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【Event Report】北欧のパブリックスペースとアクティビティ 「北欧のパブリックスペース」出版記念トーク

2023年3月20日、学芸出版社とシティラボ東京の共催でトークイベントを開催しました。2月5日に発行された『北欧のパブリックスペース 街のアクティビティを豊かにするデザイン』(https://book.gakugei-pub.co.jp/gakugei-book/9784761532888/)の出版記念として、著者の小泉隆さん(九州産業大学建築都市工学部住居・インテリア学科教授)、David Simさん(Softer代表、アーバンデザイナー、建築家(以下、シムさん))の講演、対談を頂き、現地・オンライン合わせて90名が参加しました。   自然環境に配慮し、利用者の自由に寛容で、人間中心の包括的な発想でデザインされた北欧の代表的なパブリックスペース55事例について紹介した本書、人々が街でどんなアクティビティを楽しんでいるか、そのアクティビティを生みだす空間はどのようにデザインされているかがよくわかる一冊です。今回のトークでは、現地在住の建築家、北欧訪問歴の長い研究者の視点で、北欧のパブリックスペースの豊かさに迫って頂きました!

1. 豊かさの背景とデザイン

住居インテリアがご専門の小泉さん、2005年にサバティカル休暇でフィンランドに行って以来、人間のためのパブリックスペースを体感し、北欧の魅力に取りつかれました。本書は、シムさんが執筆した4つのエッセイで北欧の文化やデザインの本質を鋭く突き、多様な事例はシムさんからアドバイスをもらいながら小泉さんが取りまとめたそうです。

▼歩行者専用道や広場の使用に関するルール

小泉さんからは、歩行者天国の事例として有名なストロイエや、ウォーターフロントを中心に事例を紹介頂きました。中でも印象的なのは、ストリートパフォーマーやオープンカフェに寛容なルールについてのお話です。日本では近年緩和が進んでいるものの、基本的には道や広場でのパフォーマンスを禁じていることが多いですが、北欧では“大歓迎”というスタンス。“許可”ではなく“歓迎”をすることで、多様で持続可能で機能的な都市の実現に役立っているようです。
出典:小泉さんの講演スライドより

▼個人の自由が共存しながら時間と空間を享受する社会

北欧では「公共空間はみんなの財産である」という考えがあり、所有者に損害を与えない限り私有地の山に入ったりベリーを取ったりしても良いとのこと。個人の自由を大切にしながらその共存を理想とする考えが根付いており、それが時間や空間を共有する生活様式、更には北欧のパブリックスペースに見られる日常生活の豊かさに繋がっているようですね。 政治も税金の考え方も日本とは異なる北欧ですが、この考え方や空間デザイン手法を日本に取り入れることはできるでしょうか。良いなと思うところから参考にして日本も少しずつ変えていければと小泉さんはお話しされました。

2. 日本と北欧のコラボレーション

日本の本屋では都市に関する本がたくさんあり、日本人にとってパブリックスペースへの関心が高まっているように感じるというシムさん。日本人が好む北欧のデザインやパブリックスペースについて、その創られたストーリーに触れながら、本の裏側にある理念についてお話し頂きました。

▼日々の生活からヒントを得た北欧の優しいデザイン

重ねたコップから発想された眩しくない照明、注ぎやすく持ち手がデザインされたスカンディナビア航空のコーヒーポット、手の形状に沿って作られたハサミ、子供の成長に合わせて長く使える椅子、外で使える座布団が格納された可愛らしいリュック。北欧発の様々なプロダクトの紹介により、北欧のデザインの根底にある“優しさ”と、日々の生活をヒントにしたデザインであることに気付かされます。

▼時間や自然を楽しむ文化

日本では数年前からデンマーク語の”HYGGE”という居心地の良さを示す言葉が流行り、今ではフィンランド語の”SISU”(内面の強さやガッツ)、スウェーデン語の”LAGOM”(人生のバランス)などの言葉も聞かれるようになりました。北欧の人々は テーブルを外に持ち出してパーティーを開いたり、寒い日でも外でお茶をしたりすることが好きだそうですが、スウェーデンの画家「カール・ラーション」の絵画には100年以上前から外で暮らしを楽しむ風景が描かれており、北欧の人々の中に自然を楽しむ文化が備わっていることが分かります。
出典:北欧のパブリックスペース p10, カール・ラーション「大きな白樺の下での朝食」©️PPS通信社
出典:北欧のパブリックスペース p89

▼コペンハーゲンの変化

ヤン・ゲールがアクティビティ調査をしたことで知られるコペンハーゲンのストロイエも始めは歩行者天国ではなく、人のための空間に溢れていたわけでもありませんでした。歩行者天国の話が上がった時には、自動車が利用できなくなると沿道店舗から反対を受けたり、暖かいイタリアとは違うという声も出たそうです。ところがいざ車を止めてみたら、人々はその空間の活用の仕方をすぐに理解したとこのと。北欧の優しいデザインや、時間や自然を楽しむ文化に通じるお話ですね。今では歩行者専用のエリアも大きく広がり、コペンハーゲンの至る所に人々に使われるパブリックスペースを見ることができます。

▼北欧の信頼する風土

北欧では、街中だけでなく住宅街にもパブリックスペースが多く存在し、ダンスをしたりコーヒーを飲んだり、子供がつくった飲み物を大人に売ったりといった、多種多様な人が集う風景を見ることができます。これらの多様な活動がそこに存在するのは、”HYGGE”における「信頼」という要素に通じるとシムさんは考えます。互いを信頼すること、ご近所同士での見守り、禁止ではなく信頼、集いによる孤独の軽減等、これらの北欧の人々が元々持つ民主主義の考え方や行動が、北欧のパブリックスペースを豊かにしているようです。
出典:北欧のパブリックスペース p113

3.トークセッション / Q&A

▼ヨーロッパから見た北欧、日本の特徴

同じヨーロッパのスコットランド出身であるシムさんから見ても、北欧のパブリックスペースは、民主主義が反映されていることや、誰にでも開かれた空間のつくり方などが、自国の風景と異なり魅力的に感じるのだそう。 日本特有の“曖昧な”空間のつくり方にも触れて、「歩車分離されていない通りでも事故が起きない曖昧さが日本特有の風景で面白い!」とシムさん。私たちの白黒つけない国民性、物事を丸く納める力は、空間づくりでは良い意味で活かされているようです(笑)

▼パブリックスペースに対する思考の変化

会場から、「北欧の公共空間が車中心だった時代から人中心へと変化した背景、決定権のある人々の価値観が転換するポイントについて教えてほしい」という質問が出ました。シムさんからは、社会のパラダイムチェンジには経済に対しても説得力を持たせることが大事であり、自転車の健康に対する効果、自動車の排気ガス量による負の影響などをデータで示すことが重要といった回答がありました。小泉さんからは、「個人に委ねず禁止が先行する日本の風習」について、教育も含めて思考を変えていく必要性について言及されました。

4.北欧のパブリックスペースから学ぶこと

日本の文化や空間の面白さ、日本人なりにパブリックスペースを楽しむ近年の風潮について、北欧の視点から肯定的な話を聞くことは大変重要で日本人として自信にも繋がると感じました。確かに北欧のパブリックスペースの魅力は計り知れず、その背景や北欧の人々の思考から学ぶことがたくさんあります。私たちはそれらをただ真似るのではなく、日本人の特徴を捉えながら私たちに必要なパブリックスペースの在り方、それを実現するためのアプローチを考えていく必要がありそうです。