【Event Report】東京のワクワクする未来を考える 饗庭伸×羽藤英二
2021年3月4日(木)、東京都立大学大学院都市政策科学域教授の饗庭伸氏をコーディネーターとして、東京大学大学院工学系研究科教授の羽藤英二氏をゲストとしてお迎えし、「東京のワクワクする未来を考える」対談が行われました。当イベントには全国から約80名がオンライン参加しました。
本イベントは、コロナ禍で世界が同じ問題に直面し、ネガティブになっている今こそ、それをポジティブに変換して「ワクワクする未来」を考えようという連続イベントです。第8回目となる今回は、東京の郊外をテーマとして、饗庭氏より「都市像」、「設計」、「空間」、「歴史と未来」、の4つの論点からそれぞれ問いかけがあり、羽藤氏がそれに応える形式で、「インフラっぽさと都市っぽさをどうつなげるか」、「アルゴリズムと手作業をどうつなげるか」、「大都市の郊外はこれからどうなっていくか」などについて議論を行いました。
過去のイベントレポートは文末のリンクからご覧ください。
左:饗庭氏、中央:羽藤氏、右:矢野(シティラボ東京)
■インフラっぽさと都市っぽさをどうつなげるか 〜 都市像
饗庭:東京は大きく2つの視点から見ることができる。環状メガロポリス構造など国際的な競争に勝つための「国土インフラとしての東京」と文化や街並みなどが残る「都市としての東京」がある。このインフラっぽさと都市っぽさをどうつなげるのか。
羽藤:インフラの視点からは、「東京」のような都市の固有性を含んだような見方はあまりしない。インフラには「機能」はあるが、都市に対しては無自覚とも言え、言い方を変えれば、捉え方の余地、萌えがあるとも言える。
饗庭:インフラは本来目には見えないもので、だんだんと空気のような存在になっていく。しかし、東京の場合、集中することによってインフラが目に見えるようになる。
羽藤:以前は技術官僚が資本をコントロールしていたが、それがプライベート化したり、政治的なイシューを見失っているようにも見える。動線は100年、200年単位で動き続けていて、特に平成の30年間には、駅ナカや駅前に経済原理が働き、鉄道を中心とした動線志向の都市へと変化した。
饗庭:インフラが都市を作ることは良いことなのだろうか。
羽藤:鉄道は「恐竜」みたいなもので、つまり最終的に滅びる。今後モビリティの自動化とリモートのコンビによって郊外に活動のボリュームが移り、都市は変わり始めるのでる。現在はその境目にあるのではないか。
■アルゴリズムと手作業をどうつなげるか 〜 設計
饗庭:羽藤さんはアルゴリズムの専門家でありつつ、手作業も大事と言っているようだが、そのバランスをどう考えるか。
羽藤:「TENET」という映画がある。この映画では、クリストファーノーラン監督はアルゴリズムが都市を支配するという直感をSFとして表現している。アルゴリズムで物事は動かすことができるが、主人公がいないと物語にならない。
同様に、アルゴリズムだけでは設計にならず、そこに人が介在することで何を求めてビジョンを実現していくかが大事である。松山市の花園通りでは、4車線を2車線に減少した。アルゴリズム上2車線にすることが有利と分かっていても、遠藤の商売主の合意もあり、実現に7年かかった。
饗庭:「都市をたたむ」では理論的なコンパクトシティはできないことを書いた。また、合意形成までの7年間をどのような気持ちでやるか、長くかかる時間をデザインしようということも書いた。
羽藤:日本では、資本が持つ土地の割合が高くなっている。資本家が土地をコントロールする中で、開発などのスピードは速くなっていてアルゴリズム的には最適解を導いているが、そうすることで面白くない都市ができてしまっているのではないか。ゆっくり都市を作っていく方が面白くなるのは分かっているが、利益を求めなければならない株主総会ではそれは許されない。資本主義が強くなっていることが東京の息苦しさを作っているのではないか。最適解だけでは解けない問題があり、日本的な意思決定はスピードが遅いのは事実だが、この面倒臭さを都市システムの中でどう扱うか、それを楽しみながらやっていくことが必要なのではないか。AIは使うが、それだけではない。
■大都市の郊外はこれからどうなっていくか 〜 空間
饗庭:郊外の世帯数は減っておらず、空き家は都市のゆっくりとした新陳代謝の過程である。また、東京には世界一の公共交通網がある中で、大都市の郊外のこれからはどうなっていくのか。
羽藤:東京の郊外は世界と比較しても治安が良い。これは海外に住むことでよくわかるが、東京最大の価値と言っても良いのではないか。
これを支えてきたのは鉄道であり、リモート化によって、従来型の都心で収入を得て郊外に戸建てを実現するモデルが壊れた時に、郊外は自立しなければならず、「島」化していく。さらに、地震へのリスクという意味でも都心のリスクは非常に高いが、郊外はそう言った意味でもポテンシャルはあると思っている。
饗庭:今までは、都心がわが治安の悪さやあやしさを引き受けていた。郊外が「島」化していく中で、治安はどうなっていくだろうか。
羽藤:リモート化で移動需要が減っているのは東横線の西側である。リモートワークが物理的にできないエッセンシャルワーカーは東側に住んでいて移動需要はあまり減っていない。郊外と言っても色々なタイプがある。
第2次産業で残っている沿線は、僕からすると「色気がある」と感じる。ニューヨークでは移民、第2次産業の集まる郊外でヒップホップのような文化も生まれている。
郊外が「島」化していく中で、サラリーマン的な生活様式、空間様式は今後変えていかざるを得ない。そこで重要になるのは建築の可能性で、周辺ランドスケープ、健康福祉も踏まえた環境形成はホームワーク型の郊外では大事になる。
■次なる25年は?ワクワクする未来とは 〜 歴史と未来
饗庭:時代を75年のスパンで考えることができる。1870年〜1945年の75年間は明治維新から始まった近代化である。その次は戦後の75年で、敗戦によって社会や制度が一度リセットされた。そして、2020年はコロナによって次の節目であるかのように思われたが、大きく方向が変わったわけでもない。リセットなき未来というイメージがあるが、どのような未来が得られると考えているか。
羽藤:私は悲観的なので、首都直下型地震、戦争などでリセットされてしまう未来を思いついてしまう。一方で、技術も進歩によって、都市を大きく変えることなくリセットせずに対処できるのではないかと考える。そして設計者として未来が変わることを描きたいという衝動はある。震災・戦災復興のような大きなインフラではなく、細かな移動が都市を変えていくことを進めたい。災害時、平常時ともに、モビリティに対応した拠点や建築づくりを一つ一つ実現していきたい。構想している「海の手線」ではモビリティによって血の巡り方を変え、モビリティ、舟運、それらを結ぶ建築、地域活動を結びつけて交流することを考えている。
■まとめ 〜 Q&A、アフタートーク
饗庭:時代を75年のスパンで考えることができる。1870年〜1945年の75年間は明治維新から始まった近代化である。その次は戦後の75年で、敗戦によって社会や制度が一度リセットされた。そして、2020年はコロナによって次の節目であるかのように思われたが、大きく方向が変わったわけでもない。リセットなき未来というイメージがあるが、どのような未来が得られると考えているか。
羽藤:私は悲観的なので、首都直下型地震、戦争などでリセットされてしまう未来を思いついてしまう。一方で、技術も進歩によって、都市を大きく変えることなくリセットせずに対処できるのではないかと考える。そして設計者として未来が変わることを描きたいという衝動はある。震災・戦災復興のような大きなインフラではなく、細かな移動が都市を変えていくことを進めたい。災害時、平常時ともに、モビリティに対応した拠点や建築づくりを一つ一つ実現していきたい。構想している「海の手線」ではモビリティによって血の巡り方を変え、モビリティ、舟運、それらを結ぶ建築、地域活動を結びつけて交流することを考えている。
■まとめ 〜 Q&A、アフタートーク