【Report】「U30」の視点で「合意形成」を考える

U30とは?

「U30」とは、「U30がワクワクするまち暮らし」をテーマに、30歳以下の世代がまちへ関わるための「新しい入口づくり」、「新たな関わり、巻き込み」を考え、実践する団体です(随時メンバー募集中)。活動のひとつとして、対談企画を実施します。まちづくりや都市分野以外からそれぞれのメンバーがかっこいいと思うゲストをお呼びし、異なる分野の視点で楽しくまちで暮らすコツ、まちの関わり方、都市の楽しみ方を考えます。

U30の視点で「合意形成」を考える

2022年3月10日(木)、第一回の対談企画を、ハル(※1)が担当しました。ゲストに、ハルの東京学芸大学附属高校の公民の先生であり、現在は秋田大学・教育文化学部・社会科教育研究室に務めている専任講師の加納隆徳さんをお招きしました。今回議論したテーマは「合意形成」。加納さんが担当された特別講義「リスク社会と防災」(ハルが高2-3年時(2013-2014年))をもとにして、防潮堤の建設問題を考えました。当時も、合意形成のあり方を考えさせられましたが、今回の企画はそれを振り返ってみることで、合意形成のあり方について改めてU30のメンバーで俯瞰し、「合意形成がどうすればうまくいくか」について議論しました。

「リスク社会と防災」の授業

最初に加納さんが東京学芸大学附属高校で行った「リスク社会と防災」授業の概要について説明してくださいました。「リスク社会と防災」では、2013年に実施し、理科(地学)と公民(現代社会)がコラボした新たな教育実践を試みました(※2)。東日本大震災を契機に防潮堤建設を論点として、住民説明会のロールプレイを通して、防災における政府の役割と合意形成のプロセスを学生が体験します。具体的にそれぞれのグループに行政役と市民役を配置し、話し合いを行い、その上で、防潮堤建設の是非を問います。行政役は市民に説明する役割を与えられた一方、市民役は海岸から近いところに住む人や山に住んでいる人、子育て中の人やフリーターの人などの立場として配置されました。それぞれの役割をもって複雑な条件を考慮しつつ、合意形成を目指しましたが、最終的に合意形成ができたグループばかりでなく、できなかったグループもあり、生徒は合意形成の難しさを感じました。

また、関連して、2014年に東北スタディーツアーも実施し、実際に被災地に足を運び、当時の防潮堤をめぐる対立のあった場所などを見学しました。その中で、世代間格差(参加年齢の偏りなど)、政府への不信感といった合意形成がうまくいかない理由が議論され、その解決に向けて、行政と市民、さらに市民と市民の間の信頼関係構築の必要性、そして学校を中心としたまちづくりのあり方について高校生が提案しました。

【議論】合意形成がどうすればうまくいくか?

U30のメンバーは、加納さんから紹介のあった合意形成の授業の様子を踏まえて、合意形成をうまく行うにはどうすればいいかについて、教育の視点とまちづくりの視点を交差させながら議論を行いました。ここで、うまくいく合意形成のために今回、4つのコツを整理できました。

1)参加しやすいツールを選択する
メンバーの遠山が、世田谷区での公園設計に向けて住民に聞き取り調査に関わっているそうだが、東北スタディーと同じように若者の参加率が低く、年齢層の偏りが見られたことを指摘しました。若者(例えば、高校生)が参加しやすくするには、若者が見ているツールをうまく活用すること。特にInstagramやTwitterのようなテクノロジーをうまく利用して、多くの市民が入ってきやすいように準備を用意することが重要ではないかという議論になりました。

2)期限を設定する
メンバーの持田から、防潮堤の議論のように、合意に至るプロセスは難しいものの、震災復興の事業では期限があり合意に至りやすいといった側面があるのではないかとの指摘がありました。一方で、まちづくり活動の中で期限が決まっていないものは積極性に欠けており、合意への決着がつきづらいと指摘した人もいました。

3)聞き手にとって切実性のある議論を設定する
メンバーの陰山から、この授業は学芸大学附属高校生だからこそ合意形成の議論に関心が高いのではないかと質問がありました。加納さんからは、もちろん生徒の積極性に関係するが、学校の先生がどれほど準備するかについても影響が大きい。しかし、一見興味を示さないような学生でも、彼らがその課題に対して自分事として捉えてられるようにする、言い換えると、聞き手にとって切実性のある議論を設定することが重要。例えば加納さんは工業高校に勤めていた当時、「なぜ、就職に関係ない社会科を勉強するのか?」という生徒の質問に苦労したそう。しかし、学生たちの要望を受けて、バイト先で必要な「労働基準法」の授業をしたら、彼らにとって切実性のある議論こそ、授業への関心を高く示した経験があると述べました。

4)社会との接点をもつようにきっかけをつくる
メンバーの山本は、役場へ要望を書いた手紙を出した経験があり、結果的にまちづくりへの関心につながったと語ってくれました。そこで、子どもたち(もちろん、大人も)に意見を社会に届ける手段を教えることや、社会との接点を持つようにきっかけをもたせることがとても大事と加納さんは言います。最近では、生徒に手紙を書かせて首相官邸に送る活動を授業で行っている先生もいるとのことでした。こうすることで動くことの気持ちよさを体験して市民性の育成に寄与すると考えられます。

今回の知見を踏まえて、この団体のビジョンである「U30がワクワクするまち暮らし」を実践していく際に、年齢の近いU30を巻き込むことや、合意形成を目指していくためのコツを用いることが大変有用といえます。今後みんなで積極的に生かしていきたいと思います。

 

 

(※1)ウォンダラ・ハルシット。2019年に東京大学工学部都市工学科を卒業、2021年に東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻を修了、現在タイ王国環境省の職員。U30のメンバー。
(※2)「リスク社会と防災」授業の位置づけとして、あらゆる問題を科学的にとらえ、科学的知見に基づいた評価・判断を目標としている。東京学芸大学附属高校は、2012年に文部科学省指定スーパーサイエンスハイスクール(以下、SSH)に採択され、SSH事業のひとつに「特講 科学の方法」がある。特徴として、複数教科の教員がコラボレーションすることで、ひとつの現象に対する多面的な視点を養っている。

【加納隆徳さんプロフィール】
秋田大学 教育文化学部 社会科教育研究室 専任講師。公立高校教諭を経て東京学芸大学附属高校教諭。その後、帝京大学教育学部を経て、現職。専門は社会科教育学・法教育論。

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