【Event Report】建築家・西田司氏対談 ~ポスト・コロナを探る~第6回 縮小社会の策はマイクロモビリティにあり

2021年3月10日(水)、シティラボ東京アンバサダーの建築家・西田司氏とシティラボ東京がともに企画した“スロー”シティ連続対談の第6回を開催。今回はゲストに株式会社Luup代表取締役社長兼CEOの岡井大輝氏をお招きし、マイクロモビリティの活用・普及により見えてくる新しい生活をテーマに語り合いました。世界的にもマイクロモビリティの需要は大きく、昨今のコロナ禍で、人が集まる公共交通機関を避けるため利用がより拡大しています。「厳しいロックダウン中のニューヨークでは、ライフラインとなるスーパーや薬局以外で唯一営業を許可されたのが自転車販売店だとか。そのことからも、ひとりで街を自由に移動できるコンパクトなモビリティは脚光を浴びていると言えますね。自転車は例年より売り上げが伸びているようです」と岡井氏。

同社は国内主要都市を中心に電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」を展開。現在、小型電動アシスト自転車によるサービスの提供と電動キックボードの実証実験の準備を始めています(注:本対談終了直後の2021年4月より、政府の特例措置のもと、特定の事業者のみヘルメットの着用が任意となった電動キックボードの実証実験を開始し「LUUP」内に導入開始)。将来的には高齢者向け四輪モビリティなどの多様な機体を導入予定です。
「電動マイクロモビリティを街でシェアすることで、街じゅうを“駅前”化するようなインフラをつくりたい」と岡井氏は話します。現在(2021年3月)はその構想を実現するべく、超高密度のシェアは有益かの検証、IoT搭載の新しい機体の動作などの実証を、渋谷など東京中心部の6区で実施しています。

シェアリングサービス「LUUP」の特徴として“街なかでの圧倒的な密度での設置”と”街と利用者に寄り添う安全性”が挙げられます。コンパクトな躯体は街のデッドスペースをポートに利用できるので、2〜3㎞の範囲に高密度で設置が可能。ユーザーに返却後の写真を撮って送信してもらうなどのルールは、街の美観や治安(安全)の担保に繋がるのではないでしょうか。

西田氏からの「海外のマイクロモビリティ事業との大きな違いは何か」という質問に対して、岡井氏は「業界全体として、(国や利用者との)丁寧な対話を交えて推進していくこと」と回答しました。それを実行するため、岡井氏はマイクロモビリティ事業を日本に導入したときに、マイクロモビリティ推進協議会という業界団体を設立したといいます。セグウェイが14年程費やしても日本に市場が形成されなかったことを踏まえ、日本になじむマイクロモビリティに関する仕組みやルールを構築するべき、と考えたからだそうです。そのうえで、同業同士が足並みをそろえて政府との対話を継続し、法整備を進めながら日本独自のマイクロモビリティの普及を探りかつ図っていきたい、とします。

の違いとして例示したのは、電動キックボード。アメリカではシェアリング用のマイクロモビリティの中でも電動キックボードの需要が高くなっています。アメリカではシェアリング用の電動キックボードを道端への乗り捨て可としていますが、そのようなビジネスモデルを日本にそのまま導入することはできないと一般的には考えられています。日本では機体を設置するポートが必要であり、ユーザーと機体、ポートを総合的に管理するプログラムも必須。効率的な管理のため、すでにIT分野との協業も視野に入れ、プログラムの実現を目指しているそうです。
また、岡井氏は事業の参考にしたサービスとして、コンビニや、カーシェア、鉄道、電動車椅子を挙げます。中でも、鉄道事業は送客そのものではなく駅周辺の不動産からの利益を主とすることで成り立っていると捉え、そのモデルを参考にしています。駅をつくることで不動産価値が上がると気づいた人々は、駅の誘致を望むようになりました。LUUPの場合、そのポートが併設されているマンションなど不動産の価値、ひいてはエリアの価値が上がり、結果、LUUPの導入範囲が広がっていくといったイメージです。
視聴者からの建築や都市計画の分野との関わりについて質問に、岡井氏は、Luupは不動産業だと考えているとし、「(各プロジェクトの)設計段階から建築家や都市計画家とともに仕事をしていきたい」と意気込みます。

最後に、これから日本の街をどのように変えていきたいかと問われ、「最適解は思案中だが、まずは人が気軽に外出し(活動し)やすい街にしたい「昨今、IT技術によってUber Eatsなどのデリバリーもより使いやすくなり、家にこもったまま生活はできます。しかし、コロナ禍で(一定期間の)外出自粛を経験して、多くの人が屋外での活動の必要性を感じたはず。身体的、精神的な理由から外に出る機会を奪うことがないように、人間の尊厳を守るような利便性を提案していきたい」と語りました。

マイクロモビリティの普及・活用により実現する未来では、他から規定されたスピードではなく、すべての人がそれぞれの身体のコンディションや気持ち、ライフスタイルなどに合わせて選択できる“スロー”な移動を楽しめるようになりそうです。(取材・文/折田千秋)

【岡井大輝 プロフィール】
1993 年、東京都 生まれ。2017 年、東京大学農学部を卒業。戦略系コンサルティングファームにて上場企業のPMI、PEファンドのビジネスDDを主に担当。その後、株式会社Luupを創業。代表取締役社長兼CEOを務める。2019年5月には国内の主要電動キックボード事業者を中心に、新たなマイクロモビリティ技術の社会実装促進を目的とする「マイクロモビリティ推進協議会」を設立し、会長に就任。

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