世話も含めて機械化されていない分、手間と時間を要しますが、自らが動くことで地域の課題を肌で感じ、人々との信頼関係を築くことができているのだとか。
事業の原点は、コロナ禍ではじめた農作業だったそう。外に出て土を触りながら、自然の中に身を置くことの心地よさや自然環境の大切さを身に染みて感じたそうです。自然の循環に沿って地域経済を育むことができれば、短期的には非効率に見える取り組みも、やがて人や自然を巻き込みながら持続可能なシステムへと成長できるという、強いビジネスへの可能性を渡会さんは感じているといいます。
今後の事業構想には、こうした循環を「東三河モデル」として体系化し、他地域へも応用可能な地域循環のスキームとして広げていくことを考えているそうです。更に教育分野への展開も視野に入れた、持続可能な社会を次世代と共に育む仕組みづくりを意識されています。オアシスファームの取り組みは、自然・人・動物が調和しながら育まれる新しい地域経済の可能性を体現しており、今後のまちづくりやソーシャルビジネスにおける持続可能なモデルとして沢山の学びがありました。今後の展開にも注目していきたいです。
▼ ひととまちをつなぎ、産直と交流を育む地域の縁側、「道の駅とよはし」
2018年に設立された「道の駅とよはし」は、観光客や地元住民など年間約220万人が訪れる人気スポットです。生産者と消費者をつなぐ拠点として注目され、「まちアグリネクスト!」でも豊橋市の農業・まちづくりを支える場として紹介されました。今回ご案内いただいたのは、行政経験を持ち、副駅長としてマーケティングやブランディングを担う吉開さんです。
現在、道の駅は日本全国で約1,230か所に上り、国としても地域内の多様な主体を繋ぎ、まち全体の魅力を高める拠点とする方針を打ち出していることから、その数は毎年増加しています。しかし、持続的かつ安定的な経営という観点からは、地域と連携しながら利益を循環できている事例はまだ多くはないそうです。
今後、地域が主体となり、生産者やプレーヤーとの関係を築き、地域特性を活かしたマーケティングやブランディングを進めていくことが道の駅の業界全体にも期待されています。道の駅とよはしは「ひととまちをつなぐ、豊橋の縁側」を掲げ、産直野菜を扱う「あぐりパーク食彩村」、落ち着いた空間の「Tomate(トマッテ)」での飲食・名産品販売、屋外マルシェなどを展開。地域の魅力発信と交流拠点づくりを先端的に進めています。
特に力を入れているのが、産直野菜の販売。消費者に最も近い立場として、農家の魅力、野菜のおいしさを最大限に伝えることをミッションとし、契約農家は約550名にも上り、年間15億円の売上を誇ります。卸を通じて流通網に乗せる流通野菜とは異なり、農家が市場(道の駅)まで直接野菜を持ち込むため、流通を担う卸への仲介料も減り、農家の収入増加に繋がるだけではなく、消費者にとっては新鮮な野菜を安価に入手できるメリットがあります。
販売のしやすさにも工夫が凝らされていました。値段シールの自動生成の仕組み化や、売り場の構成、見え方にもこだわり、より簡単に、魅力的に消費者にお届け、販売できる環境を整えています。また、農家の販路拡大を目的とした定期的なイベントも開催。「すいかフェス」など、季節に合わせたイベントを企画することで、農家にもお客様にも喜んでいただける場を作り続けており、生産者と消費者のリアルなコミュニケーションが生まれる貴重な場づくりを行っています。
また、農業の課題解決にも主体的に取り組むことを目指し、耕作放棄地の活用にも挑戦。さつまいもの生産や販売を行い、話題性の在る商品の開発にも取り組んでいます。今後は敷地拡張や公園併設も計画中で、「道の駅だからこそできる地域の場づくり」を目指し続けています。
明るく遊び心にあふれる吉開さんのお話からは、強い熱意と地域愛が伝わってきました。農家やスタッフと想いを共有しながら、豊橋の魅力を発信し地域に貢献する姿勢に、多くの学びを得ました。道の駅から生まれる新しい豊橋のカルチャーに期待が高まります。
▼ 豊橋の魅力である「食」を一つのテーマとする再開発
豊橋駅から徒歩5分程の駅前大通沿いに位置する「emCAMPUS」は、サーラ不動産株式会社が手がけた再開発(豊橋駅前大通二丁目地区再開発)で、住宅を主用途とする複合施設です。2021年にemCAMPUS EASTが、2024年にemCAMPUS WESTが竣工しました。サーラ不動産は、ガス・エネルギー事業を中心に生活基盤を支えるさまざまな事業を展開するサーラグループのグループ会社で、1965年創業以来、愛知県東三河および静岡県遠州を中心に、不動産関連事業・まちづくり事業に取り組んでいます。emCAMPUSのコンセプトは『あなたの「笑む」が満ちるキャンパス』。食・学び・健康の3つをテーマとして施設展開をしており、今回はemCAMPUS EASTに入る「豊橋市まちなか図書館」「emCAMPUS STUDIO」「emCAMPUS FOOD」を見学しました。
「豊橋市まちなか図書館」は、従来の静かに読書を楽しみ、勉強をすることが主目的の図書館とは違って、友人や家族で集い語り合えるスペースをふんだんに整備されたユニークな図書館です。訪問した日も学生たちが放課後の時間を友人同士で楽しんだり、集中できるスペースでは勉強にいそしんだり、親子が絵本を読んだり、多様な目的に合わせたスペースの利用を見ることができました。「emCAMPUS STUDIO」は「まなびプログラム」、「チャレンジ支援」、「貸会議室」、「コワーキングスペース」の4つのサービスを展開し、様々な人や場所、知識との出会いを提供しています。
中でも「emCAMPUS FOOD」は、「東三河の食の発信拠点~FOOD FOREST~」をコンセプトに東三河を中心とした豊かな食の素材を「買って・食べて・楽しむ」ことができる空間を提供しています。再開発ビル1階の広場に面した一等地に自社経営で設置されており、地域物産を販売するマーケットや東三河の食をたっぷり楽しめるフードホールを運営しています。「物理的な「床」としての価値に加えて、今の時代は空間が持つ意味や繋がりをどうつくっていくかが大切(同再開発組合webページより)」との想いが現場の様子からも伝わってきました。
実は今回のビジネスツアーの最後はこのフードホールで交流会、東三河のお野菜やお肉と美味しいビールをたくさん頂いて参加者の皆さんの仲も深まりました!
▼ 水上ビルに見るディープな豊橋
今回のツアー、最後に案内頂いたのはemCAMPUSに隣接する「水上ビル」。emCAMPUSの前に建っていた百貨店建設時に、当時そこにあった大豊商店街が集団移転する先として、隣接する川の上(つまり暗渠) に建物を建てたことで水上ビルと言われるようになりました。今回お話を伺った大豊商店街 理事長であり建築家の黒野さんは、一時は空き店舗が目立ってしまった大豊商店街/水上ビルを現在の素敵なディープ空間に蘇らせたキープレイヤーの一人です。
2015年頃、自営業で使っていた1階をテナントとして貸すことに抵抗を感じてシャッターを閉めてしまっていたオーナーたちに、黒野さんは「まずはイベントとして土日だけでも1階を貸して欲しい」と呼びかけました。土日にマーケットを開催するようになった商店街は賑わいを取り戻し、だんだんと入居したいと申し出る人が現れたので、随時オーナーとマッチング。現在のようなユニークな店舗が並ぶディープな水上ビルが出来上がっていきました。
築60年のRC建築はコンクリート寿命と睨み合いながらどこまで頑張るか、どう終息するか検討中。建築基準法上は既存不適格(通常、暗渠の上に建物は建てられない)であるため建替えをすることはできませんが、積み重ねてきた文化とアイデンティティをどこまで繋ぎ、どう後世に残すか、これからの歩みも楽しみです。
▼これからも続く、シティラボ東京ビジネスツアー!
CLTのビジネスツアーは、同じくPPである宇都宮市さんとの連携をきっかけにスタートした取り組みで、今後も全国各地に点在するPPの現場をCLTメンバーと共に訪ねて開催していきたいと考えています。今回はCLTイベントと絡めて企画してみましたが、トークセッションでの情報や議論を前情報として持ちながら現場を訪れることの深みも感じることができました。現場の取組みから学び、リアルな課題を捉え、新たなビジネスがCLTメンバーの皆さまの中で芽生えることを願って。今後のビジネスツアーもお楽しみに!
最後になりますが、豊橋市桑原さんをはじめ、今回ご案内いただきました皆様、誠に有難うございました!
次回は11月、仙台市へのビジネスツアーを予定しています!
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