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【Special Report】 人との会話が真のスマートシティを導く  ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一×建築家 西田司×東京大学教授 小泉秀樹

 

2019年10月28日から全5回にわたって開催された連続プログラム「シビックテック(※) ×ライフスタイル  体感できるスマートシティの未来」。ライゾマティクス・アーキテクチャーの齋藤精一氏と建築家の西田司氏がプロデューサーを務める本プログラム最終回のテーマは、「シビックテックとコミュニティ」。東京大学まちづくり研究室教授の小泉秀樹氏を加えクロストークを展開した。テクノロジーをまちづくりにどう活かすべきか。どのようなプロセスでスマートシティをつくり出していくのか、そして、未来のまちはどうなってゆくのか。最終回にふさわしい、白熱した議論の模様をレポートする。(※)市民自身がテクノロジーを活用して社会課題を解決する取り組み

「シビックテック ×ライフスタイル  体感できるスマートシティの未来 第3回」の様子はこちら

写真/石川望 取材・文/吉原徹


スマートシティの現在地と、いま考えておくべき“問い”について 〜小泉秀樹教授によるレクチャー~

「シビックテックとコミュニティ」をテーマに行われた本プログラム。その導入として、第一部では東京大学まちづくり研究室教授の小泉秀樹氏がレクチャーした。コミュニティデザインや共創まちづくりを専門とし、これまで数多くのまちづくりに関わってきた小泉氏は、まず最初に「スマートシティ」の歴史と類型を整理した。

「日本でスマートシティという言葉が使われるようになったのは、1990年代後半のこと。当時は自治体の情報開示やイントラネット構築などを通じたeガバメント化の文脈で、この言葉が用いられていました」

その後、各地域におけるエネルギーマネジメントを効率化する「スマートグリッド」や「スマートコミュニティ」という考え方が生まれたことや、現在ではAIやIoTを用いたイノベーティブなスマートシティ化に取り組む自治体が増えていることなどを紹介。続けて、日本におけるこれからのスマートシティの方向性についても言及した。

「各地の自治体では、官民連携でイノベーションを起こそうという動きが始まっています。ただ、自治体と数社の企業が連携するだけでは、なかなかうまくいかないケースも多い。そういったときに、『リビングラボ』(産・官・学に市民やユーザーも加えた共創の場)が有効だと思います。超高齢化対策や災害対応などは、日本が世界の最先端の分野ですし、グローバルイシューでもある。そこ(リビングラボ)にフォーカスすることで先端的なサービスができるのではないでしょうか」

レクチャーの中盤では、小泉氏が実際に関わってきた「たまプラーザ」でのリビングラボ・プロジェクト事例について、そのプロセスを細かく紹介した。ビジョン共有の重要性、ワークショップの設計、実際の活用方法など、これまで積み重ねてきた地道な活動やまちづくりに関する知見を説明。

 

「私たちが依頼を受けて地域に入るときには、必ず地域のキーパーソンに会いに行きます。そして、さまざまな話を聞いた上で『あなたの他に話を聞くべき人を紹介してほしい』とお願いし、次の人に会いに行く。ひとりを起点に順番に巡っていくと、やがて新しい人が出てこなくなる。そこまでやると地域の主なステークホルダーがすべてわかるし、人間関係も見えてくる」

レクチャーの後半では、スマートシティを実現するうえで考えておくべき複数の“問い”を投げかけた。

「まず『何のためのスマートシティなのか』を改めて考え直さなければいけません。もちろん『まず小さく試してみて、少しずつ変える』というタクティカルアーバニズムのような考え方も大事です。ただ、まちづくりにはトライアルで自由にやっていい領域と、慎重に進めなければいけない領域がある。たとえば自動走行は、一回事故が起きると技術自体の普及がストップしてしまう。スマート化による変化がどのような性質のものなのかを、見極める必要があります」

その中には、まちづくりとしての“問い”もあった。

「アウトプットばかりに意識が行きがちですが、『まちづくりのプロセスのスマート化』に重点を置けば、もっと面白いことがたくさんできるのではないか。たとえば、今回のテーマであるシビックテックも、さまざまな現場の声を聞きながらブラッシュアップを重ねると、いいサービスができる場合がありますね。そのために、リビングラボのような多主体共創の場などを活用できれば、プロセスがよりスマートになるのではないでしょうか」

必要性の認識と合意形成。スマートなプロセスこそが変革を生む 〜クロストークとディスカッション〜

第二部は、本プログラムのプロデューサーである斎藤氏、西田氏と小泉氏によるクロストークからスタート。

「小泉さんは“実装”を担っていらっしゃる。今の時代に合わせて、今の時代にある材料を活用し、市民の方々と一緒に泥臭くやっているところが良いですね。スマートシティをつくることが目的になってしまって、その部分(市民との連携)が抜けているケースが多いですから」
そんな斎藤氏の発言から始まった3人の対話は、それぞれの経験談などを経て、やがて「スマートシティ」の実現に必要なエッセンスは何か、という点に集約されていった。

 

「シビックテックによるスマート化の成功例のひとつが、金沢市のオープンデータを利活用して実装した『5374.jp』です。これは『ゴミの捨て方』に特化した簡単なアプリで、今や全国に広がっています。つまり、決して高度な技術でなくとも実用的であれば普及していくということ。また、大手企業でうまく行っているのは、市民が確実な必要性を認識し、合意形成がなされている場合ですね。たとえば子供の安全や防犯のためにセンシングするのであれば、市民は防犯カメラの設置などにも納得してくれます。一方、『目的はわからないけれど、情報を市民から得て新しいものをつくりたい』というスタンスでは、なかなか受容されません」(小泉氏)

「合意形成が取れていない異物を持ち込むと、絶対に無理が出ます。実用性の点でも、やはりいろいろな人と話さないとその地域で何が課題になっているのかが見えてこない。その点で、地域の人々とたくさん会話を交わす行政やデベロッパーの方々は、問題のシーズをつかみやすいのではないでしょうか。スマートシティというと、デジタルレイヤーとリアルレイヤーの間にコモングラウンドがあって……という『デジタルツイン』のような世界を考えがちですが、実際のところはまだまだ肌感がない。スマートシティはもっと身近なところから始まっていくのでは」(斎藤氏)

その後、西田氏が提示した「共創する価値」、「データは儲かるか?」、「リビングラボ的な中間組織の価値」、「日本でスマートシティのまちづくりをやるのは誰か?」、「持続可能な事業やライフスタイルになるためには?」など12のテーマでのグループディスカッションへ。議論を終えた各グループからは、登壇者に多様な意見や疑問が投げかけられた。

 

◇参加者グループA「スマートシティに共通しているのは、『見えないものを見えるようにする』こと。それをどう使うかは、ユーザーに委ねられていると思います。一方、誰がデータを集積して公開してくのかは、まだ定まっていません」

◆小泉氏「行政のオープンデータ化は立ち遅れているので、適した中間団体が担うやり方もあるでしょう。たとえば日本では、それぞれの地域で地道に信頼感を積み上げている不動産事業者が中間事業者になってもいいのでは」

◇参加者グループC「まちづくりの機運のない自治体では、スマートシティやリビングラボの実現は難しいですね」

◆西田氏「スマートシティやリビングラボをつくること自体を目的とするのではなく、自分たちの暮らしの豊かさを価値として考えたほうが良いのではないでしょうか」

◇参加者グループD「デベロッパーや行政が提供するまちづくりサービスが、どの地域でも同じような“金太郎飴”状態になってしまっている。どのようにすればクリエイティブ・ジャンプを起こせますか」

◆斎藤氏「事業計画ありきで、新しいアイデアやオプションをつくれないことが問題です。カタログ化されていてはスタートラインにも立てないので、今の(まちづくりの)プロセスを一度疑ってみて、ゼロスタートできるようになるのがベストです」

◆小泉氏「まちづくりはローカルイノベーション。私たちが多くのステークホルダーを発掘する理由は、意見の違う人を掘り起こしたいから。いろいろな意見や要因が出てくることで、デベロッパーや行政などのまちづくりの専門家は、違う意見を組み合わせて新しいアイデアを生み出していける。それがイノベーションだと思います」

 

総括として、斎藤氏からこれからのまちづくりに必要な心構えや歩み方を示した以下の言葉が発表された。全5回のプログラムを踏まえて作成されたこ8つの行動指針は、スマートシティが描き出す未来への決意表明とも受け取れる。これらの行動指針を共有した参加者たちの行動やアイデアから、新しいまちづくりが生まれていく―――。そんな興奮とともに、2時間30分に及んだ最後の講座は幕を閉じた。

< 8つの行動指針>

1. まずは明確な問題を見つける
→ 都市伝説やマーケティング・リサーチだけではなく、人との会話でそれを見つけること。

2. 大きなスケールで変革を起こすのではなく、まずは小さなスケールから起こす
→ EBILABのシステムのような個店舗からでもベネフィットの効果測定がやりやすいものを。

3. すでにあるサービス/プラットフォームを活用する
→ 導入コストを考えて、車輪の再開発は可能な限りやめる。

4. データやノウハウは可能な限りシェアをする
→ シェアのスケール・コミュニティはものによる(今回の参加者のコミュニティ内では少なくともシェアをする)。

5. 日本なり/地域なりの問題→解決を考える
→ 世界のサービスを持ってくるのではなく、しっかり使う人を考える。

6. スケールを考える
→ サービスが広域で持つ最終のアウトカムを持つ。

7. 今のまちづくりを疑ってみる
→ たとえば今までのプロセスに入っていなかった、テック系などの人に入ってもらう。

8. 自分(自社・団体)で哲学/指針を創る
→ 「これから」の方向は自分たちで定義する。それが個のユニークネスになる。

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