【Interview3_1】社会はCSRで「守り」、SDGsで「動かす」(前編)
株式会社クレアン代表取締役、NPO法人サステナビリティ日本フォーラム事務局長
薗田綾子 Ayako Sonoda
2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」。“誰一人取り残さない”持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、飢餓、貧困、教育、エネルギー、気候変動など17の国際目標で構成されています。シティラボ東京のメンターの一人であり、CSR(企業の社会的責任)コンサルティング事業などを通して企業の活動をサスティナブルな方向に転換し、SDGs推進に尽力している薗田さんに、今までの取り組みや今後の展開などについて伺いました。
写真/鈴木愛子 構成・文/吉川明子
女性が活躍する社会を願い起業へ
――昨年、クレアンが創業30周年を迎えました。どういういきさつで起業されたのですか?
薗田綾子氏(以下、敬称略):父はサラリーマンでしたが、母は甲子園球場の近くで小さなお菓子屋さんを営んでいました。私が小さい頃は周囲にお店がなかったので、お客さんのニーズに合わせていろいろな商品を扱い、ミニコンビニのような感じでした。母は家事も育児も仕事もしながら、さらには祖母の介護までしていたのでスーパーウーマンのような存在。その姿を見ながら育ってきた私は、女性も仕事を持つのが当たり前だと思って育ちました。そんな母がずっと言っていた言葉が2つあります。それは、「人に迷惑をかけなさんな」「人のお役に立ちなさい」というものでした。母は5年前に亡くなったのですが、その時に、私がずっと携わってきたCSRとSDGsの推進にこの言葉がつながっているということに気づいたんです。
――企業は利益を追求するだけでなく、環境を守ったり、社会に還元するという点に重なるということですね。
薗田:「人に迷惑をかけない」は、どちらかというとCSRでは守りの姿勢。一方、「役に立つ」というのがSDGsに対するアクション。イノベーションをどんどん起こし、マイナスをなくすのはもちろんのこと、さらにはプラスの価値を生み出すことが、社会の役に立つことにつながっていくと思うのです。
――女性も仕事を持つのが当たり前という意識で大学を卒業され、まずは広告代理店に就職されたんですね。
薗田:何か影響力のあることをしたいと思っていたので、広告代理店を選びました。でも、当時は女性が活躍を続けられるような職場環境でなく、結婚したら会社を辞めて専業主婦になる人ばかりでした。私は結婚や子育てをしながら、ライフワークになるような仕事を続けたいと思っていたので広告代理店を辞め、リクルートに転職しました。リクルートは非常にフラットな組織で、男女平等でいろいろなチャンスがありました。大変でしたがやりがいがありました。早朝から終電まで働き、土日はレクリエーションや勉強会に参加したり。
でも、急に突発性急性難聴炎で倒れてしまって……。20日間入院し、そのあと休職していろいろ考えました。影響力のある仕事をしたいと思っていたけれど、どんな影響を誰に与えて、どんなふうに社会を変えていきたいと思っているのか? 本当に自分のやりたいことは何なのか? 広告代理店とリクルートで働いてみて、会社の枠組みの中にいて、能力があるのに十分に発揮できていない人や、本当にやりたいことがあるのにできない人がいて、特に女性はふつふつとしたものを抱えているのを目の当たりにしました。そういう女性が集まって能力が発揮できる場をつくるために起業を決意しました。25歳の時のことです。
――“場づくり”は今の薗田さんの活動にも通ずるところがありますね。
薗田:ポジティブに自分の能力を発揮でき、いきいきできる場づくりは、私にとってのライフワークになっています。
企業の戦略的なCSR活動をサポート
――起業当初は女性を中心としたマーケティング会社でした。どのような流れで環境問題に取り組むようになったのでしょうか。
薗田:クレアン創設から4年後の1992年にブラジルのリオ・デジャネイロで国連環境開発会議(地球サミット)が開催されました。この会議を通じて、地球規模の環境破壊が深刻な問題として世界中に認知されるようになりました。当時はまだ、地球温暖化やオゾン層破壊の問題について取り上げるメディアが少なかったこともあり、まずは多くの人に地球環境問題について知ってもらいたいと考えたのです。1995年から親子で読める「地球は今」(10巻シリーズ)の編集制作を行い、1997年からインターネット上の環境マガジン「エコロジーシンフォニー」をスタートさせました。これらがきっかけになって企業からエコライフに関する講演が舞い込むようになり、環境/CSRレポート制作支援事業、CSRコンサルティング事業へと広がっていきました。
――クレアンでは、単にCSRレポートの制作を請け負うのではなく、企業の方と一緒に企業の活動全体をサステイナブルな方向に転換していくのが特徴ですね。
薗田:2002年くらいから本格的にCSRに関わるようになりました。CSRは狭義では社会貢献やコンプライアンスといった、どちらかというと守りの側面が強いように捉える人も多いのですが、そうではなくて、自分たちのビジネスを通して戦略的にやろう、という広義のCSR推進を働きかけてきました。CSRのRは本来Responsibility(責任)ですが、この言葉を「責任ではなく、信頼と訳してください」といつもみなさんにお伝えしています。ステークホルダーとの信頼関係に加えて、従業員、お客様、地域など、みんなとwin-winの関係をつくって行くべきだと思うからです。
――2015年9月の国連サミットでSDGsが採択されました。それに伴い、クレアンもCSRの延長線上として、SDGs関連の業務が増えていったわけですが、SDGsの理念は広く一般にまで浸透しているのでしょうか?
薗田:電通の調査によると認知度は16%ですが、「何らかの行動を取っていますか?」という設問に対しては60%がやっているという答えでした。「SDGs」という単語は聞き慣れなくても、実はすでにいろんなアクションをやりはじめていて、特に感度の高い若い女性の間では関心が高まっています。昨年12月には女性誌「FRaU」(講談社)で、国内の女性誌では初の試みとして1冊まるごとSDGsの特集が組まれ、私たちも監修として関わりました。
ところで、SDGsを考える時に「SDGsウエディングケーキ」と呼ばれる関係図があります。まず生命を守る環境が土台にあり、その上に社会や経済の課題が重なり、最上位にパートナーシップがくるというものなのですが、ビジネスマンを対象にした講演会でこの話をすると、どうも土台は環境ではなく経済で、そこにちょこっと環境や社会が加わる、という認識の人が多いようです。
もし、「生命とお金のどちらが大事?」と聞かれたら、みなさんは「生命」と答えますよね。でも、それは自分や家族、大切な人の生命との比較であって、「発展途上国の子どもの生命と自分のお金のどちらが大事?」と聞くと、皆さん迷ってしまいます。もちろん、迷うのは当たり前のこと。ただ、そこで少しは発展途上国の子どもや、未来のことを考えながらバランスを取ることが大切ではないでしょうか? 自分のお金の数%だけでもいい。また、自分の時間や能力を使うなど、いろんなことができるはずなんです。
(後編に続く)
【薗田綾子 Profile】
兵庫県西宮市生まれ。1988年、女性を中心にしたマーケティング会社クレアンを設立。1995年、日本初のインターネットウィークリーマガジン「ベンチャーマガジン」を立ち上げ、編集長となる。並行して環境・CSRビジネスをスタート。現在、延べ約600社のCSRコンサルティングやCSR報告書の企画制作を支援している。特定非営利活動法人サステナビリティ日本フォーラム事務局長、特定非営利活動法人社会的責任投資フォーラム理事、環境省チャレンジ25キャンペーン関連事業推進委員会委員、内閣府「暮らしの質」向上検討会委員、日経ソーシャルイニシアティブ大賞審査員などを歴任。東北大学大学院および大阪府立大学大学院の非常勤講師。