2020.02.17 持続可能な暮らしをデザインするとは? SDGs×都市デザインを語る-SDGs日本モデル宣言vol.4-
SDGsのDは「Human Development」?
シティラボ東京が企画するSDGsに焦点を当てた連続トークイベント、「SDGs日本モデル宣言を読み解く」。第4回目の今回は、過去3回のイベントの中で議論された政策的概念や若手プレイヤーの視点、経済活動を、いかにつなぎ合わせインパクトを生むことができるのか、空間を媒介として暮らしをデザインしている建築/都市デザイナーをお招きし、お話を伺いました。
当イベントシリーズのコーディネーターの、SDGs普及の第一人者でSDGs日本モデル宣言の発案者でもある川廷さんによれば、今やSDGsに賛同する自治体は200を超えているといいます。川廷さんは、Sustainable Development GoalsのDevelopmentとは、Human Developmentであり、SDGsとは一人ひとりが持つ可能性が十分に発揮され、自己実現ができる社会をめざすことだと解釈してはどうかと提案。そしてこの社会の実現には、一人ひとりの安心安全な暮らしを守っていく「Human Security」が担保された社会を同時に目指すことが大事であると語りました。
また、今回の「空間デザイン」というテーマに合わせて、国内で初めて新築戸建でFSC認証を取得した川廷さんの自邸についてもご紹介。素材の一つ一つに気を配り、仲間たちと共につくり上げるプロセスこそがSDGsを体現していました。
自分たちの居場所をつくる
本日のゲストスピーカーの1人目は、慶應大学教授、小林+槇デザインワークショップの小林博人さんです。小林さんは、日本の「町」の歴史を紐解くことからはじめました。”町とは、みちのことを指す”という歴史的解釈から、江戸時代のストリート空間の様子を観察してみると、実は多様な人種による多様なアクティビティが繰り広げられていたことが見えてきます。さらにそのダイバーシティは路地などスケールが小さくなるとより濃密になっており、時間も物資も空間もシェアしながら成り立っていたことがわかります。つまり、当時の都市はみんなの居場所が共存していて、SDGsが今以上に成り立っていたと解釈できるのです。
次に、現代の都市の中に自分たちの居場所をつくっていくにはどうすればよいのか、ご自身の挑戦を事例として説明します。東日本大震災以降にはじめた参加型デザインビルドプロジェクトの「ベニアハウス」や未来創造塾「Student Build Campus」そしてSDGsを考えながら設計をすすめる「SDGs Running Design Station」など、国内外、大小の建築内部空間から屋外空間まで、さまざまなプロジェクトを通して、エンドユーザーがデザイン、施工することで、オーナーシップが高まり都市の中に自分の居場所が生まれていくことを示しました。
場所を読み解き、個をいかす空間を設計し、豊かなくらしの舞台をつくる
続いて、マーケットのスペシャリスト、O + Architecture代表の鈴木美央さんのお話です。イギリスの建築事務所に勤めていた頃に感じた建築設計の限界とマーケットの可能性を出発点として、日本でマーケットを研究テーマに博士号を取得した鈴木さん。このマーケット研究が、鈴木さんの空間デザインの可能性を大いに広げました。
実践の場として鈴木さんが選んだのが、「なにもないまち」と思われている郊外のニュータウン。誰にも使われていない広場を利用して、このまちに暮らすよろこびを引き出すプロジェクトを実施しました。マーケットを開催して間もない頃は、人もまばらでした。しかし10回目になるころには、マーケットがある風景がニュータウンの楽しい日常として根付き、出店する人たちはもちろん、遊び回る子どもたち、昼寝するお父さん、ピクニックをする若いカップルなど、多様な人種による多様なアクティビティが生まれていました。
地域住民一人ひとりが輝ける居場所をつくる実践の場はどんどん拡大し、道の駅の広場デザインや商店街再生プロジェクトへ発展します。それぞれのプロジェクトで場所性を読み解き、人と向き合うことで、豊かな風景がうまれていきます。
人のつながりをデザインする
クロストークでは、会場にいらした東京大学准教授の村山先生からの「商店街組合や自治体など、様々なステークホルダーとの調整が不可欠になり、なかなかプロジェクトが前に進まないという問題が頻繁に起きますが、お2人はどうしていますか?」という質問に対し、鈴木さんは「あなたが言うならいいよ」という関係をつくり出せるかどうかが大事だと、パーソナルなコミュニケーションの大切さを主張しました。
この日のイベントでは、建築設計を専門としながらもその領域を飛び越えて活躍するお2人から、空間デザインだけでなく、準備段階から使う段階に至るまでのプロセスデザイン、多様な人々をつなげるネットワークデザインを通して、その場を使う一人ひとりの可能性が引き出される居場所をデザインする哲学を学びました。ご登壇の皆様、どうもありがとうございました。