【Event Report】“スロー”を実感できる場所〜都市の欲求を可視化し、デザインする〜

2022年9月6日、建築家の西田さんとシティラボ東京がともに企画した連続対談の12回目「”スロー”を実感できる場所~都市の欲求を可視化し、デザインする~」を開催いたしました。本イベントではこれまでの全11回の対談で見えてきた”スロー”シティの輪郭を、より豊かに描き出すことを目的として対談を進めていきます。ゲストには株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研所長の島原万丈さん。オンライン・オフラインで約50名が参加しました。

 目次

◆スローな都市はきっと官能的だ ~島原万丈さん~
◆クロストーク ~官能的な都市をデザインするために~
◆”スロー”につながるキーワード

■スローな都市はきっと官能的だ ~島原万丈さん~

島原万丈さんは、LIFULL HOME’S総研の所長として1年に1冊の調査を行なっています。今回の対談では、2015年に企画・製作されたレポート「官能都市ー身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」をもとに”スロー”の視点からコロナを経たこれからの都市の方向性を探ることを目的としています。

官能都市の指標は、これまでの都市の測り方に対する疑問からつくられたものです。これまでの都市評価としては施設や建物のデータをもとにエリアごとに順位づけしたものがあります。しかし、これまでの測り方では建物や施設がより多く、より大きく、より新しいことがランキングに関わることになります。島原さんは、新しい都市の測り方を議論する必要があると考え、「都市」に生きているという視点から新しいモノサシをつくりました。参考にしたのはヤン・ゲールの「人間の街」で建物や施設で都市を評価するのではなく、不特定多数の他者との関係性の中にいること、身体で経験し五感を通して都市を知覚していることに注目し、<関係性指標>(①共同体に帰属している、②匿名性がある、③ロマンスがある、④機会がある)と<身体性指標>(①食文化が豊か、②街を感じる、③自然を感じる、④歩ける)から都市を評価のモノサシをつくりました。

この指標はジェイン・ジェイコブズの都市の多様性を生み出す4原則(混合一次用途、小さな街区、古い建物の必要性、密集の必要性)にも当てはまり、これまでの「この街、なんか良いよね」を可視化し言語化することができる指標と言えます。そして、これまでの対談で議論してきた”スロー”な都市とはきっと官能的な都市ではないかと島原さんは言います。

■クロストーク ~官能的な都市をデザインするために~

島原さんの話を受けて、西田さんとのクロストークが始まりました。

道を例にしたときに、車社会を前提とした都市では真っ直ぐであることが良いとされてきたが、人間の活動を前提とした場合は上ったり下りたり、途中で寄り道できたりすることも重要であり、これは人生にも言えることではないかと思って聞いていたと西田さん。
それに対して島原さんはこう答えます。都市は言うまでもなく、様々な事物が複雑に絡み合っています。都市をデザインする時に、目標を決めてそこに向かって直線を引くようなデザインをすることはなく、さまざまな事物やそれらの関係の中でデザインします。合理的に進めることも重要ですが、それだけでは面白くなく(車を効率よく通すために直線的な道路を増やすだけでは、人間の活動は失われ歩いていて面白くない等)、ある程度余白を持った上で偶然性を含みながら「あそび」があることが重要な観点ではないでしょうか。

また、西田さんは官能都市の身体性指標の「食文化が豊か」の項目については経済性に直結するが、「自然を感じる」の項目については、経済には直結しないことに注目します。例えばマンションの共用部の緑など、一見経済には直結しないコンテンツを都市に作る際に、経済性とは異なる別の価値を少しでも考えることが都市の持続可能性につながるのではないかと言います。そのようなことを意識するだけで設計の仕方は変わってくるかもしれません。
そして、身体性指標がハード的な側面を持っているのに対して、関係性指標はソフト的な視点があるのではないかと言います。これまではハード先行で都市が作られてきたのに対して、エリアマネジメントなどの都市を使っていくという視点も増えてきました。都市を使うという視点において、関係性指標の視点で活用していくことができるのではないか、この価値観をどのようにインストールしていくかが今後のヒントになりそうです。

他にも都市におけるあそび的な要素とアジャイル思考についてや、KPIやPDCAなどのこれまで当たり前のように使用されてきたツールについても議論が広がりました。オンラインや会場の参加者からは「資本主義を採用している以上官能都市を新しく作っていくことや残していくことは難しいのではないか」や「タワーマンションは金銭価値として高くても売れるといったことを考えると人気があるのだと思う。それをどのように解釈するのか。」などの質問があり、参加者を巻き込んだクロストークを終了しました。

■“スロー”につながるキーワード

都市の欲求を新たな指標で可視化し、それをどのようにデザインしていくか、”スロー”を実感できる場所とは何で、どうやってその都市の方向性を広めていくかについて以下のようなヒントを得ることができました。
第11回の佐藤留美さんの対談で得た、長い視点で物事を見ることなどの共通するヒントがあったと同時に、さらにその視野を広げてみる(例えば、建物を建てる際に敷地内だけで価値を決定するのではなく、エリアとして見た時に価値がどうなるかの視点を持つなど)といった新たなヒントや”スロー”を実感できる場所を広げていくための方法などが議論の中で出てきました。

①余白と寛容さ、あそび的な要素を前提とした都市が官能的で”スロー”であること
②一定の範囲内だけで価値を判断せず、より広い視野、長期的な視点で価値を判断すること
③都市をマネジメントする初期の段階で一つの価値観だけでなく複数の価値観(歩道が広く見通しが良いことが「歩きやすい」という価値観につながる一方で、文京区のように見通しが悪いことが「歩きたくなる」という価値観につながる)を共有すること
④③を踏まえて、失敗も許容した実験・実装を繰り返して、都市のマネジメントをアジャイルに思考すること(例:見通しが良い道路だけを価値として確定してしまうと、それを目指すための話になってしまうが、見通しが悪いことをどう計画できるのかや、姿勢として保っておくこと、それをやっていく心理的安全性をどう担保させるのか等を考えながらマネジメントする)

“スロー”を実感できる場所を探すトークはまだまだ続きます。次回、11月に開催予定です。シティラボ東京会員 になると第11回までのアーカイブも視聴できます。イベント参加と併せて是非ご検討下さい!

また、今回の対談際にもキーワードとして出てきた「遊び」。9月26日に公開された「“遊び”からの地方創生」をまとめたレポートはこちら。
“遊び”からの地方創生 寛容と幸福の地方論Part2

・第11回レポート:【Event Report】“スロー”を実感できる場所〜公園が変わるとまちが変わる!?〜

 

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