【Interview8】まちづくり×サステナビリティ×α| 電気代の1%をソーシャルビジネス支援に。自然エネルギー普及と地域の社会貢献活動を同時に推進する「ハチドリ電力」
2016年の電力小売完全自由化により選べるようになった自然エネルギー。注目はされているものの、日本全体の発電量に対する自然エネルギーの割合はまだ2割以下に留まっている。そうした中、2020年春に自然エネルギー100%の電力取次サービス、ハチドリ電力が誕生した。大きな特徴のひとつが、電気代の1%を社会貢献活動に寄付する仕組みを持っていること。ハチドリ電力運営責任者の小野悠希氏と、ハチドリ電力の支援先であり、栃木県大田原市で高齢者の孤立予防を中心としたまちづくりを行う一般社団法人えんがお代表の濱野将行氏にお話を伺い、両者がどのような共助関係にあるのか紐解いていく。
取材・文/飛田恵美子 構成/介川亜紀
電気を切り替えることで、社会貢献活動を応援できる仕組み
ハチドリ電力は、世界13カ国で37のソーシャルビジネスを展開する株式会社ボーダレス・ジャパンの新規事業として始まった。小野氏はその経緯を次のように語る。「ボーダレス・ジャパンも早い段階から自然エネルギーに関心を寄せていましたが、2016年の電力自由化の際に多くの電力会社が誕生したので、その事業について素人の自分たちが参入する意味はないと考えていました。でも、普及は期待していたようには進まないうえ、政府も石炭火力発電の利用を続ける方針を示した結果、2019年12月には世界の環境団体の“化石賞”という不名誉な賞を受賞してしまいました。これに危機感を抱き、会社として自然エネルギー事業に乗り出すことが決まったのです。
同じ頃、私もスウェーデン在住の10代の環境活動家、グレタ・トゥーンベリ氏の演説を聞いたのを機に環境問題に関心を持ち、日本のCO2排出量の40%以上を占める電力の分野で、解決策を提示できないかと考えていました。そのようにタイミングが重なり、私が担当者としてハチドリ電力を立ち上げることになりました」(小野氏)
小売電気事業者である自然電力株式会社と提携し、ハチドリ電力は取次事業者として独自の料金プランをもとに利用者と契約する。CO2排出量ゼロの実質自然エネルギー100%プランのみ販売し、毎月の利用明細書には費用内訳だけでなく環境効果も記載している。前述したとおり、電気代の1%が非営利団体や活動家など様々な社会貢献活動に寄付される。
「ボーダレス・ジャパンは“社会課題の解決”を第一の目的に置いている会社ですが、実は、社会貢献活動に取り組む団体は資金繰りで苦労しているところが少なくありません。逆に言えば、お金が回る仕組みさえつくれば、社会課題が解決されるスピードは上がっていくということ。ハチドリ電力を通してそのお手伝いができれば、と考えました。
これまで自然エネルギーは“環境負荷を軽減できる”“料金が下がる”という訴求をされてきました。でも、電力自由化という節目がありましたが、電気を切り替えた人は全体の2割に過ぎません。そこで、“電気を切り替えることで社会の役に立てる”仕組みにすれば、これまで動かなかった人たちにも訴求できるのではという目論見もありました」(小野氏)
支援先は、団体の規模にはこだわらず、私たちスタッフが志に共感できるかどうか、支援を本当に必要としているかどうかを基準に選び出したという。2020年12月現在、“国際協力”“子どもの貧困・教育”“災害復興・防災”など10のテーマから55団体が登録され、利用者は契約時に好きな団体を選べるようになっている。一般社団法人えんがおもそのひとつだ。
高齢者が孤立しないまちづくり
「一週間に1回、電話でもいいから誰かと話したい」。作業療法士として高齢者施設で働いていた濱野氏が一般社団法人えんがおを立ち上げたのは、ひとりの高齢女性からそんな声を聞いたことがきっかけだった。
「調べると、会話の頻度が週1回以下という高齢者が、栃木県内だけで5000人以上いることがわかりました。人生のゴールに孤立があると思ったら、若い人も一所懸命生きられない。おじいちゃんおばあちゃんが幸せそうに暮らしている社会の方が、みんなが幸せになれるのではないかと考えました。
高齢者施設では、リハビリを終えて自宅に戻ったおじいちゃんが、ひとり暮らしで外出する機会もないので身体が弱ってしまい、また骨折して施設に戻ってきたり、認知症になってしまったり、といったことが珍しくありませんでした。“高齢者がずっとひとりきりで家にいる”という状況を変えなければ、根本的な解決にはならないと思ったんです」(濱野氏)
活動の主軸は、電球交換や草刈りといったちょっとした困りごとを解決する便利屋サービスだ。無償ではかえって頼みづらいという声が多かったため有償サービスにしているが、本来の目的は人と人とのつながりをつくること。「何かあったときに気軽に相談できる、暮らしのかかりつけ医」であろうとしている。
また、まちなかの空き家を活用して、若者と高齢者が集える地域サロンや週に1回みんなで食事をする地域居酒屋、若者向けのソーシャルシェアハウス、宿泊施設などの運営にも取り組んでいる。目の前のニーズに応えていくうちに自然に活動の幅が広がったものだという。
「毎日やることがなくてテレビを見ていたというおじいちゃんがサロンの常連になって『人生が楽しくなったよ』と言ってくれたり、生活支援で知り合った90歳のおばあちゃんがイベントで新たに人との繋がりをつくって『長生きしてよかった』と笑顔を見せてくれたり。そういう姿を見ると、やっていてよかったと思います」(濱野氏)
えんがおが目指すのは、高齢者や若者、子どもや障がい者などさまざまな人が分断されず“ごちゃまぜ”となった空間を日常(まち)の中につくること。2021年2月には地域サロン近くに障がい者向けのグループホームを、その次は託児施設を開設しようと計画している。各施設を利用する人々が、自由に交流するイメージだ。
「ただ、新型コロナウイルス感染症の流行が始まり、活動をどのように続けていくか悩みました。感染症対策だけを考えるなら、高齢者と若者の接点は減らしたほうがいいに決まっています。でも、おじいちゃんおばあちゃんからは、『毎日誰とも接することなく家にいて、生きる意味なんてあるのか』『来年まで我慢すれば、なんていうけど、私たちには来年があるかわからないんだ』という声も聞きました。
そもそも、コロナが流行る前にも、誰かの風邪がうつりそれがもとで肺炎になる可能性も、サロンに来る途中で転倒してそのまま亡くなってしまう可能性もありました。生きるって、高齢者と接するって本来そういうことです。コロナをきっかけに、そのリスクを背負う覚悟がスタッフに生まれたのは良かったと思います。医師や看護師に相談をして考え得る限りの感染症対策を施しながら活動を続け、利用者ご自身に参加するかしないかを選んでもらうようにしています」(濱野氏)
“高齢者の孤立”という社会問題をより多くの人に知ってもらうために
えんがおでは、一つひとつの事業から小さな収益を生み出しつつ、補助金や講演料や寄付なども大きな収益源としている。では、ハチドリ電力との提携は、えんがおにどのような影響をもたらしているのだろうか。
「ハチドリ電力さんからの資金提供は、持続的な点がとてもありがたいですね。それ以上に大きな価値だと感じているのが、ハチドリ電力さんの事業を通じて、たくさんの人に僕たちの活動を知ってもらえるということ。今までえんがおと関わりのなかった方が、『自分にもひとり暮らしのおばあちゃんがいるから応援しよう』『栃木の活動だから応援しよう』とウェブサイトを覗いてくれるんです。
高齢者の孤立という社会課題を解決する第一歩は、“課題の存在を知ってもらうこと”だと考えています。僕たちは収支や活動のノウハウをすべて公開するので、全国で真似してくれる人が出てくると嬉しいですね」(濱野氏)
世の中の3.5%が参加すれば社会は変わる
2020年8月の電力供給開始から4カ月。現在、ハチドリ電力は1000世帯、400社と契約し、自然エネルギーを届けている。届ける支援金の額は、多い団体で月1万円ほど。小野氏は、「1団体につき月10万円を届けること」を目標に掲げている。
「法人との契約の場合、1%のインパクトが大きいので、いまは特に法人営業に力を入れています。自然エネルギーに切り替えることで、電気料金はこれまでと同じか少々安くなる法人が多いですね。ハチドリ電力は地球温暖化防止と社会活動家の応援を第一にしているので、赤字にならない程度まで粗利を削って電気料金を下げています。
でも、契約者数を増やすには、『必ず安くなる』という状況をつくらないといけません。そのために、当社は2021年10月までに電力小売事業者になり、発電所から直接電力を仕入れることでさらにコストを下げる予定です」(小野氏)
ハチドリ電力は積み立てている資金を活用し、将来的には発電事業にも乗り出すという。法人の屋根に無料で太陽光パネルを設置するかわりに、数十年の間は固定価格で買い取ってもらう仕組みを構想している。
「世の中の3.5%が参加すれば活動は成功する、社会が変わると言われています。ファーストゴールは、2030年までに198万世帯、12万8000社と契約すること。実現すれば、CO2を1773万トン削減できる試算です。ハチドリ電力は日本一安い電力会社、日本一誠実な電力会社となって、自然エネルギーを推進していきたいと思います」(小野氏)
自然エネルギーの普及に加え、電力料金を支援に充当することで、利用者の満足を得つつ、直接・間接的に広範な社会貢献に取り組むハチドリ電力。支援先となるNPOなどを通じ、今後、さらに多様な課題解決型のまちづくりにコミットする可能性も大きい。多角的にサステイナビリティな社会を形にしていく、サステイナブルな意識を浸透させていく取り組みとして、ますます注目が集まりそうだ。
取材日:2020年12月17日
<関連情報>
・ハチドリ電力
・株式会社ボーダレス・ジャパン
・一般社団法人えんがお
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