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【Event Report】“スロー”を実感できる場所~「介護3.0」から考える自分らしい生活〜

2023 年 8 月 3 日、建築家の西田司さんとシティラボ東京がともに企画した連続対談 の 15 回目「”スロー”を実感できる場所~「介護 3.0」から考える自分らしい生活~」 を開催しました。オンライン・オフラインで約 30 名が参加しました。 本イベントでは、これまで全 14 回の対談で見えてきた”スロー”シティの輪郭をより 豊かに描き出すことを目的として対談を進めていくために、ゲストとして『介護 3.0』の著者、現在は介護クリエイターとして活動している株式会社 STAY GOLD campany 代表の横木淳平さんをお迎えしました。横木さんからの話題提供の後に参 加者からの質問等を交えながら、介護と建築、地域、まちとの関係性などについて クロストークを行い、新しい暮らしや都市の展開を探りました。
目次
◆介護3.0とは ~横木さん話題提供~
◆介護を変えるイノベーションの 3 つの柱
◆介護 x 建築~介護付有料老人ホーム「新」~
◆介護とまちの関係性
◆”スロー”につながるキーワード
◆介護3.0とは ~横木さん話題提供~   はじめに、横木さんより、介護の本質を見つめ直し、介護の新しいスタンダードの ための概念である「介護 3.0」について紹介をいただきました。
介護 1.0 は、いわゆる無償の介護で、親や配偶者のためにオムツ交換や食事介助な どの「お世話する-お世話される」関係の介護です。現在でも多くの施設や介護士に とってのスタンダードがこの「お世話する-お世話される」の介護 1.0 となっていま す。
介護 2.0 は、介護業界における人材不足などの超高齢化社会を「問題」と捉えたと きの対策であり、介護の DX などを活用した「お世話する-お世話される」がまんべ んなく行き届き同じサービスを受けることができるようになった介護です。介護 2.0 では同じサービスを受けることができる一方で、それだけで良いのかという個 別ケアに対する課題があります。
介護 3.0 は「お世話する-お世話される」からの脱却であり、「お年寄りが輝き、自 分も輝く」ための介護です。お年寄りが行きたい場所に行く、会いたい人に会う、 やり残していることを叶える個別ケアによって、その人らしい生活を取り戻す。職 員にとっても4K と言われる職場から輝ける仕事になることを目指しています。
介護 3.0 のマインドセットとして重要なのは「どこを捉えるか」であり、高齢化に 伴う不自由を問題と捉えるか、シグナルと捉えるかで変わります。例えば、認知症 のケースで、認知症を問題と捉えると、薬を投与して眠らせることが良いとされる かもしれません。しかし、認知症を「周りの目を気にしない、自分の感情に純粋に なる病気」と捉え直せば「ケア」が可能です。どういう目的で徘徊があるのかと考 えることで、その目的地を一緒に探し、その人のやりたいを叶えることができます。
介護 3.0 は、問題ではなく目標を設定すると同時に、他の介護施設で実際にどうや っていくかを広めることで、介護の仕事のスタンダードを目指しています。
◆介護を変えるイノベーションの 3 つの柱 次に、介護 3.0 を支える3つの柱についても解説をいただきました。
①マインドセット:前述の通り、諦めから希望へ、代行から応援へ、といった捉え 方や本質の見つけ方がまず重要です。
②ソフト(技術):その上で、お年寄りの居場所を作るためのビジョンを構築し、シ ステムや介護技術、人づくりなどに反映していきます。
③ハード(環境):ソフトをを支える環境として、場所や空間、建築やデザイン、人的環境などを整備していきます。
◆介護付有料老人ホーム「新」~介護 x 建築~
横木さんが立ち上げから携わり、施設長としても関わってきた、介護付有料老人ホーム「新」は、上記の3つの柱が詰め込まれている施設となっており、ソフトだけ でなく、ハードからも環境を整備することで介護 3.0 を試行してきました。
例えば、魅力的な庭として居心地の良い環境をつくることで、入居者が施設を逃げ 出すのではなく、ベンチに座ったり草むしりをしたり…といったことが起こります。 建築のデザインにも工夫があります。居心地良く暮らしてもらうために、ぬくもり のある木を使用し、歩きたくなるように廊下の奥が見えない蛇行した廊下を採用していたりします。 また、「面会」という概念を壊すために、敷地内にカフェをつくりました。入居者の思い出の椅子などを使用し、親族を呼びたくなるような工夫をしています。今では 地元で人気のカフェとなっています。他にも、「あすなろ教室」という地域の人が使 用できる余白の場所をつくることで、職員が介在せずに、お年寄りが質の高いレク リエーションに触れることができます。「まちに介護施設をひらく」ことから始まるのではなく、「お年寄りの居場所をつく る」という目的を追求することで、地域との接点も生まれてきたということです。
 
◆介護とまちの関係性 西田さんとのクロストークでは介護とまちとの関係についても話が広がりました。 (西田)介護施設内だけでなく、まちとの関係について何か可能性はないか。
(横木)「心」が元気になって「体」が元気になる、そのような仕掛けをまちなかに つくる可能性はある。例えば、人が通る路地空間に、お土産屋や駄菓子屋などお年 寄りが好きな時に働きにくる「縁側介護」などは考えられそう。
(西田)1960 年代にジャーナリストのジェイン・ジェイコブズは「機能的な都市 空間は楽しいのか」という問題提起を行っており、近年のまちづくりでも都市空間 の余白(無駄)を見直すといった捉え直しが起きている。介護 3.0 の捉え直しにも 共通するのではないか。
(横木)ナースコールを 1 日に 100 回も押すようなお年寄りもいるが、この人の満 足度を上げるためにはナースコールが鳴ってからその人の元に行くのではなく、ナ ースコールがなっていない時に行くことが大事。用事もないのに来る、理由もない のに居るといった「無駄」が大事で、そこに信用や関係性が生まれる。 また、介護を知ることによってビジネスモデルやマーケットの幅が広がる。地域の 生業では、お客さんが認知症や車椅子になってしまうと困った状態になってしまう が、まちに根付いているサービスと連動することで、元気なうちから介護をされる 人を支えられる、ビジネス継続にもなり、介護業界の人手不足解決にもつながるの ではないか。
最後に西田さんより、「当たり前と思っていたものを一歩先によくしようと思った時 に、介護を行う人はクリエイターになっていく、そのようなコミュニティの広げ方 が大事で、パラレルワークで介護を行うようになると地方創生や都市の活性化にも 通じる。また、介護の行動はまさに“スロー”。それを日常化できると、自分やまち のことを考えるきっかけになりそう。」とのコメントで、イベントを締めました。  
◆”スロー”を実感できる場所につながるキーワード 介護 3.0 と都市の関係を議論することで、”スロー”を実感できる場所のつくり方について以下の ようなヒントを得ることができました。
①本質を捉え直すことで、問題と思われていたことがビジネスチャンスになったり、課題解決 につながったりするのではないか
②本質を捉えた上で、実現するための技術と環境を考える時に、新しい掛け算や引き算が生ま れる。
③新しい掛け算や引き算を行いながら、新しい接点や関係性をつくることで、これまでとは異 なる解決方法や化学反応が生まれ、結果として、介護のような個の目的がまちに開いていく。