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【Event Report】グリーンビジネスの社会的土台〜イノベーティブなビジネスが公正に活性化するグリーン社会に向けて(グリーンビジネス実践2023オープンガイダンス)

「グリーンビジネス」を取り巻く社会環境は日々刻々と変化しています。ビジネスを行う上で基本的に守るべきルールの形成に携わる公正取引委員会でも、イノベーティブなグリーンビジネスに心おきなく取り組むことができるよう環境整備を進めており、2023年3月に「グリーン社会の実現に向けた事業者等の活動に関する独占禁止法上の考え方」(以下「ガイドライン」)を発表しました。この「ガイドライン」では、グリーン社会に向けたビジネスの例が豊富に盛り込まれており、多くのヒントを得ることができます。
2023年6月8日、委員として検討会に参加された弁護士の高宮雄介さん、書籍『GREEN BUSINESS』著者の小林光さん・吉高まりさんを交え、グリーンな社会とビジネスの実現に向けて語り合いました。
なお、本イベントは研修プログラム「グリーンビジネス実践2023」のガイダンスとなります。研修では主要な環境テーマに関するケーススタディを行いますが、まずビジネスを支える土台に対して視野を広げるものです。また、社会的に重要な内容であるため一般参加も可能なイベントとして開催されました(参加者数40名)。

■キーノート グリーン社会に向けたビジネス環境とリーガルマインド

 まず、高宮さんより「ガイドライン」のポイントを解説いただきました。公正取引委員会でも、環境負荷の低減と経済成長が両立する「グリーン社会」を、あるべき姿として位置付けています。「ガイドライン」も、グリーンビジネスの規制というより、むしろ促進を目的とするもので、そのことも明確にうたわれています。

 いわば「ビジネスにプラスになる線引き」を明確にすることでグリーンビジネスが進めやすくなるというわけですね。また、具体例も豊富に載っており「大多数の試みについては問題ない」ことが実感できますし、「こういう連携もあるのか」と気づくことで、新しいビジネスのヒントとなりそうです。

(「ガイドライン」序文より抜粋・下線追記)

「新たな技術等のイノベーションを失わせる競争制限的な行為を未然に防止するとともに、事業者等の取組に対する法適用及び執行に係る透明性及び事業者等の予見可能性を一層向上させることで、事業者等のグリーン社会の実現に向けた取組を後押しすることを目的として、考え方を策定することとした。」
 

 独占禁止法は通常のビジネスでも前提となるものですが、グリーンビジネスでは、新しい価値観も入ってきますし、多様な関係者も含めて資源やエネルギーを循環させながら価値を創出していくことが重要です。そのため、同業他社や取引先との関係が不適切にならないことが重要です。

高宮さんよりは、公正な取引ルールを考える際の基本的な視点として「水平的共同行為(競合他社とのカルテル、談合等)」、「垂直的制限行為(取引先への不当な要求をすること、競合他社のビジネスを不当に邪魔すること等)」、「企業結合(競争制限的なM&A等)」も紹介いただきました(「ガイドライン」にこれらの具体例が載っています)。

 この様な競争法とグリーンとの関係に関するガイドラインの分野は、今まで欧州が先行していましたが、このガイドラインは国際的にも高い評価を受けており日本が一気にトップに躍り出た面があるとのことです。この社会的土台をうまく活用して日本のグリーンビジネスもトップに躍り出していかなければいけませんね。

■セッション 今こそグリーンビジネスをつくる、はじめる、そだてる

 後半は「ガイドライン」を軸にお三方でトークを行い、その背後にある社会状況やマインドセットを深りました。

▼法律やソフトローの役割と時代に応じた変化

  • 社会的なルールにはハードロー(法律)とソフトロー(法的拘束力を持たないガイドライン等)がありますが、現代はどんな特徴があるのでしょうか?(小林)
  • 法律は基本的にはボトムラインとなる規制を定め、制定や改変には大きな労力がかかります。一方、技術の変化が速いDX、社会公共的な価値観を扱うサステナビリティといった領域では、法律が変化に適合できない状況もあり、ソフトローでファインチューニングしていく流れとなっています。(高宮)
  • 日本の企業は真面目なので、有価証券報告書やTCFDなどソフトローの情報開示に対しても全て対応する傾向があります。絶対守るべき法律(ESGのG:企業統治)と企業や業界によって異なる情報開示(ESGのEとS:環境・社会)の感覚が、まだ日本のビジネス側には伝わっていないギャップも感じます。(吉高)
  • 行政によるベストプラクティス事例を企業側が最低限のハードルとして捉えてしまうこともあります。欧米では企業側もボトムラインにはひっからないよう気をつけているものの、必ずしも全ての企業がベストプラクティスを達成するものではありません。(高宮)

▼企業経営とコンプライアンス

  • 最近のコンプライアンス問題は、データを隠したり、逆に針小棒大だったり、両極端に感じます。ルールをどこまで守るべきか、外れても大丈夫なのかという感覚がわからないことが背景にあると感じます。(小林)
  • コンプライアンスという言葉は、違法のおそれがある、望ましくないという意味でよく使われますが、そのバランス感覚が欠けているところはあります。企業が地域社会やグローバルな影響も考えて経営を行っていくことは当然です。一方、コンプライアンスに集中するあまりビジネスが萎縮したり、コストが過重になったりすることもあり、実は日本だけでなく欧米も同様の問題があります。(高宮)
  • グリーンウォッシュという問題もありますが、ビジネスの現場ではどうでしょうか。(小林)
  • 日本企業は慎重でウォッシュを気にしますが、コンプライアンスが厳しすぎてビジネスができないのでは本末転倒です。金融庁でも日本の動きが下手に欧米に揺さぶられないよう、世界で初めてESG投資信託に関する指針をつくりました。コンプライアンスにも絶対的な「G」や、リスクや機会に係る「EとS」に係る領域があり、その境目は難しいところです。(吉高)
  • ウォッシュになるかどうかは色々な捉え方にもよります。明らかに「EとS」でない内容でサステナビリティを語ることは論外ですが、エビデンスや合理的な説明をあまりに求めすぎることもバランス感覚を失します。日本では「G」と「EとS」の境目が大きくなく、役所の執行によっては簡単に違法側に触れてしまうリスクもあるため、企業側もコンサバティブになってしまう問題はあります。(高宮)

▼垂直的制限行為係と水平的共同関係

  • ガイドラインの中身について、取引先にどこまで環境対応を強制できるか(垂直)、業界団体や競争相手でどこまで約束事ができるか(水平)という例を教えてもらえますか。日本は護送船団方式で前向きな環境競争ができていないように思えます。(小林)
  • (垂直的制限行為)取引先への環境配慮はどんどんお願いして良いし、先方が応じられない場合には契約自体の見直しを検討することも可能です。ただし、取引先にコストや不利益が明白に発生している場合はその面倒を見ないと優先的地位の濫用になりやすいため、たとえばサプライチェーン全体でゼロエミッションを目指す際に気をつける必要があります。(水平的共同行為)環境影響の測定方法やルールなど、環境の競争を活発化するため土台を皆でつくる分には問題ないのですが、そこで発生する追加費用を皆で示し合わせて顧客に転嫁するといった場合には問題になります。個々の会社で判断ができる必要があります。(高宮)
  • アップル社は、再エネ100%を自社で達成すると共に取引先にも要請し、導入に向けた支援も行っている。日本でもスコープ3までカーボンニュートラルを進めるのであれば、そこは一緒にやってもよいと思います。金融機関はあらゆる業界のゲートウェイと言われ、影響力も大きいので、きちんと理解をもってエンゲージメントしなくてはいけないと考えています。(吉高)

▼リーガルマインド

  • 倫理的な商売を行ってきた渋沢栄一が一万円札に載る時代です。倫理的な商売で「これが大事だ」というブレない心構え(リーガルマインド)をどう考えますか。(小林)
  • 抽象的ですが、新しいことをする時にその試みについて「人様に向かって胸を張って言えるか」が重要だと思います。日本の企業は、それほど問題ないことであってもやや萎縮的に対応しがちであり、もっと自信をもって対応すべきと思います。但し、デューデリジェンスで確認すると競争相手と談合していたりすることもありますので、感覚自体がずれてしまうといけませんね。いずれにせよ「人様に向かって胸を張って言えるか」は重要な一つの基準と思います。(高宮)

(終わりに)

セッション最後の「新しい試みを行う時に、人様に向かって胸を張って言えるか」。まさに本研修で具体化していくマインドと感じました。これから3ヶ月のプログラムで皆さんと共に考えていきたいと思います!