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【Interview6】まちづくり×サステナビリティ×α|VUCAの時代に挑むサステイナブル〜「WOTA」が目指す自律分散型水循環社会

持続可能な開発目標・SDGsの目標6に、「すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する」と掲げられている水問題。このままいくと、2050年には世界人口の約半数が水不足にさらされると予想されている。
この問題の解決に取り組んでいるのが、2014年設立の東京大学発ベンチャー、WOTA株式会社だ。同社の技術は、衛生的で安全な水を利用できる環境が整っていない途上国だけでなく、水道インフラの維持管理に不安を抱えている日本の過疎地域の希望となるかもしれない。持続可能な水インフラの未来を、代表取締役の前田瑶介氏に聞いた。

取材・文/飛田恵美子 構成/介川亜紀

災害現場で活躍する「WOTA BOX」。離島や中山間地などでの活用も

WOTAは「自律分散型の水循環社会」を目指し、世界初のポータブル水再生処理プラント「WOTA BOX」やポータブル手洗いスタンド「WOSH」といった製品を開発している。「いずれも水に関するサステナビリティの具体的な方向(及び解決策)を示したもの。水処理にAIやIOTを掛け合わせ、使い勝手やコスト面から汎用性の高いソリューションを目指しています」(前田氏)
WOTA BOXは、どんな場所・どんな状況でも安定的な水処理と供給ができるように開発された、いわば「持ち運べる浄水場」だ。最先端のAI水処理技術によって、水を高い効率で濾過。一度使った水の98%以上が再利用できるので、水道のない場所や使える水が少ない状況下でもシャワー入浴や洗濯が可能となる。当プロダクトは「自由化・分散化が遅れていた水分野に循環システムを導入する革新的な取り組み」として評価され、2020年度グッドデザイン大賞・内閣総理大臣賞を受賞した。

WOTA BOXの⽔の濾過のイメージ。複数のフィルターを流れていく間、AIセンサーにより複数箇所で⽔質をチェックし⽔の安全性を⾼める。(資料提供/WOTA)


WOTAはこのWOTA BOXに屋外シャワーキットを接続し、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨など、数々の災害時に入浴支援を行ってきた。「災害現場では土埃が舞い細菌が人の体の表面に付着するので、洗い流してから避難所に入らないと破傷風や風邪、ノロウイルスなどが蔓延しやすくなります。また、ストレスの多い避難所生活の中でも、シャワーを浴びると気持ちがリフレッシュすると聞きます。西日本豪雨の際に、2週間入浴が不可能だった避難所へシャワーを提供したところ、暗い顔をしていた子どもたちがいきなりはしゃぎだして、感情を解放していたことが印象的でした」(前田氏)

WOTA BOX(中央)と屋外シャワーキットのセット。WOTA BOXに接続して使⽤する専⽤のシャワーブースは清潔さや持ち運びを考えテント式とし た。(写真/WOTA)

陸上自衛隊が提供する入浴支援は排水設備を必要とするため場所が限定されるが、WOTA BOX+屋外シャワーキットなら5m×5mほどのスペースと電源さえ確保できればどこでも展開可能のうえ、設置にかかる時間は2人で約15分だという。100リットルの水で100人以上がシャワーを利用でき、石鹸やシャンプーの使用も問題ない。被災地以外の場所から水道水を引き込むケースもあるが、川の水やプールの水など、現地にある水を活用するケースがほとんどだという。これまでに13ほどの自治体、20ほどの避難所に導入され、利用者数は約2万人にのぼる。
また、災害時以外にもWOTA BOXの活躍の場は少なくない。例えば、水道設備の整っていない離島や中山間地域にリゾート施設やキャンプ場をつくるために使われている。WOTA BOXを利用することで、上下水道などのインフラ整備のコストがネックとなってこれまで放置されてきた遊休地の活用が進むだろう。

コロナ禍で生まれた新たな“公衆手洗い”「WOSH」。プランニングの自由度や途上国への展開も

WOTA BOXを3分の1サイズにして、手洗いスタンドに組み込んだのがWOSHだ。電源と20リットルの水さえあれば、飲食店や商業施設、イベント会場の入り口などどこでも手洗いが可能となる。元々は災害時に避難所や仮設トイレの入り口に置くために試作していたものだが、2020年2月に飲食チェーンから「新型コロナウイルス感染抑制策として使いたい」と相談を受け、急ピッチで開発。7月にリリースした。

WOTA BOXを応⽤したWOTA WOSH。「第3の⼿」であるスマート フォンの除菌機能も組み⼊れた。(写真:WOTA)

「コロナの流行を受け、飲食店では一度トイレで手を洗ってから席に着く人が増えたそうです。そうするとトイレが混んでしまうし、本当は店に入る前に手を洗えたほうがいい。アルコール消毒という手もありますが、すべての病原体に効くわけではありませんし、肌が荒れてしまう人もいます。厚労省も流水手洗いが一番いいと言っていますね」(前田氏)
また、これまで水回り設備は一度設置すると簡単には動かすことができなかったが、WOSHなら配管工事も不要なので、1日の間に何度でも場所を変えることができる。都市計画や建築計画の自由度が上がるだろう。「今後のWOSHの一番の目標は、手洗い設備のない途上国の病院に届けることです。手術をする前に手を洗えないような病院が、世界中で16%もあります。水道が整備されるまで待っていては、手術を含む医療の充実に何年もかかってしまう。量産性を高めたり、現地生産を進めたりしてコストを下げ、一日も早く実現したいと考えています」(前田氏)

赤字がかさむ上下水道。地域で維持管理ができる自律分散型インフラのもつ可能性

WOTAが最終的に実現しようとしているのは、水資源の供給と処理が自立分散的に行われる社会だ。WOTAはここまで紹介したようなプロダクトの開発だけでなく、既存の水処理施設への技術提供も行っている。「実は、下水処理場などの運用管理は職人の世界で、職人が微生物を含んだタンク表面の色や匂い、泡の出方を見て微生物の活性状況を把握し、調整しているんです。酒蔵の杜氏に近いものがありますね。我々はそのプロセスをモデリングし、独自開発したセンサーを使って水処理の自律制御を行っています。ここで得たデータを元に、技術制御の精度を高め、製品にも反映しています」(前田氏)

安全で清潔な水をいつでも利用できるようにするため、日本ではダム、水処理施設、上下水道から構成される大規模集中型のインフラを整備してきた。上下水道はもちろん水処理施設も、各地域の状況に合わせて個別に企画・設計するため、仕様の一律化による施工の効率化や建設費削減は困難だ。そこには半世紀を超える整備期間と100兆円規模の税金が投資され、現在も維持管理のために年間10兆円の費用が発生している。それに対して水道料金収入は6兆円で、年間4兆円の赤字分は一般会計や補助金によって補填されている状況だ。

人口減少が進む中、大規模集中型の水インフラを維持しようとすると、2070年には1人あたりの費用負担が1カ年で400万から1000万円になるという計算も出ている。もしこれを料金収入で回収しようとすると、水道料金が数十万円を超えることになってしまう。「一方、上下水道に自律分散型水システムを組み合わせたシナリオでは、一人あたりの費用負担は10万円ほどで済む可能性があります」(前田氏)。

前田さんはこれまで自ら実際に被災地に入り、WOTA BOXの設置の調整・手配なども行ってきた。(写真/WOTA)


過疎化が進む地域では特に、上下水道の維持管理費が財政を圧迫している。旧くなった水道管の交換費用が捻出できず、コンパクトシティ化を選択せざるを得なくなる自治体も出てくるだろう。「既存インフラが撤退しても、僕たちが思い描く自律分散型の小規模水インフラなら地域住民が自分たちで運営管理することができます。初期の設備投資も10〜20年で回収できるでしょう。FIT下の地域メガソーラー発電事業と同じようなことが、水の領域でもできるんです。そうすれば、限界集落と呼ばれる地域で暮らし続けることも可能になるはずです。もともと僕は、徳島県西部の上下水道が整備されていない地域で生まれ育ちました。地域住民の中にはそのことをコンプレックスに感じている人も多くいましたが、僕は湧き水を利用する暮らしから『水インフラは多様でいいんだ』と学びました。これから、僕たちの技術が役立つ地域は多数あると思っています」(前田氏)

WOTAが描く⾃律分散型⼩規模⽔インフラのイメージ図 (資料提供:WOTA)

災害時や感染症流行下における衛生環境の向上、都市計画・建築計画の柔軟性向上、人口減少・過疎化が進む離島や中山間地域の存続ーー。WOTAの事業は、地域の持続可能性を考える上で、多様な広がりと可能性を秘めている。

取材日:2020年9月30日

【前田瑶介 Profile】
徳島県生まれ。東京大学及び同大学院で建築学を専攻。在学中より、大手住設メーカーのIoT型水回りシステムユニットの開発プロジェクトに参加。teamLabなどでPM・Engineerとして勤務し、センシングや物理シミュレーションを用いた作品・プロダクトの企画・開発に従事。建築物の電力需要予測アルゴリズムを開発・売却後、WOTAに参画。特技は阿波踊り・競技ダンス。東京大学総長賞受賞。修士(工学)。

<関連情報>
WOTA

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