レポート
【Report】グリーンビジネス実践2023 〜 環境をよくして稼ぐ、その発想とスキル
2023年6月8日〜9月28日にかけて、「グリーンビジネス実践2023」を開催いたしました。本レポートでは、全体を通してのコンセプトや成果、各回のエッセンスについてレポートします。
文:平井一歩
1.全てのビジネスは「グリーン」になる
環境を改善しながら持続的に成長していく「グリーンビジネス」は、サステナブルな社会の実現に必要とされるだけでなく、既存・新規のビジネスそのものを成長させるためにも必須の考え方となってきています。
2015年のパリ協定、持続可能な開発のための2030アジェンダ(いわゆるSDGs)により、世界は持続可能性に向けて大きな舵を切っていることは周知の事実ですが、2020年前後からその実現に向けたフレームが本格的に整備されています。例えば、TCFDやTNFDといった情報開示、MSCやFSCといった認証など、これらはもはや、ビジネスに直接影響する枠組みとなっています。つまり、既存のビジネスにとっては前提条件が変わるということでもあり、環境の価値が高まって新たなビジネスチャンスが生まれるということです。
「環境」に取り組むことはもはやビジネスの実需であり、その具体化が経済界からも求められ、実践を増やしていく段階に入っています。しかし、現状は何をどうすればよいのか悩んでいる方々が多いのではないでしょうか?だからこそ今、グリーンビジネスの発想とスキルを身につけるための場が必要とされています。
2.シティラボ東京「グリーンビジネス実践」とは?
▼グリーンビジネスの発想とスキル、そしてネットワーク
本プログラムは、グリーンビジネスの実践者を増やすことを目的として2022年度よりスタートしました。4つの主要環境テーマを対象に、全10回のインプット・アウトプット、また、各回の間にグループワークを挟む本格的なビジネス研修プログラムです。
インプットでは、コーディネーターによる専門的な知見と先行ビジネスパーソンによる具体的な体験談を提供します。各テーマに対するビジネスモデルをグループワーク形式で検討、アウトプットする経験を繰り返すことで、どんなビジネスもグリーンになり得る発想とスキル(幅広い分野に対する知見と具体的なモデルを構築する企画力)を身につけます。
さらに、専門家・ビジネスパーソンとのコミュニケーション、受講生間でのディスカッションなどを通し、ビジネスを推進していく上でかけがえのない財産となるネットワークを構築します。
▼オトナのホンキでグリーンビジネスを考える!
実は、本プログラム誕生の背景には、多様なソーシャルビジネスを輩出してきた慶應SFCで10年間に渡り積み重ねてきた実践型講義「環境ビジネス論」の蓄積があります。また、その成果は2021年12月に書籍『GREEN BUSINESS』として取りまとめられました。講義の担当教官・著者で当ラボのメンターでもある小林光氏・吉高まり氏との会話の中で、「学生だけでなく社会人を対象にプログラムを発展させることで、より実践的なビジネスの変革が起きるのではないか」という発想が浮かんだことが、きっかけとなりました。
環境政策、ESG投資に関する国内トップの有識者である両氏がコーディネーターとなることで、主要な環境テーマをカバーしつつ、大企業からスタートアップまで多様かつ最先端の実践者であるビジネスパーソンを講師としてお呼びすることが可能となりました。
受講生もバラエティに富んでいます。本年度も、不動産、交通、エネルギーなどの各種事業、銀行や保険、システム開発やコンサルティング、品質管理など多様な分野から17名が受講しました。
▼「グリーンビジネス実践2023」の進化
2年目を迎える今回は、昨年の経験を活かしつつ、更にプログラムを改良しました。例えば、ガイダンスで「知財とグリーンビジネス」の関係を考えることで受講生の頭をリセットする場を設ける、アウトプットをブラッシュアップする機会を設けるなど…。共通のテーマでも講師は変わっていくことでインプットデータも年々充実していきます。今年度は東京都環境局の認定事業「DO!NUTS TOKYO」若者アンバサダーとの交流会などオプショナルツアーも実施しました。
3.2023年度の主要環境4テーマ
今回は「CO2見える化」、「廃棄物・資源循環」、「自然資本」、「再生可能エネルギー」という4つのテーマに関して、トップクラスのビジネスパーソンにインプットをいただきました。伝統的な企業から新進気鋭のスタートアップまで、単に知名度が高いということではなく、コーディネーターの目利きによるグリーンビジネスの最先端企業です。
なお、コーディネーターから講師への依頼ポイントは「直面する課題について話してほしい」というもの。一見順調にトップを走るように思える取り組みでも、ウェブには載らないリアルな悩みや想いが、受講生の思考にも影響を与えます。
テーマ①:CO2見える化〜気候変動対応が企業価値を高める時代へ
脱炭素は既にルールの運用が開始している世界的メガトレンドです。大企業から中小企業まで対応が必要なだけでなく、資金や材料の調達、新たなビジネスチャンスなど企業の成長に関わる課題です。
アスエネ株式会社の萩原康仁氏より、サプライチェーン全体でのCO2排出量(Scope3)データの収取が課題となる中、その見える化や脱炭素のワンストップソリューションを通して排出量削減、脱炭素経営を支援する事例を伺いました。
受講生からは、運輸業界のルール変化、教育への投資、ユーザーの共感や他サービスとの連携などに着目したビジネスモデルが提案されました。また、最初のテーマであることもあり、アウトプットを2回行うことで提案に必要なポイントを押さえていきました。
テーマ②:廃棄物・資源循環〜トータルシステムでごみを資源に変えていく
ゼロエミッションをビジネスとして成立させるには、資源をとことん利用して多面的な価値を創出することが大切です。資源の循環だけでなく消費者の賛同や他事業との連携も大切な課題です。
コアレックスグループの佐野仁氏より、誰もが毎日、当たり前に使う生活必需品である「紙」のリサイクル事業。製品のデザイン、再生プロセス、製造拠点の立地戦略までトータルなシステムを構築している事例に学びました。
受講生からは、食品や花卉といった業界、美容医療への展開、具体の地域における応用などに着目したビジネスモデルが提案されました。
テーマ③:自然資本〜貴重な自然を守りながら人の暮らしを支える
生物、生態系がらみのビジネスにはこれから伸びる余地がいっぱいです。様々な認証やESG投資も動いており、日本の低い食料自給率、世界の人々の健康、自然環境の維持などが主な課題です。
日本ハム株式会社の長田昌之氏より、世界的な人口増によるたんぱく質の供給難。一方で食糧生産による環境影響も軽減していくことも必要です。限られた資源・土地・エネルギーを守るフードテックという視点から代替たんぱく質の事例に学びました。
受講生からは、外来種やウニ殻といったネガティブ資源の活用、アニマル・ウェルフェアへの対応などに着目したビジネスモデル、また、講師企業へのビジネスモデルの逆提案も挙げられました。
テーマ④:再生可能エネルギー〜脱炭素化をモビリティにも
ビジネス活動にはエネルギーが不可欠。再エネの活用はCO2削減に加え、災害時の対応や地域経済循環などのメリットも期待できます。また効果的な運用には需要側も一体となったシステムが大事です。
株式会社EVモーターズ・ジャパンの長秀俊氏より、これから普及すべき電動バスの大量生産体制を整え、バッテリーを使ったエネルギーマネジメント事業にも進出を計画しているモビリティ電動化ビジネスから学びました。
受講生からは、リユースバッテリーの活用、離島や廃校といった特定地域への応用などに着目したビジネスモデルと共に、講師企業への新規事業提案も行われました。
4.”グリーンビジネス”、その実践に向けて
▼実需、具体化、実践
本プログラムの受講生は、インプットの課程でグリーンビジネスが「実需」であることを理解し、グループワークに取り組みながらビジネスモデルとしてその「具体化」を図ります。提案の中には講師も実際のビジネスとして評価するものもあり、また、受講生が自らのビジネスに持ち帰る中で「実践」に取り組んでいくことを想定しています。昨年度にも、受講生と講師の所属組織がアドバイザリー契約を結び、具体的なGHG排出量削減に取り組んでいる事例があります。
▼共に取り組むネットワーク
グリーンとビジネスを共存させていくためには、まず、従来の様に一社だけが利益を受ければよいという考え方から脱却する必要があります。また、グリーンだけではビジネスとして成立しません。グリーンの中に潜む、金銭だけでない多様な利益「コ・ベネフィット」を探し出し、相利共生的なビジネスモデルを構築する必要があります。本研修での多様な業種からの受講生によるネットワークが、実践のための貴重な財産となるでしょう。
▼シティラボ東京としての展開
2年目を経た「グリーンビジネス」ですが、コロナ禍も明け、アイデア創出のブレストや講義後の懇親など、当ラボが持つリアルな空間の価値が再認識されました。当ラボのミッションは、いわば「グリーンビジネスを都市・地域にインストール」することです。具体的なフィールドを持つ受講生と新たなビジネスモデルを模索する大企業が出会うことが、新しい化学反応を起こしていくものと信じています。本年度の成果をフィードバックしながら、より進化したプログラムを構築していきます。
5.プログラムデータ
▼実施概要
・ 日時 2023年6月8日(木) ~ 9月28日(木)
・ 回数 全10コマ(各回18:30~20:00)+自主ケーススタディ(グループワーク)
・ 場所 シティラボ東京
・ 最小履行人数 10名、最大20名程度
・ 参加費 25万円(税込)
・ 主催 シティラボ東京、一般社団法人バーチュ・デザイン
▼参加企業(五十音順)
イオントップバリュ株式会社/合同会社持続可能/株式会社T&Dホールディングス/株式会社テダソチマ/東京ガス株式会社/東京建物株式会社(2)/日清食品ホールディングス株式会社/日本紙パルプ商事株式会社/日本電気株式会社(2)/パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社/阪急阪神ホールディングス株式会社/株式会社日立製作所(2)/株式会社三菱UFJ銀行(2)
▼受講生の声
【発想・マインドセットの変化】
・環境問題に対して対価を求めて良いという考え方が一番学んだこと。
・講師レクチャーや他チーム発表含めて自社事業へのヒントが多々あった。
・普段の発想にない思考回路の利用は、自社ビジネスの新サービスに生かすことが出来る。
・社の内外からテーマについて考えるよい機会。全てのステークホルダーと、一緒に取り組みましょうと行動変容を促したい。
【ビジネスへのフィードバック】
・2週間という短期間で「グリーンビジネス」の構築能力を鍛える実践経験は、今後のビジネス提案においても非常に有意義。
・自社グループでの活用可能性についてもコーディネーターから示唆を頂いた。
・事業会社ではないがコンサルの切り口や事例として役に立てられそう。
・地方の課題に直結する事案もあり、行政関係者に説明する機会があれば、提案したい。
【ネットワークの構築】
・異業界・異業種の方と知恵を出し合いビジネスを考えるとても貴重な機会。
・業界の違う個性的な参加者と濃密に交わることが出来たことも良かった。
・濃密な議論、プレゼンをする刺激的な3カ月で得た出会いも一生もの!