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【Special Report】創造社会×サステナブルシティの輪郭(試論)

1.本レポート(試論)の趣旨

 2023年3月4日に開催されたサステナブルシティ・サミット3(以下、サミット3)では、「創造社会×サステナブルシティ」を共通テーマとして開催しました。まずオープニングセッションで「創造社会」の概念を確認した上で、サステナブルなまちづくりやビジネスの観点から、「見える化」「都市活動」「地方創生」「公民連携」という4つのテーマでセッションを行い、クロージングセッションで全体を統合するという構成で、6つのセッションを実施しました。

 本レポートは、これらのセッションを横断的に眺め「創造社会×サステナブルシティ」の輪郭を描いてみようという取り組みです。この広いテーマに対してサミット3当日で全ての議論が出尽くした訳ではありませんし、各セッションで得られたキーワードを全て消化できている訳でもありませんが、大枠としての仮説を形にしておくことで、議論の深化に向けた土台となればと思っています。

【サステナブルシティ・サミット3 セッション・登壇者一覧】

オープニングセッション 創造社会×サステナブルシティ、その可能性1
井庭崇(慶應義塾大学総合政策学部) /中島直人(東京大学)※CD
セッションA-1 「見える化」はどのように創造社会を導くか
澤村翔太(一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO))/新井博文(株式会社ヘラルボニー)/横尾祐介(クックパッド株式会社)/羽鳥徳郎(株式会社TBM)※CD
セッションB-1 遊ぶように暮らしを創造する
瀬戸ひふ美(株式会社凛門、瀬戸建設株式会社)/島原万丈(株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研)/中川あゆみ(株式会社フジタ)※CD
セッションA-2 創造的な公民連携の実現に向けて
越直美(三浦法律事務所弁護士/OnBoard株式会社 CEO/元大津市長)/井上雅之(デロイト トーマツ人材機構株式会社 取締役 /元大阪市経済戦略局長)/毛塚幹人(都市経営アドバイザー/元つくば市副市長)※CD
セッションB-2 新しい日常をつくる創造的思考の情勢
下村 瑞希(仙台市役所 / NPO法人自治経営)/笠井 裕子・中島 実月(大丸松坂屋百貨店 未来定番研究所)/堀江 佑典(昭和株式会社 開発事業部営業開発室 室長)※CD
クロージングセッション 創造社会が生み出すサステナブルシティへ
西田司(建築家、設計事務所オンデザイン)/中島直人(東京大学)※w/井庭崇・各セッションCD

 ※CD:コーディネーター

サミット3の趣旨や各セッションの概要については下記レポートをご覧ください。

https://citylabtokyo.jp/article/2023/03/30/report-sustainablecity-summit3/

2.「創造社会×サステナブルシティ」を考えるにあたって

 「創造社会」とは、「一人ひとりが本来もっている創造性を十全に発揮する社会」を意味しています。人生の豊かさは「消費」から「情報」へと変化してきたが、これからは「創造」に移っていくのではないかというものです。いわば社会像の「見立て」とも言えるでしょう。その背景には、多様化する個人の価値観という流れもありますし、VUCAとも呼ばれる予見しづらい社会の中、各々が創造的に生きていかねばならないという状況もあります。

消費社会・情報社会・創造社会の変遷(井庭崇氏資料より)

 今までにシティラボ東京が積み重ねてきたセッションでも、創造社会に親和性の高いキーワードが挙げられており、今回のサミット3は、それらのキーワードに輪郭を与えたいという想いもありました。一方、創造社会は、その構成員である私たち「一人ひとり」が創造的になっていく社会(構成員)像です。「サステナブルシティ」を考える際には、個人だけではなく、ある地域や機能に応じた組織や社会の構造という観点も必要になりそうですし、具体的な都市という空間や活動でのイメージや仕組みを考える必要があります。個人の取り組みとサステナビリティの実現ではタイムスパンも異なるため、その関係性を整理する必要もあります。

3.創造社会×サステナブルシティの輪郭(試論)

 幸いにして、サミット3の各セッションを通し、これらの課題に対する大まかな骨格、輪郭が得られたのではないかと思っています。以下、具体のポイントを列挙する形で整理してみたいと思います。

①人はそもそも創造的であるということからスタート

 社会を構成する最小単位である「人」は、本来誰でも創造性を持っているはずであるという認識を新たにし、それを発揮できる環境をつくっていくことが、創造社会に向けた第一歩であり、全セッションを貫く基本的なマインドセットだったように思えます。

 予見性や無謬性を重視する風潮の中、いつの間にか創造性が抑圧されてしまっている状況がないでしょうか。逆に、「創造」という言葉が一部のクリエイターの専売特許であるように思ってしまい、自分でかってに抑圧してしまっている可能性もあります。自分や相手が持っている創造性を見つめなおしてみましょう。

サミット3のキーワード(抜粋)
・創造とは閃きや創作そのものではなく発見が連鎖するプロセス(OP) ・創造は独創ではない(OP) ・個人が持っている創造性に目を向ける/安心して自分を出せるよう鎧を溶かす(A-1) ・アノニマスではなく、自分の身体性と関わる(B-2) ・社会や人を変えるよりも自分自身に変化をもたらす(B-2) ・人はワクワクで動く(A-1)
 

②開いた心で飛び込む/巻き込まれることで創造性を展開

 個人の創造性はもちろんベースとして必要ですが、都市・社会としては、個人の創造性が互いに出会うことで生まれる二人称的な創造性、さらには組織や地域といった広がりの中での創造性へと広がっていきたいものです。

 各セッションでは、具体的な人の活動や組織のあり方、まちなかに出ていくための拠点のあり方など多様なノウハウが提示されました。ただし、皆が同じ考え方や行動をすると、創造性からまた離れていってしまいます。大きな価値観は共有しつつ、個々の考え方を尊重する感覚が大事です。

サミット3のキーワード(抜粋)
・小さい関わり、共感、価値観、一人称から二人称的な観点に(B-2) ・同じものを見て違うことを感じるのが創造性(B-1) ・街なかに飛び込むことで物理的な壁、組織的な壁を超える(A-2、B-2) ・ピラミッド型ではなくハブ型のネットワーク構造(B-1) ・人的ネットワークのハブ機能が大事(A-2) ・ファシリテーターではなくジェネレーターとして議論や取り組みに参加する(OP、B-2)

③見えていない価値や問題がある社会構造の再確認

 視点を少し変え、都市や社会を取り巻く構造に目を向けてみましょう。まず、そもそも人が持っている創造性が隠されてしまっている社会環境があるように思えます。例えば「障害者」という言葉でひとくくりにされて各々が持つ才能が見えなくなってしまうこと、無謬性を重視しがちな行政のシステムで失敗の種が(可能性を持っていても)排除されてしまうこと、教育プログラムや企業の評価制度も同様になってしまっているかもしれません。

 また、人間はついつい現在の主流だけに目を向けがちですが、それは、たまたまそうなっているだけかもしれません。社会や環境がはらんでいる重要な問題に目が届かず、それが将来的に重要な問題に発展してしまうおそれもあります。既存のシステムや主流からはずれた価値や問題にも目を向けてみましょう。その中に明日の「主流」が隠れているかもしれません。

サミット3のキーワード(抜粋)
・社会、環境問題はそもそも見えづらくなっていく構造(A-1) ・内向的だが創造性を持つ人の存在(外交的な声の大きい人が優先される社会)(A-1) ・個人が見える化されることで、社会の問題が見える化される(A-1) ・小さな種を見つけてそのマーケットを育てていく(B-1)

④創造性が入り込む器としての余白やあそびがある寛容な社会

 個人や組織が創造性を発揮できるためには、都市や社会の側にはどのような構造が必要でしょうか。個々の創造的な取り組みは、あくまで今の「主流」とは外れていることも多いので、そのような活動を受け入れられる余白、あそびが必要です。創造的な取り組みは個々のレベルでは異なるので、社会全体としては多様な価値観を包含できる寛容性が必要となります。

 都市や地域で具体的に考えてみると、空き家や空地の活用、公共空間をはじめ既存の都市空間をうまく使いながら改善していくマネジメント型のまちづくりなどが進んでいます。このような活動に地域や企業の人々がより積極的に関わってくることで社会全体の創造性も高まり、結果として多様性や寛容性に富んだ都市になり、さらにその結果としてイノベーションも生まれてくるのではないでしょうか。

サミット3のキーワード(抜粋)
・まちの中で予期せぬ時間や場、見落としがちな余白に価値を見出す(B-2) ・地方創生←革新性←創造性←多様性←寛容性(B-1) ・文化的魅力が大都市の経済原理のみで成立している現状(B-1) ・コミュニティの濃密さは時として排除につながる(B-1)

⑤個人的時間軸や農業的時間軸の導入

 「成長」を大前提としてきた今までの価値観では、工業生産的な時間軸が重視されてきたように思えます。それは、右肩上がりを志向して、一方通行で戻ることがなく、全世界で共通な時間とも言えるでしょう。「成長」を「創造」に置き換えた時、時間軸の捉え方も変化してきます。

 クロージングセッションでは「創造社会」と「スロー」という言葉の共通点として、「時間がかかっても自分の手でつくる/時間自体を楽しむ」という時間感覚が挙げられました。実は、物理法則の基本法則には「時間」という変数はなく、宇宙全体で共通する時間という概念も存在しないそうです(※1)。「時間泥棒」(※2)から逃れ、個人の内側にある時間軸を確保することで「創造」が身近になりそうです。

 もう一つの時間軸として、農業的な時間軸の重要性も挙げられました。季節によって繰り返したり、成長を待ったりする時間間隔。工業生産的な時間軸では「無駄」と言われてしまいそうですが、そのような時間軸が、創造の「土壌」を豊かにしていくはずです。これはサステナブルにも通じる時間間隔ですね。

※1:『時間は存在しない』カルロ・ロヴェッリ

※2:『モモ』ミヒャエル・エンデ

サミット3のキーワード(抜粋)
・時計の時間軸ではなく、ひとりひとりの中に存在する時間軸(OP) ・個人的時間軸:取り返せない時間はない(CL) ・農業的時間軸:繰り返す、待つ、土壌に蓄積(≠工業生産的な単一の時間軸)(CL) ・モヤモヤの中から出てくるヒラメキ(CL) ・過去の否定でもなく上塗りでもない「昇華」(B-2)

⑥創造的でアジャイルな取り組みの積み重ね、その先にあるサステナブルシティ

 今までの時間軸が工業生産的であったとすれば、空間的には「マスタープラン」型であったとも言えるでしょう(ここでは、全体像を固定的に描き、粛々と遂行していく計画といった意味合いです)。ただし、創造社会における取り組みは、必然的にマスタープラン型とは異なるはずです。

 ソフトウエア開発の世界では、マスタープラン型でなく、試行錯誤を繰り返しながら改良していく「アジャイル(敏捷、機敏)開発」が提唱され、ビジネスや組織づくりへも展開されています。実はこれ、1970年代に建築家クリストファー・アレグザンダーが提唱したまちづくり手法である「パターン・ランゲージ」にも触発されているそうです。創造社会における取り組みも必然的にアジャイルなものとなっていくのでしょうし、都市におぃてもプレイスメイキングやタクティカルアーバニズム、エリアマネジメントなどで既に始まっています。

 一方、「サステナブルシティ」という実現に中長期を要する都市づくりのテーマと「アジャイル」な取り組みの関係はどうなっていくのでしょうか。固定的なマスタープランではなくとも、都市や社会が目指すテーマはやはり必要です。それは、抽象的であるかもしれませんが、各々の創造的な取り組みを受け止める器となり、試行と改良を継続しながらサステナビリティを高めていく。その際に重要となるのが、個人の時間軸や農業的な時間軸という関係になるかと思います。井庭教授の言葉「ナチュラルにクリエイティブに生きる」という言葉がそれを象徴しているように思えました。

サミット3のキーワード(抜粋)
・ナチュラルにクリエイティブに生きる(OP) ・アジャイルな創造社会と長期的なサステナブルシティ、入れ子関係の時間軸(CL) ・歴史・文化との関係で考えないとサステナブルでもないし創造的でもない(CL) ・抽象的だが社会的に重要なテーマを共有、各自具体の創造的なアクションを持ち込む(CL)

⑦創造社会×サステナブルシティに向けたアクションの推進・ツールの開発

 「創造社会×サステナブルシティ」の輪郭は浮かび上がってきたような気がします。次は、その輪郭を意識しながら具体的なアクションで肉付けをし、輪郭自体も修正を行っていくフェーズです。

 サミット3に参加いただいた皆さん、また、本レポートを読んでいただいた皆さんが、まちづくりやサステナブルビジネスの世界でアクションを起こしていくことが必要です。シティラボ東京としても今後のプログラムを深化させていきながら、皆さんとコラボレーションを行っていければと考えています。

サミット3のキーワード(抜粋)
・創造性の発揮を支援するツールとしてのパターン・ランゲージ(OP) ・公民連携(空間と情報の開放、人材交流、中間的存在)(A-2) ・適切な見える化/気づかないうちにサステナビリティに向かう仕組み(A-1)…等々

4.創造社会×サステナブルシティの実現に向けて

 今回のサミットは、「創造社会」と「サステナブルシティ」という二大テーマに対し、”スロー”という概念を掛け合わせ、いわば三点測量となって、二大テーマを貫く「時間軸」という概念を得られました。また、各セッションでの具体的な取り組みや課題意識を通し、サミットが当初から掲げていた「まちづくりとサステナブルビジネス」の融合に加え、個人から社会へと至る創造性の広がり、隠れ潜む問題や寛容性に向けた社会構造の変革という全体像も見えてきました。これらが、サステナブルシティの輪郭として立体的に浮かび上がってきたように思えます。

 今後のプログラムや皆さまのアクションを通して進化していくのかと思いますが、まずは第一次近似解(中間仮説)として、サミット3で得られたこれらのキーワードと輪郭を図化しておきたいと思います。

 改めて、実行委員会の皆さま、実施ご協力の皆さま、登壇者の皆さま、参加者の皆さま全てに厚く御礼を申し上げます!