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【Event Report】しましまラウンジ〜一緒に”生物多様性×インパクト” トークしませんか?(IMPACT SHIFT2025ワークショップ)

2025年3月1日、S-GATEWAYのサイドイベント「しましまラウンジ」を、IMPACT SHIFT2025のワークショップとしてコラボレーション開催しました。普段の参加者に加えてIMPACT SHIFTからの飛び入り参加もあり、約25名といつもより多めでの開催となりました。

▼「しましまラウンジ」とは?

2024年の8〜9月にかけて開催した「まちづくりアントレプレナーキャンプ S-GATEWAY」は、東京都のTOKYO SUTEAMに採択されたSYNKプロジェクトの一環(※1)として、U30世代を対象に開催された、環境・地域課題×起業機運醸成プログラムです。

実はこのS-GATEWAY、定員は15名なのですが、プログラムに興味を持って事前登録いただいた方は約70名に昇ります。せっかくの気持ち、S-GATEWAY受講生だけに限定するのはもったいない!…ということで、サイドイベントとして、気軽に参加、だけどじっくり語り合う場として自主的に開催したのが「しましまラウンジ」。ちなみに、この「しましま」という言葉はゼブラ企業(※2)をイメージしています。

※1:TOKYO SUTEAMは東京都が実施する「多様な主体によるスタートアップ展開支援事業」。S-GATEWAYは、それに基づく共同プロジェクト「SYNK」の一環として実施されたプログラム

※2:ゼブラ企業とは、「サステナビリティ」を重視し、「共存性」を価値とするスタートアップのこと。「企業利益」と「社会貢献」という相反する2つを両立することから白黒模様の「ゼブラ(シマウマ)」にたとえられる(参考

▼今回の「しましまラウンジ」は”生物多様性×インパクト”!

2024年度に多様なテーマで開催してきた「しましまラウンジ」、今回は第8回に当たります。IMPACT SHIFT内でのワークショップということもあり、今回のテーマは”生物多様性×インパクト”

(社会的)インパクト”とは、一般的には「当該事業や活動の成果として生じた社会的、環境的なアウトカム」(内閣府)と言われます…が、色々な解釈もあり、なかなか難しい言葉ですよね。誰に対して?何を出す?どう使う?…、自分たちの言葉でじっくり考えてみたいと思います。

”生物多様性”は、ここ1〜2年で世界・日本のビジネスでもキーワードとなってきていますが、環境分野でも、数値化しやすいCO2削減や、見える化しやすい資源循環とはまた異なった複雑さがあり、特にビジネスと結びつけた際に、切実な課題と認識している人は〜食品や不動産など直接ビジネスに関わる分野を除き〜まだ少ないのではないでしょうか?

今回はあえて、”生物多様性×インパクト”という、すっきりと答えが出なそうなテーマをかけ合わせて、みんなで「モヤモヤ」と考えてみようという企画です。本日最後のセッションということもあり、まずはサステナブル/地方創生系のビールで乾杯からスタート!

▼インスピレーショントーク 〜 あなたにとって、”生物多様性”って?、"インパクト”って?

すっきりと答えが出なそう…とはいえ、世の中には、実際に”生物多様性”というインパクトに対してビジネスで取り組んでいる人たちが居ます。今回は、そのような3名のゲストをお呼びして、考えるきっかけをいただくこととしました。

アイフォレストの丸山さんは、一次産業の衰退を止めるために林業や地域の新しい収入を得ることに取り組んでおり、そのツールとしてカーボンクレジットを活用した事業(後述)に取り組んでいます。そんな丸山さんにとってのインパクトとは「今の経済原理で解決できないことを解決すること」とのことです。

バイオームの藤木さんは、生物多様性を守ることがビジネスになるということが大事という発想のもと、市民科学的アプローチでスマホユーザーからデータを収集し、データインフラを構築するしくみを構築しています。既に106万人以上のユーザーと850万件以上のデータが存在します。そんな藤木さんにとっては、「人類が地球上で生きていくために必要なものを維持していくことが価値になる」ことが生物多様性×インパクトとのことです。人間と別物の自然ではなく、人間と自然をくっつけて考える。ある意味で「人間中心」を否定しない考え方です。

ヤマハ発動機の吉田さんは、ドローンから点群データを取得して樹木の解析や森林情報システムの整備を行う森林情報システムRINTOを推進しています。オートバイやボートなど自然の中で遊ぶものをつくる企業として、「自然を守ることが事業機会にもつながる」というスタンスです。生物多様性の一員としての企業…とも言えそうです。

▼森林×ボランタリークレジット創出の実証事業から考える

実はこの3社(を含む6社)では現在、東京都が推進する「吸収・除去系カーボンクレジット創出促進事業」で、檜原村を舞台にコラボレーションを行っているのです。

このカーボンクレジットの特色は、世界的には大きな市場となっており、日本でもこれから成長が期待されている民間のボランタリークレジットであるということです。国際標準への適合を目指した仕様となっており、その基準で檜原村の森林価値を算定すると、なんと50億円/年にも上るそうです。逆に言えば、今の日本ではその環境価値がただ同然にしか評価されていないということでもあるのですが…。

さらに、クレジット価値は基本的に上昇していく一方、森林管理のコストは当初の数年でピークを迎えるため、その差額が森林地域の新しい収益となります。その収益を単に山主だけで分けるのではなく、地域の生活や文化に還元していこうというのが本事業の主旨とのことです。

本事業では、アイフォレストが全体をコーディネートしつつ、森林CO2吸収量の評価をヤマハ発動機が、生物多様性の保全をバイオームが各々担っています(実は、2/18に行った「東京の「山」と「都心」の良い関係」で登壇した東京チェンソーズも現場の森林管理でコラボしています!)。

便益を得ていたのに気づかなかった環境にきちんと価値をつける、その環境価値を税金ではなくてビジネスで支える、その収益を地域社会に還元する。これは、”生物多様性×インパクト”を具体化した事例と言えるのではないでしょうか?

▼会場とのディスカッション

「しましまラウンジ」は、単なる一方通行のインプットではなく、会場参加者も各々の意見や感想を述べていくダイアローグ型のセッションです。今回も30名近い参加者でマイクを回しながら、コーディネーターの小田切さんの軽妙な司会と、大森さんのAI顔負けのリアルタイム要約と共に、時間ギリギリまでディスカッションしました。少しだけ意見を紹介しますが、これらは誰かが決めた「答え」ではなく、各々が感じた「問い」に近いものと言えるでしょう。

・インパクトは、変化を生み出したかを測ることとシンプルに考えてよいのではないか

・衣食住がある程度まかなわれた時の豊かさが自然なのではないか

・生物多様性にはビジネスにならないところもたくさんある、ビジネスチャンスという表現は良いか

・生物多様性には、単純に人間対生物やトレードオフでもない問題が多いのではないか

・「生物多様性」の観点を入れることで、対立しがちな人間の主張を解決できるのではないか

・生態系は人間が手を加えないでも便益を発生させる、人間が自然を代替すると莫大なコスト

・最後は人が幸せになることが重要、でも自分だけでなく関係する人と連携する、「共助」に近いか

・全員参加型の時代に価値をどう具現化、定量化していくか、軸をつくることが難しい時代

・一つの取り組みで色々な派生効果が生まれることがインパクトと捉えられるか

・都会は「ないから解決」を繰り返して貪欲と感じる、「ないならない」なりに生物多様性を尊重した暮らしもある

・普段考えない領域にどう関心を持ってもらうか

・インパクトには一過性のイメージもある、維持のためには色々な人に関心を持ってもらうことが大事

・人間も生物多様性の一部と考えていけるとよい

・人間の生存のためにどう考えるか、自分中心でもよいが突き詰めることが大事

・きれいごとだけでなく、数字と根拠を出して基準をつくっていくことも必要

・生物多様性は、具体の製品や事業などと結びついて自分ごとと思える解像度が大事

・全体がつながっていくことを捉えることも大事

▼”生物多様性×インパクト”に向けたアプローチ

多様な意見の交換を通し、最後にゲストの3名より、今回のテーマ”生物多様性×インパクト”についてコメントをいただきました。

藤木:アプローチは何が正解かわからず、色々なプレイヤーが悩み続ける領域。結論は安易に出すべきではないが、「生物多様性はよいことであろう」という大きなゴールは大切。

丸山:難しいテーマであり、いろいろな意見があって当たり前…ということが、本日みなで持って変えることができること。自社事業としては、自然資本を使っているという意識を事業者に気づいてもらい価値を森林に戻していく活動を推進していく。

吉田:生物多様性は自分ごとにするのが難しいが、逆に考えれば、自分ごとにできればユーザーが表れ、ビジネスになる可能性もある。

これらもまた、「答え」というよりは、答えを探していく「姿勢」に近いものと言えるかもしれません。実は、「しましまラウンジ」は、感じたことをみんなで共有しますが、そこで感じた「モヤモヤ」を持ち帰り、各々が、またみんなで考えていくことに意義があると考えています(二次会でもかなりの人数が集まり議論の続きが止まりませんでした!)。

文:平井一歩