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【Event Report】建築家・西田司氏対談 ~ポスト・コロナを探る~第4回  デジタルを組み込みつつも、スマートシティは人間中心を基本に

2020年9月1日(木)、シティラボ東京アンバサダーの建築家・西田司氏とシティラボ東京がともに企画した連続対談「~ポスト・コロナを探る~ 目指すべきは“スロー”シティ」の第4回を開催。ゲストは三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会イノベーション・エバンジェリストの中島健祐氏です。

2019年までデンマーク外務省投資局に参画、デンマークで進展している、ビッグデータ、IoT、ロボット、人工知能、デジタルデザインのほか、日本とデンマークが共有する伝統と革新の要素を総合的に組み合わせたフレームワーク構築に豊富な知見と経験をお持ちです。今回はそのような中島氏の知見が凝縮されているスマートシティをテーマに対談。当イベントには自治体職員、学識者、都市計画コンサルタントなどを中心に全国から約110名が参加しました。

西田氏が今後のまちづくりを考えるに当たり、バイブルにしているという書籍「デンマークのスマートシティ」(学芸出版社刊)の著者でもある中島氏。西田氏は冒頭、「この書籍で言及している人間中心のまちづくりこそ“スロー”なまちづくりではないでしょうか。その姿についてぜひ伺いたい」と発言し、その言葉に対して中島氏も共感。「”スマート“でありつつスローで、充実した生活がかなうまちですね」と返し対談がスタートしました。

人間中心の「スマートシティ」とはどのようなものなのでしょうか。それは人間だけに都合がよいという意味ではなく、産業や技術を中心とした考え方でもなく、ウエブも含めたヒューマンセントリック(人間が中心に立つ)デザインを社会システムに展開することだと中島氏は話します。デンマーク版スマートシティは、「人間中心:市民が主役」であり、「全体最適」「包括的」といったアプローチの特徴があります。また、国家として経済規模も小さく無駄な動きはできないデンマークの特性を分析し、強みを生かしながらスマートシティのフレームを構築しているとのことです。

その後、中島氏は人間中心のスマートシティに関わるコペンハーゲンでのさまざまな動きについて紹介。例えば、CPH2025気候プランと呼ばれる政策は、2025年にカーボンニュートラル首都を目指すための動きですが、具体例として、ARC(先進廃棄物発電施設)の整備により6万2500世帯に電力を、16万世帯に地域熱を供給し、さらに、人工スキー場やトレッキング施設などを組み合わせています。廃棄物とエネルギー政策が密接に関連し、更に都心型リゾートや教育機能が組み合わせられているのです。通常であればNIMBY(迷惑施設)となりがちな廃棄物処理施設ですが、二項対立的な議論に陥るのではなく、ひとつのアクションで多面的な価値を新たに創造するデンマークモデルの代表的な事例です。

経済や社会のデジタル化という点でも、デンマークはEUのトップクラスの国として、スマートシティで着目されている背景ともなっています。北欧の小国の知恵を、日本を始め、他国でどのように展開することができるか? それを今、模索中だと中島氏は説明します。

デンマークのデジタル環境の大きな特徴は、社会保障から得られた豊富なビッグデータと、デジタル統合された社会システムにあります。2018年に発表された新デジタル戦略では、その対象を企業だけでなく市民を含めた社会全体としており、国家全体でのDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めています。ただし、各々のソリューションを達成するのではなく、経済成長や脱炭素と同時に市民の幸福を同時に達成するのがデンマークのゴールといえます。

これらの背景をふまえた社会システムのモデルとして中島氏はCaaS(City as a Service)を挙げます。分野や対象が限定されたサービスと比べ、全ての人を対象とした公共の利益や社会福祉が特に重要となりますが、日本ではまだそのような議論は少ないようです。人間中心のスマートシティを構築するために、データやテクノロジーを使いつつ都市や国家をどういう方向に持っていくのか考えていくことが、私たちの責務ではないかと問いかけます。

社会保障とデジタル化を両立している北欧モデルから学べることは多そうですが、京町家の坪庭や緩やかな間(ま)のつくり方に見られるように、人間中心に都市(まち)をつくる豊かな感性を昔の日本人は持っていたはずで、それはデンマークでも高い評価を得ているとのことです。海外から学ぶと共に、自らの生き方や価値観を見直し、担保した上で、都市のあり方を再構築していく必要がありそうです。

デンマークでは、COVID-19の危機対応においても、テクノロジーをベースとしつつ人間中心の対応が行われました。専門家による解析をふまえた迅速な国境封鎖や子どもに直接語りかけながら全国民のコンセンサスを得る首相の強力なリーダーシップ、高齢者を守るために若者の外出を控えるなど明確な戦略、さらに、マイナンバーやオンライン診療といったデジタルインフラの活用により、民主主義を守りながら感染爆発を防ぎました。

 

最後に、中島氏はこのように語りました。「日本においても人間中心のスマートシティを考えていきたい。今、デジタルの時代だからこそ、世界の知恵を集めることは可能です。ただし、そのまま取り入れるのではなく、日本の伝統・文化・風土を照らし合わせてローカライズやカスタマイズすることが大切。そのためには様々な人々が集い議論を交わしていかなくては。次の機会には、実際の会場で皆さんと一緒に議論したいと思います」

西田氏は本日の対談を振り返り、「コロナ禍を機に仕事だけでなく、家族や住んでいる地域へのまなざしが生まれてきたように思います。今の日本の状況であれば、デジタルと人間らしさの両方が併存できるのではないでしょうか」と述べイベントを終了しました。

デジタルの効率性とそれがもたらずスピード感に傾倒するのではなく、伝統・文化・風土を反映しつつ、日本ならではのスマートシティを考えていく。“スロー”とも見える熟考が、今一度求められているようです。

【開催概要】

■ゲスト:中島健祐(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 社会イノベーション・エバンジェリスト)https://www.murc.jp/professionals/38112/

■ナビゲーター:西田司(建築家、東京理科大学准教授)、介川亜紀(シティラボ東京)

      **************

■日時:2020年9月1日(火) 20:00〜21:30

■会場:オンライン

■主催:シティラボ東京


[タイムライン]

19:55〜開場

20:00〜開会・イベント趣旨説明、シティラボ東京の紹介 

20:10〜対談 

21:00〜質疑応答<15分>

21:15〜まとめ 

21:30 終了

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