【Special Report】 City Lab Ventures 初のオープンイベント「ビジネスによる社会課題解決@課題先進国ニッポン」
2019年7月24日、サステイナビリティ特化型ベンチャーコミュニティ「City Lab Ventures(シティラボベンチャーズ)」の第1回のオープンイベントを開催しました。このイベントは、ベンチャー企業同士はもちろん、ベンチャー企業とシティラボ東京に集う自治体や投資家など様々なプレイヤーとのつながりを一層形成・強化することを目指し、隔月に行うものです。
写真/鈴木愛子 構成・文/三上美絵
今回のテーマは「地域との共創」。環境・社会課題解決型ベンチャーと地域との共創事例を通し、実証フィールドとしての地域の可能性、地域を通したビジネス成長のカギを探りました。
冒頭、東京建物まちづくり推進部のシティラボ東京プロジェクト・マネージャー、冨谷正明が「シティラボ東京ではイベントを通してサステイナビリティに関する知見を提供し、最終的に社会実装までつなげたいと考えています」とあいさつ。
続いて、TBMのサステナビリティ・アクセラレーター、羽鳥徳郎氏がCity Lab Venturesの活動について説明しました。その後、ベンチャーと地域の共創事例として、「TBM×神奈川県」「ユーグレナ×石垣島」「自然電力×長野県小布施町」の情報提供がありました。
【TBM×神奈川県】
新素材「LIMEX」でアップサイクルのシステムを構築
最初に神奈川県理事(いのち・SDGs担当)の山口健太郎氏とTBM経営企画本部ニュービジネスデザイナー岡澤友広氏が「TBM×神奈川県」の事例を紹介しました。神奈川県は、内閣府の進める「SDGs未来都市」および「自治体SDGsモデル事業」に選定されています。
県の取り組むSDGsの重点テーマのうち、TBMと連携しているのが、「かながわプラごみゼロ宣言」です。TBMの開発した「LIMEX」は石灰石を主成分とし、紙やプラスチックの代替となる新素材。山口氏は「LIMEX製品を使用後に回収、ペレット化した後に新たな別の製品としてアップサイクルするシステムの構築を目指しています」と説明します。使用・回収・再製品化の各プロセスのパートナーを拡充するべく、2019年5月29日にコンソーシアムを発足しました。
【ユーグレナ×石垣島】
生産拠点を置く島の振興活動を推進
次に登壇したのは、ユーグレナ特命担当室テクニカルディレクターの村花宏史氏。ユーグレナは2005年に世界で初めて微細藻類ユーグレナ(和名:ミドリムシ)の屋外大量培養に成功した東京大学発ベンチャー企業で、2014年に東証1部上場を果たしました。現在はこの技術を基に、健康食品や化粧品の開発・販売のほか水質浄化、バイオ燃料の生産に向けた研究を通じてSDGsを推進しています。
村花氏は「生産拠点のある石垣島に恩返しをしたいと、さまざまな離島振興に取り組んできました」と話します。商店街や離島ターミナルのネーミングライツを取得して活性化を進めるとともに、スポーツイベントや環境教育を通した振興活動「みーふぁいゆープロジェクト」も積極的に推進。また島内企業の協力のもと、ユーグレナをつかった食品開発に取り組み、島内のレストランなどで提供しています
【自然電力×長野県小布施町】
エネルギーの地産地消で新たな地方創生のモデルを
3事例目は、自然電力エナジーデザイン部マネージャーの佐藤李子氏、ハウスホクサイ代表理事、小布施町役場企画政策課(地域おこし協力隊)の塩澤耕平氏、ながの電力の塩澤美幸氏が登壇しました。
自然電力は福岡市に本社を置く再生可能エネルギーの発電事業者。佐藤氏は「電力の自給を検討していた小布施町から相談を受け、現地調査を経て小水力発電所を建設しました」と経緯を説明しました。町、地元ケーブルテレビ会社とともに電力小売事業者としてながの電力を設立。発電した電気をながの電力が需要家に販売し、自然電力が供給しています。
長野県のSDGs推進企業に登録されたながの電力は電力の販売だけでなく、景観に配慮した「デザインソーラーパネル」の開発や環境教育、スポーツイベントへの協力などを実践。小布施町が「人と自然エネルギーが心地よくつながるまち」として、新たな地方創生のモデルケースの一つとなることを目指しています。
行政トップとの良好なコミュニケーションがカギ
ディスカッションでは、ベンチャー企業と自治体、双方の立場から連携の実際について話し合いました。
まず、自治体との連携のきっかけについて、神奈川県の山口氏は「プラスチックごみゼロの具体策を探すなかでLIMEXを知り、さまざまな企業がこれを取り入れることでソリューションのタネになると思い、TBMと組むことにしました」と振り返ります。TBMの岡澤氏も「以前から横浜市の青年会議所と水資源に関する取り組みをスタートしていたことから、山口理事や黒岩知事を紹介していただきました」と補足しました。
ユーグレナの村花氏は「石垣島で生産を開始した当初は、島の人たちとは距離がありました。代表の出雲が島へ何度も足を運び、大濱市長、後に中山市長とコミュニケーションを重ねるうち、島のために何ができるか考えるようになり、ネーミングライツの話を聞いたときにすぐ手を挙げたのです」と話します。
自然電力の佐藤氏は「代表の磯野が小布施の隣町の出身で地域の方と話しやすかったことと、大きかったのは小布施町の市村町長のリーダーシップでした。行政がエネルギーの自給や景観への取り組みに熱心だったので、スムーズに進んだと思っています」と分析します。
地域でプロジェクトを進めるにあたっては、人と人、特に行政トップとのつながりが重要だということが、登壇者たちの一致した意見でした。
SDGsは合意形成の新ルートを開く共通言語
TBMの岡澤氏が「従来の県の組織ではさまざまな部署と折衝が必要でしたが、神奈川県ではSDGsの専門部署ができ、窓口を担ってもらえ助かりました」と話すように、行政や地域の人々と議論する際に、SDGsが共通言語としての役割を果たすことも明らかになりました。
一方、ファシリテーターの羽鳥氏は、行政側はパートナーとなる企業をどのように選択しているのかを問いかけました。多くの企業から協働を打診されるという神奈川県の山口氏は、「どこまで本気か、つまり長い目で見てどこまで共感できるかで判断する」と言います。
また山口氏は、行政が企業と連携するメリットについて「県民にSDGsを理解してもらう難しさを感じていますが、企業の顧客を通じてアプローチすることで、役所の情報伝達ルートとは別な広報ができます」と述べました。その意味で、ユーグレナや自然電力が地元で展開する環境教育も、子どもからから親への伝達によってSDGsの浸透に役立つことが話題になりました。
口々に語る共創の未来像
最後に小布施町の塩澤氏は「町としてどう環境にコミットしていくのか。それを明確に提示する未来戦略を検討していきたい」と抱負を語り、ながの電力の塩澤氏も「町の景観や暮らしに合ったソーラーパネルの開発や教育コンテンツの強化などやりたいことはたくさんある」と協働の意気込みを語ります。
ユーグレナの村花氏は「地産地消モデルを広めて石垣島を健康な島にしたい」、神奈川県の山口氏は「SDGsの認知を広め、それを行動に移すプロセスにつなげたい」、TBMの岡澤氏は「自治体と組んでアップサイクルの新しい仕組み『神奈川モデル』を確立したい」とそれぞれ語りました。さまざまな可能性を秘めた「ベンチャー×地域」のコラボレーション。共創の未来は多彩に広がっていきそうです。