【Special Report】サステイナビリティ特化型ベンチャーコミュニティ「City Lab Ventures」が始動! [後編]
2019年4月19日、サステイナビリティ・コミュニティ「City Lab Ventures(シティラボ ベンチャーズ)」の発足式および記者会見が行われました。前半でのコミュニティとしての思いや今後の活動の発表に続き、後半は発起人の各社代表がそれぞれの事業概要を披露。Special Report後編では、参画企業の各代表が語った、サステイナブルを軸にした事業内容やユニークな取り組みを紹介します。
写真/石川望 構成・文/ウィルソン麻菜
地球資源をただ消費するだけではない世界へ
記者会見の後半、事業概要の紹介は、新素材の開発で水や木、石油などの地球資源の消費・枯渇問題の解決に取り組むTBMの代表取締役CEO、山﨑敦義氏からスタート。
同社が開発したLIMEX(ライメックス)は、世界中で無尽蔵にあるといわれている石灰石を活用した新素材です。紙やプラスチックの代替品として、全国チェーン飲食店のメニュー表や、企業などが発行するサステイナビリティを意識した紙媒体、食品容器や買い物袋、ホテルのアメニティなどにも採用され始めています。
昨今、同社はサーキュラーエコノミーにも力を注いでいます。ただ消費するのではなく、使用したLIMEXの紙代替製品を回収してプラスチック代替製品に再製品化するアップサイクル事業に、神奈川県や、福井県鯖江市と共に取り組み始めました。
環境に与える負荷の大きさが徐々に明らかになってきた、プラスチック。TBMは脱プラスチックについて、日本だけでなく世界中で取り組むべき問題だと考え、現在、世界中にあるプラスチック工場の設備でそのままLIMEXをつくれるレシピの開発を進めているといいます。
「紙やプラスチックの代わりにLIMEXが繰り返し使われるサーキュラーエコノミーのモデルを世界中に展開し、資源の枯渇に大きく貢献していきたい」と話しました。
廃棄予定の繊維製品を資源と見なしシェアする
「228億とは何の数字でしょうか? 」と会場に問いかけたのは、アパレル業界の不動在庫を企業間で売買できるサービス「スマセル」を通じ、廃棄のない循環社会を目指すウィファブリックの代表取締役社長、福屋剛氏。
福屋氏が示した「228億」という数字は、世界で廃棄される、1年あたりのアパレル繊維製品の着数です。その量は日本だけでも、毎年約40億着に上ります。売り切れを防ぐため大量につくった結果、残った在庫を安く叩き売り、最終的には廃棄するという現実がアパレル業界にはあります。
「デッドストック」と呼ばれる不動在庫は、販売に費やす時間、廃棄にかかるコスト、焼却・埋め立てによる環境破壊など多くの問題を抱えています。これまで販売先が見つからず廃棄処分になっていた不動在庫を、スマセル上で、原料・原価ベースで販売した場合、4100万トンのCO2削減が見込めるといいます。
「デッドストックをゴミとして扱うのではなく、循環する資源として活用すれば、持続可能な社会に寄与できます。ウィファブリックでは、デッドストックを業界全体として取り組むべき問題と捉え、自らの事業も進めて行きます」
ミドリムシで実現する、人と地球の健康
続いて、微細藻類のミドリムシ培養技術を用いて食料問題や環境課題に取り組む、ユーグレナの特命担当室テクニカルディレクター、村花宏史氏が登壇。
機動的で光合成ができるユニークな生き物、ミドリムシの栄養素に着目した同社は、食品や化粧品、バイオ燃料などの研究開発、さらには遺伝子解析にまで事業領域を広げてきました。
代表取締役社長の出雲充氏が、大学時代にバングラデシュで目の当たりにした子どもたちの深刻な栄養不足問題を解決したいという思いから設立された同社。現在、ユーグレナをクッキーに練り込んでバングラデシュの小学校や難民に配布する活動を行うなど、その思いの一端を実現しています。
またユーグレナは手頃な健康食、バイオ燃料、藻類初の持続可能な食品であることを示すASC-MSC海藻(藻類)認証の枠組みで6つのSDGsに取り組んでいます。
社会課題を解決する人々のプラットフォームを生む
4番目は、「社会起業家のための会社」という他社と違う視点から社会問題に取り組んでいる、ボーダレス・ジャパン代表取締役副社長、鈴木雅剛氏。同社は2006年に創業し、13期目となる現在、8カ国で24事業を進めています。
「社会問題に対して、これまでも政府、NPO法人や市民団体がすばらしい活動をしてきましたが、まだ間に合っていない。経済活動を通じた社会課題の解決が重要です」と鈴木氏は語ります。
ソーシャルビジネスに取り組む社会起業家を生み出すとともに、その事業拡大に特化した社会起業家のプラットフォーム。ボーダレス・ジャパンはさまざまな事業を通じて培ったノウハウ、資金、人材などの関係資本を、各事業や新事業で共有することで、人々が課題解決に向けてチャレンジできる世の中を目指しています。
町工場の技術で、世界の“節水”に挑む
高野雅彰氏が代表取締役を務めるDG TAKANOは、水道から出る水の最大95%を節水できるノズル「Bubble90」で一躍有名になった企業です。
業務用ガスコンロの火力を調整するつまみ部分をつくる、東大阪の町工場の3代目として生まれ育った高野氏。誤差1000分の2ミリ以下に精度を保つ世界有数の技術と、デザイン思考を使って開発された「Bubble90」は、マシンガンのように水の玉が連続して飛び出すよう設計されています。蛇口から出る水の9割が節水されているにも関わらず、使用者はそれにほぼ気付かないといいます。
「導入した企業は数ヶ月でコストを回収し、利益を出しています。環境の負荷を減らしつつ、結果として、今までなかった形でお金を生み出している。今後“Bubble90”を世界で展開していきたい」(高野氏)
再生可能エネルギー100%の世界を目指して
最後を飾ったのは、自然電力の風力・水力・バイオマス事業部長、花吉哲芝氏。「エネルギーから世界を変える」をビジョンに掲げ、再生可能エネルギーに特化した電力会社です。太陽光、風力、水力、バイオマスの発電所をそれぞれゼロからつくり上げ、再生可能エネルギー由来の電気を届けます。
「劇的に変化するエネルギー業界において、2040年の再生可能エネルギーの比率は世界のエネルギーの60%を超えると言われています。そのような中で、世界中が日本の再生可能エネルギーへの転換に興味を持ち、また、期待しています」(花吉氏)
同社は昨今新たに、再生可能エネルギーの地産地消モデル事業に取り組み始めました。長野県小布施町の自治体と地元企業と協力し、小水力発電所や屋根置き型の発電所をつくり、地元で消費するサイクルの構築を進めています。
出会い、集い、学び合う場から生まれるもの
質疑応答では複数の記者が挙手し、多くが「City Lab Venturesが取り組む環境課題の領域」について問いました。
「現時点で領域は定めていません。環境・社会課題は、SDGsにもあるように広い領域に渡っています。発起人をはじめ、これから参加する企業と一緒に考えていきたい」(笹木氏)
City Lab Venturesの掲げる3つの価値観は「多様・誠実・活発」。異なる背景と能力を備えた多様な人々が集い、サステイナブルな世界を目指して本気で考え、アクションを起こしていく。これから彼らが歩み出すのは、そんなサステイナブルへの態度が当たり前となる世界です。
シティラボ東京はそのような人々が出会い、集い、学び合う場を提供し、サステイナブルな世界への変革をサポートしていきます。
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