[Report]グリーンビジネス実践 〜環境をよくして稼ぐ、その発想とスキル

▼全てのビジネスは「グリーン」になる

2022年度、シティラボ東京で新しい研修プログラム『グリーンビジネス実践』がスタートしました。当ラボが目指すサステナブルな都市・社会の実現を目指すためには、環境を改善しながら持続的に成長できる「グリーン」なビジネスが実社会に求められます。

2015年に国際目標として合意されたSDGsに向かって、ESG投資やTCFD/TNFDといったビジネスに係る各種の政策や制度、投資も動きを加速しています。図らずもCOVID19やウクライナ侵攻によるエネルギーや原材料の価格高騰といったビジネス上のリスクも深刻な時期となりました。もはや環境は「実需」に突入した時代と言えます。

とはいえ、実際のビジネスとしては何をどうすればよいのか…、現場で悩んでいる人も多いのが現状でしょう。本プログラムは、専門的な知見や具体的な事例をふまえ、グリーンビジネスの発想とスキルを身につけて具体化する実践者を増やすことを目的としています。

※SDGs(持続可能な開発目標):2015年9月国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標
※ESG投資:従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資
※TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース):2015年、金融安定理事会(FSB)により設置された国際組織、気候変動に関連した情報開示を提唱、日本でも1,000を超える企業が賛同
※TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース): 2021年に設立された国際組織、自然環境全体に関する情報開示フレームワークとガイドラインを2022年度末に発行予定

▼オトナのホンキでグリーンビジネスを考えてみよう!

実は、本プログラムの背景には、多様なソーシャルビジネスを輩出してきた慶應SFCで10年間に渡り積み重ねてきた実践型講義「環境ビジネス論」の蓄積があります。また、その成果は2021年12月に書籍『GREEN BUSINESS』として取りまとめられました。

同講義の担当教官で同書の著者である小林光氏・吉高まり氏(当ラボのメンターでもあります)と、「学生だけでなく社会人を対象に本プログラムを発展させることで、より実践的なビジネスの変革が起きるのではないか」という議論を行ったことが、『グリーンビジネス実践』のきっかけとなりました。

▼グリーンビジネスへのアプローチ

「ビジネスをグリーンにする」ということはどういうことでしょうか?一つには、サステナビリティを志向した新しいビジネスモデルを開発する方法がありますが、もう一つ、サプライチェーンを見直して既存のビジネスモデルをグリーンにしていくことも重要です。

本プログラムでは、書籍『GREEN BUSINESS』の著者である小林氏・吉高氏がコーディネーターとなり、主要な環境テーマと各界第一線のビジネスパーソンである講師を選定しました。受講者も若手からベテランまでビジネスの現場で事業開発やサステナビリティの推進に携わるビジネスパーソンです。何かが起きる予感がしますね。

▼プログラムの特徴は?

本プログラムは、6月〜9月の3ヶ月間に渡り、時代が求める4つの環境テーマに対して研修を行うサーキットトレーニング形式で進めました。

各テーマの進め方も一方的な講義ではなく、主要な環境テーマに対して具体的なビジネスモデルを提案していくアクティブラーニングとなります。「通しで参加して自ら手を動かす」ことで、より深い理解と実践へ向けたアイデアの構築を狙います。

冒頭でインプットレクチャーを行い、コーディネーターから環境テーマに関する動向や視点などの専門的知見を、講師より実ビジネスにおける想いやビジネスモデルの特徴や表にはなかなか出ない直面している課題を伺います。その課題をふまえてケーススタディを行いビジネスモデルとして提案します。さらに、コーディネーターからのクリティークや受講生相互の意見交換で提案へのフィードバックを行います。

各テーマに対してインプットとアウトプットで各1コマ、その間に受講者によるケーススタディをグループで行います。各テーマの検討期間は2週間ですが、受講者はオンラインミーティングやビジネスチャットなども利用しながら濃密なグループワークを行いながら提案を取りまとめていました。各テーマの概要は下記の通りです。

①CO2見える化〜気候変動対応が企業価値を高める時代へ
講師:渡慶次 道隆氏[株式会社ゼロボード代表取締役]

IPCC第6次評価報告書では「人間の活動が気候変動に影響していることは科学的に疑う余地がない 」という結果が出ました。日本においても2050年までに温室効果ガスの排出量実質ゼロ に向けた取り引きが進んでいます。カーボンニュートラルはビジネスにとってリスクの回避でありチャンスでもあります。

金融分野でも2022年東京証券取引所による市場再編に伴い、プライム市場上場企業はTCFDに準じた情報開示が求められます。そこで必要なのが、自社に関連する取引先の排出 「スコープ3」の具体的な把握です。GHG排出算定・可視化クラウドサービスの取り組みをもとに、サプライチェーン全体に渡るデータが連携するエコシステムの必要性を学びました。ケーススタディでは、ビルや自治体、製品や金融商品などを対象とした新たな付加価値づくりやポイント制による事業促進、新たなサービス開発などが提案されました。

②ゼロエミッションビジネス〜資源をとことん利用して多面的な価値を創出
講師:辻山 俊介氏[住商フーズ株式会社 執行役員 原料第一本部副本部長 兼マーチャンダイジング本部副本部長]

ゼロエミッションをビジネスとして成立させるには資源をとことん利用して、ステークホルダーや消費者も巻き込みながら多面的な価値を創出することが大切です。実はエネルギーや物質循環に優れた産業である製糖業。種子島における新光糖業の取り組みを伺い、生産農家の生活や地域振興も視野に入れながらケーススタディを行いました。

製糖事業の持つ環境的な価値をビジネスとして展開するという課題に対し、受講者からは、製糖業のノウハウをいかした新規製品開発やブランディングと共に、ツーリズムや移住を視野に入れた種子島全体の産業活性化への提案も挙げられました。単純に環境問題や自社ビジネスに留まらず、多様な主体間のコ・ベネフィットを実現していくことが大事です。

③生物多様性 〜自然の相互関係に光を当て、ビジネスを厚くしていく
講師:吉野 慶一氏[Dari K株式会社 代表取締役、株式会社ロッテ 執行役員]

生物多様性はグローバルでは重要なイシューとなっており、気候変動と両輪をなすものと言えます。1992年の国連地球サミットでは気候変動枠組条約と共に生物多様性条約が締結され、TCFDと同様にTNFDという情報開示と投資が連動する仕組みも動いています。とは言いながら、ビジネスとの関連が見えづらいという声も多い分野でもあり、受講者への事前アンケートでもそのような傾向が見えました。

アグリフォレストリーによりサステナブルなカカオ生産を行っているDari Kの事例をふまえながら考えていきます。農家の貧困や気候変動といった社会課題と生物多様性が絡み合う中、サプライチェーン全体に視野を向けることによる可能性も見えてきました。ケーススタディでは、サステナブルな食に関する商品開発やビジネスモデル、さらには金融商品や新規ビジネスについても提案されました。

④再エネ電力ビジネス 〜アグリゲーター、VPP
講師:比嘉 直人氏[株式会社ネクステムズ 代表取締役社長、株式会社宮古島未来エネルギー 代表取締役社長 ]

最終テーマでは、沖縄での再生可能エネルギーの普及を目指した取り組み事例を伺いました。供給だけでなく需要サイドも含めて総合的なマネジメントを行うエリアアグリゲーション事業と、各々の島に密着した再エネサービスプロバイダ事業の組み合わせで、宮古島では既に実装段階に入っています。

ここで着目するのは、比嘉氏をはじめ関係者の粘り強い努力です。実証を繰り返しながら新しい技術を取り入れるだけでなく、他のエネルギー事業者やメーカーをステークホルダーとして巻き込みながらビジネスモデルを構築してきました。受講生の提案も、日本国内の各地域をターゲットとして、地域の特性をふまえたビジネスモデルまで多様でした。また、4回目ともなると各提案の安定度も高まってきたように思えます。

▼芽生え始めた「グリーン」の種

計9コマ+グループワークに渡る濃密な研修で受講者はどのような成果を得たのでしょうか?以下の3つの観点から整理してみたいと思います。

『知る』 〜 生でしか得られない知見と課題解決の方法論

まず、両コーディネーターから、グリーンビジネスに関する幅広い知見を得られ、自分のビジネスだけに限らない視野の広がりを得られることが大きな成果でしょう。更に、その上で第一線でグリーンビジネスを推進している講師より、その熱い想いを生で聴き、ウェブには載らない直面する課題を伺うことで、生きた情報に触れることができます。また、ケーススタディを通して興味関心にフィットする有用な知識を自らアクティブに得る経験やノウハウは今後のビジネスでも大きな武器になっていくでしょう。

『つながる』 〜 サステナビリティ×ビジネスで結ばれた立体的な人的ネットワーク

本研修はオンラインとオフラインのハイブリッド形式で行うことで、東京に限らず東北から九州まで多様な地域から参加を得ました。また、金融やメーカーなどに関わるグローバルビジネスから各地域で廃棄物やエネルギー、活性化などに関わるコミュニティビジネスまで、幅広い事業分野や企業規模に属する受講者が参加しています。グループワークではテーマごとにメンバーをシャッフルすることで、これら多様な受講者のほぼ全員が共体験を通して交流を深めました。環境分野に関する課題解決は決して一社で解決できません、このネットワークが将来の財産になるはずです。

『動き出す』 〜 自らビジネスを変革していく行動力

講師も受講者もビジネスパーソンである本プログラムでは、単なる教える・学ぶという関係で終わるのではなく、現場のビジネスとして動かしていくチャンスが沢山得られます。今回の受講者に関しても、講師が提供するサービスへの打診、自社で検討中のビジネスへの反映といった実践的な効果が得られたようです。また、受講後も互いのビジネス現場を見学する企画などが出ており、将来的なビジネスにつながりそうな人的交流が始まっています。

▼受講者の声(抜粋)

「環境にいい」ことをどうマネタイズするのか考える癖をつけることができました。

ビジネスの最前線の講師の話を聞けたことは大変有意義だった。

他業種・様々なバックグラウンドを持った方々と会話を重ねられたことが良かった。

参加者とのビジネス関連での紹介を頂きました。

今後どのようにマネタイズしていくか検討を始めるきっかけとなりました。

レポート、動画配信、slackなどにより、研修内容に集中出来た。

研修のテーマ設定への満足度94%
研修の総合的な満足度100%(5段階上位1・2番評価の合算)

シティラボ東京としても初挑戦の『グリーンビジネス実践』でしたが、全体を通して感じたことは、ビジネスをサステナブルにしていくことは、生産や販売を通したサプライチェーンさらには消費者までが一体となったコ・ベネフィットをつくっていくことであり、それは必然的に各々の特徴を持った産地や消費地、そこに暮らす人や訪れる人を巻き込んでいくことになるということです。サステナブルシティをつくっていく上でグリーンビジネスが果たす役割の大きさをまじまじと実感する研修でした。

本プログラムをプロデュースしていただいたコーディネーターの両氏、白熱の講義をいただいた4名の講師、なによりも、ゼロからの研修に飛び込み素晴らしい熱量で提案をまとめあげていった受講者の皆さまに厚く御礼を申し上げます。この経験を活かし、よりバージョンアップしたプログラムの検討を始めています。今回の経験から新しいプログラムが生まれてくるかもしれません。是非楽しみにしてください!

▼グリーンビジネス実践2022年度実施概要

  • 日時 2022年6月16日(木) 〜 2022年9月29日(木)
  • 回数 全9コマ(各回18:30〜20:00)+自主ケーススタディ(グループワーク)
  • 場所 シティラボ東京(オンライン/オフラインハイブリッド)
  • 最小履行人数 10名、最大20名限定
  • 参加費 24万円(税込) ※シティラボ東京法人会員 特割12万円(税込)
  • 主催 シティラボ東京、一般社団法人バーチュ・デザイン
  • 詳細 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000071034.html

2022年度参加企業(五十音順)

株式会社大垣共立銀行/合作株式会社/株式会社クレアン/損害保険ジャパン株式会社//株式会社T&Dホールディングス/株式会社テダソチマ/東京建物株式会社(3名)/株式会社ドラマティック/日清食品ホールディングス株式会社/ハコネット株式会社/パナソニック ホールディングス株式会社/芙蓉総合リース株式会社/阪神阪急不動産株式会社/みずほ証券株式会社/株式会社ミツウロコグループホールディングス/株式会社三菱UFJ銀行(3名)/株式会社ヤマダホールディングス

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