【Event Report】『公民連携まちづくりの実践』〜空間と情報の開放からはじまる
まちづくりを進めていく上で「公民連携」は欠かせません。しかし、色々な分野やレベル感で用いられる幅の広い言葉のため、制度論や事業論などが混在し、逆にイメージが湧きづらいこともあるかと思います。公民連携が持つ本質的なコンセプトや具体的なアプローチのポイントなどをもう一度しっかりと見据えたいと思い、元大津市長として公民連携を推進してきた越直美さんを講師に、各々の活動の中で公民連携に取り組んでいる大木和彦さん(テダソチマ)、低引稔さん(自然電力/自然基金)とのトークセッションを行いました(2022年9月16日実施、参加者数約40名)。
■ベーストーク 〜 『公民連携まちづくりの実践』|越直美さん
最初に、2021年に発行された著書『公民連携まちづくりの実践―公共資産の活用とスマートシティ』の内容をふまえ、全体的な考え方とポイントを整理しました。そもそもは女性が仕事と子育てを自由に選択できる社会をつくりたいというモチベーションから市長になった越さんですが、市政に携わる中で広く公民連携を手掛けるようになりました。
▼そもそもなぜ公民連携なのか
「きっかけ」として、やはり自治体の財政難は否めないでしょう(ただし本当の価値はそれだけではありません)。その背景には、人口減少、少子高齢化、施設老朽化という現在の自治体が抱える三重苦があります。人口増加の時代とは異なり、現在の自治体の仕事は「マイナスのパイを切り分ける」ことです。そのため、行財政改革で歳出を削減すると共に、自治体が持つ資産を「手放す」ことで民間の力を呼び込む必要があります。
▼公民連携プロジェクトのタイプ
書籍で紹介された様々な公民連携プロジェクトは大きく下記のように分類され、取り組みのポイントも変わってきます。
- プロジェクト型:行政のプロポーザル、入札などを伴うもの(Case 1・2・3)
- まちづくり型:継続的に市民と関わるもの(Case 5)
- スマートシティ型:テクノロジー企業やスタートアップ企業との連携を伴うもの(Case 6・7)
▼プロジェクト型
大津駅ビルでは、市がJR西日本の建物を借りていましたが、あえて「撤退」することで、JR西日本が民間事業者を誘致して空間が生まれ変わりました。また、競輪場は、解体だけで20億円もの費用がかかることが想定されたため、民間事業者が解体も含めて利活用するという条件でプロポーザルを行うことで、商業施設と公園が一体的に整備・運営される空間が生まれました。
きっかけは経費削減でしたが、民間の力で「市民が楽しいと思える空間」をつくることが、公民連携の本当の価値であったと越さん自身も気づいたとのことです。
このようなプロジェクト型の公民連携を成立させるためには、いかに自治体、市民、民間事業者のそれぞれの希望が重なる「三方よし」のスキームを組めるかがポイントになります。
▼まちづくり型
大津のまちなかには1,500軒ほどの町家が残っており、民間事業者が町家をリノベーションして宿泊施設にするという取り組みが行われていました。
大津市としての特徴的な取り組みの一つは、市の都市再生課を「町家オフィス」と銘打って町家内に移転し、コワーキングスペースとして運用したことです。カウンターを挟んで対面する普通の市役所では市民と職員が空間的にも精神的にも対立構造となりがちですが、町家オフィスでは1つのテーブルを皆が囲むことで、市民からの声も、要望ではなく相談や提案になってきます。
また、「リノベーションスクール」により、町家を実際に再生する取り組みも行われました。今までにカレー屋、児童クラブ、スケボー屋などができています。まちが変わるポイントは、若い人が、少額でも自分のお金でまちにコミットし、それを住民が支え、職員がつなぐことです。
▼スマートシティ型
大津市ではバスの自動運転やMaaSなどの取り組みを行ってきましたが、当初は自治体とスタートアップの文化は「水と油」と感じたそうです。行政の事業は税金を使って行われるため、失敗が許されない無謬性が求められてきました。一方、スタートアップは逆にスピーディに失敗を繰り返しながら成長していきます。スマートシティのような新しい取り組みでは、そもそも失敗を許容しないと動けません。そこで、自動運転の事故が起こることを前提に専門家による検証委員会を設けるなど、失敗を許容できる仕組みをつくることが重要です。
タイプに応じてアプローチの違いなどはありますが、共通ポイントとして言えるのは、人口減少時代においては、行政が持つ「空間や情報」を「開放」することで、公民連携によって市民が楽しいと思える空間や市民にとって便利なサービスを生み出せるということです。
■ミニトーク
シティラボ東京には、現場で公民連携に取り組んでいるパートナーがたくさんいます。今回は、福島県須賀川市で都市再生に取り組んでいるテダソチマ、再生可能エネルギー事業を全国で展開しつつその成果を各地域で還元、発展させている自然電力の2社から話題提供を行いました。
▼須賀川市の都市再生活動|大木和彦さん[株式会社テダソチマ]
テダソチマは2021年に設立されたまちづくり会社で、「空間」を「場所」に変えるまち育て(マチソダテ=テダソチマ)として、中心市街地の低未利用土地の活用などを行っています。福島県内で初の都市再生推進法人の指定を受けました。
まちなかウォーカブル推進事業や官民連携まちなか再生推進事業といった国の事業を活用しながら取り組みを行っており、自治体である須賀川市とも連携して推進してきました。現在は宅地建物取引業を取得して持続的な活動を行うための準備も進めています。
須賀川市でも施設老朽化への対策は課題となっており、公有資産の維持管理費が年間約88億円に上るとの試算も出ています。そのような中、解体予定であった旧母子生活支援施設の払い下げを受け、関係人口を増やすための活用にも取り組んでいます。
中心市街地の活性化という目標を共有する中で自分たちがやりたいこと、やるべきことを率先して行ってきたら、政策も後からついてきて、結果として公民連携になっているとのことです。
▼パーパスでつながり、共に地域をつくる|低引稔さん[自然電力株式会社/一般社団法人自然基金]
自然電力は2011年に設立、「青い地球を未来につなぐ。」をパーパスに掲げ、再生可能エネルギー電源の開発から、建設、保守運営、電力小売までをワンストップで手掛けています。全国各地へ足を運び、地域課題に触れる中で、行政・民間が共にビジョンを描き、事業を推進することが鍵であると考え、いくつかの地域で公民連携事業が立ち上がりました。
長野県小布施町では、自治体や地元企業とも連携して新電力会社(ながの電力)を設立しました。さらに、事業性の高い電力事業で事業基盤をつくり、事業性の読みづらい水道や通信へも展開してポートフォリオをつくりながら、人口減少社会における次世代のインフラ構築を目指しています。
また、売り上げの1%程度を地域に還元する1%forCommunityというプログラムがあり、熊本県合志市では出資者である合志市、熊本製粉株式会社、自然電力ファーム(自然電力の子会社)の三社で一般社団法人合志農業活力基金を設立し、基金を通じて助成を行うスキームを構築しました。プロジェクト創出、チームビルディング、ビジョンづくりを通して地域経済循環の実現を目指すと共に、次世代人材育成としてリーダー育成プログラムやチャレンジする人のコミュニティづくりを行っています。
新電力会社や基金など、行政との協働において、担当者が変わっても活動が継続し続けるための枠組みに配慮しているとのことです。
■クロストーク
最後に、登壇者相互、またオンライン・オフラインでの参加者も交えてクロストークを行いました。公民連携を行う上で、大事なポイントが見えてきた気がします。
▼公民連携のアプローチ
様々なニーズがある中、最初の進め方で悩む人も多いと思います。自治体としてはまず民間へのマーケットサウンディングを行い、需要を見極めることが必要となります。また、オープンなスタンスで市民や民間の提案を受け、まちづくりの主役にしていくという姿勢が大事です。
これらをふまえ、行政や市民、民間事業者など各々のニーズが合致するスキームをつくることが重要になります。行政としてすぐに予算化は難しくとも、空間や情報の開放、人的な協力など比較的スピーディにできることはたくさんあります。民間からは、呼びかけに応えてくれるかどうかという点も連携先の自治体を選ぶ際に重要な視点となるでしょう。
▼再現性と持続性
公民連携の成果は、首長、自治体職員、民間事業者、それぞれのリーダーシップがうまく重なる時に最大化されますが、必ずしも重なるとは限りませんし、キーパーソンの交代や異動などでプロジェクトが止まってしまうリスクも考えられます。トークで挙げられたように法人として組織を確立する、自治体で条例化を行うなど、活動の持続性を担保するための工夫が求められます。
▼ビジョンの共有と取り組みの自由度(あそび)
公民連携で関係者が同じ方向を向けるような基盤も大事です。本日のトークでも、公共施設の現状と削減方針を示す公共施設マネジメント計画、民間が主体性を持って描く地域の未来ビジョンなどが、連携の基盤となっていました。
一方、状況の変化に柔軟に対応していくためには、詳細を決め込みすぎないことも大事です。リーダーシップの発揮や計画策定のさじ加減も重要です。また、トークで出てきた法人化は活動の持続性だけでなく自由度を高めるためにも役立っているようでした。
▼コーディネート人材
行政の理屈も民間のビジネスもわかるようなコーディネート人材は今後ますます必要です。両者の経験を持つ人材がアドバイザーとして事業に関わることもあるでしょう。また、自治体職員がまちの中に出ることや民間と人材交流を行うことで、市役所の中から「人材」を「開放」することが提言されました。
本日のセッションでは、多様な公民連携に対して、プロジェクト型/まちづくり型/スマートシティ型というタイプを設定することで、各々の特徴を浮かび上がらせ、そのアプローチやポイントが明確になりました。さらに、「空間と情報」に加えて「人材」の開放にも話が及ぶなど、明日の公民連携を予感させるものとなりました。書籍にはさらに多様な事例や詳細な情報も載っていますので、興味のある方はご一読下さい!