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【Event Report】サステナビリティ×ウォーカブル in TOKYO 〜「正しさ」と「楽しさ」を併せ持つ東京ならではのまちづくり

2023年10月23日、トークセッション「サステナビリティ×ウォーカブル in TOKYO」を開催。国内先進事例の池袋と御堂筋の経験、モビリティとサステナビリティの専門家の問題意識を寄せ合いながら、東京ならではのウォーカブルとその先にあるサステナビリティの可能性を考えました。オンライン・オフライン合計で75名が集う賑やかな会となりました。

文:平井一歩

1.イントロダクション 〜 なぜ「サステナビリティ×ウォーカブル in TOKYO」?

▼いま求められるウォーカブルシティ

「歩きたくなる」まちづくりには、居心地や文化といった都市の魅力、脱炭素化、心身の健康、商業や投資の活性化など、多面的なメリットが期待できます。日本でも2020年の改正都市再生特別措置法(通称「ウォーカブル推進法」)以降、「ウォーカブル推進都市」の宣言や「滞在快適性等向上区域(まちなかウォーカブル区域)」の設定など、各都市で取り組みが進んでいます。

▼東京ならではのウォーカブルの特徴があるのでは?

東京では23区中の16区が推進都市を宣言している一方、推進区域は5箇所に留まり(2023年8月時点)、まだ検討の余地がありそうです。世界や日本の各都市と比較しても、都市の規模や公共交通の整備状況、江戸時代から続く歴史など、独自の可能性や課題がありそうです。

▼サステナビリティとの関係をもう一度見つめなおしてみよう

日本のウォーカブル施策(「居心地が良く歩きたくなるまちなか」)は、「イノベーションの創出」と「人間中心の豊かな生活」という文脈から生まれました。当ラボでも、都市のサステナビリティ戦略としてのウォーカブルを再度見つめ直し、多様なサステナブルビジネスとの融合も視野に入れながら、より多面的なアプローチを探りたいと思います。

なお、ウォーカブルやサステナブルに関する幾つかの評価を軽く下調べしたところ、東京をはじめ日本の主要都市は、利便性はトップクラスだが魅力や話題性ではトップ10には入らない…という感じでした(詳細はこちら)。なんか釈然としない感じも抱えつつ、登壇者の皆さんとのトークを通しながら、より魅力的な東京を考えていきます!

2.ウォーカブル事例紹介 〜 まちの営みとウォーカブル

▼池袋のまちづくり これまでとこれから|秋山仁雄さん[サンシャインシティ/池袋エリアプラットフォーム]

▽池袋のこれまで

豊島区は積年の課題であった財政再建を進めてきており、2015年に財政調整基金として公園再整備を初めとする財源を確保できたことが、まちづくりの変化点となった。2014年には、東口で旧庁舎(現、Hareza池袋)と新庁舎(としまエコミューゼタウン)を結び、西口とも緑豊かな公共空間でつなぐまちづくりビジョンを提示している。翌年には「国際アート・カルチャー都市構想」で公園再整備を掲げ、また、「特定都市再生緊急整備地域」の指定を受け、グリーン大通りの国家戦略特区道路占用事業を始動した。

2016〜2020年にかけて南池袋公園をはじめ4つの「公園再整備」を進めてきた。また、それらの緑を「IKEBUS」でつなぐなど、区がイニシアチブを取って迅速に再整備を進めてきた。「グリーン大通り」でもマルシェ型イベントを実施しており、直近ではストリートファニチャー常設化、ストリートキオスクによる日常的なサービス提供などを展開している。

▽これからのまちづくり

2022年度に「池袋エリアプラットフォーム」が組成され、未来ビジョン策定の真っ最中。東西のシンボルストリートを中心としたウォーカブルなまちづくりを進めている。先月、事務局で海外視察に行ったが、チボリ公園前の歩行者空間化、バルセロナスーパーブロックでの「お願いベース」の歩行者中心化などは参考になった。

本日のお題に「正しさ」と「楽しさ」という言葉があるが、「正しいだけ」だと、大抵の場合「面白くない」。それを面白くするためには想像とのギャップが必要なのではないか。池袋ではアート・カルチャーの文脈から「としま編んでつなぐまちアート」を毎年行っている。「ナナメ上」の感覚を目指していきたい。

▼大阪・御堂筋、沿道事業者によるストリート・マネジメント|絹原一寛さん[地域計画建築研究所/ミナミ御堂筋の会]

▽御堂筋とミナミ御堂筋の会

「御堂筋」は大阪中心部を南北に貫く全長4.4km、幅員44m、都市の大動脈である。大阪市による道路空間再編事業として、南側から側道歩行者空間化に取り組んでいる。2021年には「歩行者利便増進道路制度」の指定も受けている。

ミナミ御堂筋の会は既成市街地の沿道不動産オーナー連合で、2020年に「道路協力団体制度」の指定を受けて道路上での収益活動が可能になった。2022年に、街路空間の創造的活用と魅力コンテンツの創造・発信を2本柱とする「ミナミ御堂筋ビジョン」を策定した。

▽沿道事業者によるストリート・マネジメント

最初は「困ったこと」への対応で、放置自動車、路上喫煙、道路上の不法占有などの問題があった。道路協力団体として啓発や美化を行ってきたが苦戦はしている。

2番目は、未来社会の実験・チャレンジの場づくりで、様々な問題を技術で解決する「スマートストリート」として社会実験を重ねており、11月にもモビリティ、デジタル案内板などの実験を行う。昨年度からベンチを設置して管理分担を官民で検証中、万博の共創パートナーとしてモビリティハブやポップアップ、イベント、アート活用にも取り組んでいる。

3番目は、ウォーカブルと経済再生という点で、世界的観光地としての回遊戦略。御堂筋の人流が周辺に波及するかデータをとり、滞在・回遊で購買が伸びるという研究成果もふまえ、駅前広場や御堂筋が起点となって商店街に歩いていく「ウォーカブルミナミ」のビジョンを描いている。一方、来街者の急増に伴い、多国籍対応や混雑などオーバーツーリズム問題も出ている。

3.トークセッション 〜 東京らしいウォーカブルとは?

▼トリガートーク:モビリティの視点から考える TOKYO Walkable|安藤章さん[日建設計総合研究所/モビリティとまちのミライ研究室]

▽ウォーカブル空間をTOKYOで拡散させるには?

ウォーカブル施策の根本に立ち戻って見ると「安全・安心な交通環境」や「くらしの充実」が含まれており、市民の目線でも「人とクルマの共存」、「日常や子供」というキーワードが出てくる。「人がウヨウヨ歩く」賑わい以外の日常的な暮らし、自動車との対立ではない視点も大事。

駅・拠点以外の地区への拡散、生活者(就業者)の目線も考えることで「東京全体がウォーカブル」になる。従来は都心に向かうための交通政策であったが、コロナ後のネイバーフッド政策の中、生活圏を巡るモビリティを考えないとウォーカブルの拡散にも限界があるのではないか。

▽過密都市TOKYOで交通まちづくり計画をどう考える?

交通手段とまちなか回遊には関係がある。自動車よりも公共交通で来る人の方が滞在時間も長く、回遊する傾向がある。交通システムを考えずに対象空間だけを考えてもだめ。ストラスブールでは自動車の交通規制、駐車場の配置、郊外を結ぶLRTの整備をセットで行った。

規制のハードルが高い日本の都心部でも、自動車がスピードを落として歩行者や車椅子を優先するような道路を、幹線道路の一本裏でつくれれば、エリア全体がウォーカブルになる。ノースカロライナでは、身体能力や年齢などに関わらずあらゆる人を排除しない道路空間リノベーション「Complete Street」を進めている。「みんなのため」というSDGs的視点がポイント。

▽ニューモビリティをウォーカブル空間創出に活用できるか?

ラストマイルを支えるニューモビリティがどんどん出てきている。欧米ではe-scooterは娯楽・レクリエーションといった地域での自由行動に多く使われており、うまく使えば地域活性化につながる都市の交通システムとして考えられる。

結節点となる「モビリティハブ」の概念も欧米で浸透している。渋谷の実証実験ではハブを中心に周縁部の個性的なエリア「奥渋」への移動が発生した。楽しい空間にワープするようなもので、新しい回遊が生まれる。ハブが拠点となり住宅地でもウォーカブルを推進できる可能性もある。

▼トリガートーク:サステナビリティからウォーカブルを考える|村山顕人さん[東京大学大学院工学系研究科]

▽「正しさ」とは?

研究してきた「EcoDistricts」が最近「Just Communities」に名前を変更した。行き過ぎた資本主義・市場原理主義を反省し、環境的・社会的に「正しく」(Just)、「再生的」(Regenerative)な取り組みを展開すべきという趣旨で、今日の話題に通じると思う。

最近は地球やグローバルな責任をも中心に据えて意思決定をすべきという論調が目立つ。EcoDistrictsでは「人々と地球を中心に据える」、イギリス王立都市計画協会の前会長からは「ヒューマンスケールな、かつ、世界的な責任を持つ」といったメッセージが出されている。

▽サステナビリティ×ウォーカブル in TOKYOの論点

環境問題や社会問題への対応、東京圏の都市構造やライフスタイル、都市やインフラとしての在り方、評価を行う際のマインドセットや視点などについて、思いついた論点を10個並べてみた(下図)。

▽賑わいだけでない多様なアプローチ事例

韓国では歩道上へのパラソル設置、連続的な街路樹整備などが暑熱対策になっている。地下鉄・バス・タクシーの接続も努力している。イタリアの街路再整備では気候変動対策として高反射性塗装やグリーンインフラを導入、沿道の未利用地を住民が自主管理して若者の居場所となっている事例もある。

住宅地のウォーカブルも重要。自宅の場合、家から駅へのルートでは自転車走行環境や緑の少なさが課題。道路拡幅用地も放置されており、段階的に活用、住民参加でデザインできればと思う。八重洲通りのパークレットも、空間自体はとてもよいのだが、自転車乗りの視点から車道側を見ると急に走行空間がなくなっている。歩行者と同時に自転車のことも考えたい。

▼ディスカッション 〜 東京の特徴と多様なアプローチの可能性

▽トリガートークを聞いて池袋や御堂筋ではどう考えた?

秋山:道路再配分も含めてモビリティを考える必要があるが、商業集積地で配送が多く、物流が課題。2024年問題で車両の大型化も想定される。周辺部に駐車場をつくって小型モビリティで配送するなど、周辺との機能連携を考える必要がある。コペンハーゲンでもスーパーブロック化が進んでいるが基本は一方通行化で、混雑も発生せず、色々な余地が生まれると感じる。

絹原:荷捌きとの調和は商業地では永遠の課題。放置自転車の理由は「みんなが停めている、面倒くさいから」が多数で、駐輪場を整備しても停めないと思われるが「正しく歩いて楽しむことを優先」というウォーカブル宣言を徹底したい。暑熱システムや木陰なども対応しないとこれからのウォーカブルは立ち行かない。改めて、歩いて楽しいという感覚から考えることが大事。

▽自転車や物流との共存

村山:日本は多くの人が自転車を所有する「ママチャリ文化」、欧米はスポーツバイク主流という違いはあるが、御堂筋だと、幹線道路(車道)の自転車レーンや周辺の駐輪場をしっかり整備し、区画道路に入れないことが大事と感じた。

安藤:速度規制によって走る場所を変える概念、ニューモビリティも含めた価値観の変化が大事。路上駐輪は深刻だが1台ずつ丁寧に撤去していくことが重要。物流も大事で、吉祥寺では駐車場を拠点とした民間による共同配送システムを構築したが、行政政策として進めることが大事。

▽多様なアプローチの可能性

秋山:池袋ではアート・カルチャーと紐づいて新しい出会いや発見が得られた。「変わったね」という刺激、日々の変化が得られると、歩いている人が楽しいと考える。

絹原:世界的な観光地として質の高い体験を提供しないと世界の中で置いていかれる。街路も含めて街を楽しくするには、行政だけでなく、地元の商店街と企業がタッグを組むことが重要。緑やサステナビリティの議論は盛り上がっていないが、考える必要がある。

村山:行政には木陰の大切さ、グリーンインフラ維持管理の必要性を伝え続ける必要がある。また、「歩けなくても暮らせる、楽しいまち」という視点もある。お年寄りは長距離を歩きたくなく、歩行支援器具を使うこともある。健常者以外にもやさしいインフラが必要。

安藤:ウォーカブルは必ずしも「歩く(歩き続ける)」だけではない。池袋の公園間は距離があるが、IKEBUSで公園に行って周りを歩くことができる。モビリティを組み合わせて「歩きたいところだけを歩く」発想もある。

▽サステナビリティ×ウォーカブル in TOKYO に向けて

秋山:東京は大きいので、モビリティとセットでウォーカブルを考える必要がある。高齢時代に求められるモビリティの再配分も考えたい。電動キックボードのLUUPでも、将来的にお年寄りが乗れる機体を検討しているとのこと。

絹原:サステナビリティの視点を実現化していくためには統合的にアプローチする必要がある。大阪でも大規模再開発のキタと規制市街地修復型のミナミというエリアを、多様性を持ったパースペクティブを持ちながらデザインしていくタイミング。

安藤:ウォーカブルは交通まちづくりをセットで考える必要がある。道路ダイエットでどのような結果が出るのかまちづくりをふまえて議論しないと、住民から猛反対が出て警察も応援してくれない。全ての人が平等というSDGs的な概念を活用した道路空間再編の戦略も必要。

村山:広域商業拠点では、広域からの賑わいや集客も大事。一方、身近な生活圏に魅力的な公園やウォーカブルなストリートがあり、日常生活で恩恵を受けられるまちも必要。大きなお金がかけられない住宅地での目標やスペックは研究課題。

4.シティラボ東京としての振り返り

最先端で取り組みを行っている実践者、モビリティとサステナビリティの有識者によるトークセッションは、予想通り(?)時間が足りなくなってしまいましたが、都市構造から道路のデザイン、路上のコンテンツまで幅広い要素に渡るアイデアをいただきました。また、参加者からのアンケートでも多様なアイデアが寄せられましたし、まだ色々な可能性があると感じます。

特に、「東京全体がウォーカブルになる」という概念は新鮮に感じました。高度経済成長期に整備されたインフラに新たなコンテンツを埋め込んでいくことは、環境や社会の「正しさ」と経済や文化の「楽しさ」を両立させ、新しくもどこか懐かしいTOKYO像を描くことになるかもしれません。一口に東京と言っても、都心の業務商業地と住宅地や最寄り駅など、各々の特性や手法は異なりますが、本日の議論やアイデアを整理しながら、新たなテーマを摸索していきたいと思います。