【Event Report】最終回!! 重松健×饗庭伸 東京のワクワクする未来を考える

2021年5月13日(木)、ニューヨーク在住でラグアルダ・ ロウ・アーキテクツ共同代表の重松健氏(以下、重松さん)と東京都立大学大学院都市政策科学域教授の饗庭伸氏(以下、饗庭さん)をゲストとして迎えイベントを開催しました。
本イベントは、コロナ禍で世界が同じ問題に直面し、ネガティブになっている今こそ、それをポジティブに変換して「ワクワクする未来」を考えようという連続イベントです。最終回となる今回は、デュアルコーディネーターとしてパラレルに対談を重ねてきた重松さんと饗庭さんに、プログラム開始前に掲げていたビジョンがこれまで9回に渡って議論を重ねてきたことでどのように進化したのかをお話していただきます。当イベントには全国から約95名がオンライン参加しました。

重松さんは、G-LINE、B-LINEという東京都心の、一方で饗庭伸さんは、定常型市街地という東京郊外の未来ビジョンを提案しています。
この2つを軸にパラレルに議論を展開していくことで、東京全体の未来ビジョンを総合的に想像してきました。

まず重松さん、饗庭さんそれぞれがこれまでの対談を振り返りながらキーワードを提示しました。その後提示したキーワードや都心と郊外のこれからについてディスカッションを行いました。最後に参加者からの意見も交えながらQ&A、クロストークを行いました。過去のイベントレポートは文末のリンクからご覧ください。

左:重松さん、中央:矢野(シティラボ東京)、右:饗庭さん

これまで重松さんの方では、以下のような方々と対談を重ねてきました。

■5回の対談を通して得たワクワクのヒント

2020年9月 ライゾマティクス 齋藤精一さん【都市のメディア化】
2020年11月 作家 乙武洋匡さん【ダイバーシティ】
2021年1月 社会活動家 石山アンジュさん、スペースマーケット代表取締役 重松大輔さん【シェアリングエコノミー】
2021年2月 The Human Miracle 小橋賢児さん【ライフスタイル】
2021年3月 ユーグレナCFO 川崎レナさん【Z世代とともに考える】

重松さんとの対談を通して出てきたキーワードは例えば以下のようなものです。

・プラットフォームとしての都市(旗を立てられる、仲間を集められる)
・ソフトでの解決策が本当のダイバーシティに対応した都市
・ますになりきれなかった需要もマッチング可能になる
・余白、グレーゾーンが都市の魅力
・アクションラーニング

■都市像、設計、空間、歴史と未来の4つの視点でのキーワード

一方、饗庭さんの方では、以下のような方々と対談を重ねてきました。
2020年10月 建築家 藤村龍至さん
2020年11月 哲学者 篠原雅武さん
2021年1月 コミュニティデザイナー 山崎亮さん
2021年3月 東京大学教授 羽藤英二さん

饗庭さんとの対談を通して出てきたキーワード(抜粋)は以下の通りです。

【都市像(東京の手に負えなさの正体 / 都市としての東京vsインフラとしての東京)】
・人の感覚ではすでに知覚できない状態になっている:ハイパーオブジェクト
・人⇒モノで成長してきたが、今後はモノ⇒人の順番で考えるデザイン
・超都市化により東京のインフラ性は弱まる

設計(手作業とアルゴリズムをどうつなげるか)】
・アルゴリズムだけでなく、人が何を求め、どうビジョンを実現するか

【空間(タイルと網目とこれから)】
・東京にある偏りを意識しながら小さな活動を続けていく

【歴史と未来(定常方市街地を目指すには?)】
・知の再配置の可能性を持った郊外
・「ケアをし、ケアをされる関係」を作れる場所が必要
・人口の定常化だけでなく、仕事と人のバランスの定常化

重松さん、饗庭さんそれぞれのキーワード提示の後にディスカッションが行われました。

■ディスカッション(饗庭さん⇒重松さん)

饗庭さんから重松さんへ質問があり、「インフラの再生と東京の手に負えなさ」と「東京の郊外への提案」についてディスカッションを行いました。

▼インフラの再生と東京の手に負えなさ

饗庭:東京の手に負えなさをインフラの再生によって変えることはできるか。「インフラっぽさ」を「都市っぽさ」で消し去ることを狙ったのか。

重松:小さな街づくりを繰り返したとしても、東京の手に負えなさは変わらないのではないか。それを面として変えられないかというのが根本的な考え方。既存のインフラに対して完全に壊したり、蓋をして文脈を変えるのではなく、用途の転換を行いアップデートしていく。
また、東京は「動」の部分が多すぎてや休まる場所がほとんどない。TOKYO G LINEは都市を自分のものとして考えられる「静」と「動」の空間を点ではなくループで繋ぐことで、「静」と「動」の中間の空間として波及効果を持つ。

▼東京の郊外への提案

饗庭:東京の郊外にどのような提案ができるのか。

重松:日本の郊外はもっとゆっくりしても良いと思う。マンハッタンは車で30分行けば自然がある。また、利便性だけではなく、アートの街や自然の街など郊外にもそれぞれの特色が出てくれば良いと思う。郊外の「余白」を活用する。

■ディスカッション(重松さん⇒饗庭さん)

重松さんから饗庭さんへ質問があり、「郊外の変化のスピード感」と「まちづくりの資金と郊外の可能性」についてディスカッションを行いました。

▼郊外の変化のスピード感と実験的試行

重松:郊外がゆっくり新陳代謝していく過程で、スピード感についてはどう考えていくべきか。海外の早いスピード感を見ながら焦るのか、変わらなくて悶々とするのか。実験をしていくような議論も重要ではないか。

饗庭:郊外のスピードが遅いのは、40年に一度しか新陳代謝しない住宅タイプでできていることが要因である。商業空間などの新陳代謝が早いタイプが入りにくい状態が現状の郊外。ただし、急いで変わらなくても人が死ぬといった不幸が起きるわけではなくゆっくりやっても良いのではないか。

重松:全ての箇所でスピード感を持ってやる必要もない。一方で、時間をかけすぎることで、見落としてしまうことがあることも可能性として考えなければならない。中国の商業施設では、店舗部分がオープンする前に、先に完成したパブリックスペースの部分をオープンした。中国での例が正解というわけではないが、丁寧に議論をし尽くすだけではあのような空間は作れなかったと思っている。

▼まちづくりの資金と郊外の可能性

重松:ニューヨークのハイラインは寄付金で独立採算であるが故に自由な活動ができるというメリットもある。市民のまちづくりの中で資金をどうやって考えるか。

饗庭:郊外のまちづくり資金に対する解決策はシェアリングエコノミーだと思っている。人間関係が豊かであれば、貨幣を介在させなくともモノを交換することができる。それに加えて、ITツールのおかげで以前よりも広い範囲・人間関係でモノを交換することができる。郊外では、小さな巨額の資金がなくとも小さなアーバンデザインで物事が進むため、シェアリングエコノミーでカバーすることが可能だと思う。

重松:郊外ならではの特徴を深めていくという可能性もある。今後の郊外の位置付けとして、都市との棲み分けなのか、どうやってワクワクを作るか。

饗庭:郊外といっても、一言では括れない。家を持ちたいという強い欲望があり、弱い欲望(釣りが好き、スナックが好き、家族が大事など)はバラバラにある状態。その弱い欲望が集まって街の個性となっていく。弱い欲望をやや強調しながら育てていくことが必要。

重松:弱い欲望は自然と集まるのか、それとも自然と集まる状態を作るのか。

饗庭:現在、家を建てた第一世代が抜けていくタイミング。入れ替わりのタイミングで街の個性が外に伝わり、共感する人や地域に興味を持った人が新しく入ってくる中で、街の個性ができていくと思う。そのタイミングで弱い欲望を強調していくことは重要なのかもしれない。

■Q&A、クロストーク

ディスカッションも白熱し、あっという間に残り時間もわずかとなりましたが、最後に参加者の方から質問も交えてクロストークを行いました。参加者からは「様々な人の自由が衝突するとき、都市空間はどのようにそれらを整理することができるの?」や「住民の意思に合わせてゆっくり変化することで変化を感じ取れない可能性はないか」などの質問がありました。

最後に重松さんからは、「いろんな方にインスピレーションを受けて自分自身が一番ワクワクした。今後どうなっていくかよりもどうしていくかに興味があり、機会があれば一緒にアクションしたい。」、饗庭さんからは「ワクワクは大事だと思う一方で戦略なきワクワクはまずいと思っている。コロナでも変わらなかった構造を読み取り、ワクワクするためのツボがどこにあるのか一歩引いて見たいと思っている。」という言葉でこのシリーズを締めくくりました。

全10回の最終的なまとめについては、再度お知らせいたしますので、楽しみにお待ちください。

なお、シティラボ東京オンライン会員に入会いただくと本イベントのアーカイブ視聴が可能となります。詳細はこちら

【イベント概要】
・日時:2021年5月13日(木) 20:00〜21:45(19:55開場、15分ほどの質疑応答含む)
・ゲスト:重松健(Laguarda.Low Architects 共同代表 /inspiring dotsファウンダー)
・ゲスト:饗庭伸(東京都立大学大学院都市政策科学域教授)
・モデレーター:矢野拓洋(シティラボ東京)
・主催:シティラボ東京(一般社団法人アーバニスト)


【タイムライン】
20:00 20:10 イントロダクション
20:10 20:30 重松さんプレゼンテーション
20:30 20:50 1回目クロストーク
20:50 21:10 饗庭さんプレゼンテーション
21:10 21:30 2回目クロストーク
21:30 21:40 Q&A
21:40 21:45 クロージング
21:45 22:15 アフタートーク

【登壇者プロフィール】

◆ゲスト
重松健(Laguarda.Low Architects 共同代表 /inspiring dotsファウンダー)

2005年東京大学社会基盤工学科景観研究室卒業。2005年から2010年 Laguarda.Low Architects Dallas。2010年Laguarda.Low Architects New York設立。共同代表。人々の体験をデザインするということを軸に世 界25ヵ国でマスタープランから複合施設の建築設計までを行う。2018年より、inspiring dotsを立ち上げ、テクノロジーをはじめ多様なツールで社会課題の解決を目指す。都心環状線を緑とパーソナルモビリティーのイノベーション特区にする「東京G-LINE」、日本の水路を水上交通のイノベーション特区にする「東京B-LINE」を提唱。テレビ朝日「あいつ今何してる?」 Abema Prime、News Pick The Update等出演。

◆ゲスト
饗庭伸(東京都立大学大学院都市政策科学域教授)

1971年西宮市生まれ。東京都立大学 都市環境学部 都市政策科学科/都市環境科学研究科 都市政策科学域 教授。長年にわたり、都市計画とデザイン及び、まちづくりにまつわる市民参加の手法、市民自治の制度、NPOなどを研究する。岩手県大船渡市、山形県鶴岡市、東京都世田谷区明大前駅前地区、中央区晴海地区、日野市、国立市、多摩市など、まちづくりプロジェクトに専門家の立場で多く携わる。主な著書に『都市をたたむ』(2015)、『素が出るワークショップ 人と街への視点を変える22のメソッド』(2020)など。

第1回レポート 建築家 重松健×ライゾマティクス・アーキテクチャー 齋藤精一
第2回レポート 都市計画家 饗庭伸×建築家 藤村龍至
第3回レポート 建築家 重松健×作家 乙武洋匡
第4回レポート 都市計画家 饗庭伸×哲学者 篠原雅武
第5回レポート 都市計画家 饗庭伸×コミュニティデザイナー 山崎亮
第6回レポート 建築家 重松健×社会活動家 石山アンジュ×スペースマーケット 重松大輔 
第7回レポート 建築家 重松健×The Human Miracle 小橋賢児
第8回レポート 都市計画家 饗庭伸×東京大学教授 羽藤英二 
第9回レポート 建築家 重松健×ユーグレナCFO 川﨑レナ 

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