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【Event Report】“スロー”を実感できる場所~対話する都市をめざして ~

2023年1月18日、建築家の西田司さんとシティラボ東京がともに企画した連続対談の14回目「”スロー”を実感できる場所~対話する都市をめざして~」を開催いたしました。本イベントではこれまでの全13回の対談で見えてきた”スロー”シティの輪郭を、より豊かに描き出すことを目的として対談を進めていきます。ゲストには『フォルケホイスコーレのすすめ』の著者でありIFAS共同代表の矢野拓洋さんをお迎えしました。矢野さんからの話題提供の後に参加者からの質問等を交えながら、前半は「フォルケホイスコーレについて」、後半は「日本で対話する都市をめざすためには」をテーマに2セットのクロストークを行いました。オンライン・オフラインで約40名が参加しました。 目次
1.フォルケホイスコーレについて
◆フォルケホイスコーレとは ~矢野さん話題提供①~
◆日本とデンマークのクリエイティビティ ~クロストーク~
2.日本で対話する都市をめざすためには
◆日本を対話する社会へ ~矢野さん話題提供②~
◆イノベーションのための心理的安全性 ~クロストーク~
◆”スロー”につながるキーワード

◆フォルケホイスコーレとは ~話題提供①~

はじめに、デンマークでも3年間建築設計事務所や研究機関に務め、日本にフォルケホイスコーレ(以下、ホイスコーレ)を広めるための活動を実践している矢野さんから、ホイスコーレについての説明がありました。

ホイスコーレとは、17歳以上であれば誰でも入ることが可能なオルタナティブスクールです。日本の職業訓練学校や大学とは異なり、学校ごとに得意とする分野はありますが、さまざまな分野を学んでいく中で自分と社会の接点を見つけていく場所です。日本が外発的動機付け(大人が正解を教えるような教育)で学ぶのに対してデンマークのホイスコーレでは、内発的動機付け(自分が何をしたいかと社会から求められていることの接点を探す)から学びます。またホイスコーレは各分野の専門的な入口を学ぶような場所であり、そこで学んだことを活かしてより専門的に学ぶ場合は大学に行くといったような流れが多いようです。デンマーク人の約7人にひとりがホイスコーレに通っており、20代前半が最も多い割合を占めています。

◆日本とデンマークのクリエイティビティ ~クロストーク①~

(西田)正解が用意されていない教育というのは一見非効率ではないだろうか。分かっている人から学ぶ方が効率も良いし成長速度も早いと思う。あえて無駄があるような学習はどのような循環を生んでいるのかが気になる。

(矢野)私自身も日本では当たり前のようにある「型」がないことに慣れるまで時間がかかった。効率を上げていくための型が日本にはあるが、デンマークにはその「型」というものが存在しない。

(西田)まちづくりを例にすると、「型」があることによって違うまちから型を取り入れることが可能だし、それをアップデートすることができると思っている。

(矢野)日本では関係者の合意の上で良いものをつくることがゴールになっていて成果を求められるので「型」が必要になる。デンマークの場合は合意することがゴールになっているので「型」が当てはまらない場合がある。日本とデンマークのクリエイティビティについても調べたことがあり、日本の場合は歴史や競合などと比較したときの相対的な個性がクリエイティビティと定義されるが、デンマークを含む欧州では内発的な動機からくるオリジナリティ=クリエイティビティと定義する。その点においても「型」がを使うかが関係してくる。  

◆日本を対話する社会へ ~話題提供②~

これまでの日本の企業はメンバーシップ型で作業や事務の仕事が多かったが、グローバルの視点で見るとアジャイルに変化する社会の中で短期志向や不確実性の許容を含むジョブ型でクリエイティブな思考が求められている。そのような働き方を行う上では、クリエイティブな働き方が必要であり、実験や失敗を許容する環境が大切である。仕事に限らず社会そのもので安心して発言できる環境が必要となっていくが、そのためには対話をしながらムダや遊びや余白を許容していくことが重要となる。

◆イノベーションのための心理的安全性 ~クロストーク②~

(西田)そもそも日本にホイスコーレがあった方が良いと感じる理由は何か。ホイスコーレのような他とは異なる選択肢が日本にもあった方が良いと思っているのか。

(矢野)ホイスコーレはムダを許容するものだと思っていて、それがグローバル視点で重要だと思っている。人によっては自分がやりたいことがあり、ホイスコーレを全く必要ない人もいるが、大学まで出た後に就職するというレールで、気づいたら就職後に何がしたいのかとなるケースが多い。自分と向き合う時間が必要な人がいて、そのためにも選択肢を増やすことが必要だと感じている。

(西田)日本で意思決定を行うような経営者や有識者は今まで「自分がやりたいことは何か?」と思わないで生きてきた人が多いのではないだろうか。ホイスコーレを必要とする人と意思決定層のボリュームゾーンがずれている気がする。一方で、「スロー」に考えた方が都市の風景をゆっくり眺めることができたり、食事中にコミュニケーションを取ったり、生産者のことを考えたりすることができるようになり、これまでとは異なる豊かさに気づくことができると思っている。短期的に見ると日本でいう型を使った方が効率的で豊かさを享受できるように見えるが、立ち止まることによって人の内発的モチベーションが上がることも重要だし、その延長線上にそのような人が増えた都市の方が会社や社会にとって豊かだと言えるのもしかるべだと思う。また、マイノリティ側に立った時に集まることによって可視化されることがあると思う。

ここで、参加者から「フォルケホイスコーレを日本に生み出すとした時に、教える側(講師や先生)のスキル(ファシリテーションや対話など)がとても重要だと感じるが、デンマークでは講師側のスキル作りはどうしているのか?」の質問をきっかけにトークが展開しました。

(矢野)オンデザインのWebページを見るとデンマークの建築事務所と同じように、西田さんを含めた全スタッフが五十音順に紹介(他の建築事務所は代表ースタッフと階層が分かれて紹介されている)され、かつ女性スタッフの割合が多いことに驚いた。これにはどういう意図があるのか。

(西田)一緒に設計する中で自分も含めてそれぞれが事務所の中で異なる役割を持っているのがその理由。平均的に良いものを生み出していくのであれば、管理型の方が全体としての効率は上がると思うが、イノベーションを起こすのであれば、実験思考で行うべきだと思っている。そのための事務所での私自身の役割の一つとして、誰かがチャレンジするときに背中を押すことができる心理的安全性を保つことだと思っていてる。

(矢野)デンマークでも心理的安全性があることによって結果として革新的なものが出てくることがあると思う。

最後に西田さんから「日本は新しさやクリエイティビティを不安に思っているのかもしれないと思った。そして歴史やその変遷の上で新規性や優れた部分を確認できるから安心するのかもしれない。日本では「型」がある方が安心を手に入れるやすいのかもしれない。一方で、小さなコミュニティの中でも意識を共有しつつ合意することで、そこにベネフィットが発生すれば豊かさにつながる。その循環が個人にまで影響するようにできれば、さらに広がっていくのかもしれない」と今回のイベントで考えたことをシェアして終了となりました。    

◆”スローを実感できる場所”につながるキーワード

“デンマーク人の考え方”に触れることや“対話する社会のために必要なこと”を議論することで、”スロー”を実感できる場所をどのようにつくっていくか、都市の中に埋め込んでいくのかについて以下のようなヒントを得ることができました。

①一見非効率に見えても、立ち止まってに考えることで内発的なモチベーションを探ることができる(結果として豊かになる可能性がある)

②個人としてだけでなく、社会全体としても余白やムダを許容する選択肢が必要になっている

③新しい豊かさのためのイノベーションを起こすときに発言しやすい環境(心理的安全性)が必要になる