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【Report】グリーンビジネス実践2024 〜 ネクサス(連鎖)で進むビジネスのGX

 環境を改善しながら持続的に成長していく「グリーンビジネス」は、サステナブルな社会の実現に必要とされるだけでなく、ビジネスそのものを成長させるためにも必須の考え方です。

 シティラボ東京では2022年度より、グリーンビジネスをテーマとして、第一人者から学ぶとともに、自ら実践力を鍛えていく実践型の研修プログラムを実施してきました。多分野のメンバーとの協働によるビジネスモデルの検討・提案を通し、実社会に求められるグリーンビジネスの実践者を増やしていく実践型研修です。

 過去2回の実施の中から見えてきたことは、個別の分野だけの取り組みでは、ビジネスのGX(グリーン・トランスフォーメーション)には限界があるということです。これからのグリーンビジネスでGXを進めていくためには「ネクサス(連鎖)」の考え方が必要です。そこで、2024年度は、「カーボンニュートラル」を軸に「サーキュラーエコノミー」や「ネイチャーポジティブ」と組み合わせる先進的なビジネスをテーマに開催しました。

1.「ネクサス」から読み解くグリーンビジネス

▼グリーンビジネスを取り巻く状況

 TCFDやTNFDに代表されるように、ビジネスの前提条件において環境の保護や再生が求められる時代になっています。もはや「環境を改善しながら持続的に成長できる」グリーンビジネスは「実需」となっています。

 過去2回の実施の中から見えてきたことは「全てのビジネスはグリーンになり得る」ことです。新たにグリーンビジネスを立ち上げることはもちろん、既存のビジネスをグリーンにしていく余地は多々あります。ただし、そのためには自社の枠内だけでは容易ではありません。そのため、本プログラムでは多様な業種・分野の方がグループとなって実際にビジネスプランの立案を行うことで、コラボレーションによる「実践」の感覚を身につけてもらうこととしています。

▼ネクサスの視点がビジネスのGXを加速する

 多様なバックグラウンドを持つ受講生がグループとなって提案を行う本プログラムは、本質的に「ネクサス」の要素を含むレベルの高いアウトプットとなっていますが、本年度はより積極的に、インプット段階から「ネクサス」を意識したプログラムへとバージョンアップしています。

 過去2年間は主要な環境テーマを4つ設定し、各々のテーマに対して実践者の取り組みをインプットし、グループでビジネスプランを検討する形をとってきましたが、サステナビリティが当たり前となった今、単独のビジネステーマではかなり改良が進んでおり、テーマがクロスオーバーする領域に、GXを新たに推進させるドライバーがあるのではないかという意図があります。

2.2024年度の「ネクサス」テーマ

▼2024年度プログラムの特徴

 「カーボンニュートラル」は世界共通の環境課題であり、日本でも2030年度には2013年度比で温室効果ガスを46%削減するという目標をNDC(国が決定する貢献)として定めています。その先の2050年にはカーボンニュートラルを目指しており、日々のニュースでも様々な企業の取り組みが掲げられています。

 「ネイチャーポジティブ」も世界共通の課題として近年注目が集まっています。2021年には自然環境の保全や再生に向けた企業活動を促進するTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)も発足し、TCFDの様に新たなビジネスの標準となっていく流れにあります。2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全するグローバルターゲット「30by30」も、日本国内で「自然共生サイト」の認定制度としてスタートしました。自然環境を対象とするため各地域のローカルな特性も重視されます。

 「サーキュラーエコノミー」は、いわばカーボンニュートラルやネイチャーポジティブを実現していくための経済システムと言えるでしょう。資源や素材を循環的に利用、いわば「廃棄しない」ことを前提に、付加価値を生み出す経済活動を行うものです。エレン・マッカーサー財団では「Eliminate(廃棄や汚染を発生させない)・Circulate(製品・素材を高い価値のまま循環させる)・Regenerate(自然を再生させる)」という3原則を掲げています。

▼テーマ1:カーボンニュートラル×ネイチャーポジティブ

 インプットの第1弾は、株式会社UPDATER(旧社名:みんな電力株式会社) の梶山喜規さんにレクチャーをいただきました。同社は、2016年に「顔の見える電力」小売サービスを提供開始。その中で生み出したさまざまなつながりを、テクノロジーを使って「顔の見えるライフスタイル」に広げるべく、労働環境モニタリングや土壌診断、国産材活用、地域活性化など様々な事業を展開しています。

 レクチャーでは、企業に求められる再エネニーズの拡大や各地で設立される地域新電力の動向、一方で再エネ供給はまだ低い水準に留まり、一部では不適切な林地開発といった問題も起きている社会背景を共有いただきました。その様な背景の中「コンセントの向こう側」が見えることによって気候変動を解決しようとしたのが同社の電力事業の発端で、「顔が見える(=トレーサビリティ)」というビジネス上の付加価値と、安心できる供給元から再エネを購入できるという環境価値が両立しています。

 同社では電源の「調達ポリシー」を定めており、自然環境への影響の配慮や地域住民との合意形成、それらの情報公開を義務づけています。また、ため池保全にも役立つ水上型太陽光発電所やソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)など、環境配慮型の発電所も積極的に推進し、コーポレートPPAや個人向けクラウド型ソーラー発電サービスなどで展開しています。これらは世界的な資源・燃料価格の高騰リスクの回避というビジネス的なメリットとセットでもあります。

▼テーマ2:カーボンニュートラル×サーキュラーエコノミー

 第2弾のインプットは、東京製鐵株式会社の有賀優さんのレクチャーです。同社は、創業以来90年に渡り鉄スクラップのリサイクル事業を推進。近年は電炉による鉄鋼業の脱炭素化に取り組むと共に、業界の垣根を超えたサーキュラーエコノミーへの挑戦を推進しています。

 鉄は、船から缶まで様々な製品、製品をつくるための機械や金型など、非常にすそ野が広い素材で、「産業のコメ」と表現されることもあったそうです。一方、日本のCO2排出量の約13%は鉄鋼業界が占めるということで、削減の必要性が非常に高い分野です。

 鉄鋼の製法には、「高炉法」と「電炉法」がありますが、鉄スクラップを中心とした再生資源を溶解する電炉法は、資源循環に限らず、CO2排出量は約1/5と脱炭素に向けた大きな可能性を秘めています。近年は精錬法の改善により品質が飛躍的に向上しているにも関わらず、日本の電炉比率は約25%と先進国内では際立って低い状況です、逆にビジネス上のポテンシャルが高いとも言えるでしょう。

 同社では、資源循環や気候変動といったマテリアリティのもと、同社事業内でのカーボンニュートラル、電炉法による生産の拡大に向けて事業を推進しています。2024年にはグリーン鋼材「ほぼゼロ」の販売を開始しており、ブランド化という付加価値の可能性もあります。一方、サーキュラーエコノミーという観点からは、家電メーカーやゼネコンとの協働による、安定的な資源調達・アップサイクル・ブランディングなどが複合したビジネスに取り組んでいます。

▼グループワーク〜「ネクサス」をふまえたグリーンビジネス

 これら2つのインプットをふまえ、受講生たちによるグループワークが始まりました。各グループのテーマは「食品」「素材」「建築・不動産」です。提案に当たっては、本プログラムの趣旨である「ネクサス」を志向すること、また、時代性を反映して「データ・IT活用」を含む戦略を含むことを条件としました。2週間弱という短い期間でしたが、各グループでは積極的なディスカッションと作業が繰り広げられました。

  •  【素材グループ】有効に使われていない木材に着目し、データの状態で流通させることで、個性的な木材として付加価値を創出すると共に、地域の森林保全を推進する提案
  •  【食品グループ】サステナブルで美味しいお米のご飯を商品化することで、企業の備蓄・防災需要に答えると共に、耕作放棄地や農家の減少といった農業課題の解決を測る提案
  •  【建築・不動産グループ】NFT・ふるさと納税を活用して地域への環境貢献をポイント化すると共に地域体験や災害時の疎開支援などを行い、関係人口と地域収益を増やすことで、地域活性化と環境保護を一体化する提案

▼2024年度のプログラムを終えて

 シティラボ東京では様々なプログラムを実施していますが、「グリーンビジネス実践」は、研修として「通しで参加する」、「手を動かす」ことが特徴です。これらにより、単なる知識だけではなく、「実践者」としての視点や感覚を身につけることを目指しています。そして、その実践においては多様な分野やサプライチェーンの全体を見渡すことが不可欠。濃密なプログラムを通して得られた「仲間」は、グリーンビジネスを推進していく上で何よりの財産となっていくことでしょう。

▼受講生による振り返り

  •  知らない業界の内情を知り、視野を広げるきっかけとなった
  •  本業にも広げられる検討内容となった
  •  各チームの発表内容同士もコラボができそう …等々

▼コメンテーターによる総評

  •  異業種交流で知恵を寄せ合うことで「ネクサス」というテーマに対してレベルが高い提案
  •  日本の課題は「地域」にあり、ファイナンス側も着目している。世界的には「セーフティ」がキーワード。これらをどう融合させるか
  •  物事を変えていくためには、与件にとらわれずルールを変えていく視点が大切 …等々

4.プログラムデータ

▼実施概要

・日時  2024年10月15日〜11月11日 各回18:30〜20:30

・場所  シティラボ東京(ハイブリッド対応)

・主催  シティラボ東京

・詳細  https://citylabtokyo.jp/event/2024/08/29/greenbusiness2024/

▼参加企業(五十音順)

・株式会社えきまちエナジークリエイト/株式会社NTTデータ/合作株式会社/株式会社国際社会経済研究所/自然電力株式会社/合同会社持続可能/東京建物株式会社(3)/東洋製罐株式会社/日清食品ホールディングス株式会社/三菱地所株式会社

文:平井一歩